お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第73話 卍解するなら修復方法をくれ

「卍解……射干玉(ぬばたま)三科(さんか)――!!」

 

 卍解を発動させ、私は装いも新たに刀を握り直します。

 始解の頃には刀身だけが黒くなった形状だったのが、今回は完全に真っ黒なものへ。

 今の私が握るのは、剣先から柄頭までその全てが黒一色となった刀です。

 一見すれば刀というより黒い棒きれか何かにしか見えないでしょう。

 

 飾り気も素っ気も無い、無骨で、数打ち品のごとく粗雑に造られた黒い刀――それが、今の私が手にする刀です。

 

「さて、私は見せたわ……次は一角、あなたの番よ?」

「……どうしてわかりやがった?」

「どうして、って……? ああ、卍解を使えるようになったってこと?」

 

 流石に観念したようです。

 種明かしを求めてきたので、クスクスと笑いつつ教えてあげました。

 

「それなら、さっき"解号"を口にせずに"始解"したでしょう? 卍解を覚えれば解号不要で始解できるから、すぐにわかったわ」

「チッ! そういうことかよ……」

「もしかして隠してるつもりだった? なら、ちゃんと解号を唱えてあげなさい。それとも卍解取得で浮かれちゃった? ま、ようやく覚えたんだものね。私に気付いて欲しかったのかしら?」

「うるせぇよ!!」

 

 怒鳴りつつもちょっと顔が赤くなっていますね。

 この反応を見る限り、本来は隠しておきたかった。けれどもあっさりバレてしまった恥ずかしさでいっぱい。といった感じかしら?

 

「後は、そうね。卍解を覚えると、なんとなく気配が変わるの。一皮剥けて風格が出てきた、みたいな感じになるの。それをあなたからも感じた、それも理由の一つよ」

「へっ! そいつぁどーも」

 

『流石藍俚(あいり)殿!! 男性に向かって"一皮"だの"ムケた"だのと……これはもう! もう誘ってるのと同義でございますぞ!!』

 

 はいはい、絶対食いついてくると思ったわよ。

 それよりもこれから多分、相手も卍解してくるはずだから気をつけてね。怪我とか……は、あなたには無用だろうけれど注意はしておいて。

 

『し、心配していただけるとは!! ご安心くだされ! この射干玉、お望みとあれば最大HPをオーバーする勢いで回復してみせますぞ!!』

 

 いや、ホントに気をつけてね。

 対峙してようやく思い出したけれど、一角の卍解って確か……

 

「バレちまってるなら、もう隠す必要もねぇよなぁ!! けどな藍俚(あいり)! 誰かに言ったらテメェをぶっ殺すからな!!」

 

 ……来た!

 一角の存在感が猛烈に高まって、気を抜けばその勢いだけで飲み込まれてしまいそうなほど! 全身を突き刺さるのは痛いほどの殺気。

 あの様子からすれば覚えたばかりのはず、なのにこれほど存在感を放つなんて……!!

 

「卍解! 龍紋鬼灯丸(りゅうもんほおずきまる)!!」

 

 現れたのは、巨大にして異質な三つの刃。

 両の手はそれぞれが大きな(ナタ)のような剣を持ち、背中には(まさかり)のような巨大な刃が浮かんでいます。

 それら三つの刃は鎖で繋がれており、その巨体と合わせてなんとも禍々しい見た目をしていました。

 

「それが一角の卍解ね……」

「ああ、そうだぜ……と言っても、まだまだ本気じゃねぇんだけど――よっ!!」

 

 見せたくてうずうずしていて、もう我慢できなくなった。

 とばかりに片手の大鉈を振るって来ました。

 が――

 

「遅いわね」

 

 ――その一撃は余裕で回避できました。

 

「まだまだぁっ!!」

 

 勢いに任せ、さらに連続攻撃を放ってきますが、さすがにこれでは当たりません。

 その剣速は始解のときと大差なし――むしろ、武器が巨大になった分だけ取り回しが悪くなって遅くなっている面まであります。

 巨大な武器をブンブン振り回しているので、風切り音が耳に響いて恐怖心を煽る目的もある……のかもしれませんが、卯ノ花隊長や更木隊長を知る私からすると、ねぇ……

 

「くっ! あたら……ねぇ!!」

「むしろ、当てるつもりがあったの? 牽制に徹してるのかと思ってたわ」

「んだとぉ!?」

 

 なおも続く連撃を避け続けながら、私は説明してあげます。

 

「それだけ巨大な武器を相手にすれば、底抜けの馬鹿じゃない限り、まず受けは考えない。回避に徹して相手の隙を突こうと考えるのは当然でしょう? それに大きな武器は取り回しが悪くなって当然、当たれば一撃だとしても、当たらなきゃ意味が無い」

「う、うるせぇな!!」

「だったらその大振りを戦術の一つとして相手を追い込み、逃げられなくしてから本命の一撃を放つ……とかそういう戦い方をするんじゃないの?」

「ぐっ……!!」

 

 一角が"痛いところを突かれた!"みたいな表情をしました。

 ……一応、その可能性を考慮して逃げる先や避け方を工夫していたのだけれど、まさか無策で剣を振り回してただけなんて……私、馬鹿みたい……

 

「他にも、両手の攻撃だけに意識を集中させたところで、背中の(マサカリ)を飛ばして攻撃してくるとか……せっかく鎖がついているのよ? もっと戦い方を工夫しなさいよ……」

「テメェに言われなくても、わかってんだよっ!!」

 

 悪態は吐きつつも、アドバイスは素直に聞くのね。

 上手く鎖を操って背中の刃を飛ばしてきました。とはいえその軌道は馬鹿正直に一直線、勢いも頼りなくて、使い慣れていない感が満載です。

 

「ま、覚えたばっかりだもんね」

 

 向かってくる刃に駆け寄りそのまま刀で受け流すと、一足飛びに向かい喉元へ刀を突き付けます。

 

「はい、これで勝負あり――よね?」

「……ぐっ!」

 

 薄皮一枚だけ斬る程度に押し当てられた刃の感触に、一角は縫い付けられたように動きを止めました。

 

「その卍解、攻撃力はありそうね……攻撃力だけは。でも持ち主の霊圧が全然上昇してないところから見るに、上がるはずだった霊圧も攻撃力に回している……で良いのかしら?」

 

 朧気な知識と現状から得た情報から、そう口にします。

 

「……ああ、そうだ! ついでに教えてやる。コイツは寝坊助でな、殴ったり殴られたりして背中の龍紋が赤く染まらねぇと、力も出さねぇんだよ」

 

 そうそう、そんな設定だったわね。思い出したわ。

 

 普通なら卍解すると、持ち主の霊圧は平均して五倍から十倍は上昇する。

 けれどこの卍解にはそれがない。

 上昇するはずの霊圧分まで攻撃力の強化だけに回してるから。

 

 つまり、攻撃力は上がるけれども、それ以外はさっぱり上がらない。

 馬鹿みたいに攻撃力があっても、敵に当てるためには本人の身体能力で頑張らないと無理。

 重ねて言うけれど、卍解しても霊圧は上昇しないから。

 霊圧が高くなれば身体能力も強化されるんだけど、それを期待できないから。

 

 オマケにメインのはずの攻撃力ですら、卍解直後はマトモに発揮できない。

 殴り合って斬った斬られたすることで徐々に力が解放されていく。

 その開放の度合いは背中の鉞に彫られた龍の紋章に表示されて、これが完全に赤く染まることで全力になる。

 

 つまり、今どれだけ本気なのかが敵にも丸見えってことよね。

 だから適当に攻撃してダメージを与えてから大技で一気に倒す、みたいなことをすれば、完全開放する暇すらなく倒せるってことよね。

 

「難儀な卍解すぎる……」

 

 ……うん、なんというか……

 前に一角を見た時に"斬魄刀ガチャ失敗"って思った理由がよくわかったわ……

 

 なんでこんな能力なのよ!!

 そりゃ、ロマンは認めるわよ!?

 戦っていく内に強くなっていくって、話のネタとしては面白いわ!

 だけどこれはないわ。

 

 何よりこの能力、致命的なまでに卍解との食い合わせが悪いのよねぇ……

 なんでこんな頭悪い能力なのよ? まさか鬼灯丸ってドMの変態だったの!?

 ……いえ、もしもそうじゃないと信じましょう。

 信じたからね!!

 

「オマケで言わせて貰うと。通常時は刀。始解すれば槍、と見せかけて三節棍。ようやく使えるようになってきたと思ったら、卍解で超重量級武器の鍛錬も追加……本当に使いこなせるの?」

「っるせーなっ!! テメェに言われなくてもわかってんだよ!!」

 

 形態が多すぎるのも考え物よね。どれだけ武器の熟練度を上げるのかって話よ。

 刀だけで済む射干玉は本当に良い子よね。

 

『ぐふふ、褒められたでござるよ……!』

 

「ま、覚えたばかりで練習不足な卍解を使いこなせるようになるのが今後の課題よね。またの挑戦をお待ちしております――と、言いたいところなんだけれど……」

「あぁん?」

「せっかくの卍解なんだし、私も少し相手をしてあげる。仕切り直しよ、全力で来なさい!!」

「……マジで言ってんのか?」

 

 ちょっとイラッと来てますね。

 卍解を覚えてもその程度の実力なら恐くない、って言ったとでも思われたんでしょうか。

 

「いいから来なさいよ。安心しなさい。その卍解、腕が千切れるまで振り回させてあげるから」

「上等だコラアアァァッ!!」

 

 どうやら戦意は高揚したようで、再び襲い掛かってきました。

 

「いくわよ、射干玉」

 

『いつでもお任せあれ!! 拙者、相手の趣味に合わせる献身的な性格でございますゆえに!!』

 

「まずは様子見――玉鋼(たまはがね)

「ちぃッ!」

 

 刀を地に刺せば、一角の行く手を遮るように何枚もの金属で出来た壁が立ち並びました。突然眼前に現れ視界を遮る壁に、一角の舌打ちが聞こえてきました。

 

「邪魔だっ!」

 

 ある程度加減したとはいえ、かなりの強度の壁を造った筈なんですけどね。それでも龍紋鬼灯丸はある程度力を発揮しているようで、壁を苦も無く砕きながら向かってきます。

 

大毒(たいどく)

 

 今度は剣を一閃させて、無数の飛沫(しぶき)を放ちます。

 

「ぐっ! ってなんだコリャあああっ!? ()っせぇえぇっ!!」

 

 目に見えなかったのか、それとも見えていても避ける必要は無しと判断したのか。

 水滴の群れに飛び込んだ一角は、思わず叫んで動きを止めました。

 

 大毒(たいどく)は、本来ならばその名の通り触れただけでも危険な毒素を放つのですが、今回はさすがに自重。

 その代わり、付着すると鼻が曲がりそうなほどの悪臭を放つようにしてあります。

 

 突然全身から立ち上ってきた異臭に思わず足を止めてしまったのは、気持ちとしてはわかる。わかるけれど――

 

「油断しすぎでしょう?」

「……ッ!!」

 

 動きを止めた一角の、それも斬魄刀目掛けて剣を振るいました。

 狙うは武器破壊、龍紋鬼灯丸を粉々にしてやります。

 

 なにしろこの卍解は攻撃力だけにアホほど特化してるので、耐久力もありません。

 普通に何度か攻撃を仕掛けただけで刀身に亀裂が走り、細かな破片が幾つも飛び散ります。そして受けた攻撃と比例するように、龍紋が赤く染まっていきました。

 

「うおっ! くっ……テメェ藍俚(あいり)!! なんてモンくらわせやがる!!」

(くさ)いで済んだだけ有り難くおもいなさい。というか、無策で飛び込みすぎでしょう!? こっちが驚いたわよ」

 

 悪臭を放ちつつ激昂したように攻撃してきたので、再び回避に集中します。何本もの亀裂が入った鉈を振り回しているので、その勢いと脆さが相まって攻撃しながらもボロボロ砕けています。

 ……あ! この匂いは五分くらいで完全に自然分解するように造ってあるから問題はないわよ。

 

「なにより、そんなに怒ると足下を掬われるわよ――顛倒(てんどう)

「うおおおっ!?」

 

 既に仕込みは済んでいます。

 足下の摩擦が突然ゼロになり、一角は見事にコケました。

 

 これは始解の時の摩擦を操る能力ね。

 既に地面に撒いておいた射干玉の本体に、滑らせるように命令しただけ。

 

 それと顛倒(てんどう)は「真実に反した考え」みたいな意味だけど、語源は「ひっくり返る」みたいだから、転ばせる技としては良い名前だと思わない?

 

『卍解時限定の名称でござりますが! やはりこういう技名を叫ぶ戦いは見ていて興奮いたしますな!! 今回など、ただ転ばせただけだというのに!! ハァハァ……転倒者……?』

 

 あ、それいただき。

 

「悠長に転んでる場合じゃないわよ? 走り火(はしりび)

 

 ――破道の三十一 赤火砲

 

 軽く霊圧を操り、無言で鬼道を放ちます。

 赤火砲によって生み出された火球は導火線を沿うように地面を走り、転んでいる一角目掛けて襲い掛かります。

 そしてある一定距離まで近づくと、爆発したように一気に燃え広がりました。

 

「――っぶねええぇぇっ!! なんてことしやがる!!」

「緩んでいたみたいだから、少し活を入れてあげたのよ」

 

 それをマトモに喰らうほど油断はしてないみたいね。

 ギリギリ回避に成功して、けれども恨みがましい目で私を見てきました。

 

「ほら、来なさい。今できる全力で卍解を使ってみなさい! その程度の力じゃ私に膝を付かせる事も出来ないから」

「いつまでも……上から目線でいられると思ってんじゃねぇぞコラアァ!!」

 

 どうやら完全に火が付いたみたいね。

 持て余すほど重いはずの武器をガンガン振り回して、遠慮無く攻撃を仕掛けてきます。

 鬼灯丸を三節混状態にしていた頃のノウハウを生かしているみたいで、片手でフェイントにしつつもう片方の手で攻撃を、かと思った瞬間に役割を入れ替えて来ます。

 そして突然大振りになったかと思えば、鎖を利用して背中の鉞を縦横無尽に操ってくる。

 うんうん、良い感じよ。どんどん動きが良くなってきてる。

 

「くそがっ!! これだけやって、掠りもしねぇ……!!」

 

 一角はそう言いますが、こっちも少しだけ焦っています。

 

 何しろ何度も繰り出される攻撃に龍紋もどんどん真っ赤になっています。

 耳に慣れたはずの風切り音がまるで別の音のように恐ろしく響き渡り、避けて通り過ぎたはずの鉈からは身震いするほどの威圧感が放たれていました。

 

 凄い威力ね……これ、受けたらどうなるのかしら……

 

「くうっ!!」

 

 幾度かのやりとりの後、突きのように放たれた攻撃を物は試しとばかりに受けてみれば、その威力は想像を遥かに超えていました。

 受け流すように防いだはずなのに、全身を一気に持って行かれそうな衝撃が襲い掛かってきて、大きく姿勢を崩しました。

 

「へっ!! この程度を喰らうか!? 馬鹿が、見え見えなんだよっ!!」

 

 確かに、私から見ても今の一撃を食らうのはちょっと変だものね。

 今までの戦いから考えれば、この攻撃を受けるはずがないもの。

 受けたことで(かえ)って不審に思ったらしく、一角は追撃を放つものの、私がどう動いても対応できるよう備えていました。

 

「……雲外(うんがい)

「なにっ!? ぐおおおおっ!!」

 

 油断していなかったようですが、これは想定外ですよね。

 突如として地面から斜めに伸びてきた石柱の一撃を受け止め、そして勢いに負けたように吹き飛ばされました。

 

 雲外――雲の外という意味通り、空の彼方までぶっ飛ばすくらいの威力を秘めた単純な一撃を放つ技です。

 そして単純なだけに、その威力は抜群。

 さながら破城槌(はじょうつい)でも叩き込まれたかのような衝撃を受けて、龍紋鬼灯丸が一気に砕け散りました。

 攻撃に回していたお陰で辛うじて右手の鉈こそ残っていますが、それ以外の部分は無数のガラス片を撒いたようにバラバラです。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 それでも一角は攻撃の手を止めませんでした。

 片手だけで鉈を振るい、そして――

 

「お見事」

 

 ――私が手にする刀、その刀身を真っ二つに切り裂きました。

 

 これが最大限まで――いえ、下手すれば限界を突破したほどの龍紋鬼灯丸の攻撃力……

 受け止めた手どころか、全身がビリビリと痺れます。

 伝わって来る衝撃だけでも、身体中がバラバラに破裂しそうです。

 これを身体に叩き込まれたら……更木剣八といえども一撃で絶命しそうですね……

 

「……けっ! なにが"お見事"だよ……!」

 

 当然、攻撃した龍紋鬼灯丸もただでは済みません。

 まるで自らの破壊力に耐えきれなかったかのように、残る一本もバラバラに砕け散っていました。

 辛うじて一角が握る柄から下の部分が残る程度で、もはや見る影もありません。

 

「それに最後とその前、テメェわざと受けただろうが!!」

「あら、そのくらいはわかるのね」

「わかるに決まってんだろうが!! 何度テメェと戦ったと思ってる!!」

「それがわかるなら、私も毎回あなたに時間を使った甲斐もあったわ。それに、龍紋鬼灯丸の全力がどれだけか知れたし、良い経験になったわ。ありがとう」

「お、おう……」

 

 ありがとう、と素直に礼を言われたのが恥ずかしかったのか、威勢良く喋っていたはずの一角が急に顔を真っ赤にして視線を逸らしました。

 

『野郎のツンデレとか……いや、拙者的には斑目殿はアリでござるな……じゅるり』

 

 射干玉も、生きてる? 怪我とかしてない?

 

『ああっ! 藍俚(あいり)殿! そのお言葉だけで拙者、寿命が五十六億年くらい伸びましたぞ!!』

 

 そ、そう……頑張って弥勒菩薩を手助けしてあげてね……

 

「それじゃあ一角、直して(・・・)あげるからじっとしてなさい」

「あん!? んだよ、別に怪我なんざ……」

「良いから!!」

 

 逃げようとする前に強い口調で有無を言わせません。

 

「あんたの怪我は大したことないわよ。まあ、超巨大な武器をあれだけ振り回したから、筋肉痛は酷いと思うから、あとで良く効く薬を渡してあげる」

「そうかよ、あんがと……って、まて! 俺じゃねぇなら、何を治すってんだ!?」

「"治す"じゃなくて"直す"の! 相手は勿論、龍紋鬼灯丸よ?」

 

 そう告げたものの、一角はきょとんとした表情をしました。

 

「いや、斬魄刀は折れても持ち主の霊圧で勝手に直るだろ?」

「それが出来るのは始解まで。卍解の時に受けた傷は、基本的には修復不可能なのよ」

「……は……?」

 

 知らなかったんでしょうね。

 教えた途端に、一角がフリーズしました。

 かくいう私も、卯ノ花隊長から教えて貰って初めて知ったんですけどね。

 

 これこそが"能力が致命的なまでに卍解と食い合わせが悪い"と評した理由です。

 

 卍解は壊れたら直せない。

 でもダメージを受けないと本領を発揮しない能力。

 本領を発揮させた後、再度卍解すると壊れた状態のまま。

 オマケに龍紋も最初っから溜め直し。

 そもそも攻撃力に振り切り過ぎてて、強度がペラペラですぐ壊れる。

 

 ヘレンケラーもビックリの五重苦よね……

 

「ッッ手前(てめ)ェェッ!! どういうことだ!! 知ってたんだな!? 知ってて俺の卍解をこんなになるまでぶち壊しやがったんだな!? そうだろうが! そうに決まってんだろうが!! 正直に"はい"と言いやがれえぇぇっ!!」

 

 数秒後、再起動したものの……うん、怒るわよね。

 だって"壊れたら直らない"を知った上で、ガンガンぶち壊したわけですから。

 

「あーもう、五月蠅いわね!! そもそもそれがアンタの卍解の能力でしょうが! 壊れないと本領を発揮しないんでしょうが!!」

「……ぐっ! そ、そりゃそうだがよ!! せめて先に一言くらいは断りを入れやがれっ!! 持ち主の許可無く勝手にぶち壊すなんざ泥棒よりも……ちょっ! 待て!! 直せる……のか……?」

 

 私の言葉に気付いて、少しは冷静になったみたいです。

 

「当然でしょう? だから壊したの」

「いや待て! さっき"卍解は直らない"って自分で言ったじゃねぇか!!」

「そっちこそちゃんと話を聞いてたの? 私は"基本的には"って但し書きを付けたでしょう? 例外はちゃんとあるの!!」

 

 言いながら私は、一角が手にしている"残った柄の部分"に手を当てました。

 

「何やって……」

「しっ! アンタは黙って卍解の維持だけに集中してなさい!!」

 

 そして私は卍解――射干玉三科(ぬばたまさんか)の能力を使い、ゆっくりと龍紋鬼灯丸を直していきます。

 

 

 

 さて、修復作業の間に私の卍解についてご説明させていただきます。

 ――といっても、今までの描写を見ればもうご理解いた……あら? わからない?

 ではお答えしましょう。

 

 能力は、射干玉本体を召喚することです。

 

 始解と変わらないって? やってることは同じですけれど、出来ることが違います。

 射干玉は、どこに出しても恥ずかしくないくらい"やべー斬魄刀"です。

 

『ちょ! 藍俚(あいり)殿!!』

 

 それを"枷"の無い状態で解き放ったら、果たしてどうなるか……その"もしも"を実現してしまったのが、私の卍解です。

 

 枷の無くなった射干玉は、あらゆる物に姿を変えられるようになりました。

 

 動植物や人間といった生物は当然、陶器・金属・ガラスのような無機物にも。固体・液体・気体の状態すらお構いなし。

 さらには"変異したいサンプル"――ある程度のお手本があれば、そこから情報を解析してコピーを生み出せるようになります。

 さらに解析が進むと、進化して欠点が改善されたより良い物を生み出します。これが本体にじわじわ浸透していき、置き換わっていきます。

 

 なのでこの能力を使えば――

 

 突然壁を無数に生み出したり。

 すごく(くさ)飛沫(しぶき)を放ったり。

 滑る床を設置しておいて任意発動させたり。

 さらにその床に爆発的に燃え広がる特性を追加で持たせたり。

 巨大な石柱を生やして攻撃したり。

 

 ――全部実現します。やりたい放題やってくれます。

 

 

 このやりたい放題の範疇には、情報を解析することで卍解を直せる。というのも含まれているわけです。

 

 ……こんな何でもありを"規格外"以外にどうやって表現しろっていうのよ!?

 

 

 まあ、おかげで私も良い影響を受けて回道が凄く強くなりました。

 マッサージの時には、この能力で塗った相手の細胞を解析して、よりよい細胞を相手に提供したりできます。

 以前空鶴にマッサージした時にオイルを突然生み出したのも、この能力のおかげ。手の平からちょっと生み出して、オイルに変身させたの。

 

 勿論、不便な点もあるのよ。

 この能力そのものは創造するだけだから戦闘能力そのものは一切ないし。

 使うにしても、事前にしっかり時間を掛けて考えて準備しておかないと、お目当ての物に変身させられなかったりと、苦労もしてるの。

 そもそもが、出来ることの範囲が広すぎるのよ。

 

 けれど一番の問題は、能力の精度と射干玉のやる気が直結してるってこと。

 だからマッサージだけは、あんなにインチキみたいな効果を発揮するのよね……あの時だけは、毎回毎回アホみたいにやる気になってるから……

 

 まあ、そんなところが可愛いんだけど。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 長々と説明している間に、なんとか卍解の修理も終わりました。

 

「さすがにこの大きさを全部直すのは、骨が折れたわ……」

「す、すげぇ……」

 

 巨大な三つ分の刃だもの。

 これだけの質量を修復するのは、かなり手間が掛かりました。

 集中しすぎて、なんだか頭が痛いです。

 ほら見て、射干玉も修復のために本体を搾り取られ過ぎて、シワシワになってる。

 

『で、ですがこれも藍俚(あいり)殿のため……あと、初めて接触しましたが鬼灯丸殿も中々ナイスガイでございました……! あ、あの筋肉はたまりませぬ……!! あの逞しい胸板の上を思う存分泳ぐ……デュフフフフ!! 女体とはまた違う趣が……!!』

 

 そ、そう……よくわからないけれど、良かったわね……

 

「まるで新品……いや、それ以上じゃねぇか!!」

 

 そして修理が完了したことで、一角が大喜びしてます。

 この出来映えは、射干玉が結構やる気になった証拠ね。見た目からだけでも、コレまでよりも洗練された物を感じられます。

 

「よし藍俚(あいり)! 続きやんぞ!!」

「……ちょっと、休ませてよ……一角だってずっと卍解状態を維持してたんだから、相当疲れてるはずでしょ?」

 

 壊れても平気とわかった途端にこれです。

 一角も一角でバトルジャンキーよね。

 




●斬魄刀のまとめ(卍解編)
名前:射干玉三科(ぬばたまさんか)
解合:卍解なので不要(でもノリで「塗り潰せ」とか付けちゃう)
能力:射干玉本体を呼び出して操る。

射干玉本体はあらゆる物に姿を変える。
有機物にも無機物にも当然化け、お手本があればそこから解析して複製を造り出す。
質量が不足していればどんどん増殖して補っていく。
お手本がなくても、使い手が熟知していればその情報から作れる。

例:変身前を熱湯の中に沈めておき、取り出した際にクリームパフェへ変身。

本体は使い手の身体(体表)から出てくる。

※ 能力を真面目に考察してはいけません。ノリで「こんな感じなんだ」と。
  (浦原さんだって「作り替える」能力ですし。このくらいは許容範囲! たぶん!)



欠点:基本的に射干玉が四六時中話し掛けてくる。
   よくセクハラしてくる。
   ときどき勝手に具現化して来て直接触られる。
   ちゃんと相手してあげないと拗ねる。
   定期的に女体に触れないとふてくされる。
   射干玉のやる気次第で、出来ることの幅が大きい。
   一度変異させるとその細胞は元に戻せない。
   ブランが増えたのでますます五月蠅くなった。


でも好き、世界一可愛い。

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