お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第67話 ネタにされないわけがない

「十一番隊への怒りや、憤りといった感情は?」

「正直に言って、少なからずはありました。ですがそれよりも、四番隊(ウチ)の一般隊士たちへの暴言の方がずっと問題だと思っていました。身勝手な振る舞いで、あの子たちの自信や経験を得る機会が喪失してしまうかもしれない。その方がもっとずっと問題でしたから」

「なるほど。ご本人ではなく、部下の方々に対する憤りからあのような行為に走ったと、そういうことですか――……」

「勿論十一番隊の全員がそういった方ではないと承知しています。ですが、その……少々調子に乗りすぎた、と言うんですか? 目に余ったので……」

 

 懐かしいわね。

 五十年くらい前にもこんなことしたわ。

 期間が空いているとはいえ、二回目ともなれば結構こなれた対応が出来る物なのね。

 

 何って、取材ですよ取材。

 四番隊の応接室に九番隊の隊士たちがやって来て、現在絶賛取材され中の私です。

 

 それにしても……時代が進むと技術も進歩するわよねぇ。

 いつの間にやら世の中に出てきたカメラで写真撮られてますし、テープレコーダーでインタビュー内容の録音までされてます。

 デジタル化の波がもうここまで来てるなんて……!!

 でもメモを取ってる方もいて、アナログさ加減にちょっとホッとしますね。

 

 そして取材の内容はずばり、先日の"十一番隊の大騒動事件"についてです。

 

 基本的には"戦わない臆病者の集まり"が共通認識の四番隊、その部隊の隊士が"戦闘専門集団"の十一番隊に殴り込んで、ほぼ全員ぶっ飛ばしているんですから。

 話題にならないわけがないです。

 どこから嗅ぎつけたのか、瀞霊廷通信の格好のネタにされました。

 取材を打診されたときに一度は断ったんですが「どうしてもお願いします!」という熱の籠もった――夜討ち朝駆けすら辞さないような――説得に根負けしました。

 こうしてマスコミは出来上がっていくのね……(偏見)

 

「中々個性的な果たし状を送った、と聞いていますが」

「あはは……それ、どこから聞いた話なんですか? 恥ずかしいですよ……」

 

 それ送ったのは卯ノ花隊長ですよ、しかも当事者に無断で。

 とは言えないですよねぇ……今さら……

 

「あの手紙は短慮だったと思っています。ですが、あのくらい過激な言葉を書かないとこっちの覚悟が伝わらないと考えました。後で言い訳出来なくなるくらい本気でぶつかってきて貰わないと、禍根が残ると思ったので、あえてああいう内容にしました」

「なるほど……今回に限っては本気でぶつかり合わないと、中途半端な解決はそれこそ新しい問題を引き起こしそうですからね」

「その結果がアレですか……」

 

 最後のセリフはインタビュアーではなくメモを取っている人です。

 ポツリと呟いた様子から、どうやら彼はある程度事前に調べていて、この状況をどう記事にするのか困ってるみたいですね。

 

 四番隊とはいえ副隊長なのだから、戦闘能力はあって当然とするべきか。

 副隊長とはいえ四番隊に、これほど強い人がいたとするべきか。

 

 どっちで扱うべきか。

 

「そういうことになりますね……やっぱり更木隊長は強かったです」

「その隊長相手にあの結果、しかもその前に他の隊士たちを倒してから……ですからねぇ。万全な状態だったら隊長にも勝っていたんじゃありませんか?」

「いえいえ! 私じゃ更木隊長に勝つのは無理ですよ!! 万全状態でも勝てる気がしません!!」

 

 挙げ句、木刀とはいえ当代の剣八と引き分け――実質は降参みたいなものですけれど、五体満足で戻ってきた――となれば、下手な扱いは出来ない。

 どうもこの後で十一番隊の取材にも行くらしいので、余計に扱いを決めかねてますね。

 下手なことを書くと十一番隊から報復されかねないとか思ってるんでしょうか?

 

 とあれ取材自体はその後も続き、やがて恙無(つつがな)く終了しました。

 

「――……はい、本日はありがとうございました! 以上で終了となりますが、何か伝えておきたい。瀞霊廷通信で取り上げて欲しいことがあれば、お伺いしますよ?」

 

 なんかこのフレーズ、前の時も聞いたわね。

 取材終わりの際の定型文みたいになってるのかしら?

 

「伝えておきたいことと言うか、お願いなんですが。このことを記事にする時には、四番隊(ウチ)の隊士じゃなくて、私を狙うように上手く強調した記事にしてもらえますか?」

「湯川副隊長を、ですか……? それはまたどうして?」

「はい、今回の件は私の独断みたいなものです。それが、部下の子たちに飛び火するようなことがないように……少々過激でも"やり返すのなら私だけにしろ"みたいな内容を入れて貰えると助かります」

 

 標的は四番隊の隊士なら誰でもOK! 復讐してやるぜヒャッハー!! まずはそこの下っ端隊士! お前からボコボコにしてやるぜ!! ヒャッハー!!

 

 みたいに粗暴で短慮な奴がいないとも限りませんからね。

 ヘイトは全部私に向けておかないと。

 

「なるほどなるほど、副隊長は部下のことを大切に思ってるのですね。羨ましいですよ」

「よろしくお願いします」

「では、これで我々は引き上げさせて頂きます。本日はお忙しい中、ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。お役に立てたなら幸いです」

 

 そうして取材陣は帰っていきました。

 

藍俚(あいり)殿! 藍俚(あいり)殿!! 宣伝を忘れておりますぞ!!』

 

 ……マッサージ屋の宣伝は今回はパスね。

 もうそこまでしなくてもかなり知れ渡ってるし。

 

『ええー! でござるよ!!』

 

 もう予約とかかなりいっぱいいっぱいなのよ!

 いつぞやみたいな五人連続はもう勘弁してよ!! 食傷すぎて胃もたれ起こすわよ!!

 

『ですが、天下一……もとい、万が一のことを考えてもっと揉んでおいた方が宜しいかと愚考して具申いたしますぞ!!』

 

 ……なんで?

 

藍俚(あいり)殿がお山を登る(おっぱいを揉む)と、成長にボーナスが入ります!!』

 

 ……は?

 

『有象無象でも構いませぬが、名のある相手のお山を登る(おっぱいを揉む)とさらに効率あっぷっぷーでござるよ!! 平時の修行と合わせれば倍率ドン! 更に倍でござりますぞ!!』

 

 ……え、マジで!?

 じ、じゃあ教授に全部! じゃなくて……えーと、つまり……?

 

『揉めば揉むほど強くなる!!』

 

 うわぁ……知りたくなかったわ……

 

『言っておりませんでしたからな!!』

 

 胸を張るな胸を……あんたの胸ってどこ?

 

『ここでござる!!』

 

 ひゃあああああ!! ひ、人の胸元に湧いて出てこないで!!

 

 けどまあ、納得はできたわ。

 ここ最近の著名人だけ並べても、松本乱菊・四楓院夜一・曳舟桐生・志波空鶴・卯ノ花烈・矢胴丸リサ・虎徹清音・砕蜂・伊勢七緒……浮竹隊長はアリなのかしら?

 

 よくもまあ、揉みも揉んだり! って感じよね。

 振り返ると、大物を手中に納めたんだ! って実感するわよね。

 これだけの多くの山を登れば(おっぱいを揉めば)、更木剣八相手にも戦えるわよね。

 

 あと、先に知らされると山登りばっかり夢中になっちゃって、結果的に中身の伴わない強さになりそうだったし。

 そういう意味では、今知れたのは寧ろ理に叶ってるわね。

 射干玉、グッジョブよ。

 

『いえいえ。ちなみに藍俚(あいり)殿、一つお聞きしたいのですが……どうしてその順番に並べたのでござりますか? 何か意図がおありで?』

 

 ……お掛けになった電話番号は現在使われておりません。

 

 

 

 

 

「副隊長!! ありがとうございます!!」

 

 取材を受けてから二週間くらい経ったかしら。

 ある日、四番隊(ウチ)の隊士たちが連れだって私の所にやってきました。

 

 手には本日発行されたばかりの雑誌を手にしながら。

 

「瀞霊廷通信、読みました!! 理由は前に卯ノ花隊長から聞きましたけれど、まさかこんなことになってたなんて!!」

「私、感激しました」

「あれから十一番隊の人たちも、言うこと聞いてくれるようになりました!! おかげで仕事が楽になりました」

 

 どうやら知れ渡ったみたいね、皆が自分のことのように喜んでくれてるわ。

 こういうのを見ると、なんだかんだあったけれどやって良かったって……でもやっぱり更木隊長はもう勘弁!!

 

「特に感動したのはここです! ほら、見てください!!」

 

 そう言いながらとあるページを見せつけてきました。

 なになに……

 

「"文句があるならいつでも掛かって来なさい、全員返り討ちにしてあげる"……?」

 

 ああ、これは取材時に付け足したヘイトを自分に向けるアレの一環ですね。

 確かに分かり易いけれど!!

 やっぱりこう言う扱いされるのね私って……

 

「これ、自分たちに危害が及ばないようにするためだって聞いて!! そこまで気を遣っていただいて! ありがとうございます!!」

「でも副隊長に頼りっぱなしじゃなくて、自分たちも少しでも強くならなきゃって思って!」

「四番隊だって、やれば出来るんだって少しでも証明したいです!!」

 

 すっごい持ち上げられてるわ……

 これは、十一番隊から受けていたストレスが凄かったってことなのかしら?

 

「そ、そう……その気持ちは嬉しいわ。でも、こう言っても実際に巻き込まれる可能性はあるから、だから無理はしないでね。それと万が一の時には私の名前を出しなさい……本当に万が一の時だけよ、多用したら自分たちが同じ立場に立つことになるから、それは肝に銘じておきなさい」

「「「はい!!」」」

 

 増長しないように釘は刺しておいたけれど……

 ま、まあ……やる気になってくれたのは良いこと……よね?

 

 

 

 

 

 ――同じ頃、四番隊隊首室にて

 

「ふふふ……」

 

 隊士たちが藍俚(あいり)を取り囲んで騒ぎ立てている。

 その喧騒を耳にしながら、卯ノ花もまた瀞霊廷通信に目を通していた。

 

「結果は引き分け……剣を交えたのは途中までだが、その実力は十一番隊でも引けを取らない……回復の力と合わせて、引き抜きたい。ですか……ふふ、言いますね」

 

 彼女が目にしていたのは、十一番隊側からの記事の部分だった。

 

「この記事を読む限り、藍俚(あいり)は嫌でも目を付けられたことでしょう。良い傾向ですよ」

 

 十一番隊へ殴り込みに行った日のことを思い出す。

 もう既に幾日も経っているのだが、卯ノ花からすればまるで一秒前のことのように鮮明に思い出せた。

 

「怪我は全て治していましたね。ですが、疲労具合や身に纏った戦場(いくさば)の残り香から、手に取るように分かりました。あなたが更木剣八を相手にどう戦ったのか、どれだけ苦戦したのか……そして……相手がどれだけ愉しんだのかも、何もかも全てが……」

 

 そこまで口にすると、目を瞑り想像の世界に意識を沈める。

 

「その程度は力を引き出せましたか。ですがまだまだ……もう少しだけ待っていなさい。今度こそ解き放ってあげます。あなたに蓋をさせてしまった全てを……だから今は、戦い学び取りなさい……私が手がけたあの子をお手本にして、来たるべき日に備えるために……」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ――同じ頃、十一番隊隊舎にて。

 

「ねーねー剣ちゃん、この間のが載ってるよ?」

「あぁん? ああ、あれか……」

 

 やちるの持ってきた瀞霊廷通信をチラリと見て何の事かを確認すると、剣八はニヤリと笑った。

 

「愉しかったな。藍俚(あいり)のやつ、また来ねぇもんか」

「ねー、あいりん来てくれるといいよね」

「それに引き換え……」

 

 その言葉に、その場にいた多くの隊士たちは身を震わせた。

 

「……隊長、すんません! その記事が原因で、ワシらの評判は落ちとるのは事実です」

「なんとか雪辱を! 汚名を晴らす機会を!!」

「おめぇらじゃ藍俚(あいり)に勝てねぇだろうが」

 

 その場にいた射場が思わず口を挟み、他の隊士たちも口々に訴えるが、剣八はそれらを一蹴する。

 

「あはははは! ざーこざーこ!!」

 

 ついでにやちるが隊士たちに指を指して笑う。

 だが事実なので何も言い返せなかった。

 何しろ喧嘩を売られ、待ち構えていたらほぼ全員がぶっ飛ばされ、オマケにぶっ飛ばした本人によって怪我一つ無く回復させられたのだから。

 悔しさやら情けなさやら感情がごちゃごちゃで、肩を震わせるのが精一杯だ。

 

「でも、このままってわけには行かないでしょう? こっちにも面子ってもんがある。いつまでも舐められっぱなしじゃいられませんよ」

 

 そんな中、一人の隊士が我こそはとばかりに意気揚々と立ち上がった。

 

「オメェが……? 何をする気だ」

「勿論、悪評を覆しにですよ。俺はあの日は仕事でいませんでしたから、剣を交えてすらいません。うってつけの存在でしょうが」

 

 自信満々に言ってのけるが、そこに射場が口を開く。

 

「あまり甘く見ん方がええぞ。あいつはかなりやるけぇ」

「射場さんを倒したって話は聞いてますよ。けど、その時は不意打ちだったって話でしょう? 俺ならやれますよ」

 

 恐れを知らぬその様子は、勇気と言うべきかはたまた無謀と評するべきか。

 射場は少しだけ答えに悩んだ。

 

「……ちっ! 勝手にせい!!」

「ええ、勝手にさせてもらいますよ。お前はどうする?」

「僕は遠慮させて貰うよ。君が勝利を手に戻ってくるのを、ゆっくり待たせてもらうとするさ」

 

 近くにいたもう一人に声を掛ければ、身を退いたようにポーズを取る。

 だがその瞬間、全ては決まった。

 

「面白ぇ、行ってきてみろ」

「任せてくださいよ、隊長!!」

 




●九番隊の取材
取材されるの、これで二回目ですね。
十一番隊に殴り込み、それも四番隊が。そんなのネタにされるに決まってます。

●卯ノ花隊長
ニッコニコ。

●山登りの秘密
嘘かも知れないが、本人たちのやる気には繋がる。

●倍率ドン(教授に全部)
古いクイズ番組から。

●十一番隊
隊士たちはほぼ赤っ恥。
瀞霊廷通信では「彼らも奮闘した」と彼らに配慮してマイルドな記述になっている。
(当事者は奮闘したと微塵も思ってないが)

そして(「運良く」難を逃れた)アイツがやる気になりました。

やちるの声で「ざーこざーこ」言われるのはある意味ご褒美ですかね。

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