お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第52話 ようこそ! 世界で一番来てはいけない場所へ!!

藍俚(あいり)さん、本当に大丈夫なの?」

「ええ、もう平気よ。わざわざ送ってもらって、悪いわね」

「本当に……? 四番隊のあなたがそう言うのなら、信じるけれど……」

 

 ぶっ倒れかければ、当然心配されます。

 帰路の間ずっと小鈴さんに具合を聞かれ続けながら、それでもようやく自宅まで帰ってきました。

 もう家の門の前なのに、それでも彼女はずっと私の具合を心配しています。

 

「それよりも、小鈴さんこそ。ほら、今日は悲願が成就した日でしょう? 早く帰って、家族に無事な姿を見せてあげたら?」

「それは……でも、だからってあなたを放ってはおけないわよ!」

「私は本当に大丈夫だから。だから、ね?」

「……わかったわ」

 

 やれやれ、ようやく折れてくれました。

 一応戻りの道中も顔には出さないように気を遣っていたつもりですし、可能な限り平静を装っていたつもりなんですけどねぇ……

 帰ると行った物の、彼女は道すがら何度も何度も振り返っては私の様子を心配しているようでした。なので私も、彼女が見えなくなるまでずっと門の前で手を振り続けていました。

 

「やれやれ、ようやく……か……」

 

 彼女の姿が見えなくなってからもさらに五分ほど待ち続け、戻ってこないことを確認してから私は片膝を突きました。

 痛い、苦しい、なんてものではありません。

 帰りの途中、射干玉がずっと警告を発しまくりでしたからね。頭の中は苦しいやら五月蠅いやらで、気が狂いそうでしたよ。

 

藍俚(あいり)殿藍俚(あいり)殿!! はやくはやく!! もう時間がないでござるよ!!』

 

「わかってるって……」

 

 痛みで立っていられない程の身体に鞭を打ち、這って家に戻りました。

 のろのろとした動きで戸を開けると、土間に直接座り込んで斬魄刀を膝に置きます。行儀が悪いのは百も承知ですが、そんなことを言っていられる余裕もありません。

 

『刃禅を! 刃禅をプリーズでござる!!』

 

 本当ならあの場ですぐにでもやりたかったんですけどね。

 でも今日は彼女が――私の親友がようやく心の整理が出来た日なんです。それに詰まらない水を差すような真似はしたくありませんでした。

 私にだって意地があるんですよ。

 

 だからこうして、平気な振りをして家に戻ってきたんです。

 

 さて、ここからがもう一踏ん張り。

 自分で口にした嘘を、何が何でも本当にしないといけません。

 今日の私は何も無かった。明日また彼女と会って、休みの日には彼女と一緒に遊びに行くんです。

 この予定を全部、滞りなく済ませるんです。

 お手伝いさんが今日はお休みだったのも幸いでした。

 

 

 

 全身を襲うこの恐ろしいまでの感覚。

 今まで体験したことはありませんが、知識としては知っています。

 身体が内側からはじけ飛びそうな、自分という境界線がぶっ壊れそうなこの感覚。

 多分、アレですね。

 

 

 

 

 

 ――内なる(ホロウ)

 

 

 

 

 

 主人公も、平子隊長やリサといった後の仮面の軍勢(ヴァイザード)の皆さんも体験した、身体の内側に(ホロウ)の力が発症することです。

 元々死神と(ホロウ)は相容れぬ存在ですので、こうなるといずれは内側の(ホロウ)に自分という存在を完全に飲み込まれ、乗っ取られてしまいます。

 

 それを防ぐためには、内なる(ホロウ)を制御する必要がある……だったはず……そんな感じのことが必要になります。

 怠った場合は、死神は魂魄諸共(ホロウ)になってしまい……本能と破壊衝動の赴くままに大暴れして、尸魂界(ソウルソサエティ)(ホロウ)と認定されて退治されてお終い……になると思います。

 

 ……え、なんか説明がふわっとしてる?

 仕方ないじゃない!! ちゃんと覚えてないんだもの!!

 あの辺りの設定ややこしいのよ!! それにまさか、自分がこんなことになるなんて思ってなかったんだもの!!

 

 ……と、どれだけ後悔しても先に立たず。

 

 原因究明と対処のために大急ぎで刃禅して内なる世界へとやってきました。

 自然物と人工物がごちゃごちゃになってるのは相変わらずですが、よく見るとちょっと罅が入っていますね。

 こう、内面世界の空間に何本もの亀裂が走っています。

 よくある"世界が壊れようとしている"という演出みたいな感じです。

 

 というか原因ってどう考えても、昼間戦ったあの(ホロウ)ですよね。

 多分彼女が、イタチの最後っ屁よろしく何かしたんでしょう。 

 しくじったわ。

 幾ら幸江さんの無念を晴らすためとはいえ、あんなことするんじゃなかった……絶対的な力を見せつけて、心をバキバキに折ってやるつもりだったのに……

 私もちょっと、小鈴さんにあてられて変になってたのかしらね?

 

「さて、と……射干玉ー? いるー?」

 

『お呼びとあらば即参上!!』

 

 さすがね、ビルの影からちょっと引く勢いで"にゅるっ"と出てきたわ。

 

『ということで藍俚(あいり)殿! 原因も対処方法もわかっているようですので、どうぞプリーズ!! 先生! やっちまってくだせぇ!! でござるよ!!』

 

「誰が先生よ!? というか、あんたが片付けちゃうのは駄目なの? そのくらいできるでしょう?」

 

『いえいえいえ! そこはそれ、拙者はあくまで(いち)斬魄刀にすぎませぬ! 現状のこれは藍俚(あいり)殿の問題ですので、藍俚(あいり)殿のお力で解決せねば無作法というもの!! こちらでヌいてしまっては失礼というもの!!』

 

「……言動はともかく、理由は理解したわ。つまり、私がやらないと意味がないのね?」

 

『その通りでござるよ!!』

 

「やれやれ、それじゃあ……いるんでしょう? でてきなさい。ここは私の中の世界だもの、隠れても無駄よ」

 

 若干の頭痛を覚えながらも、虚空へ向けて声を掛けます。

 ですが、返ってきたのは沈黙でした。

 

「……力尽くで引きずり出してあげましょうか? 昼間みたいに」

「キヒヒヒヒッ!! それは勘弁して欲しいねぇ」

 

 霊圧と怒気と殺気を込めながらもう一度言えば、脅しが利いたのか単純に諦めたのか? 真っ白な存在が姿を現しました。

 見た目は大きく変わっているので声や言葉遣いからの判断ですが、間違いありません。

 

 コイツは昼間戦ったあの(ホロウ)――幸江さんの仇でもあった相手です。

 

 姿形は昼間戦ったあのイヌ科の動物然とした化け物の姿ではなく、人間のそれでした。

 けれども元々(ホロウ)は死んだ人間が化けたものなので、ある意味で当然といえば当然です。おそらくはこれが、彼女の生前の姿を模したものなのでしょう。

 まるで女山賊の頭領のような格好をしており、容姿は美人ではあるけれど冷たい。

 クールを通り越して狡猾で残忍で冷酷で自己中心的そうな印象を受けます。

 蛇のような目をした――なんて表現はきっと、彼女のためにあるんでしょう。

 また、(ホロウ)となった者の証であるかのように髪の色から肌の色まで真っ白でした。

 

「あの戦いの最中に、どうやってかは知らないけれど私の中に入ったワケね?」

「そうさ! あんたに食らい付いた時に流し込んでやったんだよ。蛇の毒みたいに(ホロウ)の霊力をね!! これをしちまうとアタシという存在そのものまでが流れ出て行っちまうから賭けだったんがねぇ……こりゃいいよ! アンタみたいな若くて美人な死神の身体を乗っ取れると思えば、気分もいい!!」

 

 ああ、そういえば噛みつかれた時に何かしてましたね。

 アレが原因か。

 相手の魂魄に自らの霊力を流し込んで無理矢理相乗りする、軒先に乗り込んできて母屋を我が物顔で乗っ取る、といったところですか?

 

「それがあなたの能力ってわけ?」

「違うさ。こいつは少し前に喰らった(ホロウ)が持ってた力でね! 味は不味かったし変な奴だったが、こうしてアタシに機会をくれた! 今にして思えば、イイ奴だったってわけさ!! キヒヒヒヒヒッ!!」

 

 ……変な奴、か……

 つまり、普通の(ホロウ)から見て異質な存在がいて、それを食った……

 …………うーん。

 誰かの差し金? それとも偶然の産物?? まさか、ねぇ……

 

「わかる、わかるよ……この世界が徐々にアタシの色に染まっている……!! あとは邪魔なアンタをぶち殺せば、この世界は全部アタシのもんだ!!」

 

 狂喜のような表情で片腕を化け物のそれに変えかと思えば、見せつけるように爪をかちかちと鳴らしています。昼間にお腹を貫かれたので、よく覚えています。

 なるほど、基本の姿は人間のまま。けれども自在に姿形を変えられる。この世界の(ホロウ)はそんなところでしょうかね。

 

「できると思う?」

「当然さね!! しゃあああああああ!!」

 

 速いですね。昼間見た時よりも更に速いと感じる速度で片手を振りかぶり、襲い掛かってきました。

 

「けどまあ、対処できないほどじゃないわ」

「なっ……!?」

 

 居合いの要領で斬魄刀を一閃。

 それだけで彼女の片腕を切り落としてやりました。

 その気になればもう一本くらい落とせましたが、とりあえずここまでで止めておきます。

 

「実力差、わかってなかったの?」

「ぐ、ぐぐぐ……!! だったら、こうだ!!」

 

 失った方とは逆の腕も怪物のそれに変じさせたかと思えば、空間を殴り始めました。

 

「こんな世界なんて! アタシの物にならないなら、ぶっ壊してやるよ!! そらそら!!」

 

 まるでその空間に見えない壁でもあるかのような勢いでガシガシと殴ります。ですが――

 

「……気は済んだ?」

「馬鹿な! なんでさ、なんで壊れない!? さっきまではあんなに簡単に……」

 

 ――幾度殴れども、今度は罅一つ入りません。

 

「そうポンポン何度も壊されるとコッチも辛いのよ。だから、ちょっと固くさせてもらったわ」

「かた……く!? 馬鹿なことを言うんじゃないよ! そんなことが出来るわけ……」

「出来るわよ、だってここは私の世界だもの。出来て当然、当たり前。私がここで射干玉と何年遊んでたと思ってるの? この世界のことは隅から隅まで知り尽くしているのよ」

 

『あ、藍俚(あいり)殿……今の言葉、拙者ちょっと感動したでござるよ! これが絆! 二人のラブラブパワーでござるな!!』

 

 ……黙ってなさい。

 

 まあ、種を明かせばこれは血装(ブルート)の応用なんだけどね。

 ちょっとこう、ぎゅううううう! っと固くなるようにすれば、割と簡単に押さえ込めました。

 今までは防御が無防備だったから簡単に良いようにされていたけれど、硬度が一気に上がった今なら、この(ホロウ)の霊圧だと砕くのに千年単位の時間が必要でしょうね。

 

「キ、キヒヒ……確かに、壊せないみたいだ……」

 

 何度殴っても無駄だと気付いたのでしょう。

 けれどもまだ何か策があるのか、手を止めて私を睨みました。

 

「けどアンタはアタシを殺せない! もうこの世界はアタシが混ざっているからねぇ。アタシを排除すればそれはこの世界の一部をも排除することになる」

「……それが何か?」

「それが何か、だと!? お高くとまってんじゃないよ!! アタシを殺せないってことは、アンタはこれからずっとアタシの影に怯え続けて生きていくのさ! 今は確かに壊せない、けれどアンタだってずっとアタシに意識を割けるわけじゃない! 油断するときが必ず来るのさ!! 飯食ってるときか、男漁っているときかは知らないけどねぇ!!」

 

 男を漁っているって……あらやだお下品。私、そういう趣味ないんだけど。

 

「その時が来るまで、アタシはここで牙を研ぎながら待ってりゃあいいのさ! さあさあ、楽しい楽しい共同生活と行こうじゃないか!!」

 

 なるほど。

 口調は下衆の匂いがぷんぷんですが、言ってることは筋が通っています。

 

 既に私の魂魄はこの(ホロウ)と混ざり合って、一つになっています。

 この状態を元に戻す――もう一度純粋な死神と(ホロウ)に分けるというのは、それこそ"カフェオレからコーヒーとミルクを分離する"ようなものです。

 不可能、とは言いませんが無茶苦茶困難ですよね。

 

 なので。

 この関係性で支配権を握り続けるには、まず内なる(ホロウ)を屈服させる必要があります。

 けれども内なる(ホロウ)は主存在たる死神から身体の支配権を奪い取れるように、虎視眈々と狙い続けています。

 意識を完全に奪われないように、けれども(ホロウ)としての力を自分の意志で使えるように。

 そんな感じが、仮面の軍勢(ヴァイザード)(ホロウ)化した時の状態だったはずです、確か。

 なので私も同じように、この(ホロウ)を屈服させて従える必要があります。そうすれば私も、命を狙われつつも(ホロウ)化という新しい能力を得られます。

 

 

 

 普通ならば。

 

 

 

「共同生活、ねぇ……」

 

 全ては、知らなかったのが敗因よね。

 

「なら同じ世界に住む者、同士交流を深めた方が良いんじゃない?」

 

 こっちには私に勝るとも劣らない、変態真っ黒ゴムボールがいるのよ?

 

「ねえ、射干玉(ぬばたま)?」

 

『むっっっっほおおおおおおぉっぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

「ひいいっ!? な、なんだいこれは!?!?」

 

 私が名前を呼ぶと、待っていましたと言わんばかりに真っ黒い奔流が間欠泉のように吹き上がり、周囲一面に黒い雨を降らせました。

 雨粒一つ一つがぐねぐねと寄り添い合いくっつき合って、じわじわと巨大な一つの塊へと変身していきます。

 その様子があまりにも異質だったのでしょう。(ホロウ)は怯えたような声を上げて身を竦ませました。

 

「紹介するわね、この子は射干玉。私の斬魄刀で、あなたにとってはこの世界の先輩に当たる存在よ」

「ざ、斬魄刀だって!? この生々しい黒い肉塊みたいなのがかい!?」

 

 あらら、そんなに嫌わないであげてよ。

 今ちょっと、ちょーーーっっっっとだけ、これから起こることを妄想して抑えきれずにびくんびくん先走ってるだけだから。

 あと、仲良くしてあげないと後々辛いわよ?

 

「ねえ、射干玉。ちょっとだけ確認していい?」

 

『なんでござりましょうか!?』

 

「この状態はもう、私は(ホロウ)を屈服させたと判断してもいいわよね?」

 

『当然でござる!!!』

 

「じゃあもう、あなたが手を出しても一切問題はないわよね?」

 

『無論でござる!!!!』

 

「言質は取ったわよ……それじゃあ射干玉、あとはよろしく(・・・・)ね」

 

 よ ろ し く

 

 このたった四文字の言葉に込められた意味を、射干玉はどうやら正しすぎるほど正しく理解したみたい。

 

『キタコレ!! ヒャッッハァァァーーーーーッ!! テンションMAAAAAAAAX!! やあああああああああぁぁってやるぜ!!』

 

「ぎゃああああああああっっ!!」

 

 うわぁ、酷い悲鳴ね……さっきまでの不敵で生意気な態度はどこにいったのかしら?

 まあ……この悲鳴を聞けるのって私と射干玉くらいだから……なんだっけ? あなたの悲鳴は誰にも聞こえないってキャッチコピー、あれみたいよね。

 

『フヒ! フヒヒヒヒッ! 良いのでござるか!? 良いのでござるか!? これ全部拙者の物にして良いのでござるか!? こんな素敵な!!』

 

「良いも悪いも、もうそれあなたの物よ」

 

『拙者の! 拙者だけの!! 誰にも邪魔されない!! ムホホホホッ!! (ホロウ)殿!! ここでは時間ですら拙者たちの邪魔をしませんぞ!! おお、これは失敬!! (ホロウ)殿などと不粋な呼び方でござったな!! 何か可愛い名前を考えて差し上げねば!! 急務! これは急務ですぞ!!』

 

「うーん、それじゃあ……ブラン、とか呼ぶのはどう? どこかの国の白を意味する言葉がそんな感じだったような」

 

『おおっ!! なかなか素敵な名前ではござりますなぁ!! ふひひひひ!! で、ではブブブブブ、ブラン殿!! 拙者とラブをメイクするでござるよ!! にゃんとっ! 名前を呼ぶと愛着マシマシでマジでラブなテンションアゲアゲでござるなぁっ!!』

 

「ひっ、やめろっ!! 来るな来るなああぁぁっ!!」

 

 怯えていますが、すでに射干玉は触手のように伸ばして彼女の足首に絡みついています。ああ、もうこれで逃げられませんね。

 蛇が蛙を嬲るようにじりじりと間合いを詰めていって……かと思ったら一気に飛びかかったわ。

 コールタールを更に煮詰めた様な真っ黒でドロドロの粘液がブランの身体中にぶっ掛けられて、うわぁ……ヌルヌルの液体が顔中に……髪がべっとりしてテカテカしてる……

 

「がぼっ!! が、べぇぇっ! や、やめろ! なんてこ、と……ご、ぼぼぼ……」

 

 あ、溺れた。

 私も似たような経験あるからよくわかるわぁ……あれ、物凄い辛いのよね。

 

 うわぁ……これ、酷いわね……流石は粘液生物、穴という穴から……えっ!! ちょ、ちょっと待って射干玉!! そんなところもアリなの!? そこは駄目だって!! そこ絶対入る場所じゃないから!! 入っちゃ駄目な場所だから!!!

 

「ごべっ! ごべんな……ざいぃっ!!」

 

 ……ひええっ!! 穴から!! 身体中の色んな穴から、色んな液体(・・)が漏れてる漏れてる!!

 

 え、そこまで!? そんなところまで行くの!? そんなに入っちゃうの!? ひゃぁ……人体って凄いのね……

 

「が、ばっ! あやま……あやまりまずっ!! もうっ、もう二度と、さから……がばばば……おぐううぅぅっぇぇぇっ!!」

 

 えっぐ……エグいわぁ……潰れた蛙みたいな声が……えっ!! ちょ、ちょっとそれ大丈夫なの!?

 ……そんなに膨らむんだ……うわぁ、エロ漫画みたいな光景だわ……

 でも破裂とかしないのね……人間って想像以上に丈夫なのねぇ……

 

「じ、じにばみ(死神)っ!! じにばみざま(死神様)っ!! もう逆らいまぜんっ!! 邪魔もじまぜんっ!! あやばり(謝り)あやばり(謝り)まずからっ!! なんでも、何でもじまずっ!! 何でも言うごとぎぎまず(聞きます)からっ!! たずけ……で……がば……ば……」

 

 これ、とても詳細に説明できないわね……

 ただその、蟻地獄に落とされた蟻の方がまだマシっていうか……真っ白い存在があっと言う間に真っ黒な沼に飲み込まれていって……

 無数の粘液と触手がぶわあああぁぁっ! って襲い掛かって好き放題されて……

 

『むっっほおおおおおおっっっ!! ふひひひっ!! どうしたでござるかブラン殿!! 拙者、ブラン殿の強気で生意気な態度が好みだったでござるよ!! ふひ、ふひひひっ!!』

 

 ひええ……今までで多分一番すっごい事になってる……

 

 なんていったら良いのかしら……

 

 あのね。

 人間はすごく簡単に言うと「入り口」と「出口」の二つの穴がある生き物でしょう?

 ということは、仮に"もの凄く長い紐"とかがあったら、入り口から出口まで紐を通せる。それどころか紐の長さによっては、端から端までを通してもなお余るわけで……

 

 幸江さんの仇だから容赦する気は一切無かったけれど、それでも出口からっていうのは流石にちょっとだけ同情しちゃう……

 

 ちょっ! 待ちなさい!! 二週目は、二週目は絶対無理だから!!

 

 

 

 

 

 でも何より恐いのが、アレでも死ねないのよね。

 だって彼女、そもそも私と混ざってるからそう簡単に消えられないし。

 それに射干玉は自分の能力で延々と延命させることも可能だもんね……空気だって送り込めるから窒息とかもしないし……

 

 あと彼女、さっき言ったもの。「何でも言うことを聞きます」って。じゃあ言ったことは守って貰わないとね。

 

「射干玉ー、ほどほどにしてあげなさいねー」

 

『オッフ! 藍俚(あいり)殿、ご心配痛み入りますぞ!! ですが拙者、昔から物持ちは良い方ですので!!』

 

「おごおおおおおおぉぉぉっっ!! お……!! ~~ぅ~~ッ!!!!!」

 

 獣の断末魔みたいな声が何度も何度も……うわぁ、耳を塞いでも聞こえてくる……

 

 

 

 まあ、何と言ったら良いのかしら。

 

 ブランが女性型の(ホロウ)だった、それが全部の原因よね。

 

 だから恨むなら自分を恨んでね。

 あなたの(ホロウ)の力は、私が有効活用してあげるから。

 




●前回の予告
(内なる)虚の(方が)恐怖(を感じまくって土下座しても許して貰えない)

●内なる虚との戦い
基本的には全部捏造設定&妄想描写。
なにしろ原作で描かれたのが「超特殊事例」な主人公の場面だけで。
(仮面の軍勢たちの内なる虚がもう少し描かれていればそれを参考にしたんですが)

●ブラン
一護のアレがホワイトと呼ばれていたので、そこから安直に名付け。

白は
フランス語だとblanc(ブラン(ブロン))
イタリア語だとbianco(ビアンコ)
スペイン語だとblanco(ブランコ)
……ラテン語と表現するのが一番正しいかもしれませんね。

●どうでもいい話
In space, no one can hear you scream(宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない)

(「Cry havoc and let slip the dogs of war」にするか迷いました)

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