イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
第一話 「期末テストとクリスマスキャンプ」
12月ーーー
冬の寒さが辛くなるこの時間、本栖高校の図書室でひとり本を読みながら、この空間で温まってから帰るのが最近の日課となっていた。
ここは放課後になると、あまり利用する生徒もおらず、ほぼ貸切状態。
とはいえ、来週からテストが始まる。それもあり、俺が図書室に来た時には、数人の生徒が勉強をしていたり、本の貸し出しの手続きに何人か入室したりと人の出入りはあった。しかし、日が暮れ始めるのと共に、殆どの生徒が帰路へつく。
現に今も、図書委員として貸し出しのカウンター席に座るお団子頭がトレードマークの女生徒と俺しかこの教室にはいない。
小牧(こまき)あらた 本栖高校1年。
中学を卒業するタイミングで、親の仕事の都合により東北から山梨に引っ越してきた俺は、新しい家から通いやすいこの高校を選んだ。
入学したばかりの頃は、同じ中学からの友達もいなければ知らない人ばかりだった。そんな環境に苦労はしたが、有難い事に近くの席の子が声を掛けてくれたのをきっかけに、仲の良い友人も何人かできた。
そのため、今ではそれなりに楽しい学校生活を送れている。
それにーーー
「ごめん、ちょっといい?」
本の内容に目を通しながら、入学した頃の事に思いを馳せていると、ふと隣から声を掛けられる。
声を掛けてきた人物に目を向けると、先程までカウンターにいたお団子頭の女生徒が机脇まで来て俺を見下ろしていた。
「そろそろ閉館の時間なんだけど」
「えっ」
それを聞いて壁にかけられていた時計を見やると、すでに17時20分を指していた。下校時間が17時30分なのに対して、そろそろ図書室も閉館準備を始める時間となっていた。
「すみません!すぐ出ますね」
「いや、これから戸締りだからそんなに慌てなくてもいいよ」
席を立ってすぐさま読んでた本を閉じて、バタバタと椅子にかけていたブレザーを羽織りながら帰りの支度をする。
「ぼーっとしてたのは俺なんで時間に気付かずごめんなさい!あっ、あとこの本借りて行っていいですか?」
「分かった。ちょっとまってて」
机に置いていた本を彼女へ渡すと、すぐにカウンターで貸し出しの処理をしてくれた。急がなくては行けないのに我儘言ってすみません。
心の中で謝罪をしつつ、帰りの準備を済ませてカウンターへと向かう。
「はい。今週からの貸し出しは、冬休み前までには一度返却をお願いしてるから」
「ありがとうございます!それじゃ、ご迷惑をおかけしました」
女生徒に見送られながら、一礼してから図書室を後にする。
廊下でも何度か見かけた事がある子だから、おそらく同級生だと思うが話した事もない相手だったために何故か敬語で会話をしてしまった。
まぁ、こちらに落ち度があるわけだから正解だったと思う。
それにしても、今日はこの後とくに用事もないのに、いつもの癖で遅くまでつい残ってしまったな。早く帰って勉強しなくては。
《志摩リン》
貸し出しの名簿の下の欄に本日分の貸し出しの数と日付、担当者の欄に自身の名前を書いて図書室の閉館業務を終わらせる。
テストも近いし、私も早く帰らないとな。帰ったら勉強しよ。
マフラーを巻きながら、先程までいた男子生徒が使用していた席を見る。
最近になって、よく図書室に顔を出すようになった彼は毎回あの席に座っている。
いつも閉館前には帰っていたのに、今日は珍しく閉館ぎりぎりまで残っていたな。
テスト期間や、その少し前くらいならまだしも、図書室に顔を出す生徒はほとんどいない。いたとしても、着席してまでこの場所で本を読んでいく人も図書委員となってから遭遇したこともなかった。
誰か待ってたのかな?
そんな事を考えながら、図書室の鍵を閉め、閉館の札を教室の扉へと掛けるのだった。
(そういえば、さっきあの人が借りて行った本、アウトドアの本だったような)
ーーーーおよそ数十分前、科学室にて
「オイルこの位か?」
「そんなもんやない?」
自慢のおでこを出すメガネツインテールの大垣千明は、自身が新しく買ったキャンプ道具であるスキレットにオリーブオイルを垂らす。
それを見ていた同じ野クル(野外活動サークル)のメンバー。サイドテールに関西弁が特徴の犬山あおいに問いかける。
対して、確信は持てずとも大体その位が適量だろうとそれにあおいは応えた。
現在二人は、千明が週末に甲府で『オトナ買い?』をしたというキャンプ道具一式の一部である木皿の塗装剥がしと、スキレットのシーズニング作業に取り掛っていた。
シーズニングについて詳しく知らないという人もいるかもしれないが、簡単に言えば、元から表面についた錆止めを落として、オリーブオイルをなじませる「ならし作業」の事である。同時に、空焼きも行うため、取手が超熱くなるので十分に注意が必要だ。
両方とも、より普段使いがしやすいようにこういった作業をしなくてはならないのだ。
「二人で何の実験してるの?」
すると、科学室に一人の女生徒が入室してきた。
野クルで最初に行ったキャンプの時の話しをしながら作業を続けていると、以前部活中にテントを壊してしまった際に力を貸してくれた斉藤恵那が二人に声をかける。
「あ、斉藤さん」
「お、斉藤」
ジュッ
「ぎゃっ!!」
背後にいた恵那に視線を向けた事により、注意が外れた千明の指がスキレットの熱くなっていた部分に触れてしまう。
火を取り扱う際は本当に気をつけて行動しましょう。
「へぇー、鉄フライパンって使う前こういう事するんだ。面白いね」
二人の作業に興味を持った恵那も参加し、ならし作業が進んでいく。
〜シーズニング作業の工程〜
①4〜5回空焼きを繰り返す。
②オイルが馴染んできたら野菜の切れ端などを炒めます。
③次にお湯を沸かしてタワシでしっかり洗います。
④最後にもう一度空焼きをし、オイルを薄く塗って完了です。
『おおー』
あおいと恵那は綺麗になったスキレットを見て声をあげる。
「こっちもできたぞ」
二人とは別に木皿の塗装剥がしを終えた千明が完成した木皿を見せる。
「ほれーっ」
「おー、オイル塗ると味出るなー」
ブーン、ブーン
「お」
作業を終えた木皿とスキレットを並べていると、スマホが鳴った。
【野クルグループ】
なでしこ
『テスト終わったらみんなでクリスマスキャンプやりませんかっ!!(✳︎>v<✳︎)ノ』
送り主は、最近野クルの新メンバーとして入部した浜松から来た元気いっぱいの転校生、各務原なでしこ。
「クリスマスキャンプやて」
「ナイス提案だな」
「私はクリスマス彼氏と過ごすからムリやなー」
「!?」
なでしこの提案に賛成の声をあげた千明に対し、あおいが残念そうな顔をしながら言う。
「彼氏いたのかきさまーっ!!」
急な冷や汗と共に目を見開きながらも、いつものお約束だろうと思いながら千明は声を荒げる。
「せやでー」
「なんだ嘘かーーー、……え?」
自分が予想していた返答ではない答えが帰ってきた事に、千明の頬に本物の汗をかく。
「いやいやいや、いつもの冗談だよな。イヌ子?」
「いつもは家族とクリスマスやけど、好きな人とかみんなでキャンプすんのもええかもなー」
淡々と話しが進む。
そんな通常運転のあおいに千明は、
「か、家族いたのかきさまーっ!!」
自分でもよく分からないボケをかますのであった。
初投稿です!
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます。
おそらく不定期にはなると思いますが、これからも読むよと言う方は何卒よろしくお願いします♪