イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第二十五話 「ワンッ!と鳴くトーストワンコ」

 

「「おおーっ!!」」

 

近くで俺たちと並行して、新たなキャンプギアを展開していた大垣さん。彼女はブーツを脱いで、対面させた二つのコンパクトローチェアの内、片方には腰を下ろして足を伸ばし、もう一つの椅子に足を乗せていた。

 

「これが、お店のお姉さんが言ってたハンモック風の椅子の使い方だね」

 

「あきちゃん、寝心地はどう?」

 

ドヤ顔で寛ぐ大垣さんに俺たちは感想を求める。

 

「なかなか快適だぞ。ハンモックていうよりデッキチェアぽいけどな」

 

「なるほど、言われてみれば」

 

シルエット的にはハンモックにも見えなくはない。それでも、やっぱり寝転がっているよりかは座っているように見えることから大垣さんの言う通りデッキチェアの方が近いのかもしれない。

 

「恵那も使ってみっか?」

 

「うんうん」

 

興味を示していた斉藤さんに大垣さんが場所を譲って、そこへ座らせる。

 

「うわー、これは動きたくなくなるね」

 

「私もええ?」

 

「おう!」

 

代わりばんこに女子達が、ハンモック風の椅子を堪能しているのを横目に俺は一つのことに気がついた。

 

「ホンマや。ええなぁ、これ」

 

「だろぅ」

 

「これ、よく見たら違う種類の椅子なんだね」

 

「あぁ、さすがだな小牧。二つ買うと高いから片方は前脚なしの安いタイプだ。不安定だが足乗せるだけだしな」

 

「ふーん。……大垣さん、あとで俺も座っていい?」

 

「ははっ、遠慮すんなよー。全然オーケーだ!」

 

遠慮……というよりは気を使う。

いくら丈夫な椅子とはいえ、普段よりも深く椅子に身体を預ける事を考えると、男子でこの中で一番体重のある俺は、椅子に与える負荷が三人よりも大きい。

ま、そこら辺はしっかりと作る際に荷重テストとかしてるだろうから大丈夫なのだろうが、女子の私物に脚を乗せる事自体も、俺としては気が引ける。

だが、あんな幸せそうな顔で堪能するみんなを見て体感したいと思わざるを得なかった。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「ぐぅ……」

 

椅子の方へ視線を向けると、ブランケットまで覆って寝静まる葵の姿が。

気持ちは分からなくもないけど、絶対嘘寝だ。

 

「あおいー、俺も座りたいんだけどー」

 

「小牧、ここは私に任せろ!」

 

俺とあおいの間に、大垣さんが割って入る。

 

「鍋の下ごしらえでもしとくかー」

 

「あはははっ、やめーやー」

 

身体の上にスーパーで購入した材料を載せられて、笑いながら目を開けるあおい。

普段ボケることの多い大垣さん。あおいに先を越されたとも思ったが、さらにノリボケをかましてくるとはさすがだ。

 

その後、俺も無事ハンモック風チェアを体験させてもらった。

正直、椅子とは思えないほど楽な感じだった。俺もお金に余裕が出てきたら、自分で買おうかとも思う程に。

 

「んじゃ、椅子とコーヒーセット持って岬の先へまったりしに行こうぜ!!」

 

「「おーっ!」」

 

冗談も程々にして、いざ目的の岬の先を目指す事に。

 

「ワンッ!」

 

「ワン?」

 

気合を入れて拳をあげると、背後から鳴き声が。振り返ってみると、ヘッヘッと息をする犬が俺の椅子の上にちょこんと座っていた。

 

「コーギーや、いつの間に……」

 

「上着きてるじゃん……。可愛いかよ」

 

「そりゃ寒いからなぁ。て、今はそこやないよ、あらたくん」

 

「あ、ごめん。俺、犬の中だとコーギーも好きだからつい……」

 

つぶらな瞳でこちらを見つめるワンちゃんの頭を優しく撫でる。

おおっ、全然嫌がろうとしない。人に慣れた可愛らしいワンコだ。

コーギーは、短い足をちょこちょこと動かす歩き方が可愛い上に、歩いている時に揺れる尻尾と、フリフリ動かすお尻がなんとも素晴らしくてだな。

 

「ん?大垣さん?」

 

そんな事を考えていると、大垣さんが俺の隣に来てジッとコーギーを見つめる。

 

「……なでしこ?」

 

「はい?」

 

「いや、何でやねん」

 

突然の発言に、俺は思わず聞き返しあおいは呆れ顔で答えた。

 

「どうしてこの犬が各務原さんなの?」

 

「いやさ、バイトでキャンプに来れないなでしこが、生き霊になって現れたのかと思って」

 

「いやいや、さすがにそれはないと思うけど」

 

今実際にこの子の頭撫でてるわけだし、霊ではなくてちゃんとした実態だ。

 

「お前……、なでしこだろ?」

 

「大垣さん、そんなマジな顔で迫っても」

 

「ワンッ!!」

 

「ほらーっ!!」

 

コーギーが元気に吠えると、それを返事と受け止めた大垣さんはワンコの顔をわしゃわしゃと撫で回した。

 

「ほらーっと言われてもなぁ」

 

「うん、今のは返事じゃなくて習性だと思う」

 

さすがにフォローしようのない思い込みに、俺も同意する。

 

「こらーっ!チョコ!だめでしょー!!」

 

「ん?」

 

すると、少し離れたところから犬のリードらしきものを手にこちらへと走ってくるお姉さんが。

見たところ、あの人が飼い主のようだ。

 

「ごめんなさい。ちょっと目を離したスキに……」

 

息を切らすお姉さんは肩で息をしながら、俺たちへ頭を下げる。

 

「いえいえ」

 

「こ、今度はバイトでキャンプに来れなかったリンの生き霊が……」

 

「もうええわ」

 

ゴクリと喉を鳴らす大垣さん。

うん、俺もそのネタはもういいと思う。面白かったけども。

 

「この子、チョコちゃんって言うんですかー?」

 

「あ、はい。でも、チョコレートのチョコじゃなくてお猪口のちょこなんです」

 

「お猪口ってお酒のですか?」

 

「ええ、家が酒屋さんでそれで」

 

「あー、なるほど」

 

可愛い名前だと思うけど、理由を聞くと渋い由来だったな。

 

「おちょこちゃーん」

 

「ワンッ!」

 

斉藤さんが慣れた手つきで、チョコちゃんの事を撫でる。飼い犬のちくわがいるから手慣れているな。チョコちゃんも気持ちよさそうだ。

 

「お姉さんは愛犬とキャンプなんですね。うちもチワワを飼ってるんですけど、今は寒くてお留守番させてるんです」

 

「この時期は難しいですもんねー」

 

と、犬仲間同士、斉藤さんとお姉さんは息が統合している。

 

「それじゃ、私たちはこれで」

 

ひと通り話を終えた後、お姉さんはチョコちゃんを連れて自分たちのテントの方へと戻っていく。名残惜しいが仕方がない。

 

「柴犬とかコーギー見てるとトースト食べたくならない?」

 

「「わかる」」

 

見送る最中、斉藤さんのひと言に全員が頷く。

色合いが確かに、トーストのそれであるからな。

 

そして、湖沿いを歩いて俺たちは岬の先に向かって歩き出した。

 

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