イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第二十二話 「鍋しこちゃんは誰の嫁?」

 

「きりたんぽ?」

 

「そ、夕飯はきりたんぽ鍋だ」

 

夕飯の買い出しに向かう途中、献立について話していると、大垣さんが事前に考えていたものを口にした。

 

「北国で親しまれてる鍋だし、寒い山中湖にピッタリだろ?」

 

きりたんぽ……。久しぶりにその名を聞いた。

聞き馴染みのある名前に、親近感をあらたは覚える。

 

「私、きりたんぽ食べた事ないんだよね」

 

「私もやー」

 

「私もー」

 

「あきもないんかい」

 

「ぐへへへ」

 

なんと、ここにいる自分以外の三人は食べた事がないらしい。

 

「あらたくんは東北に住んどったから、食べた事あるんやない?」

 

「うん、あるよ」

 

「小牧くん、東北に住んでたんだっけ?」

 

「なっ! 余計にピッタリだろ? 頼りにしてるぞ小牧!」

 

「いや、俺食べた事はあっても知識はないんだよ……」

 

変に期待されても良くないので、素直にあらたは答える。

 

「ははっ、冗談だって。私が調べてきたから大丈夫だ」

 

「それならいいけど……。てか、本当に三人とも食べた事ないの?」

 

「「「こくん」」」

 

三人揃ってそれに頷く。

 

東北育ちのあらたにとって、頻繁に食べる物ではないとはいえ、食べた事がないという発言には驚きを隠せないでいた。

 

「あらたくんもこっちに来るまでは、ほうとう食べる事なかったやろ? それとおんなじや」

 

「確かに言われてみればそうかも。そっか、なるほど」

 

そう言われて納得がいった。

 

【ほうとう】

山梨県の郷土料理、ほうとう。収穫した麦をめんにして、季節の野菜といっしょにみそで煮こんだものを言います。

 

ほうとうは前に、あおいと二人で食べに行った事がある。

その時が、俺に取って初のほうとうで、もちもちしていて美味しかった事をよく覚えている。

 

「ありがとう。なんだか、名産品について実感させられた気がする」

 

「郷土料理は、そういうものなんよ」

 

まるで学校の先生に教えられたかのような気分になったあらたは、あおいに感謝を伝える。

 

「ところで、きりたんぽってスーパーで売ってるの?」

 

夕飯について、斉藤さんが話を戻した。

 

言われてみれば、三人が食べた事ないという事は、この辺りには売っていないという事なのかもしれない。

 

「俺の地元でも、季節によってって感じだったなぁ」

 

「ふふ、甘いぞ恵那、小牧。信長が良く言ってるだろ?」

 

「の、信長?」

 

なぜそんな歴史上の人物が突然出てくるのか、分からないまま聞き返す。

 

「『無いのなら、つくってしまえ、きりたんぽ』だ!!」

 

「言ってない言ってない」

 

歴史を改変するような一言に、斉藤さんが笑顔で答えた。

 

【きりたんぽの作り方】

①ご飯をすりつぶし

②塩水を軽く塗りつつ、串に巻きつけ

③フライパンなどでコゲ目がつくまで焼き\あつい!/

④串から外して適当に切ったら完成です。

 

△ △ △ △

 

「鍋に使う野菜だと、この辺かな」

 

「えーと……」

 

山中湖付近にあるスーパーHAGINOにて、四人は夕飯に向けて買い出しを始めた。

 

「にんじん•ごぼう•セリ•まいたけ•長ネギ……」

 

「以外と多いな。皮剥きとか大変そうだけど、大丈夫かな」

 

「野菜は下ごしらえしてきた方が良かったんやない?」

 

買い物かごを持ちながら、隣を歩くあおいが大垣さんの方へ振り返る。

 

「あー、それな」

 

すると、ある冷凍食品を手に取って見せてきた。

 

「これを使うんだよ」

 

「豚汁の具?」

 

よく見れば、パッケージにはそう書かれていた。

受け取った斉藤さんが、パッケージの裏を見て内容物を読み上げてくれる。

 

「ごぼう、にんじん、大根、椎茸、長ネギ……」

 

「ホンマや、殆どの具材が被っとるな」

 

「だろー」

 

大垣さんが自慢げな顔で胸を張る。

 

「こんな便利な方法があったなんて」

 

「やるねあきちゃん」

 

「ていうか昨日、なでしこに教わったんだけどな」

 

「なんやー、なでしこちゃんかー」

 

大垣さんのお得な情報の発信源は、各務原さんだったようだ。

その証拠に、その時のチャットの画面を見せてくれた。

 

【なでしこ】

『きりたんぽは、そのまま焼いてもいいけど、ごま油で焼くともっとおいしいよ!(*´꒳`*)』

 

『あと、きりたんぽ鍋のスープはしょうゆ味もいいけど。ごま豆乳スープもまろやかでおすすめです!!*\(^o^)/*』

 

『あ、セリがなかったら三つ葉でもOKだよ。それと鳥むね肉は固くなるから、もも肉とかつくねがいいかもー』

 

『そうだ! とろろも入れて、ごま豆乳とろろきりたんぽ鍋ってよくない!?(*゚∀゚*)』

 

とても詳しく書かれた各務原さんからの、鍋情報。

 

「……情報量すごいな。ネットのレシピを見てるみたいだ」

 

「なでしこちゃん鍋スキル高いなぁ」

 

「さすが『鍋しこ』ちゃん!!」

 

【鍋の妖精 鍋しこちゃん!】

 

「よし、鍋しこを嫁にしよう」

 

「「「!?」」」

 

各務原さんの鍋スキルに感心していると、大垣さんが急にそんな事を言い出した。

 

「駄目だよ、あきちゃん。鍋しこちゃんを嫁にするのは私だ!!」

 

それに乗っかるように、拳を握りしめて何かを決意したような斉藤さん。

 

「え? 何? よめ?」

 

「二人とも、何の話?」

 

そんな二人に、あおいとあらたは困惑の表情を浮かべる。

 

「だったら鍋しこは、みんなの嫁にしよう」

 

「よし」

 

何が「よし」なんだ斉藤さん。

そして、俺たちは一体どうすればいいんだ。

 

「そんで、うまい鍋食べ放題するぞー」

 

「「えいえいおー」」

 

なぜか「鍋しこちゃん」トークに花咲かせる二人に手を引かれ、四人で円陣を組み天井に手を掲げる。

 

「何やこれ」

 

「周りの目が痛いんだけど」

 

方向性の分からない茶番の後、斉藤さんの提案で「ワカサギの天ぷら」も食べてみようという事になり、それに向けた準備を整えてから、再びキャンプ場へ向けてバスに乗った。

 

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