イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

10 / 20

こんにちは!あきと。です。
以前書いた通り、今回から少し期間を
設けての投稿になります。
今後ともよろしくお願いします(><)



第十話 「お風呂と女子トーク」

 

 

「楽しかったよちくわ…、また遊ぼうね!!」

「もう聞こえとらんで、なでしこちゃん」

 

星々がキラキラ光る夜空の下で、車で帰るちくわを見守る一同。

 

日中走り回って疲れたのか、毛布にくるまり後部座席に着席したちくわは、すでに夢の中にいた。

 

「各務原さん、チワワは寒いの苦手だからしょうがないよ」

「ちくわ〜」

 

惜しんで涙を浮かべる各務原さんを慰め、車がキャンプ場を出て行くのを見届けた。

 

「やっぱりこの寒さはキツいよね」

「うん、だから一晩泊まるのはちょっとね」

 

斉藤さんも少し寂しそうだ。

 

迎えに来たのは斉藤さんのお父さんだったみたいだけど、すぐにちくわを確保して出て行ったから、ちゃんと挨拶も出来なかったな。

 

「そんじゃまぁ、あたしらはお風呂入ろうぜー」

 

サイトに戻ると、大垣さんからこのあとの予定が伝えられる。

 

「私となでしこで焚き火の番してるから、先にお風呂入ってきて」

「うん、ありがとなー」

「あれ?先生は?」

「酔い覚ましてからお風呂入るって、呑みながら言ってた」

「いつまでも入れねぇ…」

 

鳥羽先生は、ちくわの見送りはせずに、お酒を嗜み続けている。

 

「小牧くんも先に入って来なよ」

 

女子グループが入浴を終えるまで待ってようかと思っていたのだが、志摩さんに勧められる。

 

「えっ、でも女子だけで大丈夫?俺最後で大丈夫だよ?」

「お風呂の開放時間もあるし、酔ってるとはいえ先生もいるから大丈夫…だと思う」

「リンちゃんと私にまかせて!」

「そう?二人がそう言うならお先しようかな。なるべくすぐ戻るよ」

「うん、了解」

「いってらっしゃーい!」

 

そうして、入浴の準備を終えたあおいさんらを追いかけて共有浴場に向かった。

 

 

建物内に入ると、ゆっくりと歩みを進める三人の背中が見えた。

 

「おっ!小牧も来たのか?」

「うん、志摩さんに言われて」

 

大浴場のある施設内の中で、大垣さんが先に俺に気づいて振り返る。

そして、廊下を歩く三人と合流した。

 

「でも、すぐ戻るよ。殆どお客さんが居ないとはいえ、女子だけで残すのはやっぱり心配だし」

「先生もあんな状態やったしなぁ」

「じゃあ、また後でね小牧くん」

 

男湯と女湯で分けられた地点で、あおいさん、大垣さん、斉藤さんと別れた。

 

 

 

「これは贅沢だなぁ」

 

ふぅー、っと一息ついて湯船に脱力しながら浸かり、リラックス。

外の寒い空気で冷え切った身体を温めながら、今日1日の疲れを癒す。

 

普通の銭湯に比べれば、そこまで広いわけではないけれど、足も伸ばせて極楽だ。

いつまでも浸かっていたい気持ちはあるけれど、早く戻らないとな。

 

志摩さんには心配するなと言われたけど、そういうわけにもいかない。

男として、皆を危険に晒さないよう配慮はするべきだ。

 

「にしても、いつ渡すか」

 

昼間に皆にあげたプレゼント。

リュックの中にまだ一つ、渡していない包みが残っていた。

 

あの時一緒に渡しても良かった気もするが、なんか少し違う気がして今の今までリュックにしまっている。

 

「あおいさん。喜んでくれれば良いけど」

 

そんな独り言を言いながら、俺は湯船から上がった。

 

 

一方、女湯。

 

「小牧くんの作ったクッキー美味しかったよねー」

「ありゃあ女顔負けだぜ〜。あいつ女子力も高いんだな」

 

三人肩を並べながら、恵那と千明が今日の事を振り返っていた。

 

「でも、犬山さんの晩御飯もすごく美味しかったよ!」

「えへへ、ありがとなー。あらたくんは普通の料理も上手なんよ」

「なぬっ!あいつ、実は女なんじゃ…」

「んな訳あるかい」

 

そういえば、初めてあらたの事を話した時も、この三人でいる時だったなと、数週間前の事をあおいは思い出す。

 

「ねぇ。犬山さんは小牧くんにクリスマスプレゼントとか用意してるの?」

「ふえっ!?な、なんで?」

 

湯船に浸かり、力が抜けていたせいか変な声が出た。

 

「小牧くんのクッキーも、犬山さんのお肉も、なでしこちゃんが言ってたおもてなしでしょ?だから付き合ってる同士では何かやらないのかなって」

 

斉藤さん…。

たまに鋭い事に気がつくんやなぁ。恐ろしい子や。

 

「…うん。一応、用意はしとるよ?」

「やっぱりそうなんだ!いいなぁ〜青春だねぇ」

「プレゼント…。あー、あのマフラーな」

「!?」

 

浴槽の壁に背中を預けていたが、千明の発言を聞いてバシャっと水音をたてて身体を起こす。

 

「あきっ!?なんで知っとるん!」

 

およそ1週間ほど前から、今日のためにあらたに向けてマフラーをこっそり編んでいた。

 

もちろん、野クルのメンバーやキャンプの参加者には内緒でだ。

なのに、千明はそれを知っていたのだ。驚かずにはいられない。

 

「ふっ、あまりあたしを甘く見ない事だな…って、いててて!痛ひっ!」

「冗談はええからっ」

 

ふふん、と自慢げに話す千明の頬を人差し指と親指で摘んで引っ張る。

 

「ててっ、…お前、放課後こっそり部室で編み物してただろ?ありゃどう見てもマフラーだった」

「…見られとったんやな」

 

頬をさすりながら、千明は理由を話し始める。

 

「まぁ、偶然だけどな。盗み見るつもりは無かったんだが、部室にアウトドア雑誌置こうと思って放課後に立ち寄った時にな。たぶん、なでしこは知らないと思うが」

「なでしこちゃん。嘘つくの下手やからな」

 

千明はともかく、なでしこであればその現場を見た次の日にでもボロを出しそうだ。

 

しかし、そういう風には見えないところを見ると、偶然見たという千明以外に知る人はいなかったのだろう。

 

「マフラーかぁ、しかも手作りなんだね。すごいなぁ」

 

恵那もプレゼントが気になるようだ。

 

「うん、せっかくやから作ってみたんよ。でも、そんな良い出来のもんやないで?あらたくん…喜んでくれればええんやけど」

「大丈夫だよ!小牧くんも犬山さんから貰えたらすごく嬉しいと思う!」

「せやろか。初めてやから下手やし、ちょっと不安や」

「イヌ子、手先器用だろ?大丈夫だって気楽にいけよ」

「だって、こんな事するの初めてやもん」

 

サイトに置いて来たあらたへのプレゼントを想像し、喜んでもらえるか心配になる。

 

初めての彼氏と過ごすクリスマス。緊張しない人などいるはずもない。

 

「おぉう、イヌ子が女子の顔をしている」

「小牧くんもそんな犬山さんに惹かれたのかな?」

「からかわんといて、2人とも」

 

自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

 

「でも、あらたくんが用意してるかは分からへん。せやから、私だけ気合の入ったプレゼント用意しとるんやとしたら、どないしよ」

「いや、あいつ絶対用意してるだろ。相手は小牧だぞ」

「うん絶対用意してると思う」

 

千明と恵那は確信を持った表情を浮かべている。

 

最近、今回の件でよく話すようにもなった千明と、知り合ったばかりの恵那でさえも、あらたという人物がどういう人間なのかは十分に理解していた。

 

「確かにあらたくんは可愛い顔して時折かっこいい所も見せるし、頼りになる男の子やけど…」

「おい、急に惚気んな」

 

意外と余裕あんじゃねーかと嗜められる。

 

「はぁ、いつ渡すのがええんやろか」

「じゃあさ!先生達がお風呂から戻ってきたら、少し二人で散歩とかして来なよ。その時に、」

「いや、斉藤。サプライズだぞ、プレゼント持って散歩するよりかは、あたしらが席を外した方が良くないか。その方が自然だ」

「確かに!さすが部長だね!」

「いやー、それほどでも〜」

「部長は関係あらへんやろ」

 

と、そんなトリオ漫才を湯船の中で繰り広げる。

 

「…あかん、色々考えてたらのぼせて来たわ」

「だなー、そろそろ上がるか」

「そうだね。長湯も良くないし」

 

そうして、三人共湯船から上がり、火照った身体のまま、テントへと戻る事にした。

 

 

 

同時刻、小牧家では。

 

プルルルルルッ。

 

「ひかりー、お母さん手が離せないから電話出てー」

「は〜い」

 

小牧家に電話の着信音が鳴り響き、ひかりがリビング入り口前に置かれた受話器を取る。

 

「もしもし〜、ひかりです。あっ、間違えました〜。小牧です」

 

普段はこういう時、兄であるあらたが対応していたが、今夜は学校の友達とキャンプで居ない。

そのせいか、ひかりは電話の対応にも慣れていなかった。

 

『ひかりちゃん?あらた居ないの?』

「お兄ちゃんはいません。どちらの方ですかー?」

 

受話器から聞こえる声に聞き覚えがあるような無いような、そんなあやふやなひかり。

 

『えー、ひかりちゃんひどいなぁ〜。私だよ!わ・た・し』

「んー?わたしさん?存じ上げません」

『いや、そうじゃなくてさ。…そうだね、ひかりちゃんはそういうタイプだもんね』

 

がっくしと、電話の相手が肩を落とすが、ひかりはそんな事知る由もない。

 

『ゆりなだよ!ひかりちゃんとあらたの従姉妹のゆりな!』

「ゆりなお姉ちゃん?…あっ、わぁ〜、ゆりなお姉ちゃんだ」

『忘れてたの?意外と私たち付き合い長い筈なんだけどな』

「ううん、お姉ちゃんの事は覚えてるよ。ただちょっと抜けてただけ」

『それは忘れてるのと変わらないよ…』

 

残念がっている様子の電話の相手にひかりは話しを戻させる。

 

「ゆりなお姉ちゃん。お兄ちゃんに用事なの?」

『ううん、居ないならひかりちゃんでも大丈夫。来年のお正月に私がそっちに遊びに行く事を、叔母さん、ひかりちゃんのお母さんに伝えて欲しいの』

「ゆりなお姉ちゃん遊びに来るのー?やったー」

『うん。お父さん達は都合悪くて無理みたいなんだけど、私は行けるからさ。もう高校生だし』

「じゃあ、お母さんに伝えておくねー」

『うん。叔母さんには一度お母さんが連絡してるみたいだけど、改めて伝えておいてくれるかな』

「分かった〜」

『それじゃあ、またお正月にね』

 

その言葉を最後に電話を切った。

 

『(あらた。バイトだったのかな?)』

 

一方、電話をかけたゆりなは、いつもこの時間であれば出てくれていたはずの従兄妹が出なかった事に疑問を抱くのであった。

 




新キャラ&オリジナルストーリーもそろそろ…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。