「うーん...ここは....」
俺は気づけば、宿屋のベッドに寝かされていた。
実はあの後、今までの疲れが出たのか急に眠たくなってその場に倒れて寝てしまったのだ。
「セーニャ、起きたの?」
姉ちゃんが俺の顔を覗き込むようにして立っていた。
なぜだか、俺の体が震えて、呼吸も乱れてきた。
デンダに無理やり魔力を奪われたときのことを思い出してしまったのだ。なんとか落ち着こうと、体を縮こませて蹲ったが、止まる気配がない。
「もう、大丈夫よ安心しなさいセーニャ」
姉ちゃんが俺の布団に入ってきて、背中から抱きしめてくれた。
ああ、まただ。俺はまた姉ちゃんに甘えようとしている。本当は俺が姉ちゃんを守らなければいけないのに。
どのぐらい時間が経ったのだろうか。姉ちゃんは俺が落ち着くまでずっと抱きしめていてくれたら。いつのまにか体の震えは止まって、呼吸も落ち着いていた。
「落ちついた?」
「うん、もう大丈夫だよ」
「じゃあ、セーニャの服を買いに行きましょ、そんな服じゃ気持ち悪いでしょ?」
俺は服なんかいらないと思ったが、小さくなった影響で服がブカブカになってしまっていることを思い出す。
防具屋についたが姉ちゃんの気に入った服はなかったみたいだ。
「うーん、セーニャに似合いそうな服がないわ」
「俺は着れればなんでもいいよ」
「セーニャは可愛い服を着ないとダメよ。...そうね、サマディーに行けばセーニャに似合う服もあるかもしれないわね。それに勇者が来るまでの時間、どこかで暇をつぶさないといけないし」
「わかったよ、姉ちゃん。じゃあ明日にでも出発しよう」
(サマディーか。ファーリス王子の厄介ごとに巻き込まなければいいけど....ま、今の時期は大丈夫かな)
サマディーには上手いデザートがあるといいなあなどと思いながら宿屋に戻る道を歩いていると、おにごっこをしていたらしい少年が話しかけてきた。
「あれ、君見ない顔だけどここの子?オイラたちと一緒に遊ばない?」
(この少年、よく見ると原作キャラのテバだ。ということは、向こうにいるのがサキか)
「ああ、ごめん俺、先を急いでるんだ」
「ええ、いいじゃんか。ちょっとだけだからさ」
「あら、セーニャあたしは宿屋で待ってるから遊んできてもいいわよ」
俺は今更子供の気分になって遊ぶなどしたくなかったため断ろうとしたが、姉ちゃんがこう言ってしまっては仕方ない。
「しょうがないなあ...ちょっとだけだよ」
「わーい!ありがとう!オイラはテバ!ねえ、君の名前は?」
「セーニャだよ」
「じゃあセーニャがおにだよ!オイラたち二人を捕まえるんだ!」
テバとサキ二人が元気よく逃げていく。
「やれやれ、子供が俺に勝てると思っているのかな?」
俺は日没まで、テバとサキと遊んだ。テバとサキは、優しくてとても良い子だった。
「またね!セーニャ!」
「俺も結構楽しかったよ!じゃあね!」
テバside
オイラはさっきの子が去っていった方向をしばらく見ていた。
(さっき一緒に遊んだセーニャって女の子可愛かったなあ)
ちょっと大きめの服を着てたのも男みたいな話し方をしてたのも自分を強く見せようとしているようで可愛いと思った。
「また、会えるよね....」
俺は疲れ切って姉ちゃんの待つ宿屋に帰った後すぐに寝てしまった。
そして翌日起きて、宿屋で朝ごはんを食べた後にサマディーに向かうために里を出発した。
サマディーに向かう途中、珍しい魔物を見つけた。
「姉ちゃん!メタルスライムだよ!」
「なんとか倒したいわね...これでも食らいなさい!」
姉ちゃんが持っていた杖でメタルスライムを殴ろうとしたが避けられてしまった。
メタルスライムは今の攻撃に怯えてしまったのか、すごいスピードで逃げていった。
「逃げられたわね」
「まあ、これはしょうがないよ」
気を取り直して、歩いているとサマディーが見えてきた。
サマディーの中に入ってみると、何か街が賑わっているようだった。
「なんか街が随分と賑わってるね」
「ははーん、なるほど.....」
姉ちゃんが思わせぶりなことを言った。何か知っているらしい。
「今は年に一度行われるレースの真っ最中のようね。きっと今はそれで 賑わってるのよ、ちょっと見に行かない?」
姉ちゃんはこう言っているが俺は早く服を着替えたかった。
「姉ちゃん、今はそれより俺の服を買いに行かない?いい加減着替えたいんだ」
「それもそうね。じゃあ行きましょセーニャ」
俺と姉ちゃんは防具屋を探すために歩き出す。
防具屋に着いて品を見たが、俺に似合いそうな服はないと思った。だが姉ちゃんにとっては違ったらしい。
「セーニャ!これ!これよ!絶対セーニャに似合うわ!」
見てみると姉ちゃんはとんでもない服を嬉しそうに持っていた。
「嫌だよ!姉ちゃん!そんな服、ほぼ裸同然じゃないか!」
姉ちゃんが持っていたのは必要最低限のところしか隠されていない服。いわゆるおどりこの服だった。
(原作のセーニャはこんなものを何の恥じらいもなく着ていたのか)
「ええ?でもセーニャが着れそうな服はここにはこれしかないわよ?」
姉ちゃんが意地悪そうな笑顔を浮かべてそう言った。
「ぐっ...」
そうなのだ。よりによって女性が着ることが出来そうな服は今はこれしか売っていなかったのだ。
「はあ、じゃあもうそれでいいよ。ただし条件があるよ」
本当に仕方なく俺はある条件付きで我慢することにした。
「条件?何かしら」
「姉ちゃんにも、同じ服を着てもらうよ」
「あ、あたしもこの服を⁉︎」
姉ちゃんが狼狽えた様子でそう言った。そんなことを言われるのは想定外だったみたいだ。姉ちゃんは少し考えていたようだったが、やがて決心したようにこう言った。
「わかったわ!セーニャにだけ着せるのは不公平よね。あたしも着るわよ!」
俺と姉ちゃんは、おどりこの服を購入してまずは姉ちゃんが装備した。
「姉ちゃん...可愛い....」
そこにはおどりこの服を装備した姉ちゃんが足をくっつけて顔を赤らめながら恥ずかしそうに立っていた。原作のベロニカは露出度の高い見た目装備がなかった。そのため今の姉ちゃんを見ていると背徳的でいけないモノを見ている気分になる。
(完全に舐めていた。おどりこの服を装備した姉ちゃんの破壊力を)
たが俺は心配にもなっていた。姉ちゃんのこの姿を見た街の男たちが劣情を抑えきれず姉ちゃんに襲いかかるかもしれないと。
「は、恥ずかしい.....もう!セーニャにも着てもらうわよ!」
「もちろん、わかってるよ」
俺もおどりこの服を装備した。
なんだろう。自分でも似合ってるとは思うけど、姉ちゃんに比べれば霞んでしまっているような気がする。
「似合ってるわよ!セーニャ!」
姉ちゃんが可愛い笑顔になってそう言った。
(姉ちゃんは本当に可愛いなぁ、この笑顔を守るために俺は頑張ろう)
大丈夫よ、セーニャは今は小さいんだから誰もエッチな目で見ることはないわよ。それにもしそんな奴がいたら、あたしがぶっ飛ばしてやるわ!」
(確かに男にそういう目で見られるのは怖いけど、その心配は姉ちゃんの方が要りそうだよ)
「お二人とも、よくお似合いですよ!
防具屋の女主人に言われて俺たち二人は少し照れてしまった。
俺と姉ちゃんはしばらくの間サマディーに滞在することにした。
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