お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第74話 砕いてみなけりゃわからない わからなかったら砕いてみる

「そういえば一角、ちょっと聞いて良い?」

「んだよ?」

 

 休憩の間、なんとなく気になっていたことを尋ねてみました。

 

「卍解が使えること、どうして隠そうとしてたの? あんたの性格なら、別に隠す必要もないと思うんだけど……」

「何かと思えばそんなことか。くだらねぇ事を聞くんだな」

 

 なんでそんなことも分からないんだ、みたいな顔で見られました。

 

「卍解が使えたら、隊長にされちまうだろうが!」

「……え?」

「俺は他部隊の隊長になる気なんざ、ねぇーんだよ。俺が働くのは更木隊長だけだ。あの人の下で戦って死ぬのが俺の目標だ!」

 

 うん……え、それが理由なの?

 

「だから、自分が卍解を使えることを知られたくなかったってこと?」

「当然だろうが!」

 

 ……これ、本気で言ってるみたいだけど……教えた方がいいのかしら?

 

「あのね一角、隊長になる方法は知ってるわよね?」

「ったりめぇだろうが! 隊首試験に合格する! 各隊長から推薦を受ける! 前隊長を戦って殺す! の三つだ!」

「よかった、そこはちゃんと知ってたのね」

 

 一つ目はそのまんまだから割愛。

 

 二つ目の"推薦"制度というのは「現隊長の六人以上の推薦を受けて、残った七名の隊長の内の三名以上から承認される」という物です。

 早い話が隊長九人から「コイツは隊長に向いてる」と認められるのが条件ですね。

 

 そして三つ目の"前隊長を殺す"のは、十一番隊の隊長だけに認められた手段です……どこの誰よ、こんな物騒な手段考えたの……知ってるけど。

 

「じゃあ聞くけれど、一角は隊首試験を受けるつもりはあるの?」

「あぁん!? んなもんねぇよ!」

「前隊長――つまり、更木隊長を殺すつもりもない」

「ったりめぇだろうが!! 話聞いてたのか!?」

「じゃあ、自分が推薦されると思ってるわけ?」

「…………」

 

 おっと、言葉に詰まりました。

 

「自分が隊長になって、二~三百名の隊士を引っ張っていく。勿論、隊長業務で書類仕事も片付けるわけだけど……それ、一角はできる自信あるのよね?」

「…………」

「腕っ節とか剣術の指導みたいなのなら、認めてるわよ。でも、隊長職でやるのはまた別よ? 現隊長たちが"斑目一角には隊長の適正がある!"って推薦される自信があったから、卍解を使えるのを隠そうとしたのよね?」

「…………っ!」

「一角の場合、十一番隊はともかく他の部隊を率いられるとは思えないんだけど……あ、なんだったら卯ノ花隊長に頼んで、四番隊の隊長を一週間くらい体験させてあげましょうか? そこで隊長としての適正があるかどうかをちゃんと――」

「だああああっ! うるせえええっ!!」

 

 あらら、爆発しちゃった。

 言外に"お前に事務仕事は無理だし推薦されるはずもないから卍解を隠す意味はないぞ"と伝えてるわけですが、この反応を見るに自覚有りだったみたいね。

 

「なら藍俚(あいり)! テメェはどうなんだ!! 俺よりも早く卍解を覚えてるじゃねぇか!! どうして隊長にならねぇ!?」

「早く覚えたけれど、でも別に隊長になる気はないし。そもそも隊長職なんて、無理矢理やるものじゃないでしょう?」

 

 かつての十番隊のような、隊長の席が長期間に渡って空白だったことも何度かありました。

 そういう"隊長になれるだけの意志と力を持った者がいない"と判断されれば、無理矢理に埋めるよりも空席のままで、と判断されるのも充分にありえます。

 

「……それでいいのかよ?」

「いいんじゃないの? 私が卍解を使えるのは卯ノ花隊長も知ってるけれど、教えた時も特に何にも動かなかったし」

 

 今が"尸魂界(ソウルソサエティ)にとって、のっぴきならない状態"だと判断されれば、その限りではないかもしれないけれどね。

 ……うーん、でも仮に緊急事態だったとしても一角が隊長になれるのかしら……?

 

「ま、まあいい! とにかく、お前の言うことはさておき推薦される可能性はゼロじゃねぇだろうが!! だから俺は卍解を隠す!! お前も言うんじゃねぇぞ!!」

「そりゃあ、言いふらす趣味なんてないわよ」

「てか藍俚(あいり)! 俺は答えたんだから、お前も答えろ!!」

「……何を?」

 

 答えなきゃならない質問なんて、何かあったかしら?

 

「鬼道だ鬼道!! お前さっき、何にも言わずに鬼道を使っただろうが! ありゃ一体どういうことだ!!」

「え? ああ、あれ?」

 

 そういえば、更木隊長を相手にした時も使ったわよね。

 あれ? ひょっとして今まで一切説明してなかったんだっけ?

 

『しておりませんでござるよ。あの時はザラキーマ殿との激闘でそんな暇はありませんでしたからな』

 

 そっか。じゃあ、説明しますね。

 

 結論から言いますと、完全に無言で操っているようで、ちゃんと詠唱しています。

 ただ、とある道具の力を借りているだけです。

 

 さっきも言ったけれど、卍解した射干玉は何でも創造します。

 この能力を使って、とある機能を持った道具を造りました。

 

 その機能とは、特定の振動を発生させると言う物です。

 

 音が鳴ると、空気が振動して波が生まれますよね?

 その振動を記録しておけば、後から何度でも同じ音を鳴らせます。

 レコードなんかと同じ仕組みですね。

 

 ならば、鬼道を唱えた際の振動を記録しておいて、その震動を再生すればよい。

 波が生まれるのだから、詠唱したのと同じ結果になる。

 という理屈です。

 

 そうして生まれたのが、この道具です。

 本来ならば鬼道を唱える際には霊圧を織り込む必要があるのですが、そこはそれ。

 自分の卍解で造った道具ですから、編み込むのも簡単でした。

 

 唱えたい鬼道を選び、使いたいだけ霊圧を通せば、それだけで鬼道を操れる!

 詠唱している間、使い手は別の事に集中できる!

 しかも震動を発生させているだけなので、バレる可能性は極限まで低い!

 実際に唱えているワケではないので、威力などは多少目減りしますが、それでもこの利便性は他の追随を許しません!!

 これぞ長年追い求めていた物の終着点、一つの確かな答えです!

 

『いやはや、完成までの道のりには大変な苦労がありましたなぁ……これだけでドキュメンタリー作品が一本作れそうなほどにござりました……』

 

 ホント、大変だったわねぇ……あんなに苦労して造ったんだから――

 

「ひ・み・つ♥」

「なんじゃそりゃぁぁ!!」

「アレは私の奥の手だもの」

 

 ――簡単に教えるわけないでしょう?

 

 しかもこの機能は、私がいつも胸に巻いてるサラシに組み込みました。

 ペンダントや腕輪のような道具では"いかにも"すぎて見抜かれかねませんから。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「それより、それだけ叫べるならそろそろ回復したかしら? 続き……やる?」

「はっ! 上等だ!! テメェを負かせて、その秘密でも喋って貰うとするか!!」

 

 元気いっぱいに立ち上がる一角を見て、私は最後の疑問を解消することにしました。

 それは、どうして龍紋鬼灯丸はあんな能力なのか。

 

 壊れやすくて直らない。なのに壊れないと本気を出せない。

 頭のネジが飛びまくったよっぽどのド変態でもない限り、そんな馬鹿な能力になるはずがないんですよ。

 

 そして、一角の話を聞いていて思いました。

 一角は隊長になりたくない。だから卍解が使えることを隠そうとしていた。

 ならその意志や想いが卍解に反映されてしまったんじゃないか?

 

 ひょっとしたら、龍紋鬼灯丸にはまだ先があるんじゃないか。

 

「んー……もう一戦してもいいんだけど、それよりも……」

 

 だったら、どうすればその先が引き出せるのか?

 鬼灯丸の能力から鑑みて、一番可能性が高そうなのは……やっぱりアレ、かしら?

 

「あなたの卍解、直せるって実証もできたんだし。一つだけ、確かめさせて貰ってもいいかしら?」

「な、何をする気だ……!?」

 

 おっとと、いけないいけない。顔に出ていたかしら? 怯えさせちゃったわね。

 まあ、でも丁度良いタイミングだし。何をするかくらいは教えてあげましょう。 

 

「龍紋鬼灯丸、完全に破壊させて?」

「馬鹿かテメェは!!」

 

 ツッコミ早いわねぇ。

 

「む、馬鹿に馬鹿って言われた」

「誰が馬鹿だゴルァ! 幾ら直せるからって、人様の卍解を"破壊させろ"って言われて"はいどーぞ"と言うとでも思ってんのか!! 頭沸いてんのかコラァッ!!!!」

「落ち着きなさい。完全に無策ってわけでもないから。話も聞かないなら、もう二度と卍解直してあげないわよ?」

「今度は脅しかテメェ!! チッ……! 話くらいは聞いてやるよ!」

 

 よかった、真心込めて説得するのって大事よね。

 

 話を聞いてくれる気になって貰えたので、先程の持論を語ってあげました。

 

「――というわけで、弱くなっていくだけの卍解とかおかしいでしょう? 始解の時と同じく槍になって霊圧が一気に高くなるだけ。みたいな方がまだ理解できるもの」

「まぁ、な……一理はある……」

「そんな能力になっちゃったのは、一角の"隊長になりたくないから卍解を隠そう"という気持ちが、少なからず関係していると思うの」

「んで? 今から隊長を目指せってのか!? それこそ冗談じゃねぇよ」

 

 この程度では、やっぱり気持ちは変わらないませんね。

 吐き捨てるように拒否されました。

 

「私もあんたが隊長を目指すとか思ってないわよ。だから、代わりの手段を取ることにしたの」

「……まさかそれが、完全に破壊させろに繋がるのか!?」

「正解!」

 

 ここまでヒントを出せば、誰でも思いつくわよね。

 

「完全に破壊しちゃえば、隠しようがないでしょう? そうなったら、一体どんな姿を見せてくれるのかしら……」

「……お前、やっぱり頭おかしいわ」

「失礼ね!!」

 

 これでもアンタのことを考えてるの!

 何にもしないまま"噛ませ犬"とか"外れ卍解"とか"斬魄刀ガチャ失敗"って言われるより遥かにマシでしょ!!

 

 あと、もう一つだけこじつけの理由もあるのよ。

 

 植物には(がく)と呼ばれる器官があるの。

 これは花の一番外側にあって、その内側にある花弁なんかとは明らかに違う要素――イチゴのヘタなんかも分類上は(がく)――を指す名前なんだけど。

 

 知ってる? 鬼灯(ほおずき)(がく)って、果実を包み込んで袋みたいになるのよ。

 (がく)が盾や門のような壁の役割を担い、大事な内側を守っている。

 

 同じ鬼灯の名を冠した斬魄刀が持つ(がく)の中身を、覗いてみたいと思わない? 

 厳重に守られた何かを、白日の下に引きずり出してみたいと思わない!?

 

藍俚(あいり)殿がちょっと犯罪者みたいな目をしてるでござるな』

 

「いいから卍解を出しなさい! あんたの鬼灯丸、砂になるまで砕いてあげるから!!」

「マジかよテメェ!!」

 

 卍解を発動させて刀を握ってみせれば、一角も呼応するように卍解を発動させました。

 

「……今回はちょっと、本気で行くわよ。失敗したら責任取って一生面倒見てあげるから、安心しなさい!!」

「それでどう安心しろってんだコラァッ!!」

 

 ヤケクソな一角を見ながら、私は心の中でニヤリと笑いました。

 

 

 

 

 

 

 地面には無数の破片が転がっていて、足の踏み場も無い程に。

 これらは全て、砕かれた龍紋鬼灯丸だった物――その欠片たち。

 徹底的に砕き、叩き、龍紋を赤く染めても尚、破壊を止めない。

 

 その先に待っているものこそが、真実だと盲信して。

 

 

 

 その結果――

 

 

 

「やってみるものね」

「ったく! 成功しなかったらテメェのこと、一生恨んでたところだ」

 

 結論から言えば、成功でした。

 

 すごいのね、鬼灯丸ってば……こんな立派なモノを隠し持っていたなんて……

 

『これはもう、ご立派とか言うレベルを超越してるでござる……こんなの、ホイホイついて行ってしまうに決まってるでござるよ……!』

 

 砕ききったその先に待っていたのは、一振りの槍でした。

 見ただけで目を奪われるほどに美しくて、穂の刃――その煌めきを見ただけで、ただならぬ物だと理解させられるほど。

 その妖しくも神々しい槍の気配は、ヘタな斬魄刀では比較になりません。

 尸魂界(ソウルソサエティ)で一番美しい――そんな評価も決して過分ではないほど。

 

 御手杵(おてぎね)とかを実際に見たら、きっとこんな感じなんでしょうね……

 

 一角本人も槍を眺めて頬を緩めています。

 とはいえ、鬼灯丸の方はちょっと不機嫌になっているようですが。

 鬼灯丸からすれば、一角本人に気付いて貰いたかったみたいです。それが私みたいな、どこの馬の骨とも分からない相手にひん剥かれれば、臍も曲げますよね。

 

 

 

 そうそう! 名前も変わったんですよ! なんと――

 

 ――え? 引っ張った方がいい?

 

 別にいいけど、一角の活躍の場なんてあるのかしら……?




●卍解を隠す一角を説得
いくら卍解が出来ても、十一番隊の人間を突然「お前今日からウチの隊長な」はちょっと……そもそも推薦されるか……? 仮に推薦されても、合格まで行くかな……?
「卍解できます!」「そうか!でもキミは優秀だから十一番隊で頑張って!!」で終わりそう。
という個人的見解。
(隊長の適正が無いだけで、頼れる兄貴分な位置とかは適正アリ……のはず……)

●完全無言な鬼道の秘密
言葉なんて振動だろ! なら振動させれば詠唱の代わりになるだろ!
術者が霊圧(エネルギー)を供給すれば、プロセスは満たしてるから発動するやろ!
という暴論。
(似たような事は藍染や浦原も考えて作ってそうですが)

一応、歌布(うたぬの)と名前を付けたが、多分本文中で名前は出てこない。
藍俚と射干玉の愛の合作。

●龍紋鬼灯丸に未来はあるのか?
"卍解は直らない"という後付け設定(?)によって、一躍転がり落ちてしまった逆シンデレラな鬼灯丸さん。
ネタ卍解なら、ネタにしていいですよね? ネタにしました。
鬼灯の「外側にガードがあってその中に実がある」という安直な発想から。

龍紋が最大まで溜まってて、徹底的に砕かれることで生まれ変わる。
生まれ変わると凄い槍が出てくる、までは考え(設定)ました。

これならエドラドに余裕勝ちできるはず。
バラガンの部下にも、勝てる……はず……見えざる帝国編でも活躍……
(一角の性格が邪魔して結局負けそう)

●御手杵(おてぎね)
天下三槍の一つ。空襲で焼失した。

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