イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
「ん? スマホの電池残り9%って」
スマホを見ながら、大垣さんがそう口にした。
「充電して来んかったん?」
「いやぁ、今朝はフル充電だった筈だが。写真撮りすぎたかな」
「あっ、私は切れちゃった」
と、三人がそんな会話をする。
「って、私のも20%切れとる。なんで?」
「俺、モバイルバッテリー持って来てるよ。一台分だけど」
「さすが小牧!」
「そういえば、寒い所だとバッテリー減るの早いって聞いた事あるかも」
この時の何気ない会話が、すぐに絶望へと変わった。
夕暮時となり、辺りは茜色の空に包まれる。
そんな中、俺たちは。
「な、なぁ。さっきから、むちゃくちゃ寒うなっとる気がすんのやけど……」
「だ、だよな。もう戻って焚き火始めっか」
「みんな、大丈夫?」
確かに、ブランケットを羽織っているにも関わらず空気中の寒さが身体の芯まで伝わってくる。陽が傾いてきてこれだということは……。
「あ、あきちゃん! マグカップに氷張ってる」
「まじで!?」
『現在気温-2℃』
「おいおい、まだ四時半だぞ?」
「この調子だと、夜はもっと寒くなりそうだけど」
「でも、クリキャンの時こんな寒くなかったよな?」
「だよね」
今は時季的にも前のクリマスキャンプの時と、左程変わりはない。ということは、やっぱり。
あらたは、日中に一瞬頭をよぎった疑問を思い出す。
「あ、あのさ。山中湖の標高って結構高いんじゃない、もしかして」
「はっ!?」
俺の言葉を聞いて、あおいがいち早く反応してスマホを取り出した。
「クリキャンした朝霧のキャンプ場は、標高600メートルやけど、山中湖はほぼ1000メートル……。あらたくんの言うとおり、もっと寒いに決まっとるやん」
彼女のスマホを持つ手が震えている。寒さからではなく、不安からきてるのだろう。
大垣さんも斉藤さんも、気づき始めたのか不安の表情を浮かべる。
「うちら、ちょっと冬キャンに慣れ始めて油断しとったんかも」
俺たちは今、めちゃくちゃヤバい所へキャンプしに来てしまったのかもしれない。
一気に、楽しい山中湖キャンプから状況が一変してしまった。
「今夜の寒さ対策を考えたぞ!」
震えながらも勢いよく立ち上がる大垣さんが、今後の事について話す。
「まず、鍋を食って体を内から温める。そんで、体が冷える前に高音カイロを沢山突っ込んだ寝袋に入る」
極限状態の対処法。そう思わざるを得ないが、野クル部長の大垣さんは率先して打開策を講じる。
「そして、その上からコートとブランケットをかけて四人でくっついて……っていうのは、テントの広さ的にむずいからな。よし、二人ずつテントでくっついて寝る!!」
ということは、必然的に俺はあおいとか……って、それでも決して大丈夫とは言えない。高所の天気を甘くみてはいけないのだ。
「私、カイロならまだ持ってるよ」
「私もや! 確か、あらたくんも持ってる言うてたよね?」
「うん、でも俺のは普通のやつなんだ……」
「普通って?」
あおいと斉藤さんが首を傾げる。
「普通のカイロだと寒すぎて途中で冷めちゃうんだよ。これだと、朝までは持たない。大垣さんが持ってたのは高温だったよね?」
「ああ、けど私も分けられる程持ってきてねーし……」
そうなると、最低でもカイロはどこかで調達しないと。
「薪もまだ買ってないよね!?」
「っ! そうだ忘れてた!」
すぐに戻って焚き火と考えていたが、重要な薪を購入していなかった。
「せや!! 鍋作っとる間、焚き火せんと凍えてしまうやん!!」
「急がないと管理棟も閉まっちゃうな……」
「よし、私はコンビニダッシュして高温カイロ買ってくる!」
「あっ! 大垣さん、それなら俺が!」
俺が呼び止めようとする前に、彼女は走り出してしまう。
「いや、小牧は何かあった時のために、二人といてくれ!薪買ったら鍋作り始めてくれーっ!!」
そう言いながら、大垣さんはあっという間に去っていく。
「分かった!」
「気いつけてな、あき!」
くそっ、本当なら俺が走るべきなんじゃないのか。
急の事とはいえ、自分の不甲斐なさを痛感する。しかし、落ち込んでる場合じゃない。
「俺はここを片付けて戻るよ。二人は急いで管理棟に行ってみて」
この時間だと、早ければ管理人さんが戸締りを始めてしまっているかもしれない。
「分かったわ!」
「お願いね、小牧くん!」
そう言い残して二人は急いで走っていく。
俺が管理棟に向かおうかとも思ったが、ここも満潮して水位が上がる可能性がある。俺なら一度に椅子をテントまで届けられるくらいの力があるからその方が効率が良いはずだ。
そして、俺は自分たちの椅子を畳み終えて。
「そういえば、俺のスマホの充電は……」
すぐに確認してみると、まだほんの少しだけ残量があった。
このバッテリーの減りを考えると、モバイルバッテリーも頼れるかどうか。
俺は、頼りの綱である親にすぐ電話をかける。
場所は遠いが、事情を話せば迎えに来てくれるかもしれない。
寒さ対策をして、明日を迎えられるのが最善だが何より自分たちの命の方が大事だ。
たとえ帰る事になっても、女子三人がいるこの状況で危険な目に遭わせるわけには絶対にいかない。
「くそ!」
しかし、繋がらない。両親も家にも繋がらなかった。
この怒りは誰に向けたものでもない。自分自身の力のなさに対してだ。
残り頼れるのは……、鳥羽先生しかいない!
俺は、すぐさま顧問の鳥羽先生に電話をかける。
「鳥羽先生、出てくれ……」
「はい!小牧くんですか!!」
「!」
良かった!繋がった!!
スマホの向こうで、鳥羽先生のなぜか焦った声が聞こえて来た。
「あの、今俺たち……っ!」
ブツッ。
「えっ……」
電源が落ちた。すぐにバッテリーを繋いで電話を……。
「……嘘だろ」
バッグからモバイルバッテリーを取り出すが、そのバッテリーも殆どない。
残りできることは、鳥羽先生にもう一度連絡することだが、またすぐに落ちてしまうかもしれない。
それならと、急いでフリック入力で先生に簡単に状況とキャンプ場の場所をチャットした。
先生からしたら大迷惑かもしれない。でも、緊急事態の今だからこその最善の行動……だと思う。
「今のだけで、鳥羽先生は来てくれるだろうか……」
そう拭えない気持ちのまま、テントに戻るとそこにあおいたちの姿はなかった。
「あれ? 管理棟か?」
でも、おかしい。あれからの時間を考えると、薪を買って戻って来ててもおかしくないのに。