お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第98話 とある霊術院生の決意表明

「……あっ!!」

 

 四番隊新隊長就任の儀と十一番隊新隊長就任の闘いが滞りなく終わり、一同解散となる直前、藍俚(あいり)は思い出したように叫んだ。

 

「た、隊長! ちょっとお聞きしたいことが……」

「おや、誰に向かってお尋ねですか? 湯川(・・)隊長?」

 

 少しだけわざとらしい言い方に、藍俚(あいり)は気付かされた。

 経過はともあれ、今の藍俚(あいり)は四番隊を率いる隊長となり、卯ノ花はもはや彼女直属の上司ではない。

 慣れ親しんだ間柄とはいえども、ある程度の線引きは必要だ。

 

「失礼しました、卯ノ花隊長。改めて、確認したいことがあるのでお聞かせください」

「なんでしょうか?」

「私が行っている霊術院の講師についてです。私の代わりに、誰か代理などは立てているんでしょうか……?」

「おや、何を言っているのです? あなたがそのまま続ければ良いではありませんか」

「いやいやいやいや! 無理ですってば!! 時間が足りませんよ!!」

「そこまで難しいですか?」

 

 きょとんとした顔で卯ノ花は問いかける。

 

「卯ノ花隊長が抜けて、副隊長だった私が隊長職に繰り上がりましたよね? この時点で副隊長に空きが出ますよね?」

「虎徹三席に任せれば良いのでは?」

「そうなると今度は三席に空きが出ます! 空きが出ないように全員を一つ上の席に繰り上がれば良いとお考えかも知れませんが、そんなことしたら席官全員の権限が大きくなります! 大多数の席官たちの仕事の範囲や責任が変わってくるんです! しかも事前通告なしで突然!! そんなの混乱するに決まってますよ!?」

 

 組織である以上、急に全員を一段階繰り上げるというのは、それはそれで問題になる。

 

「もう一つ、人数の問題もありますよ!? 上位の席官になるほど席が少ないんですから、全員を一律繰り上げるとなると定員の問題も出てきます! となると誰かがワリを食って昇進しなくなって、そうなると今度は"なんで自分は駄目だったんだ"というやっかみが出てきます! そもそも四番隊の人員構成が大きく変わりますよね!? その辺の周知や事前説明、相談なんかは四番隊の隊士たちにしていますか? 予想としてはしてないですよね!? だって隊長に推薦された当人ですら今日まで秘密にされていたんですから!!」

 

 いくらサプライズといえど、藍俚(あいり)が隊長になることを知らされたら、隠しきれず態度に出してしまう者が少なからずいる。

 だがそういった影を微塵も感じられなかったことから、藍俚(あいり)は自身の隊長就任を誰にも知らせていないのだと直感していた。

 

「そんなに面倒ですか?」

「だってどう考えてもその人事関係の仕事も私が片付けるんですよね!? 卯ノ花隊長は十一番隊に移動してそのまま残務仕事を担当せずに逃げるつもりなんですよね!?」

「あらひどい、そんな風に思われていたなんて……」

 

 よよよ、といった感じに羽織の裾で顔を隠す。

 だがそれは藍俚(あいり)の目には演技にしか見えなかった。

 

「じゃあ事務処理はしていただけますか?」

「私はもう十一番隊の隊長ですよ? 他隊の内部事情に口を挟むなど、恐れ多くてとてもとても……」

「ほらああああぁぁっ!! やっぱり逃げるんじゃないですか!!」

 

 一番隊の敷地内に、新隊長の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「それで、結局何が問題なんですか?」

「さしあたって問題になってくるのは、霊術院の講師役についてです。いくら非常勤とはいえ、もう私も隊長なんですよ? しかも現在、問題が山積みなんですよ? 四番隊(じぶんのところ)の内情が落ち着くまではオチオチ顔なんて出せません。それに私、今日から隊長になるって知らされていなかったから、今年も副隊長のままだと思って霊術院側の予定も立ててるんです! その予定表に大きな穴を開けたとなれば、色々と責任問題や信用問題になるんです!」

 

 隊長である以上、自分が率いる隊のことを優先しなければならない。

 だがそうなると霊術院講師の役目が疎かになる。

 しかも既に予定は決定していて、新学期の開始は明日である。

 そんなタイミングで「ごめんねー、やっぱり無理だからキャンセルでー」などと恥知らずなことを言えるはずもない。

 

「そんなに問題になりますか?」

「なりますって! 新入生が来るのは明日なんですよ!? 続けるにしても辞めるにしても、せめて初回は顔を出しておかないとまた問題になりそうです! でもそれで四番隊のことをないがしろにするのはもっと問題です!!」

「ああ……あの、あなたが何も知らない新入生をシメることで有名な……」

「失礼なことを言わないでください! アレは、ちゃんと上下関係を躾けているだけです!!」

 

 藍俚(あいり)が新入生相手に講義を始めるようになってから、おおよそ百年近い時間が経過していた。

 現在、単純計算でも瀞霊廷内の死神の何割かは彼女に教わっていることになる。

 さらにその一割くらいは、彼女に初日にボコられている計算になる。

 

「躾け、ねぇ……」

「それに私、隊長ですよ? 隊長が教員として定期的に教えるのってそれはそれでどこかに問題が出てきそうなんですが?」

 

 隊長が軽々しく動くというのは、それはそれでどこかから文句が出てきそうで、それも藍俚(あいり)は危惧していた。

 何しろ隊長と副隊長では権限も責任もまるで違うのだから。

 

「……わかりました」

「え?」

藍俚(あいり)は四番隊の問題に集中してください。代わりの人物は、私の方で用意しましょう」

「え……え……?」

 

 あまりにすんなりと要求を飲まれたことで逆に不安になり、生返事を零してしまう。

 

「あの……その代わりの人物というのはまさか、卯ノ花隊長が……?」

「いえ、違いますよ。ですが、適任者には心当たりがあります」

「心当たり、ですか……?」

 

 誰だろうかと首を捻るが"これぞ!"という相手については特に思い当たらなかった。

 だが早急に代理を用立てて貰えるというのなら、乗らない手はない。

 

「と、とにかく分かりました。四番隊内の取り纏めやゴタゴタが片付いたら、私の方から改めて霊術院側とお話をしますので。それまではその代理の方にお願いします。貧乏くじを押し付けたようで申し訳ありませんが、その方によろしくお伝えください」

「わかりました」

 

 翌日、藍俚(あいり)はこのときの決断を悔やむことになる。

 

 

 

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 あ、皆さん初めまして。

 俺の名前は――え、そんなことはどうでもいいから話を進めろ?

 

 分かったよ!

 

 とにかく俺は、今年霊術院に入ったばかりの新入生なんだ。

 ついさっき入学式も終わって、今は新入生全員が大講堂に集められている。

 

 基本的には緊張しているヤツが半分くらい。

 でも新入生の中には、そわそわと嬉しさを隠しきれない様子で待っているのもいる。

 もちろん俺も、そわそわして待ってる組だ。

 

 だってさ! これから凄い美人の先生が来るって話なんだぜ!!

 しかもその先生は、美人ですっごくおっぱいがおっきいって!!

 そんなの知っていたら、落ち着いてなんかいられないだろ!? だって美人でおっぱい大きいんだぜ!!

 

 なんでもこの制度は百年くらい前――あれ、もう少し短かったっけ? とにかく、そのくらい前から始まったらしくて。

 十一番隊志望かって聞かれて、手を上げるとぶっ飛ばされるらしいけれど。手を上げなかったら、その美人の先生に優しく稽古を付けて貰えるって話だ。

 最初のうちは霊術院の中だけの公然の秘密みたいな話だったんだが、人の口に戸は立てられないってやつさ。

 じわじわと噂が広がって、今じゃ結構な人数が知ってるんだぜ。

 

 勿論、俺も噂で知った組だ。

 

 しかもその先生は、護廷十三隊の死神。それもかなり高位の死神だって話だ。

 実力は確かで、教育者としての実績もあるらしい。

 おまけに上手くその人の目に留まれば、飛び級だって希望の部隊に配属だって、思いのままだってよ。

 だったら! なおさらしっかりアピールしておくっきゃないだろ!!

 

 周りでそわそわしているのも俺と同じ考えのヤツばっかりみたいで、腕前をアピールしたい奴もいれば、単純に美人の先生とお近づきになりたいだけってのもいるみたいだ。

 

 え? 俺はどっちだ? 俺は……こ、後者かな……?

 だって男なら、美人の先生って聞いたら仲良くなりたいだろ!?

 それに護廷十三隊には美人が多いって評判だしよ! その先生が駄目でもワンチャン、先生の友達とか紹介してもらえるかもしれない!

 美人の友達は美人! 常識だろ?

 

 あー……まだかなまだかな……

 

 そんな夢いっぱいの未来を妄想しながら、先生が来るのを待っていたんだ。

 そしたら俺の願いが通じたのか、大講堂の扉が勢いよく開いた!

 

「おう、新入り共。全員揃ってんな?」

 

 入ってきたのは、巨乳で美人の女教師という前評判とは似ても似つかない、とても恐そうな見た目をした男性の死神だった。

 

「俺は十一番隊の三席、斑目一角だ」

 

 じゅ、十一番隊!?

 なんで、戦闘集団と呼ばれた十一番隊の!! それも三席が来るんだよ!?

 おかしいだろ!?

 

「細けぇ話は抜きだ! 全員、オモテに出ろ!!」

 

 そうは言われても、俺たちの中で誰一人として外に出ようとした奴は……いや、立ち上がろうとする奴すらいなかった。

 全員、目の前の十一番隊の男に恐怖していたからだ。

 

 禿頭に加えて野性の獣みたいな鋭い目つきが、とてつもなく恐い。もう見た目からして泣きたくなるほど恐い。

 なのにその男から放たれる霊圧はとても強くて、同じ部屋にいるだけで息苦しくなってくる……!!

 

 恐い! この部屋から、この場所から、目の前の相手から全力で逃げろって、俺の中の本能が叫んでいる!!

 でもそれ以上の恐怖に身体が縛られて、指の一本も動かせない……

 泣くほど恐い……いや、涙くらいなら可愛いもんだ! 今にも漏らしそう……!!

 

「オラ、どうしたァ!! 駆け足!!」

「「「「「「はっはいっ!!!!!」」」」」」

 

 大講堂にいた全員が弾かれたように立ち上がった。

 緊張で身体をガチガチに固めていたところに、ドスの効いた大声で脅されて限界を迎えたんだろう。

 みんな、その場から逃げるように外に出て行く。

 

「おーし、外に出たな。それじゃ、お前ら全員ぶっとばしてやるからよ」

 

 俺が講堂から逃げだそうとした時に、三席の男がそんな恐ろしいことを言ったのが聞こえたんだ……

 

 ……殺される! 俺たちみんな殺されるんだ!!

 美人の女の先生なんていなかったんだ!! 畜生、騙された!!

 

 死神なんて……目指すんじゃなかった……話が、違うよ……

 

 

 

 

 

 

 それからおよそ二十分後。

 

「だ! れ! が!! 新入生を全員ボコボコにしろっていったのよっ!!」

「ぐおおおおおおっ!! 放せテメェ!!」

 

 外に出た俺たちは、斑目とかいう死神に全員ボコボコにされた。

 木刀とはいえ叩かれりゃ、そりゃ痛いよ。今まで体験したことないくらい痛くて、俺たちは一人一人順番に、あっと言う間に倒れていったんだ。

 

 そうやって全員が地面に倒れたところで、風みたいな速さで一人の死神が割り込んできたんだ。

 しかもその人は俺たちをボコボコにした三席の顔面を片手で掴むと、そのままぐっと持ち上げて動けなくした。

 

 信じられるか?

 仮にも相手は屈強な男なのに、まるで木の枝か何かを持ち上げるみたいに簡単にふわっと持ち上げたんだ!

 相手もその人の手首を掴んでなんとか引き剥がそうとしているけれど、ビクともしない。

 

 嘘だろ!? だってこの人、十一番隊の三席だぞ!!

 戦闘専門の部隊の中で、上から三番目に強い死神って事だぞ!

 なのに、まるで赤子の手を捻るみたいに簡単に無力化してる……

 それだけでも驚かされた。

 

 けれど何より驚いたのは、やってきたその死神は女の人だってことだ。

 隊長の証の隊首羽織を着て、長い髪を左右で括ってて、背が高いけれどスラッとしててすごい美人だった。あとおっぱいも大きかった。

 

 ……ひょっとしてこの人が、噂の美人教師なんだろうか?

 

「目が回るほど忙しい時に霊術院から緊急連絡が来て! 何かと思えばアンタが暴れてるから止めてくれって苦情だったときの私の気持ちが分かる!? こっちの不手際だからってことで引き継ぎやら状況説明やら新体制の説明やらをやっていたのを途中で中断して、泣く泣く霊術院まで来る羽目になった私の気持ちが分かる!?」

「割れる! 割れる!! それ以上(ちから)入れんな!! やめろおおぉっ!!」

「隊長に就任するのってもっとこう華々しかったり照れくさかったりしながらも、四番隊の皆に祝福されたりしながら所信表明とかするんだと思っていたのに! 蓋を開けたら山のような後始末が待ってて! これからの業務の割り振りやらでしばらくは忙殺されることが決定している私の気持ちが分かる!? こっちが無茶を言ってるのは分かっているから、部下の隊士が不手際を起こさないようにあちこちの現場にも走り回ることが決定している私の気持ちがわかる!?」

 

 な、なんだか物凄く呪いの言葉みたいなことを言ってるけれど……

 あの人、なにかあったんだろうか……?

 

「て、てめぇ! いい加減にしろ!! 大体だな、俺だって昨日突然言われたんだぞ!! お前の代わりにここで新入り共をビビらせてシメろ。話は付いてるから思い切りやれって言われたんだよ!!」

「はぁ!? どこの誰に!!」

「お前のところの元隊長だよ!!」

「は……?」

 

 あ、女の人の手から力が抜けた。おかげでようやく解放されてる。

 

 けど、なんとなく俺の予想は当たっていたみたいだ。

 本当はあの女の人が教師で、あっちの禿げてる人は代理……って事だろ? 話の流れからすると。

 

「卯ノ花隊長ぉぉぉぉっ!! せめてちゃんと説明してよぉぉぉぉっ!!」

 

 女の人は、頭を抱えながらうずくまった。

 

 

 

「はぁ、まあ……嘆いてばかりもいられないわよね……」

「痛ってぇな……ったくよぉ……!」

 

 たっぷり十秒くらい落ち込んでいたかと思えば、女の人が顔を上げる。

 男の方は頭に指の跡が付いてて痛そうだった。

 

「こっちだって、突然隊長が変わって大騒ぎだぜ? 更木隊長が負けたかと思えば、負かした相手は元四番隊の隊長だってんでよ。まあ、お前の師匠だと知って殆どの隊士は納得したが、それでも全隊長の前で戦って倒したって言われても、ピンと来ねぇよ」

「それはそうかもね。でも、私も現場にいたのよ。目の前で勝ったところを見てるんだから、断言も保証もしてあげる――って、そんな話をしてる場合じゃないのよ!」

 

 そう言うと女の人は俺の所に歩いてきた。

 

「君、新入生だよね? 一角が驚かせちゃってごめんなさい。立てる?」

「え……あ、は……痛ってぇっ!!」

 

 優しく差し伸べられた手を握ろうとして、全身に激痛が走った。

 

「大丈夫!? これは、肋骨……いえ、折れてはいない。(ひび)も無し。打ち身や打撲や擦り傷が多数……あ、これが原因ね。右腕に(ひび)が入ってた。動かさないで……すぐに治すから……!」

「オイ、俺も頭が割れそうに痛ぇんだが……あと首も……」

「アンタは最後! はい、君は動かないで。力を抜いて……」

 

 女の人が俺の傷口に手を翳すと、柔らかい光みたいなのが見えた。

 するとみるみる痛みが引いていって、怪我も骨折も嘘みたいに一瞬で治っていった。

 

「え……!? えぇっ……!?」

 

 驚いて思わず立ち上がったんだ。

 でも痛くない。

 さっきはちょっと手を伸ばしただけで泣きそうなくらい痛かったのに、今は全く痛くも痒くもない。まるであの痛みは夢だったんじゃないかって思うくらいだ。

 いつも通りに――いや、いつも以上に元気になってる!

 

「よし、大丈夫みたいね。それじゃ、治ったばっかりのところで申し訳ないんだけれど、他に倒れている子たちの面倒をお願いできる? 病院みたいに規則正しく列に並べてくれると、治療する側としてはとても助かるの」

「あ、はい……え、でも……女性もいて……俺なんかに触れられるのは嫌がるんじゃ……」

「あら、ふふ……紳士なのね」

 

 言われるままに動こうとして、女性もいることに気付いたんだ。

 だからどうしようかと思っていると、その人はとっても柔らかな笑顔を見せてくれた。

 俺のことを本当に思ってくれている笑顔だった。

 根拠はない、根拠はないけれど。でも俺は、その笑顔にドキッとさせられてしまった。

 俺よりも背が高いはずなのに、なんだか少女みたいな可愛らしい笑顔だった。

 

「大丈夫よ。だって医療行為のお手伝いなんだから。後で誰が何を言おうとも、文句は私が絶対に言わせない。だから安心して、ね?」

「は……はいっ!!」

 

 とてもとても力強い言葉だったんだ。

 だから俺は、その言葉を信じて夢中で手伝った。

 最初は"美人だったから"っていう気持ちもあった。

 でも途中から、この人の力になりたいって本気で思ったんだ。

 

 そうして、全員の救護が終わった。

 

「はいはい、一角も頭掴んで悪かったわよ。あんたもある意味じゃ被害者だったのよね……今度、何か一つくらいは言うことを聞いてあげるから。それで勘弁してちょうだい」

「その言葉忘れんなよ」

「あ、あのっ!!」

 

 最後のオマケとばかりに斑目って人を治してた時に、俺は思い切って声を掛けたんだ。

 

「あら、君は……ありがとう、君のおかげで助かったわ。そういえば自己紹介もまだったわね。私は四番隊隊長の湯川 藍俚(あいり)――隊長って言っても、昨日就任したばっかりなんだけどね」

「あ! はい、ありがとうございます! あの、そのそれで、お二人の……お二人の関係っていったい……?」

 

 名前を教えて貰って、ありがとうって言って貰えて。

 恥ずかしいけれど、俺の心は有頂天になってた。その勢いもあって、なんとか聞けた。

 

「関係? 私と一角の? うーん……同僚……かしら……?」

「……せめて"好敵手(ライバル)"くらいは言えよ」

「そう言って欲しかったら、まずは龍紋鬼灯丸を完璧に操れるようになってみなさい」

「んだとコラァ!!」

 

 そうやって喧嘩腰になれる姿を見ていると、同僚だけの関係とはとても思えなかった。もう少し仲の良い友人関係みたいな……

 でも、いいんだ。恋人とか夫婦とか言われるよりもずっとマシだ!!

 

 湯川隊長――この人と働きたい。この人の隣に立ちたいって思ったんだ。

 なんとなく死神になりたいってくらいの俺だったけれど、目標が出来た!

 

 この人が一番最初に俺に声を掛けてくれたのは、ただ単に俺が近くに倒れていただけにすぎなんだろう。

 でも俺にはそれが、月並みな表現だけど、運命の出会いにみたいに思えたんだ!

 

 四番隊か……ってことは救護とかだよな! その辺の授業も頑張らないと!!

 死神になって、この人の隣に立って!

 あと、あわよくばこの人を自分の物に出来たら……なんてな! なんてなっ!!

 

 

 

 けど悲しいかな。

 俺が湯川隊長と次に会えたのは、霊術院を卒業してからだったんだ……

 




卯ノ花隊長のお茶目っぷりに振り回された。
その尻拭い的なお話。

「どうやったら面白いかな?」と考えた結果。
後半部分を「名もなき新入生の一人称視点」にしてみました。
偶にはこういうのもいいかなぁ? と思って。

参考にしたのは「マユリに人間爆弾にされた新人隊士」の「独白」です。
(十四巻の「話が違うよ、涅隊長!」のあの子です。ちょいイケメンの)
(なので藍俚が来る直前の独白で「話が違うよ」と言っている)

というか、もうあの子でいい気がしてきました。
なのでここが彼の分岐点ですね。

四番隊に入れたら、人間爆弾ルートは回避出来ます。
しかも「憧れの雛森先輩」と同じ隊になれます。
(マッサージのおかげで)死神には美人がたくさんいます。
噂の美人教師は隊長の立場だけど色々教えてくれます。

……なんだ、彼ってば幸せになれるのね。

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