お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第8話 待望の合格印

 あれから歳月は流れ、私は再び師匠と実践形式の手合わせをしています。とはいえ、まだまだ手加減はされているんですけれどね。

 

「――ッ!!」

 

 師匠の斬魄刀が振り下ろされました。

 上から下に、ただ勢いよく振り下ろされただけの剣術ですが、師匠の巨体と豪腕とが相まってその一撃は息を呑むほどの強烈なものでした。

 

 ですが今や私も成長しています。

 見切り、充分に引き付けたその攻撃を既のところで躱す。何度か振り下ろされるそれを同じように避けながら、師匠との距離を一気に詰めていきます。

 

「破道の二 蛍火(ほたるび)!」

「む!」

 

 振り上げられた一瞬を狙って鬼道を放つ。

 唱えたのは過去に師匠から習った、指先から火球を放つもの。相手の胴体を狙って放ったその攻撃を、けれども師匠は手の平で易々と受けとめてしまいました。

 ダメージなど皆無のようで、うっすら赤くなっている程度です。

 

「今ッ!」

 

 ですがそれで充分。

 動きが止まった一瞬の間に瞬歩(しゅんぽ)で距離を一気に詰めると、腿を狙って刃――正確には木刀ですが――を振るいます。

 

「甘いわッ!」

 

 させじと師匠も応じます。

 彼我の間合いを取り直すように動かれてしまい、その一撃は空を斬りました。

 

「だったら……縛道(ばくどう)の一 (さい)!」

「なにっ!?」

 

 ならばと、追撃代わりに縛道を放ちます。

 これも稽古が進む中で師匠から教えて貰ったもので、対象の手足の動きを封じるという術です。が、所詮は最下級の術。ましてや実力差のある私が師匠に唱えたところで、その動きを止められるはずもありません。

 

 予想通り(・・・・)師匠の動きは止まらず、止められたのは片腕一本だけでした。

 

「失礼します!」

 

 その止まった腕を目掛けて飛び乗り、そのまま足場代わりに更に高く跳躍します。

 師匠の文字通りの豪腕を縛道によって封じ上げることで固定し、台座代わりに利用させてもらいました。

 

「やあああぁぁっ!!」

「なるほど、そう来たか!!」

 

 目前に迫った師匠の顔面目掛けて、私は再び刀を振るいます。師匠は私の動きにどこか嬉しそうに笑いながら、自由に動くもう片方の腕で斬魄刀を振るいました。

 二人の刃がぶつかり合い、私の方が飛ばされます。ですが体勢を崩すことなく着地し、即座に次へ対応できるように構え直します。

 

「そこまで!」

 

 と、そこで師匠の静止の声が響きました。その言葉に私も構えを解きます。

 

「ふむ、これならば問題はなかろう。合格だ」

「え……っ! ほ、本当ですか!?」

 

 僅かな瞑目の後、師匠はそう口にしました。その言葉が咄嗟に信じられず、思わず聞き返してしまいます。

 

「嘘を吐いても仕方なかろう。お主の今の実力ならば、霊術院の合格は間違いなかろう」

「よ、良かったぁ……やっと、やっと……」

 

 やっと卒業できるんですね。

 いつぞやの本格的な修行開始の時のように、目頭が熱くなってしまいます。湧き上がる感情を抑えきれません。

 

 だって、だって――

 

「長かったな……五十年は……」

「ええ、本当に……これでようやく、霊術院の試験を受けてもいいんですよね!?」

 

 ――流石に長すぎます。どれだけ才能ないんですか私は……

 

 でも、それはそれ。ようやく千里の道の二歩目に到達できました!

 

 死神の基本となる斬拳走鬼についても、この長い長い修行期間を経て、ようやく一端(いっぱし)程度には出来るようになっています。

 

 斬術、拳術については、先程の師匠との手合わせ程度には出来ます。もう刀に振り回されてすっ転ぶような藍俚(あいり)ちゃんはいませんよ!

 

 走術だって、距離こそ短いものの瞬歩(しゅんぽ)ができるようになりました。これで一瞬で移動できます。

 理屈自体は単純なので、色んな工夫や応用が出来そうです。

 

 鬼道も先程のように、一桁番台について教えて貰いました。これでも破道と縛道合わせて、十八の術が使えるようになってるんですよ。

 ……しかし"ロンダニーニの黒犬"ってなんなんでしょうか……?

 縛道の詠唱に良く出てくるんですけれど、聞いたことないんですよね。

 バスカヴィル家の犬とかティンダロスの猟犬なら知ってるんですけれど……

 

「そのことなのだが……お主には一つ謝らねばならぬことがあるのだ」

「ぐすっ……ふえ……? な、なんですか?」

「霊術院の合格だけを考えるのなら、十年前には大凡(おおよそ)問題はない腕前にまで成長していたのだ」

「……え?」

 

 それってつまり……もうずっと前に合格レベルの実力は付いていたってことですよね?

 

「じゃ、じゃあどうして……!?」

「お主の伸びしろから考えるに、あのままの実力では途中で付いていけずに脱落しそうだったのでな。そんなことになるくらいなら――そう思い、今日まで引き延ばしていた。すまぬ」

「なるほど……」

 

 確かに、ここまで来るのに五十年掛かってますもんね。だったら、予め多めに修行しておいた方が後々楽ですもんね。

 普通なら五十年もあれば、いっぱしの死神になっていてもおかしくはないはずなのに……

 そういえばこの五十年の間に、死神の方と出会う機会もありました。流魂街に出没する(ホロウ)の調査に来たとかで。

 あの死神さんたちは、こんなに時間を掛けなくても死神になったんだろうなぁ……

 

 あはは……なんででしょうか? また涙が出てきました。

 

「それに、なによりお主は……」

「あの……まだ何か?」

「……いや、これは言わんでおこう」

 

 ……えっ!? 

 心で泣いている私に追い打ちを掛けるような師匠の言葉……

 い、一体何を言おうとしたんでしょうか!? 私に何か粗相があったんでしょうか……無能以外は大体問題なかったと思うんですけど……

 

「それよりもこれからのことだな」

「そうですよね!」

「そうだな、まずは――」

 

 まずは入学試験の突破を目指して……

 

「――まずは、瀞霊廷内への入場許可を取らねばならんな」

「……え?」

 

 入場許可……ですか? なんですかそれ??

 

「なんだその顔は? む、まさか知らなかったのではあるまいな?」

 

 そう言うと、嘆息しつつ師匠が説明してくれました。

 

 流魂街から瀞霊廷へ入るには、各瀞霊門の門番に通行証を示す必要があるそうです。

 その通行証を取得するのも面倒な、それこそ所謂お役所仕事みたいな煩雑な手続きが大量にあるそうで、全部終わるのに数週間掛かるそうです。

 

 多分ですけれど、その数週間っていうのも"早くて数週間"な気がします。実際は書類不備とかでもっと時間が掛かりそうで……

 

 通行証の申請と同時に、真央霊術院への入学試験の申請も平行して行います。申請時に霊力の有無を確認されて、霊力を持っていることが確認できればそのまま試験へ。

 ただその試験自体は秋頃から受付を開始するとか。

 

 ……今、ようやく春が終わったくらいなんですけれど。

 

 入学の手続き自体も、お金こそ掛からないですが申請は面倒みたいです。

 試験を受けられるのは一年に一度だけ。入学試験を突破したら、今度は霊術院に入学するための手続きがまた必要になるそうで。

 

 加えて、通行証には"この日からこの日まで通って良いよ"という期日が設けられているので、その間に瀞霊廷の用事を済ませないと、今度は不法滞在で処罰されるとか。

 

「うへぇ……」

 

 聞いただけで"面倒くさい"とわかる内容に、思わず渋面を隠せませんでした。

 

「つまり……まずは師匠に通行証の発行の依頼をしないと駄目ってことですよね?」

「そうだ」

「それに合わせて、真央霊術院の入学依頼の申請もしないといけないんですよね?」

「……そうだ」

「でも今は時期じゃないから、待たないと通行証も無駄になっちゃうんですよね?」

「…………そうだ」

 

 ……えーと……

 

「稽古、もう少しだけお願いしていいですか?」

「……構わんぞ」

 

 喜びに水を差されるって、こういう気持ちになるんですね。

 




●破道の二 蛍火(ほたるび)
原作には出てこない、オリジナルな術。
赤火砲のような、炎系の最下位の鬼道として即席設定。
(名前センスが皆無(いわゆるオサレではない)のはご愛敬)

●通行証と入学申請
通行証については小説 BLEACH WE DO knot ALWAYS LOVE YOU より。
今でいうパスポートの取得とかを数十倍面倒にしたもの、みたいな認識でいいのかな?

入学申請については、特に記述が見つけられなかったのでそれっぽいのを適当に。
下半期に(予約すれば)いつでも入学試験を受けられる。
申請すれば誰でも受けられるが、基本的には一年に一回だけ。
合格したら、翌年の春から一回生として全員スタート、という位置づけにしている。

霊術院の設定がそもそも原作にほぼ皆無なので仕方なし。
(入学試験についても適当に設定)

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