踏み台貴族の俺はなぜか悪役令嬢に目の敵にされている。   作:

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1話 かませ犬VS悪役令嬢

 俺の通う学園には、とある有名な公爵令嬢が通っている。

 彼女が“有名”なのは、王国一の大貴族の長女であるという肩書きもあるが、その最も大きな理由は――。

 

  

「――そこの貴方!入学試験で首席だったって聞いたわ!今すぐ私と魔術の試合で決闘しなさい!」

 

 

 この何者にも平等に向けられる、勝気で負けず嫌いな性格である。

 

 自分よりも上の実力を持つものを叩き潰さずにはいられない。その容赦の無さは、あらゆる場面で自身の上に立つ人間に例外なく向けられた。その抜群の行動力に天性の才能が加わり、いつしか彼女を上回るものは居なくなった。

 

 ……という話を俺が聞いたのはその公爵令嬢――クラリス様に俺がその矛先を向けられた時から、しばらく経ってからのことだった。

 

 そんなわけで、しばらく最強の座を欲しいままにしていた彼女からすれば、俺は久々に見つけた格好の『好敵手(ライバル)』だったのだろう。

 

 隠れた壮絶な努力の末、晴れて王国最高峰の魔法学校に進学し、奇跡的に入学試験で首席を勝ち取った俺は、貴様を逃がすものかという猛獣の如きギラギラとした瞳にじっと見つめられていた。

 

 今思えば、わざと点を落としてでも、俺は首席になる事を回避すべきだったのだろう。高貴な貴族の家の後継ぎに生まれたと言っても天下の公爵家からすれば道端の犬っころに過ぎない。公爵令嬢の誘いを断れる訳が無いし、ましてや公爵令嬢との勝負に勝って良い訳がないのだ。

 

 だが、ここに来るまで僻地の城で未来の領主として魔術の修練を積んでいた俺が彼女のことを知るはずがなかった。それになにより――。

 

  

「……いいだろう。誰だか知らんがこの俺に挑むとは。中々骨のある女じゃないか」

 

 

 ニヒルな笑みでそう言って、公爵令嬢に躊躇なく顎クイする俺。

 

 

 

 そう――あの時の俺は余りにも調子に乗りすぎていたのだ。

 

 

 

 

  あれから、人気のない校舎裏の開いた場所にやってきた俺は、距離を置いて、俺に決闘を申し込んできたあの女と向かい合っていた。

 

 ちなみに、俺の頬にはくっきりと赤く紅葉のような手形が浮かんでいる。頬が焼けたようにヒリヒリする。くそ、あの女……本気でビンタしやがった。

 

「決闘開始の合図はコイントスで行うわ!コインが地面に落ちたらスタートね!」

 

「ふん。いいだろう……」

 

 彼女は機嫌悪げに頷く俺を確認すると、親指でピンとコインを弾いた。空高く飛び上がるコインはゆっくりと落ちていき――。

 

 小気味良い金属音と共に地面に落ちた瞬間、バックステップで距離を取ろうとする俺。しかし対照的に、彼女は一気に地面を蹴ると俺に迫った。

 

 魔術師同士の決闘なのに一体何を考えてるんだ?と思いつつ、俺は冷静に術式を組んで迎撃する。

 

『水弾(ウォーターボール)』

 

 俺の得意魔法である水属性かつ、最も発動時間が短く、使い勝手の良い初級魔法だ。俺は30センチほどの小さな水の玉を6つほど彼女目掛けて射出する。すると彼女は虚空を掴むような動作をして――どこに隠し持っていたのか、いつの間にか大きな剣を持っていた。

 

 見たことの無い魔法だと思った。だが今はどうでもいいと切り捨てる。鉄生成くらいなら出来る人間は少なくない。

 

 彼女は大剣に魔力を纏わせ、燃え盛る炎を発現する。そして、瞬く間に俺が発射した水弾を蒸発させながら、全て叩き斬った。

 

 その時の俺が、前の学校では彼女を上回るものはいなかったという噂を知っていたら、なるほどとすぐに肯定しただろう。彼女は確固たる才能の持ち主であり、技術力も伴った絶対強者であると。そう、確かに――“俺以外には”勝てるはずがないと。

 

 俺は伊達に入学試験首席ではない。我ながら嫌らしいほどに狡猾だった。こういう時のためのトラップを常に幾つも用意している。そして、彼女はその一つを気が付かずに踏んだのだ。

 

 俺は静かに魔力を操作する。

 彼女に叩き切られ、蒸発あるいは散乱した水の粒子が一つに集合し、彼女の死角で大きな水の塊を作った。そしてソレを変形させる。

 最も効率よく相手にダメージを与えられる形に創造――それは大きな槍。

 

 俺との距離を詰め、あともう少しで俺にその剣が届くかという所で、水の槍は後方から彼女を穿った。

 

「っ!?」 

 

 彼女は勢いよく地面に叩きつけられた。 

 といっても、もちろん手加減はしてある。槍と言っても貫通するような形状ではなく、怪我のない程度に打撃によるダメージを与える形状に調整していた。槍を撃たれた彼女は体全体を水で叩きつけられ、立ち上がることすら出来ず、力なく地に倒れ伏している。

 

「……くっ、ま、負けたの……?この私が……?」

 

「ハッ!当たり前だ。なんたってこの俺は“最強”だからな」

 

 眼下に倒れ伏した彼女の悔しげな声に俺がニヒルに笑ってそう返すと、

 

「アナタってスゴく強いのね……!」 

 

 俺を尊敬するような、純粋でキラキラとした目線が俺に向いた。

 

「へっ?」

 

 俺は悔しがる相手や逆切れする相手以外見たことがなかったので、思わず変な声を出してしまった。

 

「さっきなにやったの? 気がついてたら後ろから攻撃を食らってたわ!」

 

 グイグイと聞いてくる彼女に、俺は渋々、彼女が斬った水魔法を背後で合成させて攻撃したことを説明する。

 

「本当に凄いわ……!思いつかなかったわそんな発想!流石私を超えてこの学園の首席を取った人ね!」 

 

 俺を真っ直ぐに見つめて、猛烈に感激している様子の彼女。まるでマタタビを前にした猫のようだ。今にも飛びかかってきそうなほど強い感情が透けて見える。

  

「そうか? ま、まあな……」

 

 思わず得意げになり、頭を掻く俺。あれ……もしかしてコイツ、実は良い奴なんじゃないのか?

 

 そしてついつい親切心からか、アドバイスを口にしてしまう。

 

 そう――これが後々、俺が彼女に付きまとわれるようになる原因だとは知らずに。

 

「……お前。剣が得意なのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「……だとしても、最初から剣に魔力纏わせて一気に近づくなんて強引すぎだろ。折角魔術師なんだから最初は魔法を使って相手を遠距離から牽制しろ。で、近づく隙を探れ。じゃないとさっきみたいに一方的に遠くから魔法撃たれて終わりだぞ?」

 

「うーん、そうかしら……でも、そうね!貴方が言うなら、そうするわ!」 

「あ、ああ……」

 

 あまりにスパッと俺の言うことを鵜呑みにするので、思わず気圧されてしまう。そんな俺を横目に彼女はむくりと起き上がると、

 

「よし!こうなったら、早く家に帰って練習しなくちゃ!じゃあね!」

 

 バイバイと手を振ると、ドタバタと勢いよく走り去っていってしまった。しかも――全身水浸しで泥にまみれ、あちこち透けている状態のままで。

 

「あ、ああ……」

 

 曖昧に頷き、呆然と手を振り返す俺。

……いいのか?アイツあの格好のままで。

 

「てか、結局誰だったんだ、あの猛獣のような女は……」

 

 名前も知らない女に決闘を挑まれる。今日はなんか散々な日だったな。

 

「はぁ……」

 

 俺は、ため息をつくと、なんとも言えない気分のまま家へと帰った。

 

 

 そして、翌日。授業が終わり、俺が帰ろうと鞄に教科書類を詰めていると、バンと大きな音を立てて、急に教室の扉が空いた。

 

「見つけたわよ!」

 

 そして聞き覚えのある高圧的で攻撃的な声、

 それはダンダンと足音を立てながら、俺に近づいてくる。

 

 俺はなんだか嫌な予感がしながら、そっと視線を上げ、その主を見やった。

 

 

「――貴方のアドバイス参考になったわ!さあ、今すぐ決闘しましょう!!」

  

 そこには、昨日も見た、猛獣のような女が腕組みをして立っていた。

 

 

 

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