イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
原作に沿ってストーリー展開していくのですが、ちょいちょいオリジナルも挟んでいこうと思います!
「へぇー、犬山さん彼氏できたんだ」
「実はなー。最近付き合う事になったんよ」
すっかり放置された木皿とスキレットをよそに、女子トークは続いてゆく。
「てなわけであき、彼氏も誘ってええかな?」
「ぐぬぬぬ、本当に彼氏できたのかお前……」
くわっ!と面白い形相をしながら千明はあおいを問い詰める。
「ていうか、なんであたしに言わないんだよー!」
「そう言われてもなー。そういう話にならなかったからや」
「……それもそうだな」
腕を組み、あおいとの最近での会話を思い出す。言われてみると、普段そういった色恋沙汰の話しをしない事に気付いた。
あまりにも納得の答えに首を縦に振るしかない。
「だれだれ?同じ学校の人?」
二人の会話が落ち着くのを待ち、恵那が続いて聞く。
共学の本栖高校であれば、カップルが誕生するのもそう珍しくはない。それが知り合いの事となれば気になるのは当然だ。
「そうだそうだ!一体どこの馬の骨か、腐れ縁のあたしには教えてもらう義務があーる!!」
恵那に便乗する様に、ビシッと人差し指を向けて隣にいた千明が机に乗り出してくる。
恵那も相手が気になるのか、じーっと視線をあおいに向けたままだ。
「あきも会った事あるはずや。あらたくんやで」
ふぅ、と息を吐き最近恋仲となった相手の名前を口にする。
「……あらたって、今年イヌ子ん家の隣に引っ越してきた小牧のことか?」
今年の3月、犬山家の隣に小牧あらたを含めた小牧家の四人家族が引っ越してきたのだ。
千明自身もあおいからお隣さんが引っ越してきた事は聞いていたし、それが同級生だという事も知っていた。しかも、犬山家の隣人とあらば千明の家からも近いというわけだ。あらたの事は校内でも最寄駅でもよく見かけていた。
当のあらたとあおいは、高校も同じという事もあり、小牧家が引っ越しの挨拶に訪れた日から友人関係にあった。
「確か同じクラスだったよな」
「せや、入学式の日にクラスで顔合わせた時は驚いたわ〜」
「なんかロマンチックだね〜」
千明も知っている人物であったため、なんとなく安心し、胸を撫で下ろす。恵那はニコニコと笑顔を見せた。
「にしても、お前らそんなに仲良かったのか? あんまり二人で話してる所とか見た事ないぞ」
「まぁ、あきはクラスも違うからなー」
「いつから付き合い始めたんだ?」
「ほんま最近やで、1週間ちょっと前くらいからやな」
「しかし、いつのまにそんな恋愛関係になっていたとはなー。全然気づかなかったぞ」
ふむふむと恵那が頷く。
「ねぇ犬山さん。どっちから告白したのかとか聞いてもいい?」
「ナイスだ斉藤!あたしも気になるぞ!!」
「ちょっと恥ずかしいなぁ。でも、…………あっちからや」
珍しく顔を真っ赤にして俯き、あおいは答えた。自分から言う事に恥ずかしさを感じて蒸気した頬を冷ますように手をぱたぱたと団扇のようにして仰ぐ。
「へー、小牧。イヌ子の事好きだったんだな」
「でもそれをOKしたって事は、犬山さんも?」
こくりとあおいが頷く。
そっかぁと恵那も頷き返した。
(あたし、イヌ子がこんなに恥ずかしがっている所初めて見たぞ。本当に小牧の事好きなんだな)
「あらたくん。いつもな、何かあるとすぐ助けてくれるんよ。私が先生から帰りに頼まれ事を受けて、なかなか帰れなかった日も一緒に遅くまで残って手伝ってくれて、親が用事で家空けてて妹が熱出した時も手伝いに来てくれて、本当に優しくて頼もしいんよ」
小牧家が引っ越して来て以来、色々と家族ぐるみでの交流などで学校内だけでなく、学校外でも会う機会があった。
そんな中であおいは、気がつけば彼を意識するようになっていた。
「くっ、普通に良い話しじゃねーか(そういえば、そういう事があったような話しを聞いたような)」
「いいなー犬山さん。すごく大事にされてるんだね」
あおいはスタイルも良く、おっとりとした関西弁で可愛いと思っている男子もいる事だろう。そんな彼女を惚れさせた相手に(特に千明は)二人とも興味が湧いた。
「イヌ子がそこまで言うなら、小牧にも声かけてみるか。けど、本当にいいのか?クリスマスなら、あたしらとじゃなく二人で過ごした方が」
「ええよー、あらたくんもキャンプ興味あるって言うてたし。それに仲の良い友人と過ごす時間も大切にしようって、いつも二人で話してるんよ」
「寛大なカップルだな」
思っていたよりも、犬山小牧カップルの仲が良さそうで千明も感心する。
「せや、斉藤さんもクリスマスキャンプどう?」
「えっ、私!?」
あははと笑う恵那に、あおいが一つの提案を持ちかける。
ソロキャンをよくするというリンの友達とあらば、キャンプの話とかをする事もあるだろう。ならば、キャンプ自体に興味を持っているかもしれない。
先程までやっていたスキレットのシーリング作業を手伝ってくれていた時も楽しそうにしていた。
「デイキャンプにすれば寝袋とかもいらんし、一緒にやらん?」
「うーん、寒いの苦手だけど……ちょっと楽しそうだなぁ」
科学室のテーブルに身を任せ、そんな事を口にした。
やはり、少なからずキャンプへの関心はあるようだ。
「決めるのテスト終わってからでもいい?」
「うん。ええよー」
少し考えたのちに、あおいの提案に対しての答えは保留となった。
キーンコーンカーンコーン
まもなく下校だという時間を知らせる鐘の音が学校中に鳴り響く。
「そろそろ私帰るね」
それを聞いて恵那が先に席を立った。
「じゃあね犬山さん大垣さん」
「うん、またなー」
「じゃーなー」
と、科学室を後にする恵那を二人で見送る。
「なんだか、今日は色々ありすぎたな」
「木皿もええ感じになったし、うちらもはよ帰ろー」
「おー、でもその前に」
帰る準備をしようと千明を促すと、なでしこに返信をするという。
そして何故か、スキレットをバットのように持つ千明と共に、キャッチャーミット代わりに木皿を持ちながらしゃがんだあおいは、その姿で写真を撮った。
【野クルグループ】
千明
『次の野クルキャンプは』
あおい
『テスト終わりのごほうび。クリスマスキャンプで決まりやー!』
今頃スマホの向こうで、なでしこが拳を宙に向けて突き上げている事だろう。二人はそう思いながらようやく帰路へとついた。
その後、偶然下駄箱を通りかかった帰り際のあらたと鉢合わせた事で、千明に色々とどやされたのは言うまでもない。