「さて、俺たちは負けた……」
「ルールに則った勝負の結果だ。逃げも隠れもしないぜ」
「そ、その通りなのだ! ……でも、命だけは見逃してほしいのだ……」
「そ、そんな。命だなんて! ね、ねえ。ネウロ?」
「……それを決めるのは我輩では無い」
「まさか
手加減の知らない魔界道具のもたらす末路を想像して、私の背中に嫌な汗が滲み出てきた……。
「忘れたか? 要求を行うのは1位になった者のみ。この場でその条件を満たす人物はたった一人しかいないだろう」
「えっ。それって……」
「上質な味だった。それは貴様への褒美だ」
危害を加えるつもりはない、とは思っていたけど。私はようやく理解した。これは……一生に一度の食事なんだって。
「……じゃあ要求しますね」
「ごくりなのだ……」
「皆さんのことを、話して下さい」
「……へっ。そ、それだけなのだ?」
「要求は一つだけだったはずだぜ。それで良いのか?」
「はい。ええと……私、実は女子高生探偵をやっているんですけど、まだまだ未熟者でして……。きっともうこんな出会い無いから。良ければ知りたいんです。色んな人の、色んな人生を」
「オレは過去を語るのは性分では無い……」
「……!」
「だが、勝者の要求だ。良ければも何も無い。語るさ。お望みであればな」
「あおいもノープロブレムなのだー! あおいと同じくらいで探偵やってるなんて凄いのだ!」
「俺もだ。俺自身、どんな人生を送って来たのか探っているところはあるが……」
「そういう相談に乗れるようになれたら、と思っているので……お願いします!」
「……ああ。分かったぜ」
こうして私はみんなから話を沢山聞かせてもらった。時間にしたら1時間も経って無かったと思う。
「——というわけであおい達は甲子園目指して、日夜眠る時間も惜しんで頑張ってるのだ!」
「最後の部分は気にしないでください。睡眠不足は運動に悪い影響しか与えないので、ちゃんとスケジュールを管理して行なっています」
でもみんな本当にビックリするくらい違う人生を歩んでいて。想像もしないようなことをしていて。ネウロが人間の可能性に惹かれているのも分かるくらい、限界や当たり前なんて言葉を置き去りにしていて。全く違う人生を送ってきた人達が関わりあうからこそ、抱える事情が複雑で、簡単には理解出来なくて、だから私はもっと色んな人の価値観を知りたいなって思ったんだ。
「探偵! 急でワリぃけど、今日の夜空いてるか? 望月のオッサンがメンツも揃ってねえのに勝手に麻雀の予定を入れやがったんだ」
「麻雀かあ……」
イビルレターの効力が切れてからというものの、あの人達とは会っていない。女子高生じゃなくなったから、ただの探偵になった今でもふとこの時のことを思い出すことがある。一期一会なんて割り切るには衝撃的なことばかりだったけど、そんな衝撃的なことでも長い人生の中では一瞬で、でも確かにあった大切な
「久しぶりにやろうかな。自風牌狙われないようにしなきゃ」
「あ?」
「ふふっ。なんでもない」
気まぐれな招待を受けた私はもしかしたらあの人達と会ったりして……なんて思いながら、食事に行ったんだ。