お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第82話 私 聞いてない

「……――というわけです。駐在任務で現世に行く時には、注意してくださいね」

 

 今日は、霊術院にて教鞭を振るっています。

 とはいえ新人をシメるのは最初の一度だけの特別授業、以降は普通に講義です。

 

「――になりますので、この辺りは尸魂界(ソウルソサエティ)の常識と大きく異なって――」

 

 皆さん、真面目に聞いてますね。

 やはり初回にシメると違います。

 ふざけても良いが怒らせるのは駄目だとしっかり理解してくれますから。

 私自身も結構長くやってますから、もう慣れたものです。

 

「――のようになります。この辺りは座学的な知識も求められる部分なので、実技に活かすためにも特進クラス・通常クラス関係なくしっかりと覚えておいて下さいね」

 

 それと、私の講義は基本的に全体が対象です。

 クラス関係なくその学年全体に向けて行うので、毎回毎回大講堂で実施してます。

 

「……と、そろそろ区切りの良い時間になったので、今回はこの辺で。次回は――となります。皆さん、お疲れ様でした」

 

 次回予定を通達して、終了――にはならないんですよ、コレが。

 

 

 

「先生、今回も稽古をお願いしても良いですか!?」

「ルキアさんに……皆も?」

「ッス! お願いします!!」

「は、はい!」

「ご迷惑でなければ……その……」

 

 講義終わりの私を呼び止めたのは、朽木ルキア・阿散井恋次・吉良イヅル・雛森桃の四人でした。

 前回の時にも、こうやってこの四人は私に稽古を申し出てたのよね。なんだからやたらと熱心に"鍛えて欲しい"って言ってくるの。

 なんでかしら?

 

「それじゃあ、先に訓練場に行って待ってて。私はちょっと仕事を片付けてから行くわ」

 

 了承の返事をすれば、四人とも"やった!"とばかりに軽くガッツポーズをすると大喜びで出て行きました。

 若い子って良いわよねぇ……

 

『元気いっぱいでござるなぁ!! それに藍俚(あいり)殿を慕いまくってるでござるよ?』

 

 え? そうなの??

 

『見ていればなんとなく分かると思うでござるが……?』

 

 ごめんなさい、さっきからずっと雛森さんのお尻見てたから。

 

『奇遇でござるな、拙者もでござります!!』

 

 ……え? お尻見てて気付けるものなの?

 

『昔から、尻は口ほどにものを言うと……』

 

 マジで!? 知らなかったわ。

 

 

 

 

 

「阿散井君はホント、元気いっぱいで力強いわね!」

「あざっす!」

「吉良君はかなり正確に動けてるわ。初回に覚えた理想の動きをちゃんと追求できてるみたい」

「ありがとうございます!」

 

 お稽古の時間はもう始まってますよ。

 

 やってることは初回特別講義と同じく剣術からです。皆に木刀を持たせてワイワイやってますよ。

 現在は男性陣二人の攻撃を捌きながら、適宜アドバイスを与えていきます。

 阿散井君は身体も大きいし力が強いから、豪快に戦ってくるわ。

 吉良君は反対に、剣術の教科書みたいに丁寧な剣ね。でもこの子、ちょっとだけ集中しきれていない時があるのよ。

 

「でも油断しない! ほら、軸がブレたわよ?」

「あぐっ! あ、ありがとうございますっ!!」

 

 ほら、こんな風に。

 手にした木刀で腿の辺りを軽く叩いて注意を促します。

 

『おっきな声でお礼を言ってるでござるなぁ……』

 

 吉良君、ちょっと内向的だけど真面目で良い子だから。ご指導ありがとうございますって思ってるのよきっと。

 

『(そういう意味ではないでござるが……吉良殿がちょっとだけ足を踏み外している気がするでござるよ……)』

 

「やああぁっ!」

「たああっ!」

「雛森さん、萎縮しないでもっと胸を張って! 稽古で手を抜くのは相手にも失礼よ!! ルキアさんは……驚いた。この前とは別人みたいに良くなってる!」

「すみません!」

「ありがとうございます!!」

 

 続く女性陣二人の攻撃も捌いていきます。

 

 ……はい、四人がかりです。

 名前アリで才能ある子たちであっても、まだ霊術院時代ですからね。この頃なら四対一でもまだまだ遅れは取りませんよ。動きも散発的ですし、そもそも連携とかも知らないですからね。

 背の低い女性陣側の下からの攻撃、阿散井君の上からの攻撃と、吉良君の正確な攻撃で連携とかされると、大分困るんですけどね。

 そもそも死神は連携する機会がそんなにないので、その発想まで到らないのかしら?

 

「ルキア! 何時の間にそんなに腕を上げやがった!?」

「ふふん、言わんぞ!」

 

 おっと、ルキアさんを見て阿散井君も熱が上がりましたよ。

 

 実は彼女、こっそりと白哉から手ほどきを受けてるんですよ。

 私がそそのかしました。

 義妹(いもうと)と仲良くなる方法は無いかと相談されたので、それが一番手っ取り早くて尊敬されるだろうと思って教えてあげたんですが……効果は覿面ですね。

 白哉が教えるようになってからまだ二週間くらいなのに、この伸びっぷり。

 これが貴族の持つ教育ノウハウってやつなのかしら!?

 

 そんなルキアさんに負けじと、阿散井君がより一層の本気になっています。

 好きな子には良いところ見せたいものねぇ、負けてられないわよね。

 よし、その気持ちをちょっとだけ後押ししてあげましょうか。

 

「ほら阿散井君! 振りが甘い! 剣先がブレてる! 動きの流れを意識しなさい! 体勢崩した瞬間に狙われるわよ!!」

「はいッ!!」

 

 良い返事ね。

 じゃあ、もう少し厳しめに指導しても大丈夫かしら?

 

 でも、一番鍛えてあげたいのは――

 

「雛森さん! 動きが崩れてる! まずは歩法から組み立て直して! 動きに霊圧を組み込んで!!」

「すみません!!」

「だから霊圧が甘いの! あなた、この中だと一番霊圧の扱いが上手なんだから、もう一歩踏み込んで平気だから!!」

「すみませんすみません!!」

 

 この子よね。

 

 藍染に利用されるって分かっているんだもの。

 せめてちゃんと笑顔でいられるくらいには、鍛えてあげたいって思っちゃう。

 ちょっと厳しいかもしれないけれど、我慢してね。

 

「はああっっ!」

「って、吉良君? それは霊圧を込めすぎ! やる気は買うけど無駄になってるから!」

 

 あら? なんでか吉良君がやたらと張り切ってきました。

 ……どこかに彼のやる気スイッチを入れるような部分があったのかしら?

 まあ、やる気になってくれるのは良いことだから気にしないけれど。

 

「むっ! これは……私も負けておれん!!」

 

 あらら、皆の動きを見てルキアさんが更に気合を入れてきました。

 

 お互いがお互いに良い影響を与え合ってるわ。

 これは良い流れね。

 

 そんな感じで、四人が力尽きるまで稽古は続きました。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「だーっ!! 今日の稽古、本気で死ぬかと思ったぜ!!」

 

 霊術院――その寮の食堂で、阿散井が大声を上げた。

 

 稽古が終了したのは夕方の終わりかけの頃だった。

 既に日は沈み、今は夕飯まっただ中の時間だ。大勢の霊術院生たちで食堂はごった返しており、大声を上げても時に気にしたり文句を言う者はいない。

 

「大げさだな、恋次。とはいえ、私も今日は大変だった」

「でも沢山学べたと思うよ。死にそうな目に見合った収穫はあったさ」

「でも先生には後でお礼を言っておかないと……」

「確かにな。あの人、ホントすげぇよ」

「力尽きて倒れてしまった僕たち四人を担いで、寮まで送ってくれたからね」

 

 阿散井と同じ卓にはこれまたルキアらが座っており、それぞれが今日の稽古について感想を交換しあっていた。

 結局あの稽古は、藍俚(あいり)が四人を同時に相手にして、彼らが力尽きてもなお余力を残し、四人を運んでくれた。寮の入り口まで運ばれ、まずはお風呂で汗と疲れを流して、その後はゆっくりご飯を食べるようにと言い残して去って行った。

 話のネタには困らない。

 

「私たちもあのくらい強くなれるのかな……?」

「それは違うぞ雛森! "なれるかな"ではなく"なる"のだ! でなければ、わざわざ時間を割いて貰っているというのに申し訳が立たん!!」

「ルキアさん、うん! そうだね!」

 

 そんな風に決意を新たにしたところで、丁度良いタイミングで夕飯が配膳された。

 

「はい、お待ちどうさまでした」

「おっ! 来た来た!! 話はこれくらいにして、食おうぜ」

「おお! 美味そうだな!!」

 

 空きっ腹に堪えきれないほどの香りが立ち上り、ルキアと阿散井が我先にと箸を手に取り夕飯をかき込んでいく。

 そんな豪快な食べっぷりを見ながら、ふと吉良が呟いた。

 

「そういえば、知ってるかい? 四番隊では、食べると怪我が治って強くなる病院食が出るんだってさ」

「はぁ!? 嘘だろ、そんな都合の良いもんが――」

「あ、それ私も聞いたことがある!」

「――あんのかよ!?」

「早く怪我が良くなって、同じ傷を受けないようにって先生が広めたんだって」

「本当か!? むむむ、湯川先生は底が知れんな……」

 

 その創始者は元十二番隊隊長――現在は零番隊――の曳舟桐生である。藍俚(あいり)ではないのだが……どうやら吉良も雛森もその辺の事情までは知らないようで、二人とも藍俚(あいり)が作った物だと思っていた。

 

「私たち、そんな凄い人に教わってるんだよね」

「しかも僕たち……自惚れじゃなければ、先生に期待されているよね?」

 

 

「うん! だから」

 

 

「その期待に応えるためにも――」

 

「もっと色んなことを教わるためにも――」

 

 

 

「「――四番隊に入りたいな」」

 

 

 

「「……えっ!?」」

 

 

 

「雛森君――」

 

「吉良君――」

 

 

 

「「も!?」」

 

 

 

 世界が、少しだけ、変な方向に動いた。

 




眼鏡を握り潰した人「なにそれ聞いてない」

●雛森桃
なんというかこう、不幸の星の下に生まれてきた感が満載の子。
藍染に洗脳されたり、身代わりで斬られたり。ある意味ではとても目立っている。
「刃傷沙汰」「痴情のもつれ」「無理心中」といった言葉が似合う(偏見)
そういう特殊な性癖を押し付けられているんじゃなかろうか?

なので笑顔にしてあげたい。
笑顔で藍染を殴れる程度には強くしてあげたい。

●吉良イヅル
雛森が目立つ不幸の星の下なら、こちらは目立たない不幸の星の下に生まれた者。
(雛森が悲劇とかメロドラマな不幸さ、こっちは日の当たらないけど辛くて可哀想)
小説でもローズに「見ていると陰鬱なインスピレーションが止まらない」とか言われる。
(多分、妻を寝取られる旦那役とか凄く似合いそう(偏見))

副隊長だし重さを倍にする斬魄刀の能力も絶対強いはずなのに……ねぇ?
(最終的にゾンビ化ってもどういうことなのかと。ご両親も草葉の陰で泣く)

ごめんねイヅル君……

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