お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第75話 安いもんだ 腕の一本くらい

 一角の真の卍解……って呼んで良いのかしらね? とにかく、龍紋鬼灯丸のその先にまで到達したわけだけど……

 やっぱり使いにくいみたいね。

 すぐに息切れしちゃってて、まともに使いこなすのにはもっと時間が掛かりそう。

 慣れればもっと使いやすくなっていくと思うけれどね。

 

 それと、一角との手合わせもまだ続いているんだけど……鬼灯丸が私と手合わせするときだけ殺意MAXになっている気がします。

 やっぱり、無理矢理剥いたのをまだ根に持たれてるのかしら……?

 

 だとしたら心外ね!

 ウブなネンネじゃあるまいし、文字通り一皮剥いてあげたんだから感謝して欲しいわ!

 

藍俚(あいり)殿、流石にそれは……感謝の押し売りがすぎませぬか?』

 

 ……え? そういうものなの……?

 

 とあれ、一角がやってくる頻度が下がりました。

 卍解を使いこなすのを目標に、頑張って修練に励むみたいです。

 だから私に構ってる暇が無いみたいですね。

 でもそうやって強くなってくれれば更木隊長の目も一角に向くはず、ひいては私が狙われる確率が下がるはずなので、是非とも頑張って強くなって欲しいと思いました。

 

『小学生並みの感想でシメましたな……』

 

 

 

 

 

 一角が来る頻度が下がったので、四番隊のお仕事に集中できるのは良いことです。

 十一番隊をシメて霊術院生もシメたので、他隊の隊士たちも病院内では素直に従ってくれるので、良いことずくめですね。

 毎日のお仕事が捗る捗る。

 ウチの隊士たちも平穏な時間が増えたおかげか、少しずつ戦闘訓練とかする子が増えてます! これが俗に言う"良い流れ"というやつなんでしょうね。

 

 さて、そろそろ始業の時間。今日も元気にお仕事しましょう!

 

 ……って、あら? 伝令神機が鳴ってる。

 こんな時間に一体誰かしら……って、この番号は!!

 

「はい、もしもし!?」

『湯川か!? すまねぇが、今すぐ西流魂街まで来てくれ!!』

「え、ちょ……海燕さん!? どういうことですか!?」

 

 電話の相手は十三番隊の人気者、皆大好き志波海燕さんでした。

 切羽詰まった様子から、何かただならぬことが起きてるのだけは分かります。

 なので、慌てて玄関へ向かいながらも電話口でのやりとりは続けます。

 

『事情は後で話す! 緊急事態なんだ!!』

「待ってください。西流魂街ってことは、志波家に向かえば良いんですか!? ……あ、ごめんね!」

 

 電話をしながら移動しているので、ちょっと集中が疎かになっていますね。

 他の隊士たちと何度かぶつかりそうになってしまい、その度に慌てて通話口を抑えながら謝り、また通話に集中するのを繰り返しています。

 

『ああ! そうして貰えると助かる!!』

「怪我人ですか!? 傷の具合は一体どんな――」

「いたいた、キミだろう一角の斬魄刀に余計なことをして――」

「邪魔!!」

「ぐがっ!」

「怪我は回道だけで何とかなりそうですか? 幾つか薬も用意して……ん?」

 

 あら? 今誰かいたような……?

 

『おい、どうした!?』

「すみません! 今すぐ志波家に向かいます! 少々お待ちください!!」

 

 と伝えて電話を切ってから――

 

「誰、これ……?」

 

 私の足下には、十一番隊で見たことがあるような無いような、おかっぱで線が細めな二枚目が転がっていました。

 殺気を放っていたので無意識に殴り倒してしまい、間抜けな顔で気絶しているのでイケメンが台無しになってます……

 まあ、いいか。

 殺気を込めて出て来たんですから、返り討ちにされる覚悟もあるでしょう。

 

 昔から良く言うじゃないですか、揉んで良いのは揉まれる覚悟のある奴だけだ――と。

 

『微妙に違うでござるな! いや、ある意味では全くその通りではござりますが!!』

 

「ごめーん、急患! 誰かこの人を病室に寝かせておいて。気絶してるだけだから特別な処置は不要で平気だから!」

「は、はい! 副隊長!」

「それと私の方も急な治療依頼が発生したから出かけてくる! 申し訳ないけど、後をよろしくね!」

 

 さすがに放置は出来ないので、近くにいた隊士に声を掛けておきます。

 さてさて、何があったかは知りませんが、今は一刻も早く志波家に行かないと!

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「海燕さん!!」

「おう、来てくれたか! 無理言ってすまねぇ!」

 

 大急ぎで志波家まで駆けつけてみれば、私のことを待っていてくれたのか。

 お家の前で海燕さんが気も(そぞ)ろな様子でした。

 

 そういえば海燕さん、前にお邪魔した(空鶴を揉んだ)あの後くらいに副隊長へ昇進していました。

 霊術院から副隊長まで上り詰めるの早すぎですよねこの人。才能の塊すぎます。

 

「あの、それで一体何が……!?」

「話すよりも診て貰った方がよっぽど早え、こっちだ来てくれ!!」

「え、ちょ……」

 

 私の手を取ったかと思えば、お屋敷の中へと連れ込まれました。

 そのまま引き摺られるように突き進み、とある一室へ。

 

「……空鶴!?」

 

 そこには、苦しそうな表情を浮かべながら布団に寝かされている空鶴の姿がありました。

 彼女の周囲にはご両親と使用人の金彦・銀彦コンビ。そしてまだ幼い――少年どころか幼児の頃の岩鷲君が、不安そうな表情で空鶴のことを見ています。

 

「あ、兄ちゃん!」

「海燕!」

「ああ、無理言って来てもらった! 湯川ならなんとかなるだろ!」

 

 そんな彼らは、海燕さんと私の姿を見た瞬間にどこか安堵したような表情になりました。

 というか"私なら何とかなる"って期待値が高すぎませんかねぇ……

 

「それで、一体何が? 私、細かい事情を全然聞いていなくて――」

「俺の……俺のせいなんだ……俺がもっと強けりゃ姉ちゃんは……!!」

 

 事情を尋ねようとするよりも先に、岩鷲君が泣き出しました。

 

 岩鷲君は、志波家の末弟です。

 まだ小さくて幼い、穢れを知らない男の子。

 元気いっぱいな印象のお子様です。

 年の離れた弟なので、海燕さんも空鶴も結構甘やかしてます。

 私も何度か遊び相手を務めたことがありますよ。

 

 ……こんな可愛い男の子が、あんな町のチンピラみたいになっちゃうのよね……

 嗚呼……未来の知識が憎い……!

 

 じゃなくて!!

 だから、何があったの!? 岩鷲君が泣き出しちゃってさっぱりわかんない!!

 

「……うるせぇな……」

「姉ちゃん!!」

「空鶴! 起きんな、まだ寝てろ!!」

「枕元でギャーギャー騒がれりゃ、誰だって起きるに決まって……うおっ!!」

「空鶴!」

「がああああっ!!」

 

 身体を起こそうとした空鶴が、突然大きくバランスを崩しました。

 私は慌てて彼女の身体を支えようとして、けれども彼女が苦痛の悲鳴を上げて……そこでようやく気付きました。

 

 何故自分が呼ばれたのか、その理由に。

 

「これ、腕が……!」

 

 彼女の右腕が、二の腕の半ば辺りからすっぱりとなくなっています。

 起き上がろうとしてバランスを崩したのは、これが原因ですね。

 消失した腕の代わりに包帯が肩口近くまで巻かれており、けれども乱暴に巻き付けられたそれは却って痛々しさを増しているように見えました。

 痛みも相当な物なのでしょう。全身にびっしりと冷や汗が噴き出しています。

 

「処置は、されてる? ……でも、これは……」

「おれが……やったんだよ……」

「え!? 空鶴が!?」

「治療術の心得も、少しはあんだよ……前の時みてぇに、お前に頼らなくても済むよう……ぐっ!!」

 

 なるほど、前に私がご両親を治したときに、彼女なりに無力感を感じたのでしょう。

 だから回道にも手を出していた、ということでしょうね。

 

 確かに、最低限の治療はされているみたいですが……これは……

 乱暴に治療しただけ、という感じです。

 

「けどやっぱ上手く行かねぇみてぇだな……薬で無理矢理寝かされて、寝てても痛みで(うな)されて……へっ! この(ざま)だ。笑いたきゃ笑えよ……」

「馬鹿! 変なこと言ってる場合じゃだろうが!! 湯川、なんとかならねぇか!?」

 

 平気そうな振りをしていますが、危険な状態なのは誰の目にも一目瞭然でした。

 なにしろ空鶴の顔には生気がありません。

 青白くなった顔色を見ただけでも、危険度合いがよく分かります。

 

 加えて、心も相当弱っていそうです。

 

 今まであって当然だったはずの物がなくなる違和感と喪失感は、想像以上です。なにより、腕一本なくせば身体の重心も変化します。

 

 本人はただ普通に起き上がろうと右手をついただけなのに、そこには何もなくて。

 重心の狂った身体は受け身すらまともにできなくて。

 

 あの"起き上がろうとした一瞬"で、聡い彼女は理解してしまったんでしょうね。

 

 でも家族に心配を掛けまいと、必要以上に虚勢を張っています。

 

 ちょっと、まずい状態ですね。

 家族の間に変な亀裂が入る前に、なんとかしなきゃ。

 

「そうね。空鶴、今は何も考えないで! すぐ治療するから、言いたいことがあるならそれが終わってから!! いいわね!?」

「あん? そりゃこの腕を治してくれるならありがてぇが……無理だろ?」

「そんなことないわよ。まあ、腕があったら治すのは簡単だったんだけど……」

 

 ちらりと部屋中を見回し、尋ねます。

 

「ないわよね、腕?」

「ああ、ねぇよ……」

 

 乱雑に巻かれた包帯を見下ろしながら、不安げな表情を浮かべます。

 

「はぁ……これから片腕の生活か……まあ、仕方ねぇよな……命があっただけでも儲けもの……」

「え? 治せるわよ?」

「はあっ!?」

 

 あら、百面相かしら?

 落ち込んだ表情をしていたかと思えば、私の言葉を聞いて目を白黒させました。

 

「治すってまさか、腕をか!? 馬鹿言うな! もうねぇんだぞ!?」

「本当か湯川!! 本当に治せるのか!?」

「当然、出来ますよ」

「まさか、できるのか!?」

 

 ……ああ、そっか。

 射干玉と鍛え上げた回道の使い手の私がいれば、腕の一本くらい余裕です。

 でもそれを知らないから、だからこんなに驚いてるわけね。

 確かに私だって逆の立場なら「治せるわけないだろ!」って怒ってると思います。

 

 半信半疑――信じたい気持ちをたっぷり含みながら――聞いてきた海燕さんたちに、私は力強く頷いてあげました。

 

藍俚(あいり)の姉ちゃん! お願い、姉ちゃんを助けて!!」

「湯川、俺からも頼む! 空鶴に――妹に片腕で生きろなんて不便な真似、させたくねぇんだ!!」

「湯川さん、自分たちからも頼みます!! お礼なら何でもお支払いしますから!!」

 

 するとようやく信じてくれたのでしょう。

 男兄弟(おとこきょうだい)に両親、使用人までもが一斉に頭を下げてきました。

 

 あらら、愛されてるわね……空鶴ってば。ちょっと羨ましい。

 

「そんなお礼なんて、当たり前の事をするだけですよ。ただ……」

「ただ……?」

「少し集中が必要なので、皆さんは部屋から出て貰えますか?」

「こ、ここで出来る物なのか!? そんな簡単に!?」

「回道の応用みたいなものだからね。早く治る方がいいでしょう?」

 

 再び度肝を抜かれたように素っ頓狂な声が上がりました。

 

「そ、そりゃそうだけどよ……」

「降参、もう降参だ。これ以上話をしてると先にこっちの頭がおかしくなりそうだ」

 

 戸惑っている海燕さんたちを尻目に、空鶴がそんなことを言い出しました。

 

「だから兄貴たちは部屋から出て行ってくれ。そうすりゃ藍俚(あいり)は、おれの腕を治してくれるんだろ?」

「ええ、勿論」

「そういうことらしいぜ! ほら、出てった出てった!!」

「あ、ああ……湯川、妹のことを頼んだぜ!!」

 

 そう言われて戸惑いつつも素直に退出していきました。

 そして私と空鶴の二人だけが室内に残ります。

 

「それじゃあ今から始めるわけだけど……空鶴、ちょっと意識を飛ばす術を使うから抵抗しないでね」

「意識を飛ばす術、ねぇ……ちなみに抵抗したらどうなるんだ?」

「延々と激痛に苦しみたいなら止めないけれど、オススメはしないわ」

「……やめとく」

 

 そう告げれば彼女は観念したように瞳を閉じ、私の術を素直に受け入れてくれました。

 

 先程唱えたのはいわゆる"麻酔"の術です。

 意識がないので、相手は痛みを感じない――斬ろうが刺そうが無抵抗のままピクリともできません。手術に必須の術ですね。

 

 ……あ、この術は相手が「抵抗しなきゃ」と思っただけで無効化されるので、悪いことには使えませんよ。

 

 さて、ちゃんと意識を失ってくれたので、ここからは私の時間です。

 まずは治療の邪魔にならないよう、彼女の服を脱がせます。

 

 そういえば空鶴をマッサージできたのは、あの時の一度きりでしたからね。

 あれ以来、海燕さんのガードが堅くなってて機会がなかったのよ。

 

『つまり、今このタイミングは神が与えてくれた瞬間! 時間無制限でお触りし放題! ということでござるな!!』

 

 ……はぁ!? 何言ってるの射干玉!! 治療が先に決まってるでしょう!!

 いい!! 健全な肉体があってこそなの!! 怪我人に手を出すとか言語道断でしょうが!! 常識ってものがないの!?

 

『も、申し訳ございませぬ……』

 

 何より反応がないと面白くないでしょう!!

 

『ちょwww おまwww』

 

 続いて蝦蟹蠍(じょきん)の術を使って、雑菌も全て排除。

 本当はちゃんとした設備のある場所まで連れて行きたいけれど、岩鷲君が泣きそうだからね。迅速かつ確実に、そして全力で行くわよ!

 

 まずは包帯を解いて……うっ、これって……!

 

 そこにあったのは、大型の獣にでも食い千切られたかと思わしき傷跡でした。

 相当痛かったはずでしょうに、よくもまぁ。

 そういえば薬を飲んだとか言ってたけど……痛み止めよね、多分……

 

 海燕さんが呼んでくれて助かったわ。

 痛み止めと自前の回道だけで、何とかなるレベルなんてとっくに超えてるもの。

 

 空鶴は回道で処置したと言ってたけれど、これは半端な技術じゃ手に余るわね。

 オマケに傷口の周りが雑菌で化膿しかけてるし……

 

「……治し甲斐があるってものね。いくわよ、射干玉」

 

『お任せあれ! でござるよ!!』

 

 回道にて傷を癒やしつつ、射干玉の能力で空鶴の細胞の複製を造り出して、腕を再生していきます。

 まるでゆっくりと腕が生えていくような光景が、そこには展開されていました。

 回道だけでも出来るんだけど、射干玉の力を借りた方が確実だからね。

 

『オマケに空鶴殿が強くなりますぞ!! 愛の共同作業でございますな! ……はっ! ということは空鶴殿は拙者と藍俚(あいり)殿の娘!? ふひ、ふひひひ……こんなエロい格好をした娘など……お、おしおきが出来るということでござりますか!?』

 

 はいはい、妄想してもいいけど仕事はキッチリね。

 

 そのまま集中して再生作業を続けていき、やがて――

 

「ふう、術式完了ね……」

 

『お疲れ様でございました!!』

 

 ――そこには傷一つない右腕を生やした空鶴がいました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「信じられねぇな……本当におれの腕だ……」

 

 意識を取り戻した空鶴は腕が治ったことを知ると、まるで珍しい物を見るかのように右腕を眺め、時々手を開いたり閉じたりしてその感触を確かめていました。

 

「違和感とかないかしら?」

「いや、全く問題ねぇよ。むしろ前よりも調子が良いくらいだぜ! ありがとな、藍俚(あいり)!!」

 

 その言葉を聞いた途端、彼女の周囲がわぁっと湧き上がりました。

 

「よかった……空鶴、本当によかった……」

「姉ちゃん、姉ちゃん……!」

 

 あの後、外で待っていた海燕さんたちに手術が成功したことを告げ、中に入って貰いました。

 意識を失ったまま、けれども右腕が生えている彼女の姿を見て全員が喜び、そして本人の口から「問題ない」との言葉を聞いて再び――今度は家族総出で喜んでいます。

 

「再生したばかりだから、前とちょっと感触が違うのよ。あと血も少なくなってるはずだから、しばらくは激しい運動をしないこと。沢山食べて、血肉を補うこと。いいわね?」

「へーへー、わかってますって。藍俚(あいり)先生の言うことに従いますよ」

「馬鹿! お前、大恩人に向かって何て態度だ!」

「ってーな! おれは怪我人だぜ!? 叩くことぁねぇだろうが!」

「何が怪我人だ! もう治ってんだろ!! 」

 

 兄妹(きょうだい)で仲良くじゃれあっていて、非常に微笑ましい光景です。

 ここに割り込むのは空気が読めないと理解しています。

 理解しているのですが――

 

「それよりも空鶴……あなたがあんな大怪我をするなんて、何があったの?」

 

 ――忘れないうちに、聞いておきましょう。

 

「あん……まあ、大したことはねぇんだ。結論から言っちまえば、おれが間抜けだったってだけの話だよ」

 

 どことなく悔しそうにそう前置きしながら、彼女は何があったのかをぽつりぽつりと話してくれました。

 

「……流魂街に、(ホロウ)が出たのさ。そいつが、どういうわけかウチを――それも岩鷲を狙ってやがったんだ。間の悪いことにおれは席を外してて、残っていたのは親父とお袋だけ。異変に気付いて急いで戻ってみりゃ、襲われる寸前でよ。それでもからがら、岩鷲だけは守ったんだ」

「じゃあ、その怪我は……」

「ああ、弟を守った名誉の負傷ってやつだ! ま、腕は食いちぎられたがその(ホロウ)はぶっ殺してやったぜ!」

 

 誇らしげにパン、と左手で右腕を叩きました。

 

「それにしても、腕があるってのはいいもんだな! 諦めてたのに、とんだ儲けもんだ!」

 

 空鶴は意気揚々としており、そこを海燕さんやご両親に軽く注意されています。

 

 が……(ホロウ)が出てきた、ねぇ。

 

 外れの方に家が建ってるとはいえ、流魂街に出てくるのは珍しいわよね。

 それも狙ったようなタイミングで。

 ひょっとしてこの事件も誰かの思惑でも絡んでるじゃ……

 ――なんて思っちゃうのは悪い癖かしら? どうにも知識が邪魔してくるのよ。

 

 五大貴族の一つ、志波の人間なんだから。

 なんらかの利用したいって考える人間は多いと思うし。

 例えば……メガネキライー(藍染)とか? 他の五大貴族の誰か、とか?

 

「ん……?」

「…………っ」

 

 ふと気付けば、一人思い詰めたような表情で岩鷲君が俯いていました。

 

「岩鷲君。どうしたの? 凄く悩んでいるみたいだけど」

「わっ! あ、藍俚(あいり)の姉ちゃん!?」

 

 そっと近寄って声を掛けてみれば、よほど集中していたのか飛び上がって驚かれました。

 

「な、なんでもないよ!」

「そう? 私、岩鷲君が悩んでるみたいだから相談に乗って上げたいって思ってたんだけど……」

「う……し、仕方ねぇ。そんなに言うなら……」

 

 子供っぽく突っぱねて来たので、話しやすく誘導してあげました。

 

「あのさ……姉ちゃんが怪我したのって、俺が原因でしょ? なら、俺がもっと強かったら姉ちゃんがあんな大怪我しなくて済んだんじゃないかって、そう思ってただけだよ」

「……そう」

 

 結構大きな体験ですものねぇ。

 子供ながらに色々衝撃を受けて考えさせられていたみたいですね。

 

「そっかそっか、岩鷲君はえらいね」

「わっ、や! やめろよ!!」

 

 思わず頭を撫でると、嫌そうな素振りを見せてきました。

 ……口ではそう言っても、顔はにやけてますけどね。

 

「でもね。そう思ってるのは岩鷲君だけじゃなくて、空鶴――お姉さんもお兄さんも、お父さんたちも同じなの。だから、一人で抱え込まないでちゃんとお話しましょうね?」

「……ん」

 

 撫でながら言うと、顔を真っ赤にしながらも素直に頷いてくれました。

 

『これは……おねショタの破道! いえ、波動でござるな!!』

 

 はいはい射干玉、からかわないの。

 だって、そんなことしなくても――

 

 志波家の全員が気付いてて、ニヤニヤしながらこっちを見てるからね。

 

「へぇ……岩鷲、いっちょ前にもう色づきやがったのか?」

「ね、姉ちゃん! ちげーよ! これは、藍俚(あいり)の姉ちゃんが勝手に!!」

「あはははは! 照れんな照れんな!! 頭撫でられて顔真っ赤にしてるところからしっかり見てたぞ! いやぁ、弟ってのは成長が早えんだな!」

「兄ちゃんまで!!」

「それにお前、良く藍俚(あいり)のこと言ってたじゃねぇか。嫁にするだのしねぇだのって」

「~~~~~っ!!」

 

 あらら、赤かった顔が限界突破して真っ赤になっちゃった。

 でもまあ、この流れに乗らない手はないわよね。

 

「え、そうなの? ふふ、嬉しいな。こんな可愛くて頼りになる旦那様が出来ちゃった」

 

 そう言いながら、ちょっとサービス。

 抱きついて身体を押し付けてあげましょう。

 

『子供の特権でござるな!! ああ、だというのに! 当人はこの特権に気付かない! 気付けない!! 羨ましくも勿体ない話でござるよ!! エコとか地球再生とか言ってる場合じゃねぇレベルの勿体なさでござる!!』

 

「あ、藍俚(あいり)の姉ちゃん!?」

 

 口では否定しながらも、やっぱり本気で抵抗して来ませんでした。

 こうやってからかわれるのも、子供の責務ということで納得してね。

 

 

 

 それに、こうやって家族で笑い合える間に笑っておきなさい。

 

 

 

 海燕さん……何とかしてあげたいんだけどねぇ……

 あれっていつ頃だっけ? 記憶も自信も全然ないわ……

 




●綾瀬川弓親
一角が藍俚に挑んでいるので、たまに顔を見せていた(偵察に来ていた)
が、藍俚が一角の卍解を無理矢理剥いたことを知って、腹に据えかねた。
なので文句を言いに来たが、タイミングが悪くぶっ飛ばされて緊急入院。
出てきた意味は特に無い。
(強いて言うなら一角を取られたことに対する嫉妬からの出オチ)

●空鶴が隻腕になった理由
五大貴族(本家)の誰かのサンプルが欲しいとか、そんな理由で藍染が動いて。
一番脆い(家が流魂街なので警護が甘い)&弱い(幼い)から岩鷲を狙って。
それを空鶴が頑張って撃退した。
撃退したけれど、弟を守るために自分の腕が犠牲になった。

みたいなお話があったのかな? と妄想した結果です。
(隻腕の理由が描かれていないので)

腕を犠牲に、と書くと一刀火葬していそう(笑)

●岩鷲
原作ではチンピラみたいな扱いでしたが。
彼にだって少年時代が、穢れを知らない純粋な頃があったはずです。

そんな純粋な少年、抱き締めるくらいはしてもいいよね?
(だって感想に「ショタの性癖を狂わせろ」ってあったから)
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