イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
第十七話 「次のキャンプ」
冬休みが終わって1週間。
正式に野クルに入部してから、何度目かの活動日にて。
「えっ、山中湖?」
「そうそう。あたしとイヌ子、それと恵那も行く予定なんだが、小牧も一緒に行かないか?」
落ち葉焚きの後始末をしながら話す、千明とあらた。
なでしことあおいは、使ったマグカップ等の食器類を洗いに水道へ行った所だ。
「次の休みに行こうって昨日から話しててさ。生憎、なでしことしまりんはバイトみたいなんだが、小牧はどうだ?」
野クルで唯一、バイトをしていなかった各務原さん。
だけど、年明けすぐに姉の桜さんが身延駅から近い蕎麦屋さんでバイト募集の張り紙を見つけてくれた事で、ようやくアルバイトに就ける事が決まったらしい。
そのため、今回企画されたキャンプには不参加のようだ。
「うーん、特に予定は無かったかな。今週はバイトも休みだし」
「ほんとか!」
「うん。お邪魔じゃなければ参加させてもらおうかな」
「邪魔な訳ないだろ。イヌ子も喜ぶぞ!それに小牧はもう野クルの正式なメンバーなんだから遠慮する事ないんだぞ!」
そう言って肩を叩きながら、にししと笑顔を見せる千明。
「それに、キャンプ場とかで、もしもイヌ子がナンパでもされたら、」
「俺も行く。いや、何が何でも一緒に行く」
「切り替えはえーな!(つっても、シーズン的にあたしら以外殆どキャンパーなんて居ないんだろうけど)」
大垣さんに乗せられていると分かっていながら、キャンプに行く事自体に興味が湧いた。
年末に行ったキャンプの事もあって、他の場所でのキャンプ。楽しみにせざるを得ない。
「んじゃ決まりな!おーい、今度の山中湖キャンプ、小牧も行くってよー!」
と、カップを洗ってきたであろう、なでしことあおいに向かい聞こえるように千明は言った。
それを聞いて、あおいが先にこちらへと駆けてくる。
「ほんまに!」
「うん。楽しそうだよね山中湖」
「せやねー。まぁ、具体的な場所とかはあきが決めてくれるみたいやから、当日まで何処に泊まるのかは内緒みたいやけど」
「いいなぁ〜。私も行きたかったな山中湖」
残念そうな顔でなでしこがあおいの後ろから近付きながら言う。
「アルバイトならしょうがないよ。始めたばかりなら急に休みも取れないだろうし」
「うん。でも、写真とかは一杯送ってね!みんなが楽しんだ気分を味わうから!」
本当に各務原さんはキャンプが好きなんだな。
キャンプと聞いたら犬のように駆け寄って行きそうな姿が目に浮かぶ。
「分かった。って言っても、あおいや大垣さんの写真が殆どになるだろうけど」
野クルで唯一キャンプに来れない各務原さんのために俺も写真をグループトークにアップしようとは思うが、おそらく普段からよく写真をアップする女子達の方が多くなるだろうな。
◇◇◇◇
「そんじゃまた明日な!」
「うん。また学校で」
「またな〜」
電車を降りて家に帰ると、俺とあおいの家よりも先に、大垣さんの住むマンションに着く。
野クルの活動日は、いつもこの流れで3人で帰っている。
「明日はなでしこちゃんがバイトやけど、恵那ちゃんが来るみたいや」
マンションを後にし、自宅へと向けて歩いているとあおいが言った。
「そっか。せっかくなら、斉藤さんも野クルに入ればいいのにね」
「実は一度勧誘したことあるんよ」
「えっ、そうだったんだ」
予定が空いていたとはいえ、当日まで1週間も無いと言うのにキャンプに参加すると言うのなら、斉藤さんも前回のクリキャンを通じてキャンプに興味を持っているような感じはしていた。
だからこそ、このタイミングでの勧誘は効果的な気がしたのだが、すでにそれは実行されていたらしい。
「前のクリキャンで、あきと恵那ちゃんとお風呂に入ってる時にな〜。でも、本人はまだしばらく帰宅部でいたい、って断られたんやけど」
「そういえば、そんな事言ってたね」
俺が入部するとクリキャンの時に、皆の前で決断した際に、そんな風な事を本人が話していたのを思い出す。
「強要は出来へんし。それに今はこうしてたまに一緒にキャンプできるだけでも十分楽しいしな〜」
「うん。そうだね」
にっこりとあおいが笑顔を見せながら言う。
俺もそれに笑顔で答えた。
「何より、今はあらたくんもいるし」
そう、ボソッと付け足された言葉は、風の音であらたの耳には届かなかった。
「せや!あらたくんもうバイト代で何買うか決めたん?」
あおいは、はっ、と思い出したように聞く。
「うーん、そうだな。これからもキャンプするなら、やっぱり志摩さんが使ってたようなローチェアが欲しいかな」
あおいの質問に答えながら、俺はある事を思い出す。
「そういえば、前のクリキャンの時にさ。あおいと一緒に椅子買おうって話したよね。あおいもまだ希望が変わってなかったら、」
「うん!私はそのつもりやったよ」
俺が言葉を言い切る前にあおいが先に言う。
「よかった〜。あらたくん覚えててくれたんやね」
覚えてた、という訳ではないけれど、あおいが嬉しそうなので、とりあえずは良しとする。
「それじゃ、キャンプ地に行く途中とかで買えたらいいよね。山中湖周辺にもアウトドアのお店はあるだろうし」
「ほなそうしよか。あとで、あきにも寄ってもらえるよう連絡してみるな」
「うん。お願いね」
未だシュラフしか持っていない、自分のギアが増える事に期待を膨らませながら、早くキャンプ当日にならないかと、あらたもあおいも心の中で思うのだった。
今回は少し短めでした!ただ、山中湖キャンプの話は好きなので上手く展開していけるよう頑張ります!