お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第84話 マッサージをしよう - 朽木 緋真 -

 魂葬(こんそう)実習で(ホロウ)たちに襲われた霊術院生たちは、怪我人こそ出たものの、奇跡的に死者は無しという結果に終わりました。

 引率役の三名の六回生が中心となって、一回生たちを命からがら守った。

 六回生たちに加えて阿散井君ら――私がよく面倒を見ている子たち――が援護する形となることで、なんとか切り抜けたそうです。

 

 この情報が広まった時、白哉から真っ先に伝令神機が来ましたよ。

 「ルキアは無事なのかっ!?」って、物凄く焦った様子で。

 だからまだ昇格はしてないんですってば!! ――と言いたかったのですが、お兄ちゃんお姉ちゃんからすれば気が気じゃないですものね。

 安否確認は大事です。

 一応この報告の際についでに「阿散井君が頑張って助けたそうですよ。詳しくは本人から武勇伝を聞いてあげて下さい」と伝えておきました。

 

 

 

 そういえば朽木家と言えば緋真さんですが。

 彼女も、もうすっかり良くなりました。ルキアさんなどと比べると流石に弱めですが、それでも一般的に充分すぎるほど健康になりました。

 ええ、間違いありません。

 

 今診察したばっかりの最新情報ですから。

 

「はい、もう大丈夫ですよ」

「それでその……緋真の容態は……」

「念のためにということで、今日まで経過観察を続けてきましたが。もう大丈夫ですよ、体質的に少々弱いですが、それはこれから体質改善でどんどん良くなりますから。間違いなく、健康になりました。もうこれ以降の検診も不要ですよ」

「本当ですか! よかった……」

 

 何回か「もう健康だから」って伝えたのに「万が一があるから」と延々引き延ばされましたからね。

 ルキアさんとの(わだかま)りが解消してから四ヶ月は経過してるんですけど……もう見るところ無いんですけど……でも来てくれって白哉が言うから……

 そりゃあ、死別の一歩手前だったから、気持ちは分かりますけどね。

 緋真さんに到っては、自分で元気になったと理解してるのに何度も診察を受けてて、若干申し訳なさそうな雰囲気を放っていました。

 

「白哉様ったら……もう緋真は大丈夫だと何度も申し上げましたのに……」

「し、しかしだな……! 万が一のことがあってはと思い……!!」

 

 うわぁ……甘いわぁ……砂糖吐きそう。

 イチャつくんなら自分の家でやって!! …………あ、ここ白哉の家よね。

 お邪魔なのは、むしろ私の方だったわ。

 

「どこも問題はないので、私はこれで失礼します」

 

 お邪魔虫はさっさと退散しますからね。後は思う存分に、イチャついてくださいな。

 

「……あ! お、お待ちください湯川殿!!」

「なんです?」

「実はもう一つだけ、お頼みしたいことが……」

 

 え、まだ何かあるの?

 

「その、湯川殿の按摩は非常に評判だと聞いて……よければ妻に是非にと……」

「白哉様……?」

 

 ……え? 揉んで良いの?

 な、なんというか、予想外が過ぎたわ……だってほら、緋真さんもぽかーんとしてるから、これ完全に白哉の独断よ。妻へのサプライズなプレゼントよねこれ。

 

『おおっ!! キター!! でござるよ藍俚(あいり)殿!! しかも完全な健康体!! もうこれは、もうこれは! 揉むしかないでござりますよ!!』

 

 ひ、人妻よね!? 自分の妻を揉んでくれって差し出してるのよね……!! 亭主公認ってことよね!?!?

 

 うわぁ!! うわぁ!! なんだかドキドキしてきたわ!! 

 

 ……はっ!! いけないいけない。

 

「按摩はしています。けれど予約制で受け付けていますので。予約の無い方に特例を認めるのはちょっと……」

 

 それはそれ! これはこれ!! きっぱり断っておかないと。

 

「そこをなんとか!!」

 

 頭を下げても駄目! これだから貴族は!!

 

『で、ですが藍俚(あいり)殿!! 旦那自ら妻をグヘヘヘの依頼でござりますぞ!? 今までも人妻はおりましたが、旦那の方から"揉んでくれ"という依頼は初でござるよ!! これはもう公式の寝取り!!』

 

 グヘヘヘの依頼って何よ……言いたいことはわかるけれど。

 すっごくわかるけれど!!

 

「白哉様、先生もこう仰っていることですし……緋真はちゃんと順番を守りますから!」

「し、しかし!!」

 

 しかしもカカシもない……あ、待てよ。

 どうせなら一つ、面白いことをしましょう。この夫婦でしか出来ないような、面白いことを……

 

「分かりました。本当は横紙破りであまり感心しませんけど、緋真さんの全快祝いということで今回だけ特別ですよ」

「本当ですか!?」

「そんな……ご無理を言ったようで。申し訳ありません」

「ただ、ちょっとだけ特殊な方法になりますが……覚悟してくださいね」

 

 私はにっこりと微笑みました。

 

『むむっ! 藍俚(あいり)殿がわるーいわるーい顔をしてるでござるよ……この瞬間だけは藍染も眼鏡をたたき割りながら逃げ出しそうでござる……』

 

 失礼なことを! みーんな幸せになれるはずだから問題ないわよ!!

 

 

 

 

 

「あ、あの……先生」

「着替え終わりましたか?」

「ええ……ですが、その……」

 

 隣室で真っ白な薄手の寝間着(ねまき)姿に着替えた緋真さんが、恥ずかしそうにやってきました。

 うーん、不思議ですね。

 なんでこんなに照れているのでしょうか? 定期的な診察をしていた頃と似たような格好ですし、この格好を晒したのも一度や二度ではないのに。

 

「びゃ、白哉様にも見せるというのは、その……」

「…………」

 

 もじもじと身体を隠しながら頬を赤く染める緋真さんの表情は、どこか加虐心をそそられてドキドキしてきます。

 現に白哉なんて、まじまじと穴が空きそうな勢いで見つめていますよ。

 

「あ、あまり見ないでください……」

「す! すまない……!!」

 

 口ではそういうものの、物凄く残念そうに白哉は視線を外し――てませんね。

 顔は背けましたが、視線は物凄く未練がましく追っています。

 その露骨な視線やめなさいよ……霊術院の男子生徒だってもう少し上手にやるわよ。

 

 ベタ惚れか!! ……ベタ惚れだったわね。

 

「それでは、施術を開始します。お二人とも、準備はいいですか?」

 

 さてさてどうなることかしらねぇ。

 

 

 

 

 

「ひ、緋真……痛くはないだろうか……?」

「平気です、白哉様……白哉様が緋真のことを思ってくださっているのを、ひしひしと感じ……んっ……!!」

 

 緋真さんが小さく喘ぐと、白哉が途端にオロオロしました。

 

「すまない! い、痛かったか……!? なにしろ初めてなもので加減がわからんのだ……」

「申し訳ありません……緋真も初めてだったもので……ですが、ちゃんと耐えてみせますから……!!」

 

 布団の上へ寝そべりながら、緋真さんは必死で呼吸を整えています。

 痛そうな声を出してしまったことを恥ずかしく思っているのでしょうか? とはいえ全身を緊張でガチガチにしている今の状態では、無理もないことですね。

 これでは気持ちよくなんて、出来るはずがありません。

 

「ひ、緋真! 大丈夫だ、次はちゃんと上手にやる! だからお前も、私に身を任せてくれ!」

「は……はいっ!」

 

 白哉も白哉で、原因は自分にあると思っているらしく。奥さんにこれ以上の辛い目になどあわせない! とばかりに、より意気込んでいます。

 緋真さんも先程の痛みから身体を強張らせていますね。それを白哉が感じ取ってしまい、なんとかしようと余計な力がたっぷりと入れてしまい――

 

「うっ……! ……痛っ……」

「す、すまない!!」

 

 ――また小さなうめき声が上がりました。

 幾ら初めて同士とはいえ、あまりにも下手すぎます。

 

「駄目ですよ、力を込めすぎです。もっと優しく、相手を気遣うように」

「こ、こう……か……?」

「違います。いいですか、もっとこうやって……」

「……ん……っ!」

 

 軽くお手本を見せてあげると、緋真さんは微かに身をよじらせながら甘い吐息を小さく漏らしました。

 たった呼吸一つ、ですがその声はなんとも気持ちよさそうに耳朶へと響きます。

 

「む、難しいものなのですね……」

「あらら。だけどこの程度は男の甲斐性――というか旦那様の甲斐性ですよ。奥方様のことを想っているんですよね? だったら頑張って、気持ちよくしてあげないと……ねぇ?」

「う……」

 

 少しばかり意味深な視線を投げかければ、照れくさそうに白哉は視線を逸らしました。

 

 

 

 ……あ、別に夫婦の"初"めての"夜"に立ち会って、実況中継をしている。わけではありませんよ。

 皆さんご存じの通り、普通にマッサージ中です。

 

 白哉(おっと)緋真(つま)の身体を"揉む"という、極めて普通の光景です。

 

 ただちょっと「自分だと予約しても時間が掛かるし、なにより自分のためにしてくれるのだから緋真さんは絶対喜ぶ!」と言い訳して、白哉を(そそのか)しました。

 白哉が緋真さんを揉めば全部解決です! と力説して了承させました。

 なのでこうして、白哉に実戦的な訓練を施しています。

 

 ただ白哉はマッサージなんて"初めて"だから下手で、緋真さんも"初めて"でちょっと痛がってしまって、このままだと"初めて同士で失敗に終わってしまう"かもしれない。

 だから見るに見かねて、私も思わず手を出しましたけれど。

 

 ……何か問題があるのかしら?

 

『委細承知!! 一切合切問題皆無!! 異議無し!! でござるよ!!』

 

 緋真さんは背丈も小さく、肉付きもそれほど良いわけではありません。

 病気の時と比べれば充分ふっくらしてきましたが、それでもやはり痩身ですね。胸元の膨らみも微かで、腰回りの肉付きとかも……霊術院の子たちの方が、よほどふくよかです。

 

 まあ、彼女の場合はこれからですかね?

 もうどんどん健康になっていくはずですから。ある程度は女性っぽい丸みを帯びた身体になっていくはずです。

 ……未来のルキアさんを見る限り、どこまで期待して良いかは分かりませんが。

 

「そうそう。肩、背中から腰に掛けては基本ですよ。力を入れすぎずに、けれど弱すぎないくらいに。相手の反応を見ながら……」

「こ、こうですか……?」

 

 なにはともあれ。

 白哉は現在、必死で緋真さんのマッサージ中です。

 しかしまあ……下手ねぇ……まず腰が引けてるわ。

 

「違いますよ、もっとこう……失礼しますね」

「わ、わわわっ!?」

 

 後ろから白哉に覆い被さり、彼の手の上に自分の手を重ねて置きます。

 まるで二人羽織みたいですね。

 

「人の身体には流れがあるので、そこを意識して。凝っている部分を集中して見極めて……聞いてますか?」

「は……ひゃいっ!!」

 

 このくらいで声を裏返して返事しちゃってまあ……

 ちょっと私が背中にくっついてるだけじゃないの。このまま緋真さんの上に押し倒して、サンドイッチ状態にでもしてやろうかしら?

 

『それは流石にアウト! アウトでござるよ!!』

 

 そうよね、緋真さんが耐えられないわね。つまり私が下になれば問題解決!

 

『そういう意味でござるか!? い、いや拙者も決して否定しているわけではござりませぬが!?!?』

 

 冗談よ、冗談。

 

 とあれこうして、ひっつきながらマッサージの指導を続けます。

 

「腰から下――お尻や太腿なんかも、解してあげると喜ばれますよ」

「腰から……し、ししし下っ!?」

「そうですよ。こうやって……」

「あ……は……ぁっ……」

 

 白哉の手を掴みながら、自分でもお手本とばかりに緋真さんのお尻を揉んでほぐします。

 うん、やっぱり肉が薄いわね。

 ボリュームという点では今ひとつ……今ひとつなんだけれど……

 

 それ以上にすっごい事に気付いたわ!!

 

 今の私って、後ろから旦那に覆い被さって手を掴みながら、奥さんのお尻を揉んでるのよ!!

 なにこれ、すっごい不思議な体験してるわ!!

 ね、寝取りながら寝取られてる……みたいな? 全然言語化出来ないんだけど、すっごく頭がおかしくなりそうなシチュエーション!!

 なんだか変な興奮してきたわ!! く、癖になったらどうしようかしら……?

 

 そしてこの感覚は白哉も同じ気持ちみたいね。

 くっついてるから心臓がバクバク鳴ってるのがよく分かるわ。目も漫画みたいにクルクルしてるし。興奮しすぎてハァハァ言ってるし。

 

「聞いてますか? ちゃんと覚えてくださいね。それに、朽木隊長は緋真さんの旦那様なんですから。お尻の一つくらいは撫でてあげられないと」

「そ、それは……っ!! そういうものなのですかっ!?」

「そういうものです!」

「…………~~~!!」

 

 テンパり過ぎでしょ。なんで私に聞くのかしら?

 緋真さんは否定も肯定もしないけれど、ものすごく照れてます。

 

「それじゃあ次は、お腹周りを」

「お、お腹!?」

「そうです。ちょっと失礼しますね」

 

 と言いながらくるっと緋真さんを半回転させて仰向けに。

 

 ふむふむ。

 うっすら汗を掻いているので、白い薄衣が貼り付いていて、肌色がうっすらと透けて見えますね。文字通り病的に白かった肌も今ではすっかり赤みが差し込んでいて、健康そうな肌にほんのりとした桜色の膨らみが見えます。

 

「おへそは人体の中心ですから、その周辺も大事です。色んな流れがある部分なので、しっかりと解して正常化してあげてくださいね」

 

 声を掛けましたが……おーい、白哉。聞いてるかしら?

 

 あなた貴族でしょう!? 後継者を作るのも仕事なのよ!! このくらいで興奮してちゃ駄目よ!!

 本番はもっと凄いことするんだから!! 理解してる!?

 

「胸回りは、形を整えるような感じを意識するようにしてあげてください」

「……ッ!!!!」

 

 やっぱり肉付きは薄いわよね。

 なだらかな傾斜の中に、ほんのりとした膨らみが。白哉の手を掴みながら触れているのだけがちょっと残念ですね。

 どうしても男の手ってゴツゴツしますから。

 

「腰回りは特に入念かつ慎重にやってあげてください。ある意味、女性の身体の中で最も大切な部分ですから」

 

 と言いながらもう片方の手で彼女の下腹の辺りを触れて――

 

「ごふっ!!」

 

 ――あ、大量の鼻血が噴き出した。

 

「びゃ、白哉様!?」

「ちょっと! 大丈夫ですか!?」

 

 興奮しすぎて鼻血を出すとか、ウブすぎでしょ!? 漫画じゃないんだからっ!!

 

『メディーック!! メディーック!! お医者様の中に、お客様はいらっしゃいませんか!!』

 

 はい、私が医者です!! って、逆よ逆!!

 慌てて鼻血の処置をしました。

 

 

 

 

 

 しかし……まさか、流血でノーゲームのオチになるとは思わなかったわ。

 これ、本当に大丈夫なのかしら……

 

 銀嶺さん、ごめんなさい。

 もう少し待ってあげてくださいね。

 




初めて同士。
痛がった。
血が出た。

……あらやだ完璧。

●白哉がウブすぎませんか?
原作に「ベッドの上の朽木白哉は基本的には千本桜が夜桜の舞で、最終的にはガチガチに堅くなった白帝剣で容赦なく突き刺してくる。泣いた女は数知れず」といった描写がないのでセーフです。
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