お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第72話 ようやく解禁! 私の卍解!!

 平時は四番隊副隊長をやりつつ、二週間に一度霊術院の講師もやっています。

 そんな生活にも慣れました。

 人間って慣れるものなのねぇ。

 

 まあ、教師生活の方は月に二回だけなので、ある程度は余裕があります。

 講義の方も好評で、何よりです。

 ……席官になるまでも長かったし、始解どころか声を聞くのにも馬鹿みたいに時間が掛かったからねぇ……実務経験は下手な隊長顔負けで豊富ですから。

 そのおかげでしょうか?

 

『つまり、拙者のお陰でござりますな!?』

 

 あー、はいはい。そうね射干玉感謝してるわ。ありがとう愛してるー。

 

『ぐぐぐっ! こ、これはこれで!! ぞんざいに扱われつつも心の奥底では本気の感情が揺れ動いていて……たまりませぬなっ!! あまのじゃくな感じがプンプンしますぞ!!』

 

 特に成績の悪い子なんかは、見過ごせなくって親身に相談しちゃってます。

 立場上は、特定の学院生に入れ込むのってあまり良くないんでしょうけれど……霊術院側も特に何も言っては来ないので、大丈夫だと思います。

 

 あとは……やっぱり若い子は肌の張りが全然違いました。

 

『いやぁ、あれは得がたい経験でございましたなぁ!! 同じ死神を相手にしているのも構いませぬが、やはり偶には新しい刺激が欲しくなるというのもまた人の業というものでござります!!』

 

 触って確かめるのって、本当に大事よね! 初日に剣の腕前を見せつけてるから、女の子たちも私に剣を習いに来る子がいるのよ! そのときなんかもうね、もうね!! 密着よ密着!! もっと胸を張って! お尻も引き締めて! って感じで大義名分もバッチリ!! ここでアタリを付けてからそれとなく勧誘できるの!! 新入生の何人かはマッサージに誘ったわ!! 勿論男にも同じ事やってるわよ! 男たちはもう遠慮無く胸とか見てくるんだけどこれはもう必要経費として諦めてるわ! ちょっと色仕掛けでやる気を見せてくれるとか悲しいけど男の子よね!

 

 ……言うまでもありませんが、ちゃんと指導をしてますよ。

 成績の悪い子につきっきりで指導してあげると、それに触発されて他の子も大なり小なりやる気を出してくれます。

 おかげで院生全体の成績の底上げになりました。

 指導した生徒からも慕われてると思います。

 卒業の時に、プレゼントとか貰うこともありました。非常勤講師に"今までありがとうございました"の贈り物をくれるんですから、慕われてるはずです。

 

 そんなこんなで、霊術院生たちをシメる計画は概ね成功しています。

 各部隊に新しく配属された子たちは四番隊に来ても文句を言わなくなりました――あ、雑用なんかは回ってきますよ。

 その辺りの後方支援は四番隊(ウチ)の業務内容なので。

 

 でもこのやり方って、恐怖政治に近いわよね。

 私がいなくなったら不満が爆発したりしちゃわないかしら……?

 ひょっとして、このやり方をしちゃった私も脳筋だったのかしら!?

 

 ……私が隊士でいられるうちに、なんらかの手を打った方が良いかもしれません。

 後任を育てた方が良いかも……良い子、いたっけ……?

 

 

 

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「はぁ……空はあんなに青いのに……どうして私はこんなことをしてるのかしら……」

「……オイ」

「霊術院の教師でいるのも結構楽しいのに……良い子がいたらそれとなく勧誘して、卒業後の進路に四番隊(ウチ)を選ぶように誘導してるのに……」

「オイっ!」

「十一番隊にもきちんと戦えたり、精神的に強い子を推薦してるわよ?」

「んっ! そ、それはすまねぇな……」

「気にしないで。一応ちゃんと見繕ってるし、生徒たちの適正や能力から他の隊に振り分けてるから。何より仕事だから」

 

 一角が少しだけ申し訳なさそうに頭を下げました。

 

 今日は一角が挑戦しに来る日です。

 前にも言いましたが、律儀に予約をしてちゃんと時間を守って挑戦しに来ています。

 まあ、何度来ても毎回毎回返り討ちにしていますけどね。

 四番隊(ウチ)の訓練場の使用率がここ数年は類を見ない勢いで上がっていることくらいしか、特筆すべきことはありません。

 

 もう十一番隊のあの事件なんて誰も話題に上げていない――覚えてはいるでしょうけれど――というのに、律儀ですよね。

 

 というか、もう後に引けなくなってるのかしら?

 

 本当に勝つまで挑み続けられたらそれはそれで困るのよね……

 だって一角もかなり強くなってきてるし。

 

 少なくとも「一撃で、えーいっ♪」みたいなことにはならなくなりました。

 全力は出してはいませんが、本気になる程度には心して相手をしないと危ない。

 手合わせしてると私の修行にもなる。

 くらいには腕が立っています。

 射場さんが別の隊に異動して三席になったからか、やる気もかなり高いのよね。

 

 ただ、戦いを楽しもうとするのがちょっと悪癖なのよね。

 死神としてはそれってどうなのよアンタ……

 機会を見つけて叩き直してあげようかしら? だって私、先生だし。

 

「ま、それはそれとして……どうぞ、掛かってきなさい」

「へっ! ぬかしやがれ!! 今日の俺はひと味もふた味も違うんだよっ!! やるぞ、鬼灯丸!!」

 

 あっというまに斬魄刀を始解させて――

 

 ――……あら?

 

 ……ああ、なるほど。そういうこと。

 そっかそっか、ちょっと注意して霊圧を探れば一目瞭然ね。

 冷静に振り返れば、一角が来たのって前回の挑戦から半年ぶりくらいかしら? 週に一度くらい、遅くても月に一度くらいの間隔で挑んできていたこの男が、半年も間を空けた。

 

「ふふ……」

「なんだよ、薄気味悪ぃな」

「勿体ぶらなくても良いじゃない。全力で来なさい」

 

 斬魄刀の柄に片手を乗せながら、もう片方の手で挑発するように軽く振ってみせます。

 

「あぁん? なんのことだ?」

 

 ですが一角は惚けてきました。

 わかっていないのか、それとも最後の最後まで取っておく気なのか。はたまた最後まで隠し通す気なのか。

 

「……わかったわ。じゃあ、こっちが先に動けば、そっちも動かざるを得ないでしょう? 理由を作ってあげるから、感謝してね」

「だからなんのこ――」

 

 一角にしては珍しく、途中で言葉を切りました。

 というよりも言葉を失った、みたいな表現の方が良いかしらね?

 だって――それまで呑気に話をしていたはずの相手が一瞬で斬魄刀を抜いてて、オマケに強力な霊圧を放っているんだから。

 

「これを見せたのは、卯ノ花隊長以外にはあなたが初めてよ。光栄に思いなさい」

 

 さて、行くわよ――

 

「――塗り潰せ――卍解……『射干玉三科』――!!」

 


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