お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第61話 マッサージをしよう - 伊勢 七緒 -

 今日は非番です。

 普通ならば日頃の疲れを取るために身体を休めたり、気分転換に本を読んだり、自己研鑽のために何かする。

 そういう、自分のために使う日です。

 基本的にはゆっくりする日なのです……基本的には。

 

 ですが今日の私はゆっくりとしている暇はありません。

 

 趣味でやっているマッサージが人気になって、予約が必要になったというのは以前も言ったかと思います。

 (その割には何人か特例がありましたけれど)

 

 そして今日はその予約者たちをマッサージする日なんです。ここまでは良いんですよ。

 

 ……まさか今日一日で五人分の予約が重なるとは。流石に予想外でした。

 嫌でありません、決して嫌ではないんですよ!

 ですが、物事には流石に限度というものがあるわけで……

 

 まあ、そんな贅沢な事を考えているのは私だけなのですが。

 射干玉なんて……

 

『今日一日は至福の日となるでござるよ!! 五人分のお山ですから、山の日の五倍は素晴らしい日に……いえ、ちょっと待つでござるよ拙者! 山は各人二つありますから……十倍だとぉぉぉ!! これはもう祝日制定待ったなしでござるよ!! 十日の連休を義務づけるべきですぞ!! うっはww 夢がひろがりまくりんぐww』

 

 ああもう! 草を生やさないの!!

 

 ……とまあ、こんな感じです。私も気持ちはわかるんですけどね。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 さて、最初の予約者が来る時間まではまだちょっとだけ余裕があ――

 

「すみません、予約した者なのですが……」

 

 ――なかったみたいです。

 まだ四半刻(30分)くらい早いのにもう来るなんて、真面目な人ですね。

 

「いらっしゃい、お待ちしてましたよ。伊勢さん」

「は、はい! 本日はよろしくお願いします湯川副隊長!」

 

 そこには今日最初のお客様、八番隊の伊勢七緒さんがいました。

 以前、真央図書館で知り合いになった頃から背は伸びて、全体的に大人な感じになりつつあります。

 ですが黒髪眼鏡の委員長タイプな外見は変わっていません。

 性格も生真面目なままです。

 だってほら、予約よりずっと早く来ちゃうし。最初の挨拶も凄く丁寧ですし。

 

「まだ予約時間より早いんだけど、もう施術を開始しても良いかしら?」

「はい、それで大丈夫ですから!」

「じゃあ上がって。施術室はこっちよ」

 

 履き物も丁寧に脱いでますね。

 なんというか、所作に気品が漂っています。

 代々神官の家系だった伊勢家の娘さんだから、当然といえば当然なんですが。

 

「隣の部屋を更衣室にしてあるから、これに着替えてね。着替え終わったらコッチの部屋まで来て」

「は、はい」

 

 着替えを受け取る時、その指先が少し震えていましたね。

 その、しばらくしてから――

 

「た、隊の経験者の諸先輩から、う、う、噂には聞いていましたが……本当にこんな、格好をするんですね……!」

 

 ――と、物凄く照れたような決意したような声が聞こえてきました。

 大丈夫大丈夫、一回着ちゃえば慣れちゃうから。

 むしろ堂々と裸で出てきた人もいるのよ? だから恥ずかしがらないで。

 

「き……着替えてきました……」

 

 やがて伊勢さんは恐る恐る施術室へと顔を出しました。

 

 ここまで肌を露出させることに物凄く抵抗があるのでしょう。

 顔は既に真っ赤に染まっており、それどころか俯いています。

 目が私を見ていません。他人の事を見てしまうと、自分が見られていると再認識してしまうから、だから見られない。そんなことを考えているのだと思います。 

 

 体つきは、比較するなら砕蜂をもう一回り華奢にしたような感じでしょうか。

 本当にもう見ているだけで折れてしまいそうなくらい細いですね。

 胸回りや腰回りも薄い……このくらいの体型の標準と比較しても、圧倒的に華奢です。

 あまりこういう表現は使いたくありませんでしたが、敢えて使うならぺたーんです。

 

 あのね、もう少しご飯食べても大丈夫よ? むしろ食べて。

 と言ってしまいたくなるくらいぺたーんです。

 そんな身体で紙製下着をキッチリ付けているので、彼女も砕蜂の時みたいにボディラインが丸わかりです。

 

 あとは、印象的だったのは。

 これからマッサージをするので眼鏡を外しているということですね。眼鏡を外しているので、目つきが悪くなってます……

 細目にしないとピントが合わなくて見えないから、仕方ないんだけど。

 

「はい、それじゃあここに横になってね」

「こ、こうですか?」

 

 そう言いながら彼女は仰向けになりました。

 まあ、そっちからでも問題はないんですけど……

 

 ぺたーんではありますが、それでも完全に真っ平らというわけではありません。

 ぷるんって感じで、ほんの少しだけ重力に従って形が揺れ動きました。

 

 この光景は何時(いつ)、誰のを見ても良い物ね。

 良い物、なんだけど……

 

 この目で見つめられ続けるのって、睨まれてるみたいでちょっと恐い……

 ……あ、そうか。

 

「伊勢さん、そうしてると目が疲れるでしょう? だからはい、動かないでね」

「わっ!? なんですか、これ!?」

手拭(てぬぐい)よ。こうすれば少しは楽になるでしょう?」

 

 彼女の目元にタオルを掛けました。

 中途半端に見えているのが問題ならば、逆に見えなくしてしまえばいい理論です。

 おお、これで大分印象が柔らかくなりました。

 

「あ、ありがとう、ございます?」

 

 視界が遮られたので少し戸惑いつつも、そういうものだと思っているみたいですね。

 素直にお礼を言っちゃう伊勢さんが可愛すぎます。

 

「それじゃ、施術を始めますね。まずは肩から」

「ひっ……! な、なんですかこれ!? なんだかとろーっとしてて……」

「按摩用の特製油ですよ? 知りませんか?」

「そ、そういえば話に聞いたような……」

 

 見えない時にオイルを掛けられたら、そりゃあ驚きますよね。

 肩を一瞬だけビクッと震わせました。

 

「それじゃあ肩の凝りから解していきますよ」

「んんっ……」

「はい、力を抜いてくださいね」

「あ……なんだか、気持ちよくなって……」

 

 ゆっくりと肩から首周りを揉んでいきます。

 うーん、これは……凝ってます。凄く凝ってますね。肩が重そうです。

 ただ、重くなる原因は胸回りというよりも――

 

「……伊勢さんは書類仕事とか多いの?」

「書類仕事、ですか……? はい、そうですね。やっぱり私、そういう机の仕事が得意だと思われてるみたいで……」

「そういうのって嫌?」

「嫌ではない、です……でも、どうしてそんなことを?」

「肩が凄く凝ってたからなんとなく、かしらね? あらら、腕も随分……」

「ん……っ! あ、すごい……楽に……なって……気持ちいい……」

 

 肩から二の腕、肘辺りをゆっくり揉み解していくと、少しずつ気持ちよさそうな声が上がりました。

 心身ともにリラックスしてきて、マッサージに身を任せている。

 とてもよい傾向ですね。

 

「この位の力で大丈夫? それとも少し強めにした方が好みかしら?」

「このくらいで、平気です……」

 

 首筋を指でなぞりながら尋ねると、声色が少しだけ蕩けていました。

 

 まだ肩周りだけなのに、やっぱりこの子も若いですね。

 お肌が元気いっぱいです。

 惜しむらくは机仕事と趣味の読書のせいでちょっと張りや調子が疲れ気味なことでしょうか。指先から返ってくる感触は、ほんの少しだけですが引っ掛かります。

 

「そういえばリサも、こんな感じだったわね……あ!」

 

 思わず懐かしげに言ってしまってから、自分の失言に気付きました。

 

「ごめんなさい、変なこと言っちゃって」

「いえ、その……」

 

 あらら、微妙な空気が流れちゃったわね。

 せっかくの楽しい楽しいマッサージタイムにこんな湿っぽいのは似合わないんだけど、どうしたものかしら……?

 

「副隊長がいなくなって寂しいですけれど、それはきっと湯川副隊長も同じ気持ちだと思っていました……いえ、もしかしたら、副隊長とご友人同士だった湯川副隊長の方がずっと辛いんじゃないかって……」

「そう、ありがとうね」

「湯川副隊長になんとか元気を出して貰いたいって思って、それで」

「うん」

「今日の按摩をお願いしました」

「……うん?」

 

 ……なんだかちょっとだけ、ズレてないこの子?

 

「なんで?」

「副隊長はご趣味で按摩をしていると聞いたので」

「うん」

「趣味に没頭すると、気分転換にもなりますし」

「うん」

「なので、私が少しでも副隊長のご趣味の助けになれば、元気を出して貰えるかと思って……」

 

 ……いや、その理屈はおかしい。

 

「あのね、その気持ちは貰っておくけれど。でも、普通に口で言っても良いのよ? わざわざ理由を付けなくても……」

「あ、あの……その、実は……女性隊士から評判の按摩を一度受けてみたかったという気持ちも少しだけあって……その、ほんの少しですよ!」

 

 ……うん、もうそれでいいわ。

 

「そう。じゃあ、伊勢さんの心遣いと期待に応えるためにも、たっぷりやらせてもらうわね」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 さて施術の再開です。

 

 今度はお腹周りです。

 とはいえ彼女は余計な肉もないし筋肉も少なめだからか、その辺はすらーっとしてるわ。

 うっすらと浮き出た骨の形と、そこから伸びるウェストのラインが実に綺麗ね。

 真ん中辺りに目をやれば、つーっと一本線が通ったその先に可愛いおへそがちょこんっとあって、これだけでも軽い芸術品みたい。

 全体的に細身だけど、わずかな括れも備わってる。

 

 むちむちのエロい身体に対する感情とはまた違うんだけど、これはこれでかなりグッと来て目が離せないわね。

 なにかしら、こう……汚したくなる、みたいな感じ?

 

「少しくすぐったいかもしれないけれど、我慢我慢」

「ん……っ……ふ、ぁ……っ……」

 

 脇腹から腰周りに掛けてを、ゆっくりと揉んでいきます。

 とはいえやっぱり肉付きが少ないので、すぐに筋肉の固い感触が指先から返ってきます。

 肉付きが薄いので余り強めにしても逆効果になってしまうので、指先で軽くなぞるように、流れを整えるようにしてマッサージしていきます。

 

 なので警告したようにくすぐったいはずなのですが、それを必死で我慢しています。

 小さく吐息を吐き出すその声は、この身体に似合わないくらいエロいです。

 ……なにこれ? この子ってばなんでこんなにエロい声だしてるの!?

 

「おへそも少しだけ触るわよ?」

「んんんんっ!!」

 

 ちょこんと可愛らしく鎮座しているおへその穴に指先を軽く沈めると、彼女は切なそうな声を上げました。

 

「あら、ここ気持ちいい?」

「だ、駄目ですっ! ぐりぐり、しないで……ぇ……っ!」

 

 オイルをたっぷりと塗しながら、指先を円を描くように動かして、ときどきトントンと軽く叩きます。

 そのたびに伊勢さんは身をくねらせながら、ぞくぞくとした様に腰を跳ね上げました。

 あのやたら耳に残るエッチな声を上げながら。

 

 ……意外な弱点ね。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっとやりすぎたわ……大丈夫?」

「はぁ……っ……はぁ……ぁ……っ……」

 

 聞いてみたけれど肩で息を繰り返すだけで、返事はないわね。

 

 表情は――タオルで目元こそみえないけれど、口元は半開きになってて舌先がちょっとだけ出てる。ピンク色の舌が頭だけ出してて、もっと見たいって思っちゃうわ。

 唇も少しだけ涎に濡れてて、ちょっとだけテカってて……

 

 やだ、何この子……なんか凄い才能持ってる……

 

「聞こえてる? 次は足回りよ」

「あし……で、すか……」

 

 うん、聞こえてるみたいね。なら大丈夫。

 

 オイルをたっぷりと塗しながら、太腿から足の付け根、臑から足の裏までをじっくりと揉んでいきます。

 さすがはインドア系、肩や腕なんかもそうだけど足回りも雪みたいに真っ白。

 ただ座り仕事が多いからこの辺も疲れてるわね。

 ボリュームがないのをちょっとだけ残念に思いながら、太腿あたりをゆっくりと揉んでいきます。

 

「ふあ……あぁっ! な、なんだか身体が熱いよう、な……っ……!」

「それは血行が良くなって、健康になってる証拠よ。どう、凄いでしょう?」

「は、はい……これ、すごい……ひゃあああぁっ!」

 

 足の付け根辺りを中心部に向けてぐーっと押し込んであげると、切羽詰まった声が上がりました。

 比較的落ち着いてて物静かなイメージの彼女の口から出てきたとは思えないくらい、大きくて可愛らしくて、エロい声でした。

 少しだけ強めに力を込めて、リンパの流れに沿うようにマッサージしていくと、そのたびに甘く喘ぐような声が何度も溢れ出ています。

 

 ……あ、これひょっとして。目元を隠しているから、余計に敏感になってるみたいね。

 

 だってほら、その証拠に胸のところ……

 白かったはずの紙製の下着はオイルに塗れてかなり透けてて、ほぼ丸見え状態なんだけど、そこの頂点が……

 あら可愛い。

 小さなさくらんぼがちょこんと乗っかってるわ。

 下着を下から押し上げて、必死に自己主張してるの。

 

「それじゃあ最後に、胸回りよ」

「……え……っ……!?」

「ちょっと形を整えて、大きくなるように血流を良くするためだから我慢してね」

「だ、駄目です……っ! 今は、今は……っ!! ~~~っ!!」

 

 上から手を覆い被せるようにすると、声にならない悲鳴が上がりました。

 

 私の手の中には、すっぽりと収まった小さな小さなお山があります。そして手の平には、精一杯背伸びしている固い感触があります。

 これは……そうね、砕蜂よりもない、わね……

 散々見ていたから知っていたけれど改めて触れると……うん……

 

 柔らかいのは柔らかいんだけど、ぷにゅって感じかしらね。

 

 なので、少しでも大きくなるように、心を込めてマッサージしてあげましょう。

 オイルもたっぷりと塗して、全身に行き渡るように指全体を使って丁寧に丁寧に。

 とはいえ私の手だと物足りないくらいね。

 

 そうそう、少しでも増えるように背中辺りからお肉をひっぱって寄せて集められるように揉んであげなきゃ。

 

「っ……!! っっ!! ……~~っ!! ん……く、ぅ……っ!!」

 

 マッサージするたびに、必死で堪え続ける声が聞こえました。

 ですがさすがは伊勢さんですね。

 なんと最後まで我慢しきりましたよ。

 

 

 

「お疲れ様、伊勢さん……って、聞いてる?」

「は……ぃ……っ……」

「まだ背中側が残ってるから、そっちを……あ、先に目隠しとるわね」

 

 俯せになると流石に隠せませんからね。

 何の気なしに取ったその時です。

 

「……わぁ……」

 

 目元が見えるとまた違うわねぇ……あんなに真面目そうだった伊勢さんの目元が、今はとろ~っと蕩けてて……

 今まで隠されていた分だけ、このギャップが視覚的にすごいわね。

 この目で男とか誘った日には間違いなくイチコロね!

 

「これはちょっと……刺激的過ぎたかしら?」

 

 アとヘと顔って文字を合体させたアレみたいになってるもの。

 背中側は中止にすべきかも……でもそれだと……

 あ、そうだわ!

 

「背中側は中止にしておくわね、その代わり……」

「ひっ!」

 

 背筋に電撃が走ったようなゾクッと身を震わせる反応。

 

「この辺も結構気持ちいいでしょう?」

 

 いわゆるヘッドスパってやつです。

 本当なら頭皮の洗浄とかもするんですが、流石に道具がないので簡単なマッサージだけしかできませんけどね。

 指先でぐーっと力を込めて、頭をマッサージしていきます。

 溜まった余計な皮脂なんかも押し出すようにして、血行を促進させるように。

 

「ん……あ、ああ~~っ! きもちいい、これ、凄い、いいですっ!!」

 

 あらら、意外な高評価ね。

 頭脳労働系なイメージがあったから、そこから安直な発想だったのに。

 頭をこうやってマッサージされるがすごく気持ちいいみたい。

 今までに無いくらい良い反応してる。

 

「あ、は……あっ……~~っっ!!」

 

 涙を流すくらい喜んで貰えました。

 

 

 

 

 

「あの、湯川副隊長……その、本日はお恥ずかしいところを……」

「大丈夫大丈夫、気にしないで。こういうのって、結構多いんだから」

 

 マッサージは全て終わり、お風呂で汗やらを流し終え、着替えが終わったところで、伊勢さんは深々と頭を下げて謝ってきました。

 顔は真っ赤で、本当なら今すぐにでもこの場を逃げ出したいくらいなんでしょうね。

 でもそれが失礼だってわかっているから、恥ずかしさをぐっと堪えてる。

 

「そうなんですか……?」

「流石に誰がとは言えないけれど、前例は結構あるのよ」

「……そうなんだ」

 

 自分だけじゃないと知ってホッとしています。

 

「次に来てくれた時には、今回出来なかった背中側もやってあげるからね」

「あの、それは、その……お、お願いします……」

 

 あら? 何を想像したのかしらね?

 赤かった顔をさらに真っ赤にしながら頷きました。

 

 

 

 さて、ようやく一人目が終わったのね……

 




1日に複数人の予約を受け付けたということは、マッサージ話が続くということです。

マッサージ話が続くと言うことは、マッサージ話が続くということです。

●伊勢 七緒
真面目すぎて30分前に来ちゃう七緒ちゃん。
真面目すぎて丁寧に挨拶しちゃう七緒ちゃん。
真面目すぎて理由が無いと来ちゃ行けないと思っちゃう七緒ちゃん。
真面目すぎて空回りしちゃう七緒ちゃん。

眉間を解されてからのヘッドスパでヘブン状態になっちゃう七緒ちゃん。

かわいい子か。

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