「……延々と悪夢を見られそうな光景だったのに、目覚めは凄く良いのね」
目が覚めると、気分はすっきり爽快でした。
とりあえず、射干玉は優しい子だということがわかりました。それが一般的な"優しさ"の範疇に含まれるかは知りませんが。
さて目が覚めたのは良いんですが……ここどこ……?
……あ、そうそう。確か玄関先で刃禅したんだったわ。
こういう内なる
なんだか遠い昔の記憶にそういうのを朧気に覚えているようないないような。被害が無いならそれに超したことはないけどね。
「ま、どうでもいいか」
外を見れば朝靄が掛かっていて、お日様がちょっとだけ顔を出しているくらい。
物凄い早朝ですね。
ただ肉体的には一晩中刃禅していたことになっていたので、ちょっとお尻が痛いです。
「今日はお仕事もあるし、朝湯しちゃおうっと」
昨日の血糊とかも残ってますからね。ちゃんとお風呂に入ってお洗濯しておかないと。
汚い格好で四番隊――綜合救護詰所に行くなんて、言語道断です。
あ、そうだった。リボンも破かれてたんだった。
……新しいのを付けておこうかしらね。
「みんなー、おっはようー!! 昨日はごめんね、急にお仕事を依頼されちゃって、しかもそれが霊術院時代の同期生だったから、つい時間を忘れちゃって!」
「え、湯川副隊長……?」
「どうしたんですか、そんなに元気に?」
やたらハイテンションな私を見て、早番の子と夜勤の子が驚いた目をしています。
確かに、自分でもらしくないってわかっているんですが。
でもやたらスッキリ爽快な気分なんですよ。
「副隊長、おはようございます」
「虎徹十席もおはよう! 今日も一日頑張って行きましょうね!」
勇音はどんどん出世しています。
霊圧もどんどん強くなって、回道の腕もどんどん上がってて。もう十席……流石は原作キャラよね。十年後くらいには追い越されてそう。
「あ、
「ええ! 気付いてくれた? 昨日ちょっとあってね……」
「そうなんですか? でもその色も素敵ですよ」
「えへへ、ありがと!」
「……
「あ! 卯ノ花隊長おはようございます!! 夕べはすみません! 旧友と再会したり盛り上がったりしちゃってて!!」
「そ、そうですか……」
とても珍しい、私を見てちょっと引く隊長の姿が見られました。
「これ、完全に射干玉のテンションに影響受けてたわよね……」
流石に今日のアレはなかったなぁ、と反省してます。
お仕事と残業を終えて、夜勤の子たちとのミーティングまで実施し終えた深夜、ようやく帰宅です。
この頃になると流石にあの"わけわかんない勢い"も静まりました。
あと、日中仕事しているときに身体の内側から聞こえてきた"獣の喘ぎ声みたいなの"も冷静になれた要因だったと思います。
でも射干玉のハイテンションの影響を受けてなくても、私自身ちょっと愉しみでワクワクしていたんですよ。
だって、もしかしたら
「……万が一のことを考えて、一応霊圧吸収部屋に入っておきましょう」
あの部屋の中なら、よっぽどの事が無い限りは誰にもわかりませんからね。
既に時間は真夜中ですので、灯りも用意しておかないと。
それと、一応部屋の外に遮断用の結界も張っておきましょう……念のために二重で。
これだけ準備しておけば多分大丈夫なはずです。
手持ちの頼りない灯りに照らされる薄暗い室内で、まずは部屋の装置を動かします。
うん、正常に稼働してるわね。
……それじゃ……いくわよ……
「……変、身ッ!」
格好付けたポーズを決めるように左手を顔の前に翳して、自分の中に存在する
あ、台詞は別に要りません。
でも初回サービスということで、そういうのあった方が分かり易いかなぁって思ったので言っておきました。
「……でき……た?」
全身がうっすら何かに包まれたような、そんな感覚がしたかと思えば視界が僅かに狭くなったような――いえ、これは正しい表現ではありませんね。
まるっきり新しい視界になって慣れなくてちょっと違和感がある。目の悪い人が初めて眼鏡を掛けた時みたいな、そんな感じです。
そっと自分の顔に指を這わせれば、そこには今まで感じたこともなかった固い
「できたのよね、これ!」
さらに確かめるように二度三度と顔に触れ、そこにあるはずの
「どんな、どんな姿してるの私!? って、ああっ! 鏡! 鏡を持ってきてない!!」
自分の顔は自分では見られない。当たり前のことですよね。
「……そうだ、斬魄刀で!」
大昔にもやったように、刀身を鏡代わりにして自分の姿を確認します。
そこに映っていたのは真っ白な仮面を被った
仮面のデザインですが……なんだか四角い印象ですね。
丸みを帯びた四角形のような仮面でした。
結構大きめなので、被ると顔の半分以上がすっぽり収まって、耳の手前まで一気に隠れてます。
あと目の部分には横棒一本のスリットが設けられています。
ここだけ見ると某ロボットのモノアイ部分みたいな感じですね。
ただ、身体の中から溢れてくる霊圧は今までの比じゃないわ。
軽く拳を振るったりして身体能力を確認しただけでも、今までとは動きのキレが全然違う!
すごい! 今だったら卯ノ花隊長にだって余裕で勝て……かて……
……ごめんなさいうそですゆるしてくださいちょうしにのりましたみなづきはだめですほんとにだめですぬばたまたすけてちがちがちがいっぱいいっぱいでてきてきれてるきれてるわたしもきってるのにいっぱいきられてるなんでたいちょうそんなにつよいんですか……
……ん、んんっ!! 気を取り直していきましょう。
勝てるビジョンが全然見えなかったけれど、でも一瞬そんな夢を見られる程度には強くなってるわね。
ただこんな力を持っていることがバレたら問答無用で討伐対象にされかねないから、ギリギリまでは隠しておかないと。
だってなんだかんだ言っても"
残る問題は持続時間よね。
確か主人公も持続時間を延ばすための特訓を……してましたよね? うん、私のすり切れた記憶の中にもそういうシーンはあります。
じゃあなんで十五時間はイケるってワードも同時に思い出したの私? 十五時間も変身していられるのに特訓をしてたっけ? いえ、特訓したから十五時間も変身していられるってことだったかしら?
やっぱり主人公って規格外なのね。半日以上もこの仮面被り続けているっていうのは、私にはちょっと……
あれ、意外とできそう。
今って
でも全然苦しくないし、身体が軽くてストレス皆無よ。
……なんで? 相性が良すぎないコレ??
うーん……??? どのみち、この狭い部屋の中じゃ出来ることは限界があるし。
今度の非番の日にでも思いっきり遠くまで足を伸ばして、実際にどれだけ動けるのか試してみようかしらね。
なにより、変身にはもう一段階あったはずですし。
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「
待ちに待った非番の日です。ちなみに一ヶ月くらい待ちました。
仕事が溜まっていたり、
それらを全て片付け終えた現在、用心のためにびっくりするくらい遠出してから、仮面を被って能力の確認中です。
試しに
死神が鬼道を使って実現している攻撃方法を
ただ死神は鬼道を組み合わせることで多彩に出来ますから。
何事も使いようですね。
「……
ふと思いつきましたが、結構難しそうですね。
「やっぱり使い分けが重要ってことね」
斬魄刀をぶんぶん振り回しながらそう結論づけました。
こちらも動きやすさが段違いです。
これなら卯ノ花隊長に剣術だけで勝てるかも知れないという淡い夢を心の片隅で思い描いても仕方ない程度には調子に乗れます。
だってあの人、素の身体能力もえげつないのに剣術も色々知ってますから。
仮に隊長を圧倒するだけの身体能力で挑めたとしても、間違いなく技術で圧倒されて確実に殺されます。むしろ身体能力だけの脳筋なんてあの人の格好の餌食ですよ。
あれを身体能力だけで倒せたら本物の化け物ですね。
しかも私のマッサージで強化されましたし……もう世界最強なんじゃないですか??
……あ! 忘れるところだった。
射干玉、そっちの調子はどう?
『おお、
一ヶ月も時間があったおかげか、ブランは射干玉とすっかり仲良くなりました。
ブランは基本的には従順な態度を取ります。
が、彼女は賢いので。
従順に見せかけた生意気な態度を取ってみせる演技をすることで、
飽きさせない工夫ってやつですね。
……うん、あれはじゃれあっているだけ。遊んでいるだけ。何も問題はないわ。
一ヶ月も経つと流石に見慣れました。
人間って
『ですがこうして人数が増えると、次なる欲が出てきてしまいますな!
できるかっ!! どこの懐かしのギャルゲーよ!! 大体そんなにいっぱい入ってきたら、お腹がパンクするわよ!!
『っ!!
……は? えーっと……こ、こんな感じ?
……んっ、だめぇ……そんなにいっぱい入らないからぁ……私のお腹、パンクしちゃう……もう許してぇ……んくっ……
『むほおおおおおおぉぉっ!! たまんねえぇぇっ!!』
……神様、今からでもチェンジってOKですか?
『呼びましたかな?』
そういやこの子も神様だった!!
それは、一つの魂魄に
だがそれはとてもとても困難な事例だ。
ここに魂魄という名のグラスが存在している。
グラスには仕切りが入っていて、片側にだけ水が入っている。
大雑把な表現だが、これが
だが
注がれていた水と勝手に混ざり合い、グラスの中の主として振る舞おうとする。そして混ざり合った液体はやがてはグラスそのものを破壊してしまう。
魂魄と外界との境界すら破壊し、その存在そのものを自滅させてしまうのだ。
これを防ぐのに、浦原喜助は人間と
作中で語られることはなかったが、おそらくは藍染惣右介が東仙要を
――つまりは、前述の方法で防ぐか。そうでなければ黒崎一護のように、生まれながらにして特異な体質をもっている者でなければ、
だが、何事にも例外というものは存在する。
グラスが割れるのは、それが薄いガラスで出来ているからだ。
グラスが割れるのは、グラスを破壊するほど暴れる者がいるからだ。
ならばガラスの厚みそのものを分厚くすればどうだろう? 両腕で抱えるのも困難なほどの厚みを持ったグラスならば、仮に何万トンもの圧力が掛かっても割れないのではないだろうか?
グラスの外周を強固な金属で固めるというのはどうだろう? 仮にグラスそのものが割れても、中の液体は飛び散ることなく形を保ち続けるのではないだろうか?
暴れん坊に、グラスを割ってはいけないと教えればどうだろう。そもそも暴れなければ、グラスが割れることもないのではないだろうか?
たとえば何百年もの間、幾度も幾度も死に直面するような修行を続けることで内側を強固にするような。
たとえば何百年もの間、過剰な霊圧を纏い負荷を掛け続けることで自身の身体を強固にするような。
たとえば内なる
方法を聞けば、おそらくは浦原喜助も藍染惣右介も口を揃えて「時間の無駄、無意味、非効率、試す価値もない、出来るわけがない」と切って捨てることだろう。
だが、そんな愚直で気の遠くなるような時間を費やした者だけしか到達しえない光景が、時に存在する。
すなわち。
魂魄が壊れるのなら、壊れなくなるくらい外側をガッチガチに固めて強化すればいいじゃない。
まるで笑い話にもならない、短絡的な理屈。
けれど人知れず、現時点では余人の目に触れることもなく、そんな奇跡のような方法を成功させてしまった実例が存在していたこともまた事実だった。
尤もその当事者は、自分がそんな奇跡の末に成り立っていることなど知るよしもなかったのだが。
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うーん……っ! 疲れたけれど、イイ経験になったわ!!
既にお日様は殆ど沈み、薄暗くなった瀞霊廷を私は一人家路に向かっています。
基本的な能力は一通り試し終えましたし、残る課題は霊圧吸収部屋でも実験できるはずですから。
なんて言いましたっけ……えーっと……ほらあの、
れ、れす……なんだっけ? ああもう! 横文字嫌い!!
「おや、湯川副隊長。お疲れ様です」
「あら藍染副隊長、お疲れ様です」
挨拶されたので、返事と会釈をしておきます。
れす……
……思い出した!
よかった、すっきりしたわ! これで次からは
……!?
え、まさか何か探りに来てた?
大丈夫……偶然だって! たまたますれ違っただけだから!
そうよ私! 気にしたら負けよ!!
●平仮名だらけの部分
ごめんなさい嘘です、許してください、調子に乗りました。皆尽は駄目です、本当に駄目です。射干玉助けて、血が、血が、血がいっぱい、いっぱい出てきて斬れてる斬れてる。私も斬ってるのに、いっぱい斬られてる。なんで隊長そんなに強いんですか。
●虚化
調べていくと「普通の死神を無策で虚化させるのって無理だ。何かそれっぽい理由を付けないと身体が"ぱーん"ってなっちゃう」と気付いたので。
●15時間
これは白(ましろ)のこと。記憶がアレになってるので、一護と混同してるだけ。
●内なる虚
ちょっと生意気な態度を取ると思いっきり構って貰えると学習した。
●眼鏡を砕いた人
探り、かもしれないです。
ブランちゃんが食ったのが藍染が改造して作った虚の試作品だけど暴走して逃げちゃってて「どうなるのかな?」って観察してたら色々あって藍俚のところに来て住み着いたので「どうなったのかな?」と思ってこの一ヶ月ほど陰に日向に経過観察していたかもしれませんがそんなことよりおっぱいの方が大事なので特に気にしません。