お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第99話 偉くなると露出も増える

「お、お疲れ様……」

「はい……お疲れ様でした隊長……」

 

 隊首執務室にて、私と勇音が死んでいます。

 いえ、ちゃんと生きてはいますけれど。気分的には死んでます。

 

 原因は勿論、突然の隊長就任による影響です。

 

 新隊長になって、四番隊全体の隊士の立場やらなんやらが一気に変わりました。

 しかも組織というのはTOPが動かないと末端は動きにくいわけですからね。私が必死で割り振ったり新体制を整えたりしました。

 

 結局、基本的には"皆で一斉に階段を一つ上がろう"といった感じで。

 副隊長だった私が隊長に。

 三席だった勇音が副隊長に。

 みたいにスライドさせていくことで片付けました。

 新体制になって、各席官たちの最初の仕事は"自分が直前まで就いていた席次の仕事の引き継ぎ"でしたよ。

 そうやって"下の子に仕事を教えつつ上の人から仕事を教わる"という形で手間を減らさないと、いつまで経っても組織が回りそうになかったので。

 

 それでも仕事量は膨大でしたけどね。

 きちんと片付いて、スムーズに回り始めるまで、三ヶ月くらい掛かりました。

 その間ずっと、問題があったら私があちこち駆けずり回ってました。

 

 ……一応、一回だけ卯ノ花隊長に文句言いに行ったこともあるんですけどね。

 のらりくらりとかわされて、全然話を聞いてくれなくて。

 ここで押し問答を続けるよりも、自分で走り回った方が手っ取り早いなぁって。

 

 それと、隊長になったので他部隊の隊長に挨拶とかしに行ったりもしました……ほとんどの部隊で顔を覚えられていて「よーく知っているけれど改めてよろしく」な空気をちょいちょい味わったりもしました。

 涅隊長には「時間の無駄だヨ」と門前払いされましたが、いっそ清々しかったです。

 

 とにかく。

 そういうことを積み重ねた結果が、隊長副隊長揃ってのグロッキー状態な訳ですが。

 

 

 

 もう一つ、霊術院についてです。

 結論から言うと、非常勤とはいえ隊長(わたし)がそのまま講師を続けるのは問題になりそうだということで、一時凍結となりました。

 今までは"なんとなく上手く回っていた"ので特別問題にならなかっただけで。

 今年は代わりに出た一角が一発目から"大暴れ"したこともあってか、疑問視する声が出たみたいですね。

 上の方できちんと制度を整え直してから、改めて決めるということで落ち着きました。

 

 ……その決定に何年掛かるのかは知りませんが。

 

 とにかく、四番隊で忙しい時期に合わせて霊術院のスケジュールも組み直しが行われました。

 当事者なので私もスケジュール変更に参加させられました。

 

 

 

 そして、四番隊業務を優先する関係上、マッサージも臨時休業となりました。

 女性隊士たちが悲鳴を上げたそうです。

 

 ……まあ、一番悲鳴を上げていたのは射干玉なんですけどね。

 おさわり厳禁が続いていたから、その、ね……

 

 

 

 そうそう。

 そんなお茶目っぷりを遺憾なく発揮してくれた卯ノ花隊長――もとい、卯ノ花 烈 十一番隊隊長ですが。

 

 剣八の名を名乗ってはいません。

 本人曰く「同じ部隊に同じ名前が二人もいるのは紛らわしいでしょう?」とのことです。また「剣八はその内に、私を乗り越えて真の剣八になるのですから」とも言っていました。

 そして更木剣八隊長は更木剣八副隊長に。

 ですが彼は地位よりも愉しい戦いこそが生きがいなので、一切気にしてません。

 草鹿副隊長は、一つ下がって三席になりました。これからは草鹿三席と呼ばないといけませんね。

 同じ席次になったからか、一角が物凄く嫌そうな顔をしていました。

 

 あと、綾瀬川五席が物凄く微妙な顔をしていました。

 なんでかしら?

 

 他に十一番隊で変わったことと言えば「斬魄刀は直接攻撃系のみ」という謎ルールが、跡形もなく消えました。

 何しろ新隊長の斬魄刀からして、直接攻撃系ではありませんから。

 加えて初代剣八が「直接攻撃系だから強いのではありません。最後まで立っていた者が強いのです」という"とても熱の籠もった命令"をしましたから。

 

 そう言えば、刳屋敷隊長の頃はこんな阿呆な暗黙の了解なんてなかった気がする……

 いつ産まれたのかしら、この無意味な風潮……

 

 とあれ「鬼道も斬魄刀もガンガン使いなさい。勝てば官軍、負ければ賊軍ですよ。ただし、十一番隊の誇りを穢すような真似だけはしないように」という命令の下、色々と改革が進んでいるみたいです。

 

 文句ですか? そんなの出ませんよ。

 だって"卯ノ花隊長は私の師匠"だと知った時点で、十一番隊の大半がビビって矛を収めましたから。

 それでも根性のある一部の隊士は「姐さんの師匠だからって姐さんより強いとは限らねぇ」と息巻いていたらしいですが、見せしめとばかりに上位席官を何人か一瞬で沈めて、反対意見を完全封殺したらしいです。

 詳しくは知りませんけど。知りたくもないです。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

「ようやくこれで、明日から通常業務に戻れるわね」

「もう執務室に泊まり込んで寝ずの対応をしなくて済むんですよね!?」

「ゴメンね、勇音にも迷惑を掛けちゃって……」

 

 副隊長になった途端、勇音は私を献身的にサポートしてくれました。

 今までも充分に献身的だったんですけどね。でもそれが、もっと熱心になってて。

 この三ヶ月は彼女がいなかったら乗り切れなかったです。

 

「お礼と気分転換を兼ねて、今日は定時で帰って何か美味しい物でも食べに行きましょうか?」

「ええっ!! い、良いんですか……?」

「勿論、遠慮しないで。他にも何か望みがあったら言って頂戴。何でも聞いちゃう♪」

「え、えっと……そ、それじゃあ……」

「先生! 失礼します!!」

「きゃあっ!!」

 

 勇音が指先をもじもじとさせながら、口を開こうとしたところに、雛森さんが飛び込んできました。

 

「えーと、雛森さん? いきなり部屋を開けるのは駄目よ? ほら、勇音がびっくりしてるから」

「すみません、先生。反省します」

 

 この子も、流石というか何というか。ガンガン出世してます。

 もう四席なんですよね。才能あるわぁ……

 未だに私のことを「先生」って呼んでくれるのは、嬉しいやら恥ずかしいやらなんだけどね。

 

 ……あら?

 なんで勇音は雛森さんのことを文句を言いたげな顔で見ているの?

 なんで雛森さんは勇音のことをちょっと勝ち誇ったような顔で見ているの?

 なんでちょっとだけ背筋が寒くなるの?

 

「それで、何か用かしら?」

「ああ、そうでした。あの、九番隊の方がお見えです。今日、お約束をしていたと……」

「九番隊……? 何か約束していたっけ?」

「えーっと……ああっ!!」

 

 私のスケジュールを確認してくれた勇音が、やらかしの悲鳴を上げました。

 

「すみません隊長! 今日、九番隊の方が瀞霊廷通信の件で来る予定でした……」

「あら、そうだったのね……完全に忘れてたわ……」

 

 あれだけ忙殺されていたからねぇ……これは勇音を責められないわ。

 私だって忘れてたし。

 

「すみませんすみません!!」

「いいからいいから、気にしないで。丁度良いタイミングだったし、応対は可能よ。それで雛森さん、九番隊の方はどちらに?」

「応接室でお待ちです」

「ありがとう」

「わ、私も行きますっ!!」

 

 席を立つと、何故か勇音も付いてきました。

 

 ……失点を取り返したいのかしら? 別に気にしてないのに……

 

 

 

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「お待たせしてすみません」

「いやぁ、こちらこそ。お忙しいところすみません」

 

 部屋で待っていたのは、檜佐木(ひさぎ) 修兵(しゅうへい)副隊長――通称、69の子でした。

 この子も霊術院時代から知ってる相手ね。

 

「さて、それじゃ早速ですけど。本題に入らせてもらいますね。今日来たのは他でもない、湯川隊長誕生の件について、瀞霊廷通信で取り上げたいと思いまして」

 

 檜佐木君が取材用の真面目な顔で提示してきたのは、やはり私に関することでした。

 

「瀞霊廷通信で……? もう、就任から三ヶ月以上は経ってるからとっくに旬は過ぎてると思うんだけど……いいの?」

「そこはまあ、この数ヶ月はお忙しかったことはこっちも知ってます。隊の業務優先ですから、無理矢理割り込むような不躾な真似はしませんよ」

 

 その気遣いは正直、ありがたいわね。

 

「そこで、遅れた分も含めて隊長の記事を大々的に取り上げようってことになったんですよ!! 巻頭カラーで独占インタビュー! 写真もたっぷり使って、どうせならグラビアなんかも撮りましょう!!」

 

 前言撤回……なんで?

 

「またまた、私の記事なんて誰も読まないでしょう? だからこの話はお断りということで……」

「「ええーっ!!」」

 

 そう言うと勇音と檜佐木君が同時に声を上げました。

 ……なんで勇音まで? 私のことなんて知ってるでしょう?

 

「頼みます! ホントに頼みます!! もう編集後記で湯川隊長の記事を取り上げるって匂わせっちゃってるんスよ!!」

「それはそっちの責任でしょう? それに私より先に卯ノ花隊長が……」

「卯ノ花隊長はもう"新生十一番隊"ってことで記事にしました!!」

 

 そうだっけ? 丁度忙しかった時期だから読み忘れちゃったかしらね。

 

「それにほら、湯川隊長の記事を取り上げて欲しいって意見も来てるんですよ!! ほら、これが証拠ですから!!」

 

 なおも必死で食い下がる檜佐木君は、なにやら取り出して私の前に差し出しました。

 

「これって……?」

「瀞霊廷通信の読者からの要望の手紙っスよ! 見てください、こんなにいっぱい!!」

 

 取り出したのは、手紙の山でした。

 なるほどね……コレ全部、私への手紙なのね……

 あ、この手紙、差出人に砕蜂って書いてある。

 

「……なるほどね」

「納得して貰えましたか!? それにほら、湯川隊長は昔に朽木家の出産に立ち会ったりで有名になりましたし。十三番隊でもなにやら大活躍したって聞いてますよ! あと、霊術院の講師もやってましたし!! その辺も含めて!!」

「69……」

「それはもう勘弁してくださいよ!! あと俺、ちゃんと誇りに思ってるんスから!!」

 

 学生時代の苦い思い出よね……数字の意味を院生たちに教えたのは私だけど。

 あんな数字を背負っていた六車隊長が全部悪いということで。

 

「と、とにかく! こんな風に意見やら要望やらもいっぱい来てるんです!! ということで、是非! お願いします!!」

「良いじゃないですか隊長!! やりましょうよ!!」

「そうっスよ! ほら、虎徹副隊長もこう言ってますし!! お願いします、俺たちを――九番隊を助けると思って!! 前隊長の庇護から外れた記念ですよ!!」

 

 庇護、されてたの私? ちょいちょい(てい)よく使われていたり、遊ばれていただけな気もするけれど。

 

 それに、過去に何度か記事になったこともあるから。別に良いんだけどね。

 でも、ちょっとくらいは意地悪しちゃいましょう。

 

「インタビューは問題ないけれど、グラビアっていうのはちょっと……」

「な、何でですか!! 男性隊士にも人気があるんですよ!! 今の自分を記録して、皆さんに見てもらいましょう! 隊長、美人なんですから!!」

「私としてはようやく新体制でスタート出来た四番隊の皆を取り上げて欲しいんだけど……あと、グラビアって檜佐木君の趣味よね?」

「何を言ってますことやら!? 俺は別に! ただの民意っスよ! 何より、そういう意見が多かった……」

 

 ――ちら。

 

「……だけ、で……おおっ!!」

 

 ちょっと胸元を緩くしただけなのに。

 ガン見されました。

 目と口元が完全にだらしなく緩んでいて、鼻の下も伸びてます。

 

「……はっ! ひ、檜佐木副隊長!! 不潔です!! 隊長も隠してください!!」

 

 ねえ、勇音?

 なんで反応が遅れたのかしらね?

 なんで私は胸元に二人分の視線を感じていたのかしらね?

 

「ここでそういう反応をしなければ、もう少し説得力があったんだけどね……」

 

 わざとらしく嘆息します。

 でも反応しちゃうのは男のサガよねぇ、わかるわ。すっごく分かるわ。

 

「あああああっ!! すみませんすみません!! なんとか、そこをなんとか!!」

「じゃあ、四番隊の皆も取り上げてくれる? そうしたら協力してあげるわ」

「……ぐっ! そういうことですか……隊長もお上手ッスね……」

 

 まあ、このくらいの駆け引きはね。

 私だって伊達に長年色々とやってるわけじゃないのよ。

 

「えーいっ! わかりました、わかりましたよ!!」

「うん、交渉成立ね。詳細は後日に改めてから詰めるで良いかしら?」

「まあ今日の所はそれで……でもその、本当に協力してくれるんですか?」

「まかせて。言ったからには手を抜かないわ」

 

 

 

 ――後日、取材の日と撮影の日。

 

「ねえ、普通も良いんだけど……こういう感じはどうかしら?」

「おおおっ!! い、良いんですか隊長!?」

「手を抜かないって言ったでしょう? あ、こういう表情でとかはどう……? 需要はあるかしら……?」

「あります! ありまくりです!!」

 

 インタビューを終え、その後の撮影の時です。

 最初は向こうの言う通りに大人しくて、真面目な感じの写真を撮っていました。

 ですが、じわじわと過激な感じにしてあげました。

 オマケで男の好きそうなポーズや格好を、自分から提案してみました。

 これが現場で好評で――まあ、男の心とかよく分かりますからね。

 ついでに色々とそそるような表情も添えてあげました。

 これもサービスの一環です。

 

 

 

 さて、そうして出来上がった最新の瀞霊廷通信ですが。

 

 私の注文通りに"新生四番隊特集"と銘打って刊行されました。

 インタビュー記事も私の物を中心にしてますが、隊の他の子たちも載っています。他にも勇音や雛森さんといった美人の隊士たちは、個別に写真も掲載されています。

 

 あ、この雛森さんかわいい。

 自分の可愛い魅せ方を知ってるって感じがするわ。女って凄いのね……

 

 吉良君は……もうちょっと頑張って。せっかく写真撮って貰ってるんだから。

 でもちょっとマニア受けしそうではあるわね。庇護欲をかき立てられそう。

 

 勇音も、もう少し頑張りましょう枠ですかね? 緊張しちゃってる。

 でもこの慣れない恥じらいと初々しさは今だけだし、凄く可愛い。

 ギャップが良いのよねぇ……思わず抱きしめたくなるわ。

 

 ただ、残念なことに。

 私のグラビア写真は載っていませんでした。

 掲載されていたのは、インタビュー中の写真や普通に凜々しい写真だけでした。

 うーん、これは……東仙隊長が"待った"でも掛けましたかねぇ?

 

 そういえばあの人、盲目の筈なのにどうやって編集長をやってるんでしょうか?

 チェックとか出来ないですよね??

 

「まあ、こんな物よね。結構頑張って色んなポーズとか取ったんだけどなぁ……」

「そ、そうなんですか!?」

 

 隊首執務室で勇音と二人、瀞霊廷通信に目を通しながらそんなことを話していました。

 

「ええ、まあ。こう……肌の露出とかも多少多めにして。男性隊士がグッと来るような、男の期待に可能な限り答えたつもりよ」

「ぐ……グッっと来るような……」

「あら、興味がある? まあ、詳細は省くけれど、撮影現場はすっごい熱くなってたわよ」

「すごい熱く……ですかぁ!?」

 

 あら? どうしてこんなに顔を真っ赤にしてるのかしら?

 なんで今一瞬、生唾を飲み込んだの?

 

「す、すみません! 私、ちょっと出てきます!!」

 

 と思ったら急いで部屋を出て行ったけれど……何かしらね?

 

 ……あら? 瀞霊廷通信の最後に、何か記事が……これって……

 

 私の写真集を急遽発売? 今回の特集でお蔵入りになった写真が満載?

 フォーマル版とアダルト版の二冊を同時刊行?

 湯川隊長の魅力がこれでもかと詰まった垂涎の一冊?

 数量限定販売! 特にアダルト版は男性隊士は予約必須! 重版予定は一切無し!

 隊長に勝てない男性隊士諸君にこそコレを見てほしい!

 

 って書いてあるわ。

 

 ……え、まさかこれを予約しに行ったの? まさかね……

 

 

 

 後日、聞いた話ですが。

 どうやら売り切れたそうです、私の写真集。

 しかも「第二弾はまだか」や「重版を掛けろ」とか「見損なったぞ檜佐木修兵!」に「我々には知る権利がある!」で「この69が!」と「入れ墨通りのムッツリスケベか!」みたいな意見が殺到してるらしいですよ。

 

 ……私、しーらないっと。

 

 

 

 

 

 

 そういえば射干玉、あなた今回はやけに大人しかったわね?

 

『ハァハァ……藍俚(あいり)殿の写真集ハァハァ……おおっ!! こ、これは隠されているからこそ妄想が! ですが下を知ってる拙者には丸見えスケスケでござるよ!! ピンク色! ピンク色が!! これが(いそ)(あわび)の片思い!!』

 

 ……見なかったことにしましょう。

 




(感想からネタを拾ってしまったのですが、これでいいのかしら……?)

●写真集
アダルト版はきっと

【挿絵表示】

とか

【挿絵表示】

な写真がてんこ盛り。フォーマル版は普通に凜々しい写真。
(これを見せたかっただけだろ、と言ってはいけない)

●写真集2
(日番谷の(隠し撮りした)写真集が完売とかしてるらしいので)
藍俚も人気があってもいいと思う。
まず死神として在任歴が長い。
100年くらい先生やってる。
ので、凄く顔を知られてるはず。

●磯の鮑の片思い
一方は無関心なのに、一方は恋い慕っている状態のこと。

決して、なんだかスケベな意味の言葉ではない。

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