枝を見れば、待ちきれなかった蕾の一部が桃色の花を咲かせ始めています。もう少しすれば、残った桜たちも一斉に花を咲かせることでしょう。
暦は三月、時期は春。
この時期になると、毎年決まってこの行事が行われます。
「皆さん、卒業おめでとう」
そうです。霊術院の卒業式です。
一応私も講師の枠に入っている存在なので、卒業式や入学式には顔を出しています。基本的には毎回出席してるんですよ。
そして講師側の立場なので、よく見えます。
大講堂に集められた卒業生たちが、学長のありがたいお言葉を右の耳から聞いて左の耳で垂れ流しているのが。
私が卒業するときも似たような状況でしたが、何年経ってもやることは同じですね。
内容も「霊術院で学んだことを活かして」とか「次代の死神の模範となるように」とか「新時代を主導するような存在になれるように」とか、そういった事ばっかりですので。
きっとほぼ全員が"面倒だからとっとと終われ"とか思ってるんでしょう。
私も話なんて全然聞かないで、垂れ幕の文字とか見てます。
もう二千期とか行ってるのよね。歴史あるわぁ……
「またな!」
「へへへ、十三番隊に入れたぜ!」
「いいなぁ……俺、どこにも引っ掛からなかったから……」
「げ、元気出せって!! 来年もあるからさ!! オラ、飲みに行くぞ!! 卒業祝いと景気づけだ! 吐くまで呑むぞ!!」
卒業式も
別れを惜しむ者、死神としての未来に希望を抱く者、どん底の今を嘆く者、悲喜交々ですね。
まあ、昔も言いましたが入隊試験は狭き門です。
試験を何回も挑戦してやっと合格して、死神になれた。でも希望の隊じゃなかった。
なんてのはいつも変わらず、枚挙に暇がありません。話のタネにもなりゃしない。
……あら? こんなこと、前にも思ったような……具体的には十八話くらいで。
「先生!」
「あら、皆。卒業おめでとう」
なんとなくノスタルジーに浸っていたら、ルキアさんたちから声が掛かりました。
言うまでもありませんが、彼女たちも卒業生です。前にも言いましたが、主席から四席までを総ナメしています。
主席の子は壇上で卒業生代表の挨拶をしていたりと、すごく立派でした。
こういう姿を見ていると、ちょっとジーンと来ちゃいますね……
『ワシが育てた!! でござりますな! もっと胸を張っても宜しいと思うでござるよ!』
……台無し。
「先生、今までありがとうございました!」
「どういたしまして。でも皆が卒業出来たのは、日々をちゃんと頑張ってたからよ。私はそれをちょっと後押ししただけだから」
「そんなことありませんよ!」
あら、びっくり。
吉良君が珍しく大きい声を出したわ。
「僕たちがここまで成長できたのは間違いなく先生のおかげです!!」
「そ、そう……? なら、嬉しいかな……」
何があったのよ? ぐいぐい来るわね。
ちょっと離れた場所にいる阿散井君は笑いを一生懸命堪えようとしてるし、何かあったのかしら?
「だから、あの……その……すみません。ありがとうございました」
あら? さっきまでの勢いが突然急ブレーキ。
しかも吉良君、がっくり肩を落としちゃったわ。
……ホントになんなの!? 阿散井君が今度は怒っているし。
「先生、今までありがとうございました。あの、これ。今までの感謝の気持ちを込めてのプレゼントですっ!」
消沈した吉良君と入れ替わるように、今度は雛森さんが出てきました。
しかもなにやら丁寧に包装された箱を私に差し出して。
「プレゼント……? 私に?」
「はいっ!!」
実は私、卒業する皆へ個人的な卒業祝いの品として筆を贈っていたんです。
ほら、お祝いに万年筆を贈る。みたいな流れがあったじゃないですか。
アレを真似て、結構良い筆を一人一人に贈っていました。
入隊すると業務日報とかも書きますからね。筆はあって困らないです。
こんな立派なプレゼントを貰うなんて、何時ぶりかしら……ドキドキしてきた。
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞっ!」
中身は
中身は髪を結ぶ為のリボンでした。
雛森さんの"桃"という名前にちなんでか、桜のような色合いで染められています。
「へぇ……ありがとう。似合うかしら?」
「はい、それはもう!」
「……綺麗だ……」
軽く髪に当ててみせると、雛森さんが太鼓判を押してくれました。
あと吉良君もぼそっと褒めてくれました。
「本当に? じゃあ、今度からこれをつけて業務をしようかしら」
「是非お願いします! そうして貰えると嬉しいです!」
雛森さんもぐいぐい来るわねぇ。ものすごいニコニコしてるし。
「でも、こんな素敵な物をもらっちゃって、お返しの品が……」
「大丈夫ですよ。私たち、先生に色んなものを貰いましたから」
やめて、そういうの……ほんと、涙腺に来ちゃうから……
「そう……ありがとうね皆。これからは同じ死神として、一緒に頑張って行きましょう!」
「「「「はいっ!!」」」」
涙ぐみながら言うと、良い返事をしてくれました。
うえーん、みんなすっごい良い子だよぉ……!!
……何かを忘れている気がするのは、何でかしら?
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「副隊長、おはようございます!」
「おはよう。全員揃ってるかしら?」
感動の卒業式から日は少し経ちました。
そして今日は、新人隊士の子たちの入隊日です。
……新人って言っても、私には見覚えのある子ばっかりなんですけどね。
とあれ今日は入隊の日です。
新人たちの紹介も行う都合上、四番隊の子たちも集められるだけ集めています。
「はい、問題ありません」
「そっか。じゃあちょっと早いけれど、もう開始しちゃいましょう。隊長も、良いですよね?」
「ええ、構いませんよ」
卯ノ花隊長も笑顔で了承してくれました。
そして隊長の軽い挨拶の後で、今年の新人隊士の皆がぞろぞろと……
……えっ!?!?
ひ、雛森さん!? 吉良君も!? なんで、なんでいるの!?!?
え……あれ……今日は
ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って!! あなたたち、主席と次席でしょう!!
霊術院の成績、上から一番目と二番目が揃って同じ隊って……大丈夫なの!?
「どうしました湯川副隊長。何か問題でもありましたか?」
「い、いえ、その……」
二人の顔を見た途端に動揺を隠しきれませんでした。
卯ノ花隊長は、問題なんて一切ありません。みたいな顔をしていますけれど……
「さて皆さん、この子たちが今年の四番隊新人隊士です。今年の隊士の中にはなんと、霊術院を主席と次席で卒業した子もいます」
主席、次席の二人が揃っている。という言葉を聞いた途端、皆ザワつきました。
「しかも本人たちのたっての希望による入隊です。これも
いや、おかげですねって……そういう意図も確かにありますけれど!
本人たちの希望って……その理由は、物凄く嬉しいんですけど!!
……あ! 隊長が私の方を見ながら、すごく良い笑顔をしてる!!
…………そういうことなの!?
今年は、なんだか仕事の量が例年よりも少なかったのって!! いつもだったら私が仕切っていた新人隊士関連の仕事を別の人が担当していたのって、そういうことなの!? この日のこの瞬間のためだけに!?!?
……サプライズに力入れすぎですよ隊長……!!
「先生、また一緒ですね! えへへ……」
「改めてご指導を、よろしくおねがいします」
入隊式も終わりまして、二人がやってきました。
二人とも嬉しさの中にちょっとだけ"ごめんなさい"な感情を見せています。
「そっか……ごめんね二人とも。全然気付かなかったわ」
というか、このサプライズ。
私に黙っていたってことは、この二人も仕掛け人よね?
いったい何時の間に……!? どこで、どのタイミングで連携を取ってたの!?
というか、何をどうやったらこんなことができるの!? どんなパイプやどんな手段を用いれば実現できるんですか隊長!!
かなり長い時間を一緒に過ごしてきたはずなんですが、卯ノ花隊長の底が未だにわかりません……
「でも二人なら、四番隊じゃなくても。他の部隊でもどんどん活躍できたと思うけれど……」
「そんなことありません! 先生の下で、もっともっと色んな事を知りたいんです!!」
「そ、そうなの……? でもあなたたちの実力だと、すぐにでも他の隊からお呼びが……」
「いえ! 僕が目指すのは先生ですから!」
「ありがとうね……吉良君……」
……二人がぐいぐい来てるわ……
なんていうの、好感度がMAXになってるみたいな……どこにフラグがあったの!? いつフラグを立てたの私!?
しかし、アレよね。
いつも院生袴の姿ばかり見ていたので、死覇装の二人の姿は新鮮です。
しかも雛森さんなんて、今日に限っては髪型を私と同じツインテールにしています。会話ややりとりの要所要所でチラチラ見せては「お揃いですね、えへへ……」みたいな顔を私に見せつけてきます。
しかもリボンは卒業式に貰ったアレを彼女も付けてます。
私も雛森さんから貰ったあの桜色のリボンを付けているので、すごくお揃いです。
……なにこの可愛い生き物!! なにこの可愛いアピール!!
え、いいの!? この子、もらっちゃっていいの!? お持ち帰りしていいの!?
うん、もういいわよね……藍染なんかに渡して使い潰されるくらいなら、私が貰っちゃっても、いいわよね……誰も困らないわよね……
いけないいけない。
雛森さんのあまりの可愛さにうっかり忘れるところだったわ。
他の子たちの進路です。
ルキアさんは当初の予定通り、十三番隊へ。
事前の根回しや説明もしっかりしてあったので、十三番隊で腫れ物扱いされることもなく元気でやっているみたいです。
朽木家の縁者といっても特別扱いは不要だという認識がちゃんとまかり通っているようです。
阿散井君は十一番隊へ行きました。
何でかしら……? 絶対、白哉が六番隊に引っ張ると思ってたのに。
私がうっかり「私の次なら一角が強い」って言っちゃったから? そのくらいしか思い当たる
ストイックに強さを求めてる部分とかあったのかしらね。
立身出世してアイツに誇れる自分になりたい! みたいな感じなのかも。
そしてある意味、一番問題となっているのが
それも護廷十三隊の全体範囲レベルで問題になってます。
なにしろ主席と次席が二人揃って集まるという、そこそこ前代未聞の状態ですから。
他の部隊からの無言の圧力をヒシヒシと感じます。
私が講師をやっている事もあって「上手いこと誘導して囲い込んだんじゃないのか?」とか「青田買いがお上手ですね!」みたいな視線が突き刺さります。
――卯ノ花隊長は、本当にどうやってこの二人を引っ張ってきたんでしょうか?
当の本人たちは、入隊一年目ということもあって先輩に引っ付いて業務を覚えている真っ最中です。
この二人ならあっと言う間に成長して実績を積んで、席官まで登っていくと思います。
実際、物凄い手際が良いんですよ。
……コレを見ちゃうと、うん……他の隊に渡したくないなぁ。
卯ノ花隊長がお茶目すぎて困ります。
●入隊した子
イヅルは四番隊にいたことがあるので、ある意味で原作通り。
雛森は、卯ノ花さんがお茶目した部分(プラス本人の希望)で入隊。
(藍染より先に唾を付けられたので最終的にゲットです。交流の密度もこっちの方が多いですし。なるべくして来てしまった感じです)
この二人と同期で四番隊入った子は絶対比べられる……
●誰も困らないわよね
藍染は困ると思います。
が、内心どれだけ困っても「こ、これも計算のウチだから! 理由があるから!」って多弁になって強がってくれると思います。