イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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今月に入って、多くの方に見てもらえているみたいで
びっくりしているあきと。です!
ぜひ今後の展開にも期待していてください♪


第十一話 「しまりん団子」

 

パチパチと薪の燃える音が静かな高原に響く。

 

そんな焚き火に当たりながら、母親にメールを俺は書いていた。

どうやら、東北にいる従姉妹のゆりなが正月に家に遊びに来るというのだ。こっちには親戚もいないし、うちの親も仕事があるから来年は挨拶回り出来ないかと思っていたけど、一人とはいえ親戚が家に来るなら歓迎しないとな。

 

「っと、薪足さないと」

 

そんな中、火が弱まっている事に気づいて、数本の薪を足す。

 

先にお風呂から戻った俺は、各務原さん達と焚き火の番を交代した。

鳥羽先生も、無事酔いが冷めたようで2人と共に大浴場へと向かった所だ。

 

おそらく、今夜はまだみんな起きているだろうし、この焚き火もフルに活用される事だろう。

そろそろあおいさん達も戻ってくるはずだろうし、ちゃんと暖が取れるよう火力の調整が必要だ。

 

「あらたくーん。ただいま〜」

「あっ、おかえりなさい」

 

焚き火を見つめていると、あおいさん達が帰ってきた。

 

「ごめん大垣さん。勝手にお湯沸かしちゃってた」

「おー、全然問題ないぞ。あたしらも飲み物もらっていいか?」

「うん、淹れとく」

 

三人がテントに荷物を置いている間に、コップにお湯を注ぐ。

 

「小牧くん。男湯はやっぱり1人だけだった?」

「うん、貸切だったよ。…はい飲み物」

「ありがとう」

 

最初に戻ってきた斉藤さんにココアを渡した。

お風呂に入ったとはいえ、外の寒さを舐めてはいけないのだ。

 

「あらたくん。私もー」

「あたしもくれー」

 

そこに、あおいさんと大垣さんも戻ってくる。

2人にもココアを渡すと、そのままあおいさんは俺の隣に座った。

 

隣からふわっとせっけんの香りがする。

 

「どしたん?」

「いやっ、何でもないよ!」

「?」

 

無意識に彼女の方を見てしまっていた。

あおいさんと視線が重なり、すぐさま正面へと向き直る。

 

この独特な感じ、同じ男の人なら分かってくれるだろう。…分かってくれるよね!

 

「あれ、2人とも何してるの?」

 

焚き火の反対側に座る大垣さんの髪を斉藤さんが結っている。

 

「しまりん団子作ろうと思って」

「しまりん団子?」

 

しまりん…。ああ、志摩さんと同じ髪型って事か。

 

気がつけば、斉藤さんの髪型はお団子ヘアーへと変わっていた。

いつの間に。髪のセットが得意なのだろうか。

 

「おもしろそうやん。斉藤さん、私もやって貰ってもええ?」

「もちろん!ちょっと待っててね」

 

すると、パパッと大垣さんの髪を完成させて、あおいさんの元へと移動する。

 

「おおっ!」

 

自分が男だから良くわからないけれど、たぶん手際が良くて早いんだろうな。

 

現に、やってもらっていた大垣さんが手鏡を見ながら驚いている。とても綺麗なお団子である。

 

「犬山さん、髪綺麗だね」

「ほんま?なんや照れるわ〜」

 

下準備?と言うべきか、斉藤さんがブラシを使ってあおいさんの髪を解いている。

俺はそれをじっと眺める。

 

「痒い所はありませんか〜?」

「ありませーん」

 

いや、それ髪洗ってる時に言うやつじゃん。

 

「なぁ、小牧ちょっと聞いてもいいか?」

「何?」

「小牧が好きな女子の髪型ってあるのか?」

 

大垣さんの質問に、斉藤さんの手が止まり、あおいさんもこちらを見る。

 

「髪型?」

「ああ、ロングとかショートとか。あとはパーマとかか?男子でそう言う話するだろ?」

 

確かに、クラスの男友達と異性に対しての好みのタイプとかそういう話は何度かした事があるな。

 

「んー、俺はあおいさんならどんな髪型でも好きだけどな。どれも似合うと思うし」

「えっ、…あ、いや」

「でも、いつもの髪型が1番かな」

 

脳内であおいさんの髪型を色々とシミュレーションをしてみるが、言わずもがなどれも可愛い。

 

けど、見慣れているいつもの髪型が1番好きだ。

 

「まてまて小牧」

「えっ?」

 

素直に答えると、大垣さんがぶんぶんと手を振って制す。

 

「あたしが言ったのは、その、イヌ子の事じゃなくてだな…」

「たぶん、小牧くんから見て一般の女性の髪型でどういうのが好きかって事だよね。犬山さんの事は関係なく」

「ま、正解っちゃ正解なんだろうけどな」

 

斉藤さんが補足の説明をしてくれた事により、ようやく自分が口走ってしまった事に気づく。

 

「へぇ〜、あらたくんは私ならどんな髪型でも似合う思うてくれるん?」

「…ごめん。今の忘れて」

 

ニコニコとからかってくるあおいさん。

両手で顔を隠して自身がまた恥ずべき事をしてしまったと後悔する。

 

「ほらっ、出来たよ小牧くん」

 

斉藤さんに言われて、そっと手を顔から外すと普段とは違うお団子ヘアーのあおいさんが視界へと写される。

 

「どう?変やない?」

「…似合ってる」

 

ついさっきの事ではあるけれど、素直に思った事を口にする。

 

やはり、頭の中で考えるのとリアルで見るのとでは全然違うな。頭のてっぺんがふわふわしてそうで、すこぶる愛らしい。

 

「触ってみたらどうだ?」

 

お団子の部分を見ていると、大垣さんがそんな事を言う。

 

「全然ええよ」

 

本人も笑顔で答えてくれるが、少し戸惑う。

 

「でも、大丈夫?せっかくセットされてるのに」

「少し触ったくらいじゃ崩れないから大丈夫だよ」

 

髪を直接整えていた斉藤さんが言うのであれば、心配しなくても良さそうだ。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「ふふっ」

 

緊張してたのがバレたのか、彼女に笑われた。

 

だってしょうがないじゃないか。普段することの無い事なのだから当たり前だ。

 

「綿みたいにふわふわしてる」

「それは褒めてるのか?」

「そのつもりなんだけど、違った?」

「いや、あたしも分からん」

 

正直、褒めれているのかは全然分からなかった。

でも、自分では良く思っているのは確かだ。

 

「せや!あらたくんもやってもらえばええんやない?」

「えっ?」

「おー!おもしろそうじゃんか!!やっちまえ斉藤!」

「えぇっ!」

「ラジャー!」

「なんで俺まで!!?」

 

ガシッと左右からあおいさんと大垣さんに腕を掴まれ身動きが取れなくなる。

 

「いやっ、俺男だし!ていうか、そもそも髪だってそんな長く無いしっ」

「大丈夫だよ。小さめの作るから、まかせて!」

「ちょっ、斉藤さんっ!?まって、2人も何でそんな乗り気なの!」

 

結構力を入れている筈なのに、全然2人の腕を振り解けない。

とはいえ、本気で力を入れる事さえ出来れば外せるかもしれないが、怪我に繋がるかもしれないので無闇に動くわけにはいかなかった。

 

ていうか、2人ともそれが分かっててがっしりロックしているんじゃないのか?

 

「あおいさんっ!」

「大丈夫やで。私もあらたくんならどんな髪型でも好きや」

「大垣さんも、どうして!」

「そんなの面白いからに決まってんじゃねぇか!いいからお縄につけい!」

 

説得を試みるも、それも叶わない。

少しづつ近づく魔の手から逃れる事はできなかった。

 

「そんな〜〜〜っ」

 

俺の虚しい叫びが朝霧高原にこだました。

 

 

 

「しくしくしく」

 

男としてあられもない髪型になった俺は、焚き火の前で体育座りをしながら涙を流していた。

 

「ふふっ、そんな泣かんでも可愛らしいで、あらたくん」

「可愛いとかの問題じゃないよ〜」

 

彼氏としての威厳はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

結局抵抗できずに他の三人と同じ、こじんまりとしたお団子を頭に作られてしまったのである。

 

『カシャッカシャッ』

「ちょっ!三人とも写真に撮らないでよ!一枚10円だよ!!」

「めちゃ安じゃねーか」

 

すかさず大垣さんからのツッコミ。

 

「…まぁ、別にいいよ。本気で嫌だったら流石に俺も言うし」

「帰ったらひかりちゃんにも写真見せてええ?」

「それは本当にやめてください」

 

兄としての威厳だけはせめて保たせてほしい。

 

「でも、あらたくんは普段からそんなに髪型いじらへんもんね」

「セットは時間かかるからね。基本はいつも同じ」

 

確かにワックスとかのヘアセット関係の物は持ってはいるけれど、いつも男子高校生らしいナチュラルなセットしかしていない。

 

「技術もそんなにないし」

「私も流石に男の子のヘアアレンジはできないなぁ」

 

斉藤さんも俺の髪型を見て言う。

 

「ただいまー」

 

するとそこへお風呂へ行った各務原さんらが戻ってきた。

 

「おかえりー」

「あっ!!みんなリンちゃんみたーい」

 

すぐに各務原さんがみんなの髪型に気付き、羨ましい目を向ける。

 

「小牧くんも可愛いね!」

「せやろー。良かったなあらたくん!」

「いや、なんか複雑です」

 

褒められているけど、嬉しくはないな。うん。

 

「小牧くん、斉藤に遊ばれたんだ」

「…うん、色々あって逃れられず」

「お気の毒に」

 

この気持ちを理解してくれたであろう志摩さんに肩をポンと叩かれる。

 

もしかして、志摩さんも斉藤さんからなんらかのヘアアレンジいたずらを受けた事があるのだろうか。

 

「いーな、いーなー」

 

各務原さんは欲しいおもちゃを見るような表情で羨ましがっていた。

 

「なでしこちゃんも、しまりん団子やる?」

「やるーっ!!」

「なんだそのネーミング」

 

ワクワクした状態で、髪を任せる各務原さんと、ネーミングに違和感を感じている志摩さん。

 

「なんだか、名物みたいな名前だよね。しまりん団子」

「売ってみたら結構儲かるんやない?」

 

そんな事を隣に座るあおいさんと話す。

 

「はい、できた」

 

あっという間にヘアセットは完成。

 

「むふぅ、どぉ?」

「ぷっ、ぷぷっ…」

 

自慢げに髪型を皆へ見せびらかす各務原さん。

しかし、俺を含めた全員が笑いを堪えるのに必死である。

そう、彼女本人だけは気づいていなかった。

 

1人だけ、しまりん団子ではなく、頭の上にハニワが出来ていた事に。

正直、俺がお団子頭にされるよりも、その髪型の方がレベルは上だった。

 

 

 

「空の星、すごく綺麗」

 

髪型を元に戻し、皆で肩を並べて夜景を楽しむ時間が過ぎ去る。

 

「お風呂もあってええ景色で、ホンマ最高の場所やなぁ」

「そうだね」

 

横に座るあおいさんと笑みを交わし、互いに身体を預けてくっつく。

 

そういえば、こんな風に星を見て過ごすロマンチックな事、今までの人生ではじめての経験だ。

 

「私、冬キャンプなんて初めてだったけど、すごく楽しめたよ」

 

斉藤さんが星を見ながらそんな事を言った。

 

「俺も、初めてのキャンプがこのキャンプ場で良かった」

 

今日一日、初めての事ばかりで本当に貴重な体験をさせてもらったなと改めて振り返る。

 

「お前ら、しまりんさんにちゃんとお礼言っとけよー」

「いやいやいや」

 

志摩さんは照れるからやめろと言う。しかし、元々こんなに良いキャンプ場を教えてくれたのは志摩さんだ。

改めて、感謝は伝えるべきであろう。

 

「さんはい!!」

『あーりーがーとーうーごーざーいーまーしーた』

「小一みたいなお礼やめろ」

 

皆で声を揃えて言ったが、確かにこれは工場見学後とかにやる挨拶のそれだ。

 

「ねぇ今から何しよっか?」

「まだ9時だから寝るにはちょっと早いよね」

 

各務原さんと斉藤さんがこれからについてどうするか皆に聞いた。

斉藤さんの言う通り、他の皆は分からんがまだ寝れる気がしない。

 

「なら、散歩でも行かないか?せっかくこんなに星も綺麗なんだし」

「え、ちょっと危なくないか」

 

大垣さんの提案に志摩さんが待ったをかける。

 

「しまりん、なでしこ、ちょっといいか?先生も」

「私も、ですか?」

 

さっきまでとは違い、ゆったりと座って寛いでいた鳥羽先生までも呼び出される。

すっかりと酔いも冷めたようで、先生の足取りがしっかりしている事に安心する。

 

すると、何やらこしょこしょと4人で少し話し始めた。

 

散歩なら先生もいれば安心だな。さすが大垣さん。

けど、そんな所で話す必要はあるのかな?

 

「…………」

「へー!さすがあきちゃん!!」

「ばかっ!声デケーって」

「あわわっ、ごめんごめん」

 

何を話していたのかよく分からないけど、話し合いが終了したようだ。

 

「鳥羽先生も来てくれるってよ。散歩いこーぜ!」

「いいね〜」

 

斉藤さんも賛成のようですくっと立ち上がる。

 

「あー、でも、焚き火したままだと危ないなー」

 

焚き火に指を指す志摩さん。

なんか、喋り方ちょっと変じゃないか?気のせいか?

 

「(ちょっ、しまりん!演技下手すぎだろ!)」

「(だ、だって、こんな事、私やった事ないし!)」

「(大丈夫だよリンちゃん!あとは私に任せて!)」

 

志摩さんの言う通り、火を放置するのは危険だ。

消して行っても良いだろうけど、また着けるのも少し面倒だ。

 

「なら、俺が残るよ。先生、ここは俺が見てるんで皆んなの事お願いします」

「は、はい!任せてください」

「?」

 

なんだか先生もちょっと様子がおかしい。まだ少しばかり酔いが回っているのかもしれないな。あれだけ飲んでいたのだから。

俺は空いたお酒がテーブルに並んでいるのを見て思った。

 

「でも、小牧くんだけに任すのもな〜」

 

何やら各務原さんも普段と口調が違うような声で話す。

 

まだ知り合って日は浅いけれど、違和感を覚えた。

ていうか、各務原さん。何をそんなにあおいさんの方をチラチラと…。

 

「あっ、そう言う事か」

『何が!?』

「えっ、いや、何でもないです」

 

声に出てた。

 

何となくだけど、大垣さん達が気を遣って何かをしようとしてくれている事は分かった。

おそらく、先程コソコソしていたのもそれの事だろう。

 

「(なでしこー!お前も大概じゃねぇか!)」

「(え〜!完璧だったと思うよ!ねぇ、リンちゃん)」

「(いや、お前犬山さんの方見過ぎだろ)」

「(そんな〜)」

 

急に三人があたふたとしだした。

うん。これは流石に気付くよ。

 

でも、せっかく皆んなが気を遣ってくれるなら甘えさせてもらおうじゃないか。

 

「じゃあ、あおいさんも一緒に残ってくれる?一人だと心細いしさ」

「えっ、うん。もちろんええよ(絶対気づかれとるで、あき)」

「(犬山さん、がんばってね)」

「(ありがとう。気いつけてな)」

 

そうして、俺とあおいさん以外の全員は一度焚き火から離れキャンプ場内の建物がある方へと歩いていった。

 

「…………」

「…………」

 

しばらく静かな時間が続く。

 

せっかく2人きりになれたけど、こうしてみると今日あおいさんと2人きりになるのはこれが初めてだ。

 

「あの、」

「さっきな」

 

意外にも沈黙を破ったのはあおいさんだった。

俺も口を開き、言葉を発っしようとした所だったが、彼女の方が早かった。

 

「お風呂で、うちらの事2人きりにしようってあき達が話してくれてたんよ」

「やっぱり。なんかみんな変だったもんね」

「流石にあらたくんも気づいたやろ?私もいきなり始まったから驚いたんやけどな」

「ははっ、でも優しいよね」

「ふふっ」

 

2人でさっきの皆んなの様子を思い出し、思わず笑ってしまう。

 

「でも、あきは私のために率先して動いてくれたみたいやな」

 

本当に優しいな。大垣さん。

 

中学からの知り合いだって聞いてたけど、本当良い友達なんだな。そんな友達がいるは羨ましい。

 

「俺もあおいさんと2人で話したかった。一応、ほら、クリスマスだし」

「あらたくん…」

 

焚き火から視線を外して、こちらを見たあおいさんの瞳をじっと見る。

 

大垣さん達は、あおいさんの事を思って席を外してくれた。でもやっぱり、こういうのは男の俺から動かないといけないよな。

 

俺はあおいさんの言葉を待たず、立ち上がった。

 

「あおいさんに渡したい物があるんだ。プレゼント」

「わ、私もや」

 

目的の物があるテントに足を向けると、あおいさんもすぐに俺を追いかけて自身の荷物のあるテントへと入っていく。

 

嬉しいな。あおいさんも準備してくれてたんだ。俺も用意をしていた甲斐があった。

 

2人になった時点で予想はしてたけど、みんなが作ってくれたこの時間を大切にしよう。

 

今からが、俺とあおいさんの、2人で過ごす初めてのクリスマスだ。

 





そろそろクリキャン編は、
クライマックス!

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