お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第50話 マッサージをしよう - 四楓院 夜一 -

「んー……っ! 今日の往診業務はこれで終了、っと」

 

 大きく伸びをして身体の凝りを解します。

 既に外は夕日が沈んでおり、夜の帳が辺りを包み込み始めています。

 

「思ったよりも時間掛かったわね」

 

 一人一人に使う時間はそれほどでもありませんが、何しろ数が多くて。

 覚えてますか? 以前の"お腹が痛い"作戦のこと。

 あれは結局大前田副隊長に見つかり大目玉を食らって失敗に終わりました。

 なので彼らが次に考えたのが"ちゃんと怪我しよう"作戦です。

 

 つまり、私が往診に来る前日に稽古や任務で怪我をしてキチンと大義名分を得よう。と言う物らしいですよ。

 これも大前田副隊長に教えて貰いました。

 またなんとも頭悪い感じですが、一応稽古にしっかり熱心に身を入れているということなので怒るに怒れないそうです。任務中の怪我というのも、故意に受けた傷だと証明できないので口頭注意が限界だとか。

 刑軍って結構厳しくて規律ある軍団のはずなんですが、なんでしょうか? この男子高校生みたいなノリは??

 

 ……そうまでして私なんかに会いたいですかね? 確かにちょっと口説かれてますけど、全部断ってますし。脈無しだと思って諦めて欲しいんですけど……

 一応"そういうお店"も瀞霊廷にはあるんですから、そっちに行けばいいのに……

 

 というかもう私が往診医を辞めればいいのかな?

 伊江村隊士とかかなり優秀だし男性隊士だから、今からでも代わって貰えないかしら?

 

藍俚(あいり)殿~! 早く帰りましょうぞ!! 拙者、イケメンばっかり見て飽きたでござるよ……』

 

「はいはい、あんたは汚いおっさんの方が好みだもんね」

 

『性格がひねくれてると尚イイでござるな!! そんな殿方を拙者のスライムでヌルヌルに……って何を言わせるでござりますか!!』

 

「片付け終わったし、あとは夜一さんに報告すれば今日はもう終わりだから。もうちょっと待ってなさい」

 

 でも夜一さんいるかしら? 最近はよく仕事さぼってていないから、二番隊の三席の人や刑軍の偉い人に代わりに報告して帰ることも多いのよね……

 えーっと、隊首執務室は……あら珍しい。ちゃんと灯りが付いてるし、中に人の気配もあるわね。

 

「四楓院隊長、四番隊の湯川です。本日の往診業務終了の報告に参りました」

「おお、入れ入れ!!」

「失礼します」

 

 中から声が聞こえたので入ってみれば――あらビックリ、ちゃんと仕事してるわ。

 大前田副隊長も同じ部屋に机を持ってきて仕事をしてました。一緒に仕事をするというよりも、逃げ出さないための監視でしょうねぇ……

 

「怪我人の治療は全て済みました。こちら、全員分の診断書です。また怪我人が増えてますね……」

「あー……ありゃもう半分ビョーキみたいなもんだ。手間ぁ取らせて悪いが……」

「いえいえ、こっちも仕事ですから! ……ただ、本当にちゃんとした治療が必要な人に割くべき時間が少なくなってないかだけが心配なんですけど……」

「はっはっは!! まあ藍俚(あいり)は美人じゃからの! スケベ心を出した男たちが群がってくるのもよくわかるわ!」

 

 大前田副隊長が申し訳なさそうにしてくる中、夜一さんは甚だ楽観的に言ってきます。

 

「それに稽古を熱心にしておるから全体の成績は上がっておるのじゃろう? なら良いではないか! なに、本当に治療が必要な者がおれば、ワシ自ら四番隊に担ぎ込んでやるわ!」

「……」

「……」

 

 ……それじゃ私が往診に来てる意味ないじゃないですか……ほら、大前田副隊長もジト目で見てますよ?

 

「なんじゃその目は……ああ、そんなことよりもじゃ!! 藍俚(あいり)、お主のえーと……どこにやったかの……」

 

 なにやらごそごそと執務机の中を探し始めました。かと思えば、一枚の紙面を取り出しました。あ、それは――

 

「あったあった! これじゃこれ、この瀞霊廷通信に載っとる按摩! これをワシにも是非やってくれんか!?」

 

 ――やっぱり瀞霊廷通信でした。それも私がインタビューされた時の記事ですね。

 

「いやぁ、記事を見た時から機会を窺ったとったんじゃがな。何しろ希ノ進のやつがうるさくてのぉ!」

「当然でしょうが! 仕事もせんと遊び回られると迷惑なんすよ!!」

「じゃから今日は必死に片付けたじゃろうが!! 文句はなかろう!! な、な、どうじゃ藍俚(あいり)!? 今日はもうワシもお主も仕事はない! 本来なら予約が必要なそうじゃが、ワシとお主の仲ではないか? いいじゃろう? いいじゃろう? 噂に名高い按摩を一度体験したみたいんじゃよ!!」

 

『イヤッッホォォォオオォオウ!! こんな時!! 拙者はどんな顔をすればいいでござるか!?!? いいでござるか!?!? 拙者わからないでござるよ!! スライムだから!! 神様だから!! 絆だから!!』

 

 どう考えても満面の笑みを浮かべてるじゃない。

 

 しかし、予約して待つのが面倒だから私に直接頼み込むなんて……

 

 そんな横紙破りみたいな方法……

 

『あ、藍俚(あいり)殿……?』

 

 

 

 

 

 当然OK!! 聞くまでもなかろうよ!!

 

 

 

 

 

『神はここにいたあああああああぁぁぁっ!!』

 

 私も射干玉の気持ちには完全同意ですよ。

 褐色巨乳ドスケベ担当が揉んでくれって頼んで来てるのよ? そんなのこっちからお願いするに決まってるじゃない!!

 

 ということで。

 

「……仕方ありませんね。夜一さんにだけ、今回だけ特別ですよ」

「おおーっ! なんじゃ、話がわかるの!」

 

 そういうことなりました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ということで夜一さんを騙して家に連れ込んで、夜のマッサージをします。

 

 ……それだけ聞くとどう考えてもR-18指定ですね。

 

 やってることは何にも間違ってないんですが。

 

「待たせたの、藍俚(あいり)

「あらら……ある意味期待通りですね」

 

 要らないだろうなぁ、と思いつつ紙の下着を渡しましたが。

 予想通りというか期待を裏切らないというべきか、全裸でやってきました。

 

 なんでしょうか、この胸の高鳴りは……

 さすがは刑軍の軍団長と二番隊隊長を兼務するだけのことはあります。

 均整のとれた肉体はすらっとしていて、高貴でいながらどこか野性味も感じさせる魅力的な肢体です。

 無駄な脂肪など一切ないのに、その胸にはこれでもかと存在を誇る大きなおっぱいが高々とそびえています。

 尸魂界(ソウルソサエティ)では珍しい褐色の肌と相まって、彼女の身体から目を離せません。

 褐色の山の天辺には、綺麗な桜色で彩りが添えられています。

 

「なんじゃ? ぼーっと見つめおって……はっはーん。さてはお主、ワシに惚れたか?」

「……え!?」

「ほれほれ、隠さんでよいぞ? ワシも身体には少しばかり自信があっての」

 

 いたずら小悪魔な笑みを浮かべて、私にしなだれかかってきました。

 

 うわぁ……夜一さんのおっぱいが二の腕に当たって……柔らかいです。

 柔らかい塊が押し潰されて"むにゅん"って音を立てながら形が変わって……

 

 ……ふう、いけないいけない。

 ここで"はい、そうです!"と思わず言いたいですが、焦りは厳禁。だってこれ、明らかにからかってますからね。

 こっちの反応を見て愉しんでるだけです。

 男だったら耐えられなかったでしょう。でも今は女だから耐えられました。

 

「夜一さん、あんまりふざけないでくださいね」

「なんじゃ詰まらん。つれないのぉ……砕蜂なぞ顔を真っ赤にしてアタフタしよるのに……」

「趣味とはいえ、こういうことをしてますからね。イチイチ驚いているわけにも行かないんですよ。さ、ここに俯せになってください」

「ぬふふ……噂では天上の如き体験が出来ると聞いたが。期待させてもらうぞ?」

 

 ぽんぽんと布団を叩くと素直に寝転がってくれました。

 俯せになりながらも他の人とは違って顔を上げて私を見ながら、暇そうに膝から下をパタパタさせていますね。

 

 ふふふ、それならこっちもたっぷりとさせて貰いますね?

 

「ではこの特製オイルを使って、まずは背中からいきますね」

「ほほう、そんな物を使うのか」

「少し冷たいかもしませんよ」

 

 ゆっくりとオイルを背中に垂らしていきます。

 今回はサービスなのでオイルもマシマシですよ。たっぷりと時間を掛けて垂らしながら、同時に手の平全体でじっくりと伸ばし、背中から腰回りまで余すところなく油を行き渡らせます。

 

「ん……っ! おお、なかなか新鮮な刺激じゃのう? ぬるぬるとした液体が背中に塗り広げられて、手で広げられるとじんわりと温かくなっていって……ふ……あぁ……」

「それがオイルの効能ですよ。いかがです?」

 

 じっくりと時間を掛けて塗り込めると、まずは背中から肩を揉んでいきます。指を巧みに使い、弱い部分や筋肉が凝っている部分を集中的に。

 時に強めに、時にやんわりと勿体付けるようにして解していきます。

 

 しかし流石は夜一さんですね。

 直に触れるとその鍛えられた筋肉がよくわかります。

 卯ノ花隊長のような剣術家としての筋肉ではなく、隠密機動という任務に対応するための肉体です。しなやかで、それでいて屈強なバネを備えています。

 背筋なんか凄いですね。これだけでも下手な席官が裸足で逃げますよ。

 

「んん……っ……これは、極楽じゃのぉ……評判になるのも、よくわかる……」

 

 先程までのワクワクとしていた様子はどこへやら。

 すっかり脱力しきって、マッサージに身を任せています。

 ……そんなに油断してて良いんですかね?

 

「もう少し下の方に行きますよ?」

「ひょわっ!?」

 

 油断しきっていたタイミングを見計らって、お尻を撫でます。

 すると猫が飛び跳ねたような反応を見せてくれました。

 

「あ、藍俚(あいり)!? そこは……」

「お尻も凝るんですよ? それに夜一さん、今日は隊長の仕事を真面目にこなしてお疲れでしょう?」

「それは、そうじゃが……」

「なら、たっぷりと解させていただきますね」

 

 オイルを垂らしながら、ゆっくりとお尻を撫で回していきます。

 プリッとした張りがあって、指で押し込めば押し込んだだけ力強く弾き返してきました。同時にオイルがゆっくりと塗り広げられていって、褐色の肌がてらてらと怪しい輝きを放って、まるで黒い宝石のようです。

 力を入れて揉めばぷるぷると震えて、まるで誘っているかのよう。

 

「の、のう……本当に必要なのか?」

「必要ですよ」

「そ……そうなの……ひぃぃんっ!」

 

 ぐっと力を入れてお尻の肉を割り開くようにすると、夜一さんはやたらと良い声で鳴きました。

 

「は……ぁ……っ! はぁ……っ! ほ、本当に……」

「必要です」

「い、いや、その……疑っとるわけじゃ……んんっ!!」

 

 強く断言しながらも手は止めません。

 指を押し込みながら、腰からお尻に掛けてのラインをじっくりと揉んでいけば、夜一さんの口からは甘い声色が漏れ出し始めました。

 手から伝わってくる温度は暖かさを増しました。

 つまり、興奮して身体が火照っている……代謝が良くなっている証拠です! これは良い傾向ですね。

 いつの間にか顔を完全に埋めていて、その様子は必死で私に表情を見られまいとしているようでした。

 

「んっ……くっ……~~~っ!!」

 

 大きくお尻を鷲づかみにしながら、回すように全体的に揉んでいきます。

 夜一さんは声にならない声を上げながら、腰をもどかしそうに動かし始めました。微かに何かを訴えかけるように左右に振り、もじもじと太腿同士を擦り合わせています。

 

「ああ、今度はこっちですか?」

「なっ! 待て! 違……っぅっ!!」

 

 リクエストされているようなので、今度は太腿を揉みます。

 今回もたっぷりとオイルを使いぬるぬるにしながら、太腿全体を。そして内腿へと指を這わせます。

 こっちの手触りも素晴らしいですね。

 全然萎えた様子もなくピンッと張り詰めていて、いつまでも触っていたくなります。

 夜一さんにも喜んで貰えたようで、背筋をびくびくとさせながら反り返らせていました。

 

「夜一さん、強さはどうです? もう少し強くした方がいいですかね?」

「ふ……え……っ……つよ、さ……!? ………っ………っ!!」

 

 私が尋ねると、しばらく何かを葛藤するように押し黙っていましたが、やがて――

 

「その、もっと強く……頼めるかの?」

 

 ――何かを決意したように、けれども恥ずかしそうに小さな声でそう言いました。

 

「了解です」

 

 お願いとあれば、応えないといけませんね。

 括れた腰回りからお尻に掛けてのラインをぐっと揉んでいき、腰周りを中心に強めに指で押していきます。

 リクエストされたように力を強めで、けれども焦らすようにして何度か繰り返します。

 

「そ、その……藍俚(あいり)……悪くはないんじゃが……その、もう少し、下を……」

「この辺ですか?」

「……ふっ! ~~~ぁぁっ!! そ、その辺りを……たのめ、るかの……っ!!」

 

 繰り返す内に我慢できなくなったのでしょう。夜一さんの方から、恥ずかしそうに切り出してきました。

 枕に埋めた顔をほんの少しだけ上げて、肩越しに切なげな瞳でこっちを見ながら遠慮がちにお願いするその姿は、いつもの泰然自若な姿からは想像も出来ないほど可愛らしいものでした。

 なので私も。

 期待を裏切らないように、筋繊維の一本一本まで解すように丹念に指で擦り上げていきます。

 

「ふっ……あっ……く……ぅっ……これは、もう……たまら……」

 

 そういえば夜一さんは猫に変身してましたっけ。ということは……

 物は試しとばかりに、尾てい骨のところをぐっと強く押し込みました。

 

「~~~~~!! そ、そこっ! そこが……ふ、あああぁぁっ!!」

 

 熱い吐息と一緒に甘い声が響きました。

 瞬間、全身に力を込めて背筋を大きく仰け反らせたかと思えば、次の瞬間にはぐったりと全身の力を抜いて脱力しきっていました。

 びくびくと全身を痙攣させ、物欲しげに腰をくねらせています。顔を完全に枕に埋めて、はぁはぁと甘い呼吸を繰り返しています。

 

 ……どうやら満足していただけたようです。ぐっしょりですね。

 何がとは言いませんが。

 

 ですが、まだマッサージは太腿周りまでなので。

 ふくらはぎや足裏も手を抜いてはいけませんからね。

 

「ん……っ! お……っ! おお……っ!」

 

 丁寧に力を込めてマッサージしていくと、その度にほぼ意識を飛ばしてぐったりしているはずの夜一さんが、反射的に声を上げていました。

 私の按摩を気に入っていただけたようです。身体は正直ですね。

 

 

 

 

 

「夜一さーん、起きてますか? 次は前ですよ」

「……な、なにっ!?」

 

 さて、背中側は一通り施術が済んだので。次は残る側です。

 声を掛けるとようやく夢見心地な意識が覚醒したのか、ビクッと肩を震わせました。相変わらず顔は殆ど上げていませんが。

 

「ま、前というのは、その……」

「仰向けにしますよ?」

「まてまてっ! まだそれは……!!」

 

 制止の声を無視してごろりと体勢を入れ替えさせます。

 

「待てと……言うたじゃろうが……い、いけずじゃの……」

 

 必死に両手で顔を隠していますが、隙間からは真っ赤に染まった顔が丸見えでした。額には大粒の汗がびっしりと浮かんでいて、前髪がべったりと貼り付いています。

 

 それにひっくり返した瞬間に見えました。

 蕩けた顔を浮かべ、だらしなく口を開いている夜一さんの表情が。男性だったら、あんな表情を見せられたら誰でも一瞬で堕ちます。絶対に。

 

 まあ本人は隠せているつもりなので。これ以上は触れないでおきましょう。

 

「次はお腹周りからですよ」

「ど、どうしてもやらねばならんのか?」

「どうしてもです」

 

 ここまで来たら絶対に逃がしませんよ。

 強く言い切りながら、お腹周りにオイルを垂らします。

 

「こ、このヌルヌルが……曲者で……くっ!! ……ぅ!」

 

 身体が随分と刺激に敏感になっているようですね。

 オイルを垂らしただけで何度も小刻みに身体を震わせ始めました。

 

 お腹周りも全く無駄がないです。腹筋からおへそに掛けてのラインがすーっと一本線が通っているように綺麗で、芸術品か何かかと思ってしまうほど。

 そこに手の平を添えてぐっと解していくと、柔らかな感触が伝わってきます。

 

「は……あ……ん……っ! あ、んん……っ!!」

 

 手で口を押さえれば我慢できるはずなのですが、残念ながら両手は表情を隠すのに忙しくてそれも無理です。

 必死で堪えようとしても自然と口が開き、声が漏れ出ています。たっぷりと熱の籠もった吐息は、夜一さんが気持ちよくなっている証拠ですね。嬌声と呼んでも差し支えないほど愉悦に塗れています。

 

「な、なんで……腹を触られただけ、で……!?」

「このオイルが血の流れを良くしてくれますから。古い細胞を押し流して新しい細胞へと代謝を促してくれるので、自然と刺激も新鮮な物になるんですよ」

 

 お腹周りから腰回りへとマッサージの手を伸ばします。

 ゆっくりとオイルを塗っていき、ぬるぬるとした感触をたっぷりと褐色の肌に教え込んでいきますよ。力強く、けれども何処かもどかしさを感じさせる程度の指使いで、じわじわと刺激を高めていきます。

 

「ん……く……ふ……っ! ひっ!!」

 

 下腹を軽く撫でると、腰がビクンと浮き上がりました。

 なのでその動きに応えるように、浮いた腰に手を絡みつかせます。鍛え上げられた腰回りに指を掛けて、ぐにぐにと食い込ませます。

 

「それは……くうぅっ!」

「痛かったですか?」

「痛いのではなく……くうぅっ! お主、ほんとに意地が悪いのぉ……わかっておるんじゃろうが! ひんっ!!」

 

 もう一度腰回りを揉み上げながら、再び下腹を指でぐっと強く押し込みました。

 またしても腰が跳ね上がり、まるで軽くブリッジでもしたかのような体勢に。少しだけバランスが崩れて、緩みきった表情が一瞬見えました。

 

「さて、何のことでしょうか? じゃあ次は上ですよ」

「はぁ……はぁ……う、うえ?」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、何のことかわからないというように聞いてきます。

 

「ええ、上です。例えばこことか」

「んんっ……ぅ!!」

 

 オイルを手の平に塗すと、そのたわわに実った胸を鷲づかみにしました。

 うわぁ、これ……凄いですよ!!

 手の中でぷるんっ! って!! ぷるんっ!! って言いました!!

 柔らかいのに弾力が凄くて、肌が手に吸い付いてくるようです。ちょっと力を入れると指の間からこぼれ落ちるみたいに形を変えて……

 

「お、お主!! ひんっ!! これは嘘じゃろう!?」

「いえいえ。形を整えるためにも必要なんですよ」

「こらっ! 戯れがすぎ……んんっ!! て、手を離……くぅ……っ!!」

「それに戯れというのなら、夜一さんも結構好き勝手やってますよね? 今回はご自分の番だったと思って、諦めてください」

 

 そう告げると、ぐにぐにと揉んでいきます。

 決してこの感触を忘れないようにと、指の全てを使って余すところなくむにゅむにゅと。

 上気した肌から流れ出した一筋の汗が巨大な山と山の間、谷間をつーっと流れ落ちて行きました。汗が通った痕はまるで火照ったように赤くなっていて、なんともそそられます。

 

「んっ!? お~~~っ!! い、いかん……っ!!」

 

 切羽詰まった声が聞こえ、ぐっと夜一さんの手に力が入りました。

 最後の一線を必死で我慢するかのような声に、私は胸の手を止めます。

 

「は……はぁ……はぁ……お、終わり、か……?」

「いいえ、最後の仕上げが残っていますので」

 

 にっこりと笑顔で答えましたが、多分顔を隠しているので見えてはないでしょう。ですが、私の言葉の裏を感じ取ったのでしょうね。

 びくっと身体を震わせました。

 

「も、もう終わりでよい! たのむっ! 後生じゃからっ!!」

「遠慮なさらずに」

 

 ここで止められるわけがありません。

 最後に残った足の付け根へ、そっと指を這わせます。

 

「は……うぅ……っ!!」

「この辺は身体の中の"流れ"が集中しているので、念入りにやりますね」

 

 触れただけでぞくぞくっとしたように身体を揺らして、腰をくねらせました。

 なのでリンパの流れに沿ってゆっくりとしっかりと、下腹部周りへ力を込めて集中的に指を使っていきます。

 

「ぐ……っ……まだ、か……まだ、終わら……くうううっっ!! んんんっ!!」

 

 必死で我慢していますが、その声はまるで誘っているかのようですね。

 呼吸音だけでも色んな妄想が出来そうなくらいに甘くて、私もかなりクラクラします。

 ですがマッサージはちゃんと完遂させますよ。

 何度も何度も、腿の付け根から下腹部に掛けてをじわじわと指でなぞるようにして擦り上げていきます。

 強めの力を何度も掛けて、指圧をしながらもみほぐすようにしてぐーっと。

 そのたびに夜一さんは腰砕けになり、いやいやと暴れるように身体をくねらせました。

 

「もうよいっ! 本当にもうよいっ! 終わりでよいのじゃっ!! でないと……っ!!」

「でないと?」 

「あう……うああああぁぁぁっ!!」

 

 もうその言葉が限界だったみたいですね。

 途端に借りてきた猫のように大人しくなったかと思えば、溜まっていたものを一気に吹き出しました。

 お布団がじわーっと濡れていきます。

 

 どうなったか、詳細は夜一さんの名誉のために伏せますね。

 ただまあ、こう……ツンとした匂いが部屋中に漂って。蜂の毒に効果があるっていう迷信で有名なアレ、病院で検査のためにトイレでカップに入れて提出するアレ。

 そんな匂いです。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。それと、お気になさらずに」

「お主、絶対わざとじゃろう!? 人畜無害そうな顔をしおってからに!!」

 

 施術は全て終わりました。

 ただ、いつもと違うのは、ちょっと多めに布を用意して身体とか色んなところを拭いておかないといけなかった。くらいですかね?

 清潔な布で何度も身体を拭きながら、夜一さんは恨みがましい目をコッチに向けてきました。

 

「はて、なんのことでしょうか? 施術中に起きたことは門外不出、決して余人には知られませんし、私も言いふらしません。現にもう忘れてしまいました」

「ぐぬぬ……本当じゃろうな!?」

「お湯の用意がしてありますので、よろしければどうぞ。ああ、それと。一般論ですが、気持ちよくなって力が抜けると、我慢が出来なくなって自然と漏らす方もいましたよ」

「今忘れたと言ったじゃろうが!! 舌の根も乾かぬうちに!!」

「いえいえ、一般論ですって」

 

 くすくすと笑うと、どうやら夜一さんもからかわれていることに気付いたようです。

 まだ顔を真っ赤にしたまま、ぷいっと横を向いてしまいました。

 

「それで、按摩はいかがでした?」

「む!? ま、まあ……その……わ、悪くはなかった……」

「それはよかった。ですが、次からはちゃんと予約してくださいね」

「そうさせてもらう。そ、それと……」

「?」

「次からは前日の飲み食いを節制しておくとする……い、一応! 万が一のことを考えてじゃぞ!! 他意などないぞ!! そこは勘違いするでない!!」

 

 飲み食いを節制……ああ、なるほど。

 タンクが空だと暴発の恐れがなくて安全ですよね。

 

「はて? 何のことでしょうか? 先程も言いましたけれど、今日の事はもう忘れてしまいましたので」

「~~~~~っ!!! ああ、もういいわ! そうしてくれ!! ワシは湯に浸かってくるのでな!!」

 

 顔どころか全身を真っ赤にしながら、いそいそと部屋を出て行きました。

 ふふふ、今回は私の勝ちですね。

 

 さて、部屋の掃除をしておかないと。

 色々と念入りに、ね。

 

 

 

藍俚(あいり)殿、ご存じでござるか?』

 

 何を?

 

『聖なる水と書いて、聖水と読むのでござるよ』

 

 うん、それは知ってる。

 

『拙者は今、聖水と言う言葉の意味を本当の意味で知った気がいたします!!』

 

 それはよかったわね。

 あ、ついでだから射干玉も掃除手伝ってもらえる?

 

『勿論でござるよ!! 拙者のスライミーなボデーの名に賭けて、全力で!! 液体全部吸収しまくりんぐ!! 今夜は褐色巨乳祭りでござる!! 夜通し騒ぎまくりまくりすてーでござるよ!!』

 

 どんな祭り開催する気よ?

 というか私、明日早いんだから遠慮してね……

 

 

 

 

 

 

 ――後日。

 

「ふはははっ!! 身体が軽いっ! まるで背中に羽根が生えたようじゃ!!」

「ああクソッ!! 隊長! あんた何時の間にそんなに速くなったんですか!!」

「知らん!!」

 

 物凄い勢いで大前田副隊長から逃げる夜一さんを見かけました。

 

 射干玉特製のオイルをたっぷり使ったんだもの、このくらい元気になっても仕方ないわよね。

 しかし、ホントに効果抜群よねぇ……

 

 大前田副隊長、ごめんなさい。

 




どうしてこうなった?
まあいいや、夜一さんだし。

●蜂の毒
蜂の毒にはアンモニア水を掛ける、と言いますがこれは迷信です。
アンモニアな匂いがする、黄金色の……

あれ、蜂って……後の二番隊隊長と関係が……?

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