イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
気がつけば、お気に入り数が500を突破しました!
物語はまだまだ続きますので今後ともよろしくお願いします♪
「なるほどダイヤモンド富士かぁ〜!!」
山道を登る車の中であおいがスマホを片手に言う。
《ダイヤモンド富士》
富士山火口から昇る日の出で、ダイヤモンドのように見えるためこう呼ばれます。
そして、ダイヤモンド富士は富士山の高さがある分通常より遅い日の出になります。
「今向かってる富士川町高下での日の出って、いつくらいなの?大垣さん」
同じく横からスマホを見ていたあらたが千明に聞く。
「身延山での日の出は7時ぐらいだっただろー。確か高下だと7時50分頃みたいだ」
「その間に移動して日の出を2回見るって事なんですね」
車を運転しながら話を聞いていた鳥羽先生も、大垣さんの狙いに納得したようだ。
「へぇーおもしろーい。楽しみやなぁ、ひかりちゃん!」
「うん。ダイヤモンド…すごく綺麗だと思う」
「あきちゃんやるやんかー!!」
「へへーっ」
千明が自慢げに腕を組む。
「だけど、この山道だと結構ギリギリになりそうですよね」
窓の外を見ると、道路にはまだ溶けきっていない雪が、ちらほらと目に入った。
車通りが少ないとはいえ、先生もここまで安全運転で走行してくれている。
だが、この山道はかなり時間をロスしていそうな気がしていた。
「大垣さん時間は?」
先生も同じ考えなのか、時間を気にしている。
「あと3分です」
「…間に合うかしらっ」
スマホの時計を見ると、すでに47分を回っていた。
大垣さんの情報だと多く見積もっても、あと数分しかない。
「先生なら、きっと大丈夫ですっ」
運転席のすぐ後ろに座っていたあかりちゃんが、身を乗り出して檄を送る。
「フッ…そうですね」
鳥羽先生のメガネがきらりと光って見えた。
「必ず間に合わせて見せますっ!!」
その掛け声と共に、車がスピードを上げた。
『うわああぁっ!!』
突然の加速により、車が揺れる。
一応、法定速度は守っているようなのだが、カーブを急ハンドルで曲がるせいか遠心力が凄い。
「っ!あらたくんごめんなっ」
俺と同じく後部座席に座るあおい。
あおいは、曲がるのと同時に遠心力に負けて、体重をこちらに預けてきた事を謝罪する。
右腕から、ふくよかな感触が伝わってくるが今はそんな事を心配する余裕はない。
「大丈夫だよ…って、うわぁっ!?」
次は反対に遠心力が掛かり、逆にあおいに覆い被さるような体制になってしまう。
なんだこの「頭文字◯」のようなドリフトさばきはっ!
こんな車内壁ドンは、ときめきのかけらもない。
「楽しいねー。あかりちゃん!」
「きゃははっ!ジェットコースターみたいやね!」
前の座席に座るキッズ2人組はアトラクションを楽しんでいる様子。
「あ、あらたくん。大丈夫?」
「うん…。なんかごめん」
ようやく車が安定したところで着席し直す。
「あ、先生!!そこを曲がったらもうすぐですっ!!」
ふーっ、ふーっ、と呼吸をする鳥羽先生。
そんな先生にあおいがナビをする。
最後のコーナーを曲がると、正面から陽の光が姿を現し始めた。
『見えたっ…、これが…、ダイヤモンド富士初日の出…!!』
坂を登りきると、そこには煌びやかな陽光を放つ太陽が富士山の火口……、
ではなく、遥か高い所に位置していた。
「すごい…、昇っちゃってますね」
車を降りて、最初に口を開いたのは鳥羽先生。
皆は何も言わず、駐車場から見える太陽を見つめていた。
「…………」
「…………」
「………あっ」
その沈黙を、スマホを見ていた千明が破った。
「ダイヤモンド富士の日の出。7時20分だったわ…」
うん。それなら、こんなに日が昇っちゃってるのも納得だ。
そうして、それを聞いた全員の視線が千明に集中する。
「間違えちった!!」
それに応えるように、千明はおどけて誤魔化した。
『〜〜〜〜っ!』
「どわぁぁぁっ!?」
しかし、犬山姉妹はその対応に黙ってはおらず、揃って雪玉を投げつけ始めたのだった。
まぁ、自業自得かな。
◇◇◇◇
「それじゃ、行ってくるな〜」
鳥羽先生と大垣さんと別れ、一度家に帰った俺は、あおい達犬山一家の見送りに来ていた。
「うん、気をつけてね」
「お土産楽しみにしとってな!」
「にーちゃん達も一緒に来ればええのに〜」
車に先に乗っていたあかりちゃんが窓から顔をひょこっと出して言う。
「こら、そんな無茶言わんの!」
それを聞いたあおいが妹に注意する。
「え〜っ、もっとひかりちゃんと、にーちゃんと遊びたかった〜」
「家族水入らずの時間を邪魔はできないよ。あかりちゃん、帰ってきたらまた遊ぼう。ひかりにも言っておくから」
当のひかりはというと、帰って早々眠いと言って、今は布団の中で寝ている。
「ほんま!じゃあ帰ってきたらまたゲームしよな!」
「うん」
それを聞いて安心したのか、あかりちゃんは顔を引っ込めた。
「ごめんなあらたくん。あかりが我儘いうて」
「ううん、あかりちゃんはひかりの大事な友達だし、俺にとっても妹みたいなものだからさ。あおいも、帰ってきたらひかりと遊んでやって」
「それはもちろん!」
グッと拳を握って答えてくれた。
「でも、」
スッと、俺の耳元にあおいが顔を近づけて来る。
それに思わずドキッとしてしまい、身体が硬直する。
「私がいないからって、浮気しちゃダメやで」
「!!?」
と、小声で言われた後にフッ、と耳に息を吹きかけられる。
「し、しないよっ!」
すぐさま、バッと耳を押さえて離れるとあおいはニコニコと笑っていた。
「ほんまに〜?」
そう言いながら、あおいは意地悪な顔をしてまた距離を詰めてきた。
「だって、あおいは俺のっ」
「俺のー?何なん?」
「〜〜〜っ!」
流石に、彼女のご両親にも聞こえてしまう距離で言うのは恥ずかしく、言葉に詰まる。
とはいえ、うちの両親とあおいの両親共に、俺ら2人の関係を知ってはいるのだが、俺にも羞恥心というものがあるわけで。
「あははっ、ごめんごめん。ちょっといじわるしてもうたわ」
「分かってるなら聞かないでよ…」
俺は掌で顔を隠しながら言った。
やはり、どうしても俺の方が恥ずかしい思いをさせられてしまう。
「でも、さっき言ったのはほんとやで!ゆりなちゃん今日から来るんやろ?」
「うん」
そう、今日の夕方には従姉妹のゆりなが新年の挨拶に家を訪ねてくるのだ。
だが、俺はゆりなの事は親戚や幼馴染、という事でしか考えられない。
ましてや、あおいが心配するような恋愛的感情は持っていなかった。
「でも、大丈夫だよ。離れてても、俺にはあおいがいるんだから」
「わっ」
俺はそう言いながら、あおいのニット帽を下げた。
顔を見られたくなかったからだ。
「とりあえず、高山には気をつけて行ってきてね!」
「ふふっ。それじゃ、帰ってきたら2人でも出掛けような」
「うん、分かった」
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
そして、あおい達犬山家の皆さんを見送った。
新年早々、からかわれすぎだろ。
そう思いながら家に戻り、あおいとのデートの予定を考えるのだった。
◇◇◇◇
「あけましておめでとうございます!」
家のリビングで、新年の挨拶が交わされる。
日が暮れてしばらくすると、家のチャイムが鳴った。
その訪問者は予想通り、東北から遊びに来た従姉妹の小牧ゆりな。
ゆりなは玄関から母さんに案内されて、このリビングに通されて今に至る。
「おお、ゆりなちゃんあけましておめでとう!元気にしてたかい?」
ゆりなの姿を見て立ち上がった父さんが、ソファへと招き入れる。
「はい!おじさんとおばさんもお元気そうで」
礼儀正しく一礼してから、ゆりなは腰をかけた。
「あらたも久しぶり!」
「うん、久しぶり」
ほぼ1年ぶりの再会にも関わらず、二人はごく普通に挨拶を交わす。
「あれ?ひかりちゃんは?」
リビングにひかりの姿が見当たらない事に彼女は疑問を感じていた。
「寝てる。今朝初日の出見てきたから眠いみたい」
「そうなんだ」
「けど、そろそろ起こさないと夜寝れなくなっちゃうよな。ちょっと起こしてくる」
「相変わらずお兄ちゃんしてるんだ」
「別に普通だよ」
そうして、ひかりを起こしてから、ふらふら歩く妹と手を繋いでリビングへと戻る。
「ひかりちゃーん。おはよう!」
「おはよ〜う。あれ?ゆりなお姉ちゃん?」
目をくしくしと擦りながらソファに座るゆりなを確認するひかり。
「ふわぁ〜。まだ眠い」
「結構寝てたけど、まだ寝れるのか」
放って置いたら春まで寝続けてしまうのではないかと心配になりながらも、一度ひかりにもソファに腰を下ろさせて手を離す。
「あかりちゃんは〜?」
「もう高山に行ったよ。帰ってきたら一緒に遊ぼうねって」
「わーい」
「あかりちゃん?」
俺たち兄妹の話を聞いていたゆりなが口を開いた。
「隣に住んでるひかりの同級生の子」
「へー、友達がお隣さんっていいね」
「うん!」
ゆりなに撫でられながら、ひかりが元気に返事をする。
喋っているうちに、少しづつ目が覚めてきたようだ。
「はい、ゆりなちゃん。紅茶で良かった?」
「あ!ありがとうございます」
お茶を淹れてきた母さんにお礼を言い、俺もカップを受け取る。
「そういえば、身延山からの初日の出はどうだったんだ?」
お菓子を摘みながら、ゆりなからの近況報告や、東北にいるおじさん達の事を話していると父さんが聞いてきた。
「すっごく綺麗だったよ〜」
「うん。山からの日の出初めて見たけどすごく良かったよ。あと、ダイヤモンド富士ってのがあるみたいなんだけど、それは時間が合わなくて見れなかった」
「ほぉ〜、山からの日の出も良さそうだな。母さん、今度一緒に見に行ってみるか」
「そうね〜」
それを聞いて、ゆりなが目をパチクリとさせた。
「えっ、家族で見に行ったんじゃないんですか?」
「私たちは行ってないのよ。行ったのはあらたと、ひかりだけよ」
「さっき話したあかりちゃん達と見に行ったんだよ。部活の顧問の先生に車出してもらって」
そう言って、俺は紅茶を啜る。
「部活?あらた部活入ってんの?」
「うん。野外活動サークルっていうキャンプとかアウトドアをする部活。まぁ、去年の年末に入部したばかりで日は浅いけど」
「へぇ〜、楽しい?」
「うん。部員の皆んなも面白いし楽しいよ」
「それじゃ、その人達と見に行ったんだ」
それを聞いて納得したゆりな。
「あかりちゃんのお姉ちゃんがあらたと同級生で、同じ部活なんだよ」
すると、俺の隣に座る父さんが付け足して説明する。
「あっ、だからそのあかりちゃんも一緒だったんですね」
「ふふっ、お父さんったら」
それを聞いた母さんが、含みのある笑い方をする。
この後の一言で、空気が変わった。
「ただの同級生じゃないでしょ?」
「む、それもそうだな」
「?」
母さん達の会話にゆりなは首を傾げる。
「だって、あおいちゃんはあらたの彼女でもあるじゃない」
「っ!!?」
驚いた顔をしたゆりなは次の瞬間、足元に紅茶の入ったカップを落とした。
「ちょっ!?ゆりな!!?大丈夫!?」
「火傷してないかい!?」
ゆりなの近くに座っていた俺と父さんが、いち早く動いた。
「だ、大丈夫です。少し靴下が濡れちゃったけど」
幸い、紅茶も殆ど飲み干していたうえに、そこまで高い位置からではなかったのでカップも割れる事はなかった。
「よかったわ〜。ゆりなちゃん、靴下洗濯するから一度脱いでもらってもいい?一応足も洗いにお風呂場に行きましょ」
「はい、すみません」
そうして、ゆりなは母さんに連れられて一度洗面所の方へと移動する。
残った俺と父さんはカーペットを拭いたり、落ちたカップを片付け始めた。
「ゆりな、どうしたんだろ?」
「あらたよ、我が子ながら罪な男だな」
「へ?」
その時、父さんの言った事の意味はよく分からなかったけど、新年早々の波乱の幕開けとなったのは確かだった。