イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
少し時間は戻り、あおいたちはというと。
急いで管理棟を目指し、息を切らしながら足を前に前にと進めていた。
「はっ、はっ……」
すっかり暗くなったキャンプ場内を走る恵那とあおい。
どうか間に合え! その思いを胸に目的地へと辿り着くが。現実は刻に残酷だ。
「あっ、……管理棟しまっとる」
目の前にはシャッターの降りた管理棟。辺りにも管理人さんらしき人影はない。
「こ、これ本気でヤバいんちゃう??」
頼みの綱がプツンと切れたように感じるあおい。
そう困っていると、近くから車のキュルキュルキュルというエンジン音が鳴り響く。
「あれ!! 管理人さんの車じゃない!?」
「あっ! ホンマや!!」
急いで走り出す車を追いかける。入り口付近まで頑張って追いかけるも、道路を曲がってそのまま行ってしまった。
「薪、どうしよう」
自分たちが責任を持って購入するべき薪が手に入らず、あおいは肩を落とす。
「ねぇ、薪の代わりになるものないかな。木の枝とか」
「そうやね、探してみよう」
これだけの自然に囲まれていれば、枝の一つや二つ。いや、それ以上が落ちているかもしれない。
恵那の提案によって探し始めて数分……。
「って、一本もないわ」
「……うん」
二人は、膝から崩れ落ちるように四つん這いになる。
それだけキャンプ場内は綺麗に整備されていたのだ。
「うぅ……」
そんな時、後方から足音と眩しい光が二人を覆った。
「あら、あなたたち」
◇ ◇ ◇ ◇
「あおいー! 斉藤さーん!」
あらたは管理棟の方へ、見当たらない二人を呼びながら歩いていた。
「どこに行ったんだろう……。まさか!」
不安が一瞬、頭を過った。
あらたは何かあったのでは無いかと、顔が真っ青になるが諦めようとはしない。
「いや、まだそこまで時間は経ってないし。もう一度探そう」
さらに別の場所を探そうと、足を前に向けたその時。
「あらたくん!!」
「うわっ!?」
背後に衝撃が走った。
腕を回されて、背中には柔らかな大きな感触。ふわっと香る良い匂い。それに、聴き慣れた声。
「あおい!?」
後ろを振り向くと、そこにはあおいの姿があった。
安堵して、つい座り込みそうになるあらた。だが、それを堪えてあおいの体を抱き寄せる。
一度離れてくれたあおいを今度は正面からぎゅっと抱きしめた。
「ふえっ!?」
「よかった。何かあったのかと思って焦った」
「あ、あらたくん……。恥ずかしいわ」
「恥ずかしいって、あおいから抱きついて来たんじゃないか」
「そ、それはそうなんやけど……その」
おそらく、あおいは俺を見つけて安心してさっきの行動に至ったのだろう。それは、俺も同じだ。
彼女の存在を強く確かめるように、あおいに寄り添う。
「あらあら、ラブラブですね。羨ましい」
「えっ、チョコちゃんの飼い主のお姉さん!?」
「ふっふっふっ。二人のイチャイチャは、こんなものではないんですよ。お姉さん」
「斉藤さんまで!」
ようやく、この空間にいるのがあおいと自分だけでない事に気が付いた。
そこにいたのは、斉藤さんと昼にコーギーのチョコちゃんを連れていたお姉さんだった。
俺は、恥ずかしくなりすぐにあおいを離す。
「なー? だから恥ずかしい言うたやんか」
「うん、ごめん」
「……まぁ、悪い気はせんけどなぁ」
ぽつりと、あおいはあらたにバレないように呟いた。
「それより、どうしてお姉さんが?」
「あ! せやせや!」
と、パァッと表情を明るくしたあおいが簡潔に説明をしてくれた。
「へぇ、お姉さんが閉まってた管理棟の前で困ってたあおいたちに声をかけてくれたのか」
「うん、小牧くんも椅子とか片付けてくれてありがとうね」
「斉藤さんも無事で良かったよ。テントに誰も戻ってなくてびっくりしたんだ」
あおいと斉藤さんに頭を下げられ、俺もとにかく良かったと伝える。
「それじゃ、行きましょうか」
「助けて頂いてありがとうございます。でも、いいんですか? 本当に俺たち、お邪魔させてもらって」
「ええ、困った時はお互い様ですから。ぜひ」
そうお姉さんに笑顔で応えられる。
本当に良い人だ。それに、こうして助けてくれるなんて近くにいたキャンパーさんが優しい人で良かったな。もし、俺たち以外のキャンパーが居なかったらと思うとゾッとする。
それから、あらた達はお姉さんたちが泊まる白くて大きなワンポールテントへと案内される。
「さ、どうぞ」
「「おじゃまします」」
お姉さんが開けてくれた入口から入ると、冷え切った身体を暖かな空間が迎え入れてくれる。
ポールの高い位置に吊らせれたランタンがテント内を照らし、真ん中のポール付近にはキャンプ用テーブル。他にも色々な荷物や道具が脇の方に置かれていた。
「いらっしゃい!」
「ワン!!」
テント内には昼に出会ったコーギーのチョコちゃんと、年配のおじさんがアウトドアキャンプ用の折り畳みベッドの上に腰を下ろして出迎えてくれる。
「「こんばんは!」」
見た所、お姉さんのお父さんかな?
言葉の訛りからあらたはこの辺りの人では無いのかもしれないと考える。
「うわ、あったかぁ」
「だよね」
「はははは。うちには薪ストーブがあるでねぇ」
「はあぁ……。薪ストーブ様」
テントの隅にはパチパチと絶賛薪を燃やし中の長年使い込まれた薪ストーブが置かれている。
「改めて、助けて下さってありがとうございます」
「気にしないで、うちのテント広いですし。それに……」
「ほっといたら死んでまうでな。なー、チョコ」
「ワフン」
(笑えへんわぁ)
ケラケラと笑うおじさんと、チョコちゃん。
うん、本当にあのままだったら危なかったと思う。
「さ、座って」
「はい、失礼します」
「お……」
薪ストーブの前に座らせてもらうと、あおいがあるものを見つけた。
あらたもその視線の先を追う。
「あれ、これって……」
「飛行機や」
「もしかして、お昼頃ラジコンされてた方ですか? 飛んでいたのをお見かけしたんですけど」
見覚えのあった飛行機について、尋ねずにはいられなかった。
「おー、そうだよ。見とったんけ?」
「椅子に座って眺めとったよね」
「うん」
「そうかー!!」
やはり、予想通りラジコンを飛ばしていたグループの一人のようだ。
「ラジコンお好きなんですか?」
「いや〜、私ね水上飛行機の同行会やっとってね、たまに山中湖まで飛ばしに来るんだわ」
「そうなんですか。確かにここは飛ばすには最高のポイントですよね。障害物もなくて広いですし」
「おっ! にーちゃんもラジコン興味あるんけ?」
「だいぶ遊んでませんけど、子供の頃はよく妹と遊んでました」
「そうけ!」
おじさんが嬉しそうに言う。
うちの父さんは、そういうのに興味があまり無い人だったから、この話題ができる歳上の存在は俺も嬉しい。
「そうだ。今からモツ鍋やんだけど、にーちゃん達はもう飯は食ったけ?」
「あ、うちらも丁度お鍋作る所やったんです」
「あら、だったら」
「?」
お姉さんが奇遇だと言って、そちらを見れば手には黒塗りのお鍋が抱えられていた。