イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第二十一話 「紅富士の湯にて」

 

【紅富士の湯】

山中湖畔にある天然温泉。施設名にもあるように、冬季には朝日に紅く染まっていく富士山を眺めながら露天風呂に入浴することができます。

 

「あったかぁ……」

 

人が少なくほぼ貸し切り状態の露天風呂で、ちょうど良い温度のお湯に浸かるあらた。

目の前には、綺麗な富士山が広がっていた。

 

「温泉入って、こんな景色が見れるだなんて贅沢だよなぁ。見物料も取っても良いくらいの絶景だ」

 

自分以外誰もいない露天風呂の中で、そう彼は呟く。

 

「それにしても……」

 

いくら極楽な環境とはいえ、一人でいるのはやっぱり心細い。

 

(いや、俺以外のみんな女の子だから仕方ないんだけど。クリキャン同様に、こういう時は寂しい)

 

「って、裏切ったなお前ら!!」

 

「……いや、そうでもないか」

 

男湯と女湯を隔てる柵の向こうから、よく知る賑やかな声が聞こえてきた。

概ね、大垣さんが二人に遊ばれているのだろう。

 

「あおいたちも今露天にいるんだな。一体、何の話してるんだ?」

 

いつか、あおいと混浴とかもできたら……。

 

「……////」

 

って、いかんいかん。まだそういうのは早いよな。

頭の中であおいの姿を想像し、急に体温が上がる。

 

「少しのばせたかも……」

 

正直、この適温の温泉に延々と浸かっていたいが、次の予定もある為そろそろ上がる事にしよう。

 

 

△ △ △ △

 

「あらたくんお待たせー」

 

入り口で待っていると、頬を赤らめた三人が出てきた。

三人も天然温泉を満喫できたみたいだ。

 

「待たせちゃてごめんねー。小牧くん」

 

気を遣ってくれたのか、斉藤さんが俺を見て申し訳なさそうに言う。

 

「ううん、平気だよ」

 

女子は髪を乾かしたりと、いろいろ大変な事があるのは百も承知だ。少しくらい待たされたって気にしない。

 

「あらたくんも、富士山見えたん?」

 

「見たよ。すごく良かった」

 

「なー。山中湖からの富士山も楽しみや」

 

あおいに露天風呂からの景色の感想を求められ、山中湖への期待も膨らむ。

富士五湖の一つ。そんな場所からの景色は、きっと良いに決まっている。

袖野には高原が広がってるみたいだし。山頂付近だけでなく、全体的に富士山を拝むことができるだろう。

 

「高原といえは、山中湖の標高って、どれくらいなんだろう……」

 

「あらたくーん。置いてくでー」

 

「あっ、ごめん」

 

あおいに呼ばれ、既に三人が先を歩いていた為、あらたは思考を忘れ小走りで追いつく。

 

「そうだ。何か軽く食べてく?」

 

「だなー」

 

食堂の前を通りかかると、斉藤さんが皆に問いかけた。

 

「へぇ、桔梗信玄ソフトがある」

 

旅行の時って、ご当地の食べ物を楽しめるのも醍醐味なんだよな。

 

「ホンマや、私それにするわ」

 

「私も」

 

他のみんなもそれに同調し食べる事に。

カウンター席に腰を下ろし、ちょっとした小休憩。

 

さっそく、手に持ったアイスを口にする。

ひんやりとしたアイスクリームが、口の中に広がった。

きなこ餅とアイスが絡んで、とても甘くて美味しい。

 

「なんかキャンプ前のアイス習慣になってもうたなぁ」

 

「うむ」

 

隣に座るあおいが、ふにゃっとした表情でむにょむにょと口を動かしてアイスを食べる。

相変わらず可愛らしい。両手が塞がっていなければ、写真に収めたいところだ。

 

「あおいちゃん、私の抹茶味も一口どう?」

 

「じゃ、私のバニラ味もどうぞー」

 

すると、あおいと斉藤さんが互いのアイスをシェアし始めた。

 

「…………」

 

「残念だったな小牧」

 

「大垣さん?」

 

「イヌ子と同じバニラだと、シェアを口実に食べさせ合いっこができねーもんな」

 

「いや、そんなつもりは……」

 

もしかして、カリブーでのキャンプ椅子の件を掘り起こしてるのだろうか。

悪い顔をしながら笑う大垣さんは、そう言い残し、アイスを持ったまま何処かへと行ってしまう。

 

「そういえば今日、どこのキャンプ場行くの?」

 

「ああ、そんならあきがー……。あれ? あきは?」

 

俺たちの会話を聞いていなかった二人は、座っていたはずの大垣さんを探してキョロキョロし始める。

 

「あらたくん、あき知らん?」

 

「大垣さんなら丁度そこに……」

 

いつの間にか隣に立っていたはずの大垣さんはいなくなり、

 

「うまー」

 

畳に移動して、寝転がりながらアイスを嗜んでいた。

 

「行儀わるっ!!」

 

早々にそれを発見したあおいが、声を出す。

 

「そうか、寛ぐために移動したのか」

 

「ていか、こんなトコで横になると……、ほっとけや温泉の二の舞になるで!!」

 

それを聞いて、あおいが前に話していたイーストウッドキャンプ場での事を思い出す。

どうやら、温泉に浸かった後に休憩スペースで寛いでいたせいでキャンプ場に行くのが遅れた事があるのだという。

 

「ほらっ、あき!」

 

その事があったからなのか、あおいも必死だ。

こうしていると、どっちが部長なのか分からないな。

 

とはいえ、

 

「こんなに幸せだと眠くなるのも、分からなくはない……かな」

 

横目に二人の状況を見ながら吸い寄せられるように畳へと腰を掛けて、テーブルに俺は身体を預ける。

 

「あれ……? 本格的になんだか眠くなってきた」

 

冷えた身体が温まった後に、何か食べてしまえば一気に眠気が襲ってくる。ちょっと畳に座っただけなのに、とってもなく眠たい。

特にあらたは、まだ旅慣れしていない為に簡単に誘惑に堕ちてしまっていた。

 

「あらたくん!? ダメやで、眠っちゃ! 常識人が居なくなってまう!」

 

焦るあおいは、あらたの身体を揺する。

 

「落ち着いてあおい。五分くらい目を軽く瞑るだけだから、大丈夫」

 

「いやいや駄目やって! 絶対五分じゃ済まんやろ!」

 

そんな中、すでに上着を掛けてまで眠りにつく人物が。

 

「すぴー」

 

「って、恵那ちゃんもかーい!!」

 

その後、あおいに朦朧とした意識の中から連れ戻された俺は、大垣さんと斉藤さんをなんとか起こし、夕飯の買い出しに向けて歩き出した。

 

あおいがいなければ、危なかったかもしれないな……。

 

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