お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第5話 出来るかも知れないからとりあえずやってみる

「うーん……」

 

 私は今、璃筬(りおさ)から少し離れた、原っぱのような場所に来ています。

 お店のお客さんたちに"人が来ない開けた場所はありませんか?"と尋ねたところ、此処を教えて貰いました。

 注文通りに人の気配もなく、辺りは開けていて、それでいて街からも適度に近いという理想的な場所です。

 

 そんな場所で何をしているのかというと――

 

「うん! 良い感じね!」

 

 自主練です。

 今は霊力のコントロールを必死で練習していました。その甲斐もあってか、お手玉程度の大きさの霊力の球を生み出す事に成功しました。

 師匠のところで修行していたときにはこれすら出来なかったんだから、大躍進ね!

 

 ……ええ、そうよ。こうやって無理にでも自分を鼓舞しないと、出来の悪さに心が折れそうで……

 

「まあ、気にしすぎても駄目よね」

 

 千里の道も一歩から! 今は成功を糧としてさらなる躍進に繋げましょう!!

 

「さて、そろそろ試してみようかしら……」

 

 頭に浮かぶのは、霊圧を操ることで放てる技の数々。

 そして死神には鬼道(きどう)という霊圧を使った術が存在しています。物凄く簡単に言ってしまえば、創作物に出てくる魔法みたいなものかしらね。

 

 ただ鬼道は霊術院でも習えるみたいだし、師匠から教わる事も出来るはず。だから今は後回し。

 

 私が試してみたいのはそれ以外(・・・・)が操る技。

 

 一歩を踏み出せたことで、ようやくチャレンジする決心が付きました。

 

 呼吸を整え、逸る気持ちを抑え、霊圧を手の平に集中させ、目的の技を思い描く。そして――

 

虚閃(セロ)

 

 手の平から放たれたのは、豆電球のようなとても弱々しい閃光。それも、放たれた次の瞬間には消えてしまうほどに儚く弱いものでした。

 

 それでも、その結果は私にとって満足できるもので、薄く笑みを浮かべました。

 

「次は……」

 

 先ほどの虚閃(セロ)の時と同じように、けれども霊圧を固めて放つように制御して――

 

虚弾(バラ)

 

 撃ち出されたのは、おはじきや空気銃の弾のような小さな塊。それも虚閃(セロ)と同じく一瞬で消えてしまいました。

 

「でも、出来た……」

 

 思わず顔がにやけてしまうのが止められません。

 

 虚閃(セロ)は霊圧を集中させて破壊の閃光を放つ技。

 虚弾(バラ)は霊圧を固めて放つ技。

 本来ならば、(ホロウ)破面(アランカル)と呼ばれる存在――死神と敵対する存在が放つ技です。

 

 普通に考えれば禁忌でしょう。

 死神を志す者が、その敵の技を使うとは何事か、と。

 

 でも、やっていることを突き詰めれば霊圧を放っているだけです。

 ならば、(ホロウ)ではない私でも似たような事は出来るのではないかと思って試してみました。

 予備知識も何も無い状況でのチャレンジなのですから、失敗しても当然だったはず。そしてなんと、自分の予想を大きく裏切って成功です。

 

 こんなの、嬉しいに決まってるじゃないですか。

 

「あ……あ、あれ……??」

 

 成功の喜びを噛み締めていると、不意に視界がぐらりと揺れました。

 この感覚は覚えがあります。というか、師匠のところで霊力のコントロールの修行をしていた頃に何度も何度も体験しました。

 

「れ、霊力が……うっ……!」

 

 これは霊力が不足したことから起きる立ちくらみのようなもの。

 ふらつく身体を制御してなんとか地面に腰を下ろし、倒れないように手を付いて、霊力が回復するのをじっと待って休むくらいしか、対処方法はありません。

 

「あんな子供の悪戯みたいなものなのに、もう霊力が空っぽになっちゃったのね」

 

 ゆっくりと回復させる傍ら、先ほどの虚閃(セロ)虚弾(バラ)についても考察していきます。

 先ほど放ったのは、どちらも虫も殺せないような弱い攻撃。にもかかわらず、霊力が尽きかけてしまった。

 

 そのことから――私の霊力が貧弱すぎるというのは別としても――消費が大きいのではないかと推測しました。

 そもそもあれらの技は、霊圧を直接放っているわけですから。

 とすれば(ホロウ)は、死神よりも内在する霊圧が高いのかもしれません。強力な霊圧という力技で他者を圧倒する、といった具合に。

 

 そう考えると、虚閃(セロ)は死神(見習い未満(仮))の私が使うには向かない技かもしれません。諦めた方が良いのかもしれませんが――

 

「でも、詠唱不要は魅力よねぇ……」

 

 虚閃(セロ)を捨てきれない理由がこれです。

 

 死神の扱う鬼道は、呪文を唱えるように詠唱する必要があります。

 けれども戦闘中に「君臨者よ なんたらの仮面のうんたら 地に満ちてどうたら」みたいなことを長々と唱えていれば、敵に真っ先に狙われます。まあ、詠唱は破棄しても使えるみたいですが、そうすると威力を大きく損なうわけで。

 

 詠唱を破棄した鬼道を使った結果、敵を倒しきれずに反撃を受けるかもしれない。かといって詠唱をすれば、その最中で攻撃を受けて為す術なく倒れてしまうかもしれない。

 

 そう考えると"一瞬で破壊光線を放てる"という選択肢を捨てるのが惜しい。

 

「……まあ、まずは要・練習ね。練達すればもっと手軽で強力な攻撃が放てるようになるかもしれないし。それに霊力を一気に消費するのなら、霊力強化の訓練には使えそうね」

 

 主力で使えなくても、手段の一つにはなるかもしれません。

 そもそもこの場で結論を出すようなものでもありませんからね。

 

 長い目で見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ良いかしらね」

 

 しばらく休んで霊力が回復したことを確認すると、もう一つの技を試してみることにします。

 再び霊力不足が起きた場合を考え、今回は座ったまま。

 全身の霊力を意識しながらゆっくりゆっくりと。全身の隅々にまで行き渡ることを意識しながら――

 

「痛ッ!!」

 

 ――けれどもその集中は、指先から走った刺すような痛みで途切れてしまいました。

 

「いったぁ……」

 

 見れば指先から血が流れ出ています。その傷口は外側からではなく内側(・・)から。丁度、強い圧力に耐えきれず器に罅が入ったような怪我でした。

 

「これ、かなり集中とコントロールが必要みたいね……」

 

 続いて行おうとしていたのは、滅却師(クインシー)と呼ばれる死神とはまた別に(ホロウ)と敵対していた集団が使う血装(ブルート)と呼ばれる技術。

 

 血管の中に霊力を流し込んで攻撃力や防御力を上げるというもの――だったはず。

 聞きかじりというか、ネットでチラ見しただけの知識だから細かい部分は間違ってるかもしれないけれど、基本的な部分は間違ってない……はずよ。

 それに、上手く行けば攻撃力と防御力の底上げに繋がるんだから、だったら試さない価値はないでしょう?

 

 これをなんとか出来れば、強化に繋がるはず!

 

 そう考えて、痛みを堪えて再び集中を開始します。血管は全身に栄養やらを行き渡らせる大事な器官。そこで霊力も行き渡らせれば、無駄はもっとなくなるはず!

 

 そして霊力が高ければ、霊体は肉体も強化される。つまり死神は霊力が高いほど強い。

 

 ならば霊力を全身に無駄なく行き渡らせれば、より効果的なはず! 本来よりも強くなれるはず!

 

 

 

 

「……無理、これは普通のやり方じゃ無理……」

 

 必死で集中したけれど、一朝一夕で取得出来るような技術ではないことが分かりました。

 出来なくはない。似たような事は出来そう。ただ問題は霊力のコントロール。

 このコントロールを誤ると、さっきみたいに圧力が掛かりすぎて怪我をする。かといってそれに怯えて弱い霊力を流しても、強化には繋がらない。

 

 肉体が霊力を無駄なく活用できるように、適量になるような調整が必要みたい。

 

「うーん……ん?」

 

 唸りながら血管に流す霊力を調整していると、不思議な感覚が襲ってきた。

 血装(ブルート)が発動して強化されたわけではない。けれども、とても有用だと直感的に理解できる感覚。

 

「も、もう一回……」

 

 気のせいか確認するために、もう一度。あの時は確か、このくらいの強めに霊力を圧縮するような感じで――

 

「……うう……でも、そうよ。これ、この感覚ね。気のせいなんかじゃなかったわ」

 

 先ほどと同じ感覚に、思わず歓喜の声を上げてしまう。

 

 今私を襲っているのは、強化ではない。むしろその逆。

 強力な負荷だった。

 

「これは、いけるかもしれない……!!」

 

 空気の薄い場所で過ごして心肺機能を高めたり、強い重力を場所で鍛錬することで筋力を普通以上に鍛える。

 それと同じように、血管を通して身体に負荷を掛けることで鍛錬とする。霊力も消費するので、結果的に内在霊力を高める事も出来るはず。

 

「でも、やっぱり必要なのは霊圧の制御ね。それも繊細な」

 

 続けるだけでも凄い負担が掛かる上に、下手すれば暴発させて怪我をする恐れもある。そんな事故を起こさないためにも、必要なのは一にも二にも練習あるのみ!

 

 たしか、えーと……円を描くような感じが良いんだっけ? 絵だって"綺麗な丸を描けると良い"とか言いますし。

 

 真円を描くようなイメージで――

 

「痛ッ!!」

 

 また失敗しました。先は長そうです。

 




●他種族の技
どうせみんな、突き詰めれば霊王さまの子供みたいなもの。
ならば死神と虚と滅却師で、ある程度の互換性はあってもおかしくないはず。
という暴論。
(でも所詮はモドキ)
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