イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
「「「「おーーーっ」」」」
バスにしばらく揺られ、景色が開けた道へと入っていく。
「「「山中湖ついたーっ」」」
透き通るような大きな湖と、その奥には大きな山々。バスの中からでも、その大自然が一望できた。
「ここが山中湖か。初めて来たけど、最高の景色だね」
気がつけば、その景色を残そうと窓越しにスマホのシャッターを切っていた。
【山中湖】
富士五湖の中で最も南東に位置し、標高も980mと一番高い場所にある湖。観光地として人気が高く、北側を上にするとクジラのような形をしている。
「クジラっていうより、ローストチキンじゃね?」
「(わかる)」
腕組みをして口を尖らせて言う大垣さんに、心の中で同意する。
そんな感想を抱きながらも、俺たちは山中湖周辺について話を移した。
「やっぱり、観光地ってだけあって色んなものがあるみたいだね」
窓の外から見える景色の中には、飲食店や人の集まる場所が見える。
「あっ! ねぇ、湖畔にハンモッカーズカフェなんてあるみたいだよ」
真ん中に座る斉藤さんがスマホで辺りの情報を調べてくれていた。
「明日でもいいから寄ってかない? ハンモックに揺られながらのんびり昼寝もできます。だって」
「ほー、ええやんここ。……あ、でも」
《※冬期は休業となっております。》
「( I H I )」
休みと知って、皆この顔である。
「で、でも。遊覧船とか美術館もあるし、キャンプ場から歩いて色々観光できそうやなぁ」
「そ、そうだよ。別に飲食店がなくても十分楽しめるよきっと!」
あおいのフォローに乗っかり、俺も他の楽しみを見出そうと促す。
だが。
「スマン。あたしが予約したとこ向こう岸で、周りに何もないんだわー」
「( I H I )」
という事で、キャンプ場以外で遊びにいけそうな場所はなさそうだ。
「け、げとな。結構いいとこなんだぞ」
「ほんまにー?」
「ホンマニー?」
大垣さんの言い訳に俺たち三人は疑いの目を向ける。
そんな時だった。
「アノゥ、スミマセン」
「む」
近くに座る男性。明るい髪に、透き通った瞳。見た感じ外国の人のようだ。
「ヒラヌウンセンワ、ドゥコデオリマスカ?」
「ヒラヌウンセン……」
「もしかして、平野温泉の事じゃないかな?」
「あー! 平野温泉!!」
拙い日本語ながらも、何とかその人が言おうとした事を理解した四人。
その男性に千明は、自身満々な顔で答えようとする。
「ヒラヌウンセンワ……」
「Hirano Onsen is two bus stops away.(平野温泉は二つ先のバス停で降りますよ)」
しかし、千明よりも先に一番男性に近い席に座っていたあらたが英語で答える。
せっかくなら、楽しんでもらいたいもんな。同じ観光仲間として。
「オー、アリガトウ。センキュー」
「ユアウェルカム」
教えてあげると、外国人の男性は笑顔で感謝を伝えてくれた。
俺もこっちに引っ越して来たばかりの頃は、右も左も分からなかったからな。
異国の人だと文字も違うし、大変だろう。その気持ちは分かる。
「……」
「……なー、あき。今ボケようとしてたやろ」
「べっ、別に! んな事ねぇしっ!」
えっ、大垣さん何かボケようとしてたのか? 邪魔をしてしまっただろうか。
千明とあおいの会話を聞いて、余計な真似をしたかもしれないとあらたは思った。
「観光地だから、海外の人多いね」
「サ、サスガ、フジサンPOWERデェース」
「やめーや」
どこか今のセリフに満足感を覚えたような顔の大垣さん。
元々明るい人だから、別に今のことは気にしてなさそうだ。
「あらたくんすごいやん。英語得意やったん?」
「ん?」
くるっとこちらにキラキラとした目を向けてくれるあおい。
しかし、俺が答えなくても、あおいだって勉強ができるのだから、きっと答えられたんじゃないかな。
「得意っていうか、普通にお兄さんが片言でも日本語だったから理解できただけだよ」
「それでもすごいよ。咄嗟に英語で返すなんて」
「斉藤さんまで……。授業で習った事そのまま使っただけなんだけどな」
「ふん! あ、あたしだってそれくらいできたぞ!」
「「「…………」」」
「何だー、その目は!」
ぷんすか怒る大垣さんに、つい堪えきれずに笑ってしまう。
「お前ら笑ってんじゃねー!」
「あははっ、ごめんつい」
「はぁ、……って、何の話してたっけ?」
「鍋しこちゃんは、みんなの嫁って話」
「戻りすぎや」
笑いの絶えない道中。山中湖の周囲を走り、ついに目的地が見えてきた。
「お、見えたぞ。あそこだ」
視線の先には、湖に浮かぶ岬が佇む。
「この辺のキャンプ場って、林間か湖畔が多いだろ?」
確かに、つい先程スマホで周囲のマップを見た時は、それがほとんどだった。他にも、湖を囲むようにホテルなどの宿泊施設が立ち並んでいる。
「山中湖で唯一岬に泊まれるキャンプ場、大間々岬キャンプ場だ」
どんどんと近づくにつれて、綺麗な景色が広がってきた。