「ヤコ! 食事に行くぞ!」
ある日の放課後だった。突然……なのはいつものことだけど、あろうことかネウロが私を食事に誘った。普段の私なら、訝しんだだろう。だが、その日の私は普通では無かった。あろうことか遅刻を回避するために朝ご飯を抜いてしまったのだ。お腹が空いていた。ネウロはそれを見抜いていたんだろう。私の二つ返事のスピードにも負けないくらいの速さで、それを発動させた。
「魔界777ツ
暗闇が私達を包み込んだ。……いや……正確には私達だけでは無かった、みたい。
ある日の放課後だった。僕は自分の部屋でデッキを調整していたんだ。明日城之内君達とデュエル大会を開くことになっていたからだ。明日を楽しみにしながら、魔法カードを1枚入れるか入れないか、そんなことをもう一人との僕と相談していた時だった。暗闇が僕達を包み込んだかと思うと、一筋の光が奥へと続いていたんだ。明らかに僕の部屋ではない、別の空間。
「何者かが俺達を呼んでいるようだな」
「行くしかない……みたいだね」
僕達は戸惑いながらも、導かれるように光のロードを進んでいったんだ。
ある日の放課後だったのだ。あおいはピッチャーとしてマウンドに立っていたのだ。
「にゃんこボールなのだ〜!」
「…………」
「ああっ! あっさりホームランにされたのだ〜!」
「……あおい。そろそろ真面目にやろう」
今日はコンビ練習であおいはいつものように九十九と組んでいたのだ。そろそろにゃんこボール2号をお披露目しちゃおう、なんて考えていた時だったのだ。暗闇があおい達を包み込んだのだ。九十九は困惑してるけど、あおいは実は既視感があったのだ。夢か現か、それすらも分からないけど、確かな記憶。土管のような穴の先で、キツネと繰り広げたチンチロリン。あの光の先には同じような光景が待っている気がしたのだ。
時間は覚えていない……。闇が迎えに来た。
「うわっ! どうなってるんすかこれ!?」
「さあな……」
「さあなって……。そんな他人事みたいに……。どこからも出れないんすよ〜!?」
「出口ならあるだろ。目の前に……」
「目の前って……ええ〜!? ちょっ、待ってくださいよ! アカギさーん!」
治が騒いでいるが、進む他に選択肢が無いのは明らかだ。わざわざ不吉な光が照らしてくれている。オレは進んだ。
「料理はどこ……?」
「味わえるのはもう少し先だ。イビルレターの案内先は招集された者の勝負を成立させる場所……。もっとも我が輩、どちらも指定していない。インスタントを喰らうつもりはないからな」
「……!!」
私はようやく気付いた。これはネウロの食事だ。海鮮料理か、中華料理か。バイキングなら
「……でも『謎』じゃなくても食べられるの?」
「勝負で生み出される謎もある。……そうだな。ヒステリアの爆弾に近い」
(……なるほど。知性・悪意・向上心が欠けることなく、詰まってるってわけね。爆弾も、勝負事も)
「……さあ、着いたぞ。ここが……今日の料亭だ」
「えっ!? ここって……?」
トンネルのような永遠に続くかと思われた空間は意外にもすぐに開けた。その先にあったのは……雀卓だった。
「ほう……。麻雀か」
「やったことあるの!?」
「無い」
「無いって……勝負成立させるとか言ってたのに!?」
「ランダムに選んだ者が共通して精通している勝負などあるものか……。あくまで成立させるだけだ」
(さすが魔界の道具……。相変わらず融通が効かないっ!)
「あんたはそれで平気なの……?」
「我が輩を誰だと思っている……? 魔界の謎を喰い尽くした男だぞ——」
私は、息を呑んだ。麻雀は詳しくないけど、知恵を使った勝負であれば、ネウロは負けない……。そう思えたからだった。
「わっ! こんな空間に繋がってるなんて……。それに君達は……?」
「麻雀なのだ……!? やっぱりあおいの勘は当たってたのだ!」
「まさか本当に賭け事とはね……。この方達は……?」
「誰なのだー?」
「……ああっ! これって……! なんでこんなところに……!? って他にも人がっ……!?」
「ククク……」
鬼が出るか蛇が出るか……そう思っていたが。一見愛想の良い、物の怪の巣だな……。
「アンタがオレの相手か?」
「いえいえ! わたくしは先生の助手でございます」
「ちょ、ネウロ……!」
「ふーん……。オレ達を呼び寄せて、何が目的だ……?」
「え! アカギさん……! この人達ももしかしたら僕らと同じかもしれませんよ!」
「落ち着きすぎている……」
「は……?」
「動揺が皆無……。ここまで異様な手段で連れて来られて、見知らぬ者が現れたら普通お前のように警戒する。この二人にはそれが見受けられない……」
「うっ……!」
(ね、ネウロ! いきなりバレちゃってるよ……!?)
(……ふむ……)
「……お察しの通り。招かせていただきました」
「目的は?」
「見ての通り。打ってもらうだけで構いません」
「…………」
……分かることの方が少ないが、分かることもある。今オレ達に逃げ道は無い。そして後にある保証も無い。この言葉が嘘であれ、真実であれ。道は一つ。歩くさ。オレはオレらしく……!
これから始まるゲームと良く似たものを僕は知っている。でも、なんだろう……。似て非なるもの、そんな感じがしたんだ。
(だな……。これは闇のゲームじゃない。俺もそう思うぜ。……だが)
(うん。それでも何が起こるか、分からない。目の前のゲームに集中しよう)
(ああ)
あの時と同じように大事なものを賭けさせられるのだろうか。片付けたばかりの夏休みの宿題で済めばいい。両親そのものや家族との記憶などを賭けられては堪らない。あおいの中には期待と不安が入り混じっていたのだ。来るまでは期待の方が大きかった。いざ来てみれば……不安が心の中に広がってきた。
「……約束してほしいことがあるのだ」
「なんでしょう?」
「もしあおいが1位になったら、みんなを元の場所に返してほしいのだ」
(……丁度いい)
「宜しいでしょう。1位になった者のみ、敗者に要求を一つ行う。敗者はそれを断ることが出来ない。これをルールとします」
「その言葉、
「あおい……」
九十九がなんとも言えない表情で見つめてくる。分かってるのだ。こんな口約束に大して意味はないことを。それでも、確認せずにはいられなかったのだ。
説明しても信じてもらえないだろうけど、ネウロの言うことは本当だ。ネウロはただ人間の可能性を垣間見たいんだ。あるべき段階をすっ飛ばしているけど、ネウロは人を殺さない。帰さない、というだけじゃなく。記憶なんかを賭けたりもしない。忘れるということは、進化をも忘れてやんわりと死ぬということだからだ。
「……質問が済んだところで、ルールの説明といきましょう。といっても単純です。半荘戦をやっていただきます。トビは無し。任意のタイミングでパートナーとの交代・相談も可能です。望むのであれば、他グループへの会話を遮断する仕掛けが施されています」
「交代って……。あの男の子だけ、一人なのだ」
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
「え?」
どうやら彼女は年齢的には先輩に当たるみたい、そんなことを考えながら僕は首から下げた千年パズルに手を伸ばした。
「……俺達は二人で一人だ。どうやって貴様がそれを見抜いたか、気になるところだがな」
「ふふ……」
「……??」
ちょっと喋り方が年上兄ちゃんぽくなったけど、男の子が一人なのは変わんないのだ。……よく分かんないけど、納得してるみたいだから触れずにおくのだ。今分からないこと全部を分かろうとする余裕なんてないのだ。
「さぁ……俺とゲームをしようぜ!」
俺は威勢よくそう宣言した。麻雀、というゲームのルールを知らないとは今誰も思わないだろう。あるいは結果次第で罰ゲームが執行される可能性がある。聞いても嘘を吹き込まれる可能性は低くない。それより、情報でアドバンテージを取られてしまうことを避けたんだ。
(大丈夫。僕達ならいけるよ)
(ああ! 共にいくぜ! 相棒!)
こうして俺達の決闘が始まったんだ。