お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第78話 アメイジング朽木

 梅の花が綺麗に咲き誇っています。

 空は晴天、日を追うごとに陽気もすっかり温かくなっていきます。

 もう暖房器具なんてもうすっかり片付けてしまいました。

 

 春ですねぇ……

 

 

 

 あの"朽木家の枯山水グチャグチャ事件"から月日は流れました。

 

『流石にそれでは通じない恐れがあるのではないかと思いますが……?』

 

 平気平気、前話のことだからね。まだ記憶に新しいわよ。

 

 月日は流れて、春になりました。

 今日は緋真さんの定期検診の日なので、朽木邸にお邪魔しています。

 

「……はい、もう結構ですよ」

「ありがとうございました」

 

 と言っても、そんなに大した事はしてないんですけどね。

 軽く回道を掛けて問診をして、なにか問題が無いかを確認してるだけです。

 経過観察と、回復した状態に応じて軽くアドバイスとかしてますけどね。

 

「順調に回復していますが、やはり回復度合いは低いですね。一般的な健常者の半分くらいでしょうか」

「そんなに、ですか……」

 

 緋真さんの顔が沈みました。

 

「精神的な物ですね。心の重荷が重くのし掛かっているのが原因だと思います。こればかりは斬ったり縫ったりで治せるものでもありませんから」

 

 一年以上(・・・・)の期間を使って治療してるんですが、全然良くなりませんね。

 元々身体が弱いですし、思い込みが強すぎて。

 ちょっと白哉! ちゃんと支えてるの!?

 

 ……うん、支えてたわね。

 

 前に定期検診に来た時、夫婦二人で食事をあーんして食べさせ合ってたもの。

 慌てて引き返して、時間潰してから何食わぬ顔で診療する羽目になったわ。

 少なくともラブラブではある。

 

 …………ん?

 

 え? ええ、そうですよ。

 緋真さんの治療をしてから一年以上、二度目の春です。

 冬に治療して春になって、夏秋冬を超えてまた春が来ました。

 

 ちなみにこの一年以上の間、ずっと私が見てます。

 せっかく紹介した清之介さんの出番ゼロです。

 白哉も緋真さんも「私じゃなきゃ嫌だ」って駄々捏ねるんです。

 嬉しいですけど、勘弁して……他を頼ってくれてもいいのよ?

 

 とあれこの期間で色々やってみました。

 朽木家の使用人たちに頼んで食事療法として精の付く物を少しずつ食べさせたり。

 白哉に「運動が必要だから一緒に散歩とかしてあげて」と伝えて、それとなくお散歩デートを促したりしました。

 

『お散歩!? それはひょっとして、深夜にコート一枚だけ羽織ってその下は……というやつでござりますな!!』

 

 そこはむしろ「普通の格好してるのに、その下は非日常が満載!」が王道じゃない? 公園で子供と一緒に遊んだり、知り合いと普通のやりとりしてるのに「ああ! 私は今、お日様も高いのに何食わぬ顔でとんでもない事してる!!」っていう日常と非日常のギャップ、バレるかもしれないスリルと共に楽しんで……

 

 って! この二人にそんなことできるわけないでしょうが!!

 

 普通よ! 普通にお庭をお散歩してるだけ!! 運動していないから、少しは汗を流させたかったの!!

 大体あんたもあの時の事は知ってるでしょう!! 小学校低学年みたいなデートしてたのを朽木家の使用人たちがこっそり微笑ましく見てたでしょうが!!

 

 ……何の話だっけ?

 そうそう、健康になるために色々やってるけれど、成果は今ひとつという話です。

 

「やはり、妹さんのことが?」

「はい。白哉様に良くしていただければいただくほど、妹のことを気に掛けてしまって……ただでさえ、朽木家の皆様にも捜索に出ていただいているのに、探しに行けぬこの身がもどかしくて……」

「すまぬ。我々も手を尽くしているのだが……」

 

 そんな風に見つからないから気に病んでしまい、どうにも完全回復まで到らない。

 あと白哉が過保護になりすぎて、回復しないから緋真さんを探しに行かせない。その代わりに捜索隊に依頼して捜させていますが、成果は上がらず。

 それらの事実が朽木の関係者に迷惑を掛けているようで気に病んでしまい、それが原因でまた体調を崩す。

 嫌なループが発生してます。

 

 もう少し、図太くなってもいいのよ?

 

 朽木家の捜索隊も、戌吊まで探しに行くのは大変みたいですね。

 しかも、そうまでして探しているのに一向に捕まらないとは。

 

 ルキア恐るべし!

 何か変な補正でも働いているのかしら?

 ……まさかもう死んでるから見つからない……なんて、ないわよね……?

 

「こればかりは仕方ありませんよ、気長に行きましょう。それに緋真さんも、気にしすぎです。皆さんもお仕事ですし、何より緋真さんたちの事を思ってやっているんですから。気楽に考えてください」

「湯川先生、ありがとうございます」

 

 これも何回言ったかしらねぇ……でも必ず気にしちゃうのよ、この人。

 白哉からすれば、そんなところも可愛いとか言うんでしょうけれど。

 

「そうだぞ緋真、もっと頼ってくれ」

 

 朽木家もこの一年ですっかり変わりました。

 白哉が色々と動いて、使用人たち全員が――元々友好的でしたけれどね――すっかり緋真さんの味方になりました。

 気軽に話し掛けてくれて、やりとりもしてくれて。

 広い広いお屋敷の中でひとりぼっち、みたいな寂しさなんて微塵も感じないくらい明るい雰囲気に包まれてるそうです。

 

 それと白哉も変わりました。

 あっと言う間に隊長として活躍しつつ、当主としてもブイブイ言わせてます。

 掟の改革にも着手してて、自分みたいな苦悩する者を少しでも減らしたい。と頑張ってるみたいです。

 あと彼が緋真さんと結婚する際にぶーぶー文句言ってた親戚や分家は、白哉が頑張った結果、大変な目にあったそうです。具体的には貴族の権力的な圧力が働いたとか。

 変な方向にも覚悟が決まっちゃったかな?

 

 でも、何より一番変わった部分は――

 

「落ち込んだ顔は、お前には似合わない。笑ってくれ、緋真。私は君の笑顔が好きなんだ」

「白哉、様……」

 

 ――という感じの変わりっぷりです。

 死神として働いている時は変わらず冷静沈着ですけれど、家に帰るとこれですよ。

 油断してるとすぐ背景に花を咲かせて、二人の世界に入っちゃいます。

 

 あの時、打ち所が悪かったかしら……?

 

「問題ないようなので、私は帰りますね。お大事に」

 

 絶対聞いてないと思うけれど、一応挨拶だけしておきました。

 こう見えても忙しい身なんですよ。そろそろ霊術院に新入生も入って来ますし。

 

 

 

 

 

 

「少し、宜しいですかな?」

「……!! ぎ、銀嶺様!?」

 

 朽木家から帰ろうとする途中、呼び止められました。

 なんとびっくり、銀嶺さんです。

 

 白哉の祖父の銀嶺さんです。

 

 爺さんだけど私より年下の銀嶺さんです!

 

「ああ、そう畏まらないでくだされ。既に隊長職も辞しており、当主の座からも退いた。今ではただのジジイですよ」

「そ、そういうわけには……」

「なにより、年上の方に畏まられるのは少々……でしてな」

 

 苦笑しながらそう言われました。

 そう? じゃあ銀嶺、酒饅頭買ってこい――とか言えるわけないでしょう!

 

 隊長でも当主でなくても、あんた影響力どれだけあると思ってるのよ!!

 

「お許しください、私にも立場があるので。それと、どのようなご用でしょうか?」

「何の用、ということもない。ただの世間話ですよ」

 

 世間話……? 嘘だ! 絶対嘘だ!!

 

「当主としては上手く行っていても、家族というのは中々難しいものでしてな」

「は、はぁ……」

「祖父というのはどうしても、孫に甘くなってしまうものでしてな。それに詰まらぬ立場が邪魔して、上手く言えないことも多々あるのです。そんな時、強く言ってくれる者がいるのは非常にありがたい」

 

 ……あ、これバレてますね。私が白哉にヘッドバッドをカマしたことが。

 まあ、当然ですよ。夜とはいえ庭で説教してましたから。

 誰が見ててもおかしくない。

 

「思えば昔も……おお、コレは失礼しました。どうも歳を取ると話が長くなってしまって……」

「……お察しします」

「ありがとうございます」

 

 昔、ねぇ……失敗した、とすれば……

 蒼純さんの子育てか、そうでなければあの事件かしら……

 

「それで本題なのですが――」

 

 ゴクリ! 何を言われるのかしら……

 

「ひ孫の顔は、いつ頃に見られそうですかな?」

 

 あ、これただの親馬鹿……祖父馬鹿だわ。

 




●白哉が隊長になったよ
この時期くらいなら隊長になっても別に不思議では無いはず。
(奥さんの良いところ見せようとすれば、そのくらいはする)

(阿散井らの魂葬実習の際、市丸が副隊長だった。
 市丸と白哉は同じくらいの頃に隊長になった発言がある。
 からすると、原作では阿散井らが霊術院4年くらいの頃に隊長へ?)

●小学校低学年みたいなデート
白哉が女性をエスコートする姿が思い浮かばなかった。

●朽木銀嶺
原作での出番がない。けど多分この時点でも生きてるはず。
白哉が隊長になったばかりなので、後見人や補佐的な立場としてまだ死神のまま。
もう少ししたら斬魄刀も返して死神も辞して、隠居ジジイになる。はず。
という立ち位置で想定。

孫の「お庭でお散歩デート」を誰よりもハラハラしながら見てた。

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