白と銀の混じった艶やかな毛並み。
あの時は光の加減でハッキリと見えなかったターコイズブルーの瞳は様々な感情が入り交じってか細かく揺れていて。
足首が辛うじて見える位の白いワンピースの胸元に(尻尾に着いているものと同じ)黒いリボンが揺れている。
目の前のネコの正体が分からず、吾輩は金縛りにあった様に動けなかった。
「……あの!」
目の前の少女が唐突に、往来を人間の気を引いてしまう程の声を上げた!いや、恐らく吾輩が考え込んでる間に何度か呼び掛けがあったのだろう。
「貴方は、先程私達を暴漢から守って下さったお方ではないですか…?」
!?
き、気付かれている!決して明るみに出てはならない吾輩の正体がヴェールの向こうから覗かれている!?
吾輩はとりあえず「あー」とか「うー」と悩むフリをしながら(実際悩んでいるのだが)今自分がどの位マズイ状況に置かれているか考えを巡らせた。
今現在、後ろに聳える吾輩の家では1時間内に爆発炎上する様に仕掛けられた自爆装置が作動していて、
目の前の少女は吾輩の犯行を直に見ており、
吾輩は今まさに似顔絵付きで指名手配されかかっていて、
吾輩の"正体"は決して明るみに出てはならない。
…………………………。
「あの……?」
少女が、何を思ってかこちらを心配するかの様に再三声を掛けてくる。
唐突に吾輩は思い付いた!
目の前の少女が何故吾輩を追跡出来たのか、
どうすればここから証拠を隠滅出来るか、
その2つの問題を完璧に解決する方法をである!!
「あの……、丁度今お茶が湧いている……。上がっていくのが良いだろう…。」「は、はい!」
吾輩は、産まれて初めて女子をお茶に誘った。
所々染みが付いたフローリングの床には、しかしそこに置かれた様々な形の花瓶が隠しつつ彩りを与えている。
リビングには少し大きすぎるテーブルと背もたれの長すぎる椅子が少女には奇妙に思えたらしい。
吾輩が歩いた後を目をキラキラさせながら付いてきた少女は吾輩が引いた椅子に座り、「面白いですね!」と言っていた。
男の部屋に上がり込んでおいて警戒心を見せない少女を内心怪しみながらも家に残っている中で1番良いお茶を点てる。
吾輩の作戦、名付けて"クレマチス作戦"は少女をお茶やらお菓子やらで引き止めて、そのまま家の自爆で木っ端微塵になってもらおうという最高に冴えた作戦である。
少女が笑顔の裏で何を企んでいようが家に残る証拠と共に消えてもらう。特にこれといって大義がある訳でもないがこちらの保身の為ならば致し方あるまい。
頃合いを見て急須に入れた茶と湯のみ2つ、吾輩イチオシのお菓子店"又旅庵"のチョコレート最中を盆に載せてテーブルに運ぶ。
さて、唐突だが今から何が起きるか伝えよう。
耳をつんざく様な銃声が轟き、部屋中に穴が穿たれたのである。
出来るだけ早く投稿しようと思ってはいたのですが中々気恥ずかしくて上手くいかない。
どうせ誰も見ないだろうけど恥ずかしい物は恥ずかしいんですわ。でも楽しい。