イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
こんばんは!あきと。です!
みなさん、ゆるキャンの劇場版はもう観られましたか?
映画の公開に合わせて、グッズ展開やイベントが色々あって嬉しいです。
これからもゆるキャン界隈盛り上がっていきましょー!
あおいの家から鳥羽先生の車で出てから数分、大垣さんの住むマンションの駐車場へと辿り着いた。
ポケットに潜めた温かいカイロを握りしめて、一度外へと出る。
「おーす、イヌ子に小牧。あけおめー」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね、大垣さん」
「あけましておめでとー。むっちゃ寒いなぁ」
車を降りるとすぐに大垣さんがマンションから出て来た。
メンツが揃った事により、野クルメンバーによる年始の挨拶が交わされる。
「先生もあけおめっス」
「あけましておめでとう。大垣さん」
「いやー、車出してくれてサンキューです」
「特に用事も無かったですし、構いませんよ」
大垣さんの言う通り、鳥羽先生も貴重なお休みだというのに、こんなに朝早くから車出しを買って出てくれた事は大変ありがたい。
そのため、俺やあおい達を迎えに来てくれた際にも改めてお礼を伝えた。
「大垣さん。今日もアルバイトあるんだよね?」
「まぁな。いいよなー、お前らは休みが貰えて」
「あはは、まぁ俺は特に出掛ける用事は今の所無いんだけどね」
「じゃあお前があたしの代わりにバイト行け!」
「それは無理だよ」
服の襟を掴まれながら、ガクガクと頭を揺らされる。
ちょ、朝早いからやめてください。貧血で倒れちゃうかもしれない。
「あき。初日の出見てからバイト行くん?」
あおいの言葉により、大垣さんの手がパッと離される。
「おう!イヌ子はこの後高山か?」
「お昼からなー。観光してくるわー」
「かーっ、いいねぇ」
あおいに続いて車に乗ろうとする千明。
それを見て、車の中にいたはずの同行者2人ががいない事に俺は気付く。
瞬間。あらたの横をささっと追い越す小さな人影があった。
「あきちゃん!あけおめーっ!!」
「キャアァァアアァァァッ!!?」
駐車場に大垣さんの甲高い声が鳴り響く。
あおいの妹であるあかりちゃんが、大垣さんの上着を背後からガバっ、とたくし上げてもう片方の手で掴んでいた雪玉を侵入させたのだ。
こんなクソ寒い中アレやられたらタダじゃ済まない。ご愁傷様です。
見ての通り、あかりちゃんも姉同様。ちょっとした悪戯っ子である。
かという俺は、新年早々そんなあかりちゃんに、お年玉を要求されたわけだが…。
「ち…チビ犬子」
上着の裾を掴んでバサバサと衣服に入った雪を追い出す千明。
それを見て、嬉しそうにあかりちゃんはピースする。
声を震わせながら、あかりちゃんの名前、ではなく、お得意のニックネームで呼んだ。
チビ犬子か。俺も初めて会った時そっくりだと思ったが、確かにあおいをちっちゃくしたら、あかりちゃんと瓜二つだろうな。
ていうか、実際子供の時だったら本当に似ていたのではないのだろうか。
今でさえそっくりなのだから。
「ね〜。お兄ちゃん」
「なんだ、ひかりも車降りてたのか?」
「うん、あのね。あかりちゃんが持ってた雪玉ひかりが作ったの。かた〜いやつ」
なるほど。ひかりも共犯だった訳か。
「おっ!もしかして、その子が小牧の妹か?」
俺と一緒にいるひかりを見た大垣さんが、こちらへと向き直る。
そういえば、妹がいる事は教えてたけど、会うのは初めてだもんな。
しかし、ひかりはというとササッと俺の後ろへと隠れた。
「うん。ほら、ひかりも挨拶」
「あ、あけましておめでとうございます。ひかり、です。はじめまして!」
俺が挨拶をするよう促す。
ひかりは基本人見知りが激しい。
あおい達とは家も隣で顔を合わせる機会があるから慣れたようだが、相変わらず初対面の人に対しては緊張してしまうようだ。
ちなみに、鳥羽先生の時も少しぎこちなく挨拶をしていた。
「おう!よろしくな〜。こっちはあまり似てないのな」
「まぁ、妹だしね」
性別が一緒の犬山姉妹に比べたら、俺達は差ほど顔は似ていない。
俺は父さん似だし、ひかりは母さん似だ。
ただ、ちゃんと血は繋がっているので、正真正銘の兄妹だ。
「なーなー、あきちゃん!お年玉ちょーだい!!」
「んなっ!?」
「たくさんバイトしとるてあおいちゃんにきいたで!!」
すると、あかりちゃんが両手を出して、にこーっ、とした子供らしい明るい笑顔で大垣さんにお年玉をせがんだ。
俺もやられたが、さらに雪玉を背中に入れられるというプラスアルファな事をされたにも関わらず、追い討ちを掛けられるとは、大垣さんも災難だ。
「いたずらばっかするような奴にやるものは無い!」
しかし、千明はビシッと断った。
なんだろう。不思議としっかりと断れる大垣さんがカッコよく見える。
さっきの雪玉のせいで少し寒そうにしてるけど。
「えぇ〜、にーちゃんはくれたんやけどなぁ〜」
「なん、だと…」
バッ、と背後にいた俺を信じられないという目で見てくる。
「こ、小牧はお年玉あげたのかっ!?」
「うん。元々用意はしてたし。ひかりも貰ったしね」
「まじか、イヌ子までも…、大人だな」
「そ、そう?」
さっきまでの目とは違い、尊敬の眼差しを向けられる。
「あおいお姉ちゃん。ありがと〜」
「ええで〜。ひかりちゃん可愛いもんなぁ。ちょっとだけやけど、好きな物買うてな!」
「うん!」
車に先に乗ったあおいに近付いて改めてお礼を言うひかり。
そんな俺の妹の頭を、あおいは優しくなでなでとする。
ひかり自身も、こんな風に優しくしてくれるあおいの事を大変好いているみたいだ。
鳥羽先生が迎えに来る前に貰った時も、ちゃんとお礼を言っていたし、そんな妹の成長した姿を見て誇らしかった。
「んぐぐ、じゃあ、あたしもあげるべきか…。まてよ、小牧の妹もいるし2人分か…」
「あー、大垣さん。あかりちゃんのは冗談だよ?」
「せやで。あきは気にせんで大丈夫や」
一応、ひかりにも渡そうとは思っていたが親に止められていた。あおいの家も同様だった。
その辺りは親がするもの。なのだそうだ。
でもまぁ、彼氏彼女の妹くらいであれば少しくらい問題ないだろう。
なにせ、俺もあおいも自分でお金を稼げるようになった訳だし。
ただ、大垣さんからも貰うとなると、兄や姉として申し訳なく思う。
「いや!お年玉とは言わないまでも!キッズ2人には、これから行く山で売店の食べ物を奢ってやんよっ!!」
『おぉ〜っ!』
一同が部長の男気?いや、女気?に拍手を送る。
「本当にいいの?大垣さん」
「いいって事よ。バイトもしてるし、あたしからのほんの気持ちって事で。でも、あんまり高いもんはダメだぞ!」
「分かった。ありがとう」
「ありがとな〜」
俺もあおいも、そう言ってくれる大垣さんに感謝を伝えた。
そうして、ようやく初日の出が見れるという身延山に向けて、先生の運転により車が発進するのだった。
◇◇◇◇
「さむーっ!むっちゃさむっ!!」
冬の寒さを感じながら、山を登るロープウェイを待つ。
「あかりちゃん、私のカイロ使って」
「わー!あんがと〜!!でも、ひかりちゃんの方が寒くなるんやない?」
「いっぱいあるから大丈夫だよ」
寒そうにしているあかりちゃんにシュバっと大量のカイロを見せるひかり。
よくポケットの中にそれだけの量のカイロを仕込んでいたな。
どうりで家を出る時にカイロのストックが少ないなと思ったわけだ。
「そういえば初日の出なんて何年ぶりやろ」
「言われてみるとそうだなー」
ロープウェイに乗り込み、山を上り始めると、あおいがそんな事を言う。
今回の発案者である大垣さんも久しぶりなようだ。
「あらたくんは初日の出とか見に行くん?」
「東北にいた時は毎年家族で海まで見に行ってたよ」
「それはまた豪華だなー」
「海からの日の出も綺麗なんやろうな〜」
「うん、だからこうして山の上から見るのは初めてなんだよね。すごく楽しみだよ」
去年までの事を思い出して、ひかりの方を見ると、あかりちゃんとガラスにへばり付き、ロープウェイが昇って行くことに興奮していた。
なんとも微笑ましい光景だ。
日の出を見に行く事自体は、毎年行っていたと言っても過言ではない。
ただ、山から見るのと海から見るのとでは、全く別物だろう。
その事に、自分自身もワクワクしていた。
「なら、いつか海にも一緒に見に行こうな!あらたくん!!」
グッと拳を握るあおい。
「だね。こっちの地方の海からの日の出も興味あるかも」
「つってもなぁ〜。どちらにせよ、車とかでないと行けないよなー」
そう大垣さんが言い、三人で鳥羽先生を見る。
「なら、来年は海まで見に行きましょうか」
『先生!』
あらたを除く2人は先生に、ひしっと抱きつく。
流石に俺は、そんな風に喜びを体現する事は出来ないが、笑顔で答えてくれる先生を改めて尊敬した。
「でも、来年であれば小牧くんもバイクで犬山さんと二人で見に行く事もできるんじゃないですか?」
「あ、そういえば」
先生が言う通り、来年にもなれば、バイクの二人乗りが解禁される。
「一応、教師としては免許を取ってから1年が経っても、あまり二人乗りをオススメする事はできませんが」
「でも、せっかくならみんなで見に行きたいです。あおいも同じ意見だと思いますよ」
ちらっと先生からあおいに視線を向ける。
「せやね。今度は、なでしこちゃん達も一緒やとええね」
「そうですか。なら、またその時に考えましょうか」
「そうっすねー…って、時に小牧」
皆で来年の予定を考えていると、大垣さんが不思議そうに俺を見てきた。
「お前、イヌ子の事呼び捨てで呼んでたっけか?」
「そういえばそうですね。もしかして、何かあったんですか!」
鳥羽先生までも興味を持ち、ことの件について追及してくる。
特に鳥羽先生は、俺たち二人の関係に興味津々なようだ。
「あー、あおいからの希望で昨日からです。呼び捨てになったのは」
「だって、私というものがありながら他の子と仲良うしとるからやでー」
「何!?けしからんぞ小牧!修羅場か!修羅場なのか!!」
「どういう事なんですか小牧くん!黙って見過ごす事はできませんよっ!!」
あおいの言葉に過剰に反応する2人。
大垣さんはいつも通りの面白そうだ、という表情で、先生は本当に心配の表情を浮かべて距離を詰めてくる。
そんな様子を、ホラ吹き顔のあおいは遠目に嬉しそうに見ていた。
「いや、それは誤解というかなんというか…」
目的地に着く前に、従姉妹のゆりなについて、2人にも話すことにした。
「そういう事だったんですね。安心しました」
「なんだ〜。ドロドロな関係を期待してたのによー」
「いや、そんな期待されても」
なんとか誤解が解けた所で、ロープウェイは停車する。
気がつけば山の上まで上りきっていたみたいだ。
施設の中に移動すると、すでに日の出を目的に来たであろうお客さん達で賑わっていた。
「売店もうやっとるんや」
「外寒いし助かるね」
「せやなー」
中へ進むと、お土産やら食べ物が売られていた。
子供達もいるし、こうした施設が開かれているのはありがたい。
新年早々働いている皆さんも、お疲れ様です。
「あきちゃんお団子買うてー」
「しょうがねーなー。んじゃ、これがお年玉っつー事で。小牧妹も食うか?」
「食べたいです〜」
ひかりも手を挙げて大垣さんに団子をねだる。
そして、あかりちゃんを先頭に、お団子売り場へと移動する事に。
さっきまで緊張していたひかりも、だいぶ慣れてきたみたいだ。
「よもぎ一本ください」
「俺もよもぎで」
「じゃ、あたしはゆばで」
俺とあおいは自然の風味が味わえるよもぎを、大垣さんは高級そうなイメージのある湯葉が練り込まれたお団子をチョイスする。
「では、苦死を切って幸運を願います」
と、お団子屋さんのお兄さんがお団子が刺さった串の端っこをハサミで切った。
「苦死を切るために串を切るんだな」
「ダジャレや」
そして、皆注文したお団子を受け取る。
「ふふん!」
あかりちゃんが自慢げに、ぺかーっと、2本のお団子を両手に持って掲げる。
ひかりも同じく両方の味を手に持っていた。
「まさか2本づつ頼むとは…」
「2人とも育ち盛りやからなぁ」
「ありがとね、大垣さん」
「おー、気にすんな」
さて、お団子を貰ったは良いものの、どこで食べるかと辺りを見渡すとある事に気づく。
「あれ、鳥羽先生は?」
「さっきまで一緒やったけど」
あおいも気がつき、背伸びをしながら周りを見渡した。
「そこで甘酒配ってますよ」
すると、人混みの中から片手に甘酒を持った鳥羽先生が戻ってきた。
アルコールではないとはいえ、「酒」という単語への嗅覚は流石である。
結局、俺たちも先生に導かれ甘酒を貰い、外にあった木製のベンチに腰を掛けてから、甘酒とお団子を味わった。
その後、先生の提案で日の出前にお参りを済ませる事となった。
長い階段を登ると、意外にも参拝者はそこまでは多くなく、スムーズに自分たちの番が回って来る。
チャリンチャリンと各々がお賽銭を入れて、手を合わせる。
ちなみに俺は毎年、良いご縁をという事で五円玉を納めていた。
「あきちゃんがお年玉たくさんくれますように」
「んっ!?」
「にひひー」
あかりちゃんがイタズラ顔で、しかもわざと声に出して言った。
本当に良い性格してるなこの子は。
「日の出まであと10分、そろそろやな。なぁ、あらたくんは何お願いしたん?」
スマホで時計を確認したあおいはあらたを見て言う。
「とりあえず俺や家族、あおいや友達のみんなが健康に暮らせますように、って感じかな。あおいは?」
「私も似たようなもんやで」
「そっか(本当は、これからも、あおいと楽しい時間を過ごせますように。とも願ったけど)」
「うん(ホンマは、あらたくんとずっと一緒にいられますように、とも願ったけど)」
境内から身延山山頂へ移動してから数分。
「出てくるで」
「うん」
正面の山々の隙間から、どんどんと周囲に明るい光を放ちながら、とても綺麗な太陽が姿を現した。
「綺麗やなぁ」
「クリキャンの時も朝日が綺麗だったけど、ここからの景色も富士山と相まってすごいね」
「めっちゃレビューみたいな事言うやん」
本当にそう思ったのだから仕方ない。
「おーい。下りるぞー」
「えっ?」
しみじみと余韻に浸っていると、いつの間にやら、大垣さんが少し離れた所から手を振っていた。
「もう?」
「グズグズしてると初詣の客がいっぱい上がって来てヒドイ事になるぞ」
言われてみれば、先程までに比べるとこの辺り一帯の人の数が増えて来ている。
上がるのは楽だったのに、下りるのには苦労しそうだ。
「それに、次の初日の出も見に行かねーとさ」
にしし、と笑みを千明は浮かべた。
『次?』
何の事かさっぱりな俺らは、皆同じ疑問を口に出して言った。