イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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どうも、最近あおいちゃんのフィギュアを購入しました♪
家宝にします!


第三話 「カリブーとバイク」

 

 

テスト最終日の放課後。

 

「なにー!?なでしこ、お前この二人が付き合ってた事知ってたのか!」

「うん、あきちゃんは知らなかったんだね」

 

あおいさんに誘われ、野クルのメンバーである大垣さん、各務原さんの二人を加えた四人で帰りの電車に揺られながらの道中。

隣から二人のそんな会話が聞こえてくる。

 

「逆に何で知ってるんだよ!」

「私、この前二人が一緒に帰ってるの見ちゃったんだ。そこで声をかけて教えてもらったって感じかな(最初はまさか付き合ってるとは思わなかったけどね)」

「転校して来たばかりのなでしこが遭遇して、あたしが最近まで知らなかったって……運悪すぎないか!?」

「うーん、それは運が悪いっていうより、あきちゃんの勘が悪い、のかな?」

 

えへへと苦笑いのなでしこ。

 

「なにをー!なでしこのくせに生意気なー!」

 

それは聞き捨てならないぞと言わんばかりの勢いでギャーギャーと喚く。

 

「二人とも元気だね」

「せやろー、おかげでいつも楽しいわ〜」

 

あおいさんから聞いていた通り、野外活動サークル、通称『野クル』の面々は賑やかだ。

 

大垣さんとは何度か顔を合わせているし、家も近所という事で、あおいさんとよく一緒にいるのは知っていたけれど、こうして一緒に帰るのは初めてだ。

最近本栖高校に転校してきた各務原さんも元気そうな女の子だな。

 

元々今日はこのあとの予定もなく、仲の良い友達たちも部活動があるため、帰宅部の俺は一人で帰ろうと思っていた。

 

そんな時、放課後一緒に帰らないかと、あおいさんからの誘いを受けた。どうやら、野クルのみんなと寄りたい所があるのだという。その目的地に俺も興味があったので、快く同行している訳だ。

 

「テスト終わったねー」

 

いつの間にか口論が終わったのか、各務原さんが両手を挙げて背筋を伸ばしながら言う。

 

「はー、あとは休みを待つばかりやぁ(余裕)」

「テスト休みがあるのって嬉しいよね(そこそこ)」

「だねー(まぁまぁ)」

「よゆうだったぜー(ギリギリ)」

 

各々がテスト後の労いの言葉を口にする。

 

「あれ?三人とも降りなくていいの?駅過ぎちゃったよ?」

 

そう言えば、と、なでしこが電車の外を確認しながら左右に座る友人らを見る。

どうやら、各務原さんはこれから行く場所についてまだ知らされていないようだ。

 

「今から『カリブー』に行くで!!なでしこちゃん!!」

 

気にかけてくれる彼女の肩に手を置いて、反対の手で親指を立てながらあおいは言った。

これから寄る目的地の名を。

 

「かりぶう?」

 

普段利用する駅を過ぎて、目的の『カリブー』の最寄りである身延駅にて降りる。

 

駅を出てから、身延の名物が並ぶレトロな町を抜けると、

 

「着いたで、ここやここ」

「わーっ!カリブーってアウトドアのお店だったんだ!!」

「アウトドア用品店来たこと無かったやろ?」

「うん!!」

 

目をキラキラとさせながら各務原さんは先を行く大垣さんと共に店内へと入っていった。

 

セーブがどうのとか話してたけど、何の事だろう。流行りのゲームか何かか?

そんな二人の後を追い、俺とあおいさんも店の中へ。

 

「俺もアウトドアの専門店入るの初めてだ」

「ありがとうなぁ、あらたくん。一緒に付き合うてくれて」

「いいよいいよ。俺もキャンプ道具揃えたかったし」

 

そう、今回カリブーに同行する事になったのは、あおいさんに放課後誘われた事以外にも、もう一つの理由があった。

どうやら、クリスマスにキャンプを行うのだという。そしてそのキャンプに、この俺も誘われたのだ。

とはいえ、キャンプというものに今まで行った事などない。そのため必要となる寝袋やその他の備品を今日は買いに来たのである。

 

「でも良かったのかな?俺もクリスマスキャンプにお邪魔する事になっちゃって。せっかくの友達とのキャンプなのに」

「もちろんや。それに私は友達とだけやのうて、あらたくんともクリスマス一緒に過ごしたいんよ」

 

そう言いながらブレザーの袖を掴まれ、さらっと気恥ずかしい事を言われる。その言葉に、顔が紅潮した。

ゆっくりあおいさんの方を見ると、耳まで赤くなっているのが分かる。

相変わらず可愛いな!(口には出さないけど!)

 

正直、自分もあおいさんとクリスマスを過ごす事はとても嬉しい。高校に入って出来た初めての彼女。そんな子と付き合い始めてからの最初のイベントであるクリスマス。

 

そんなの、もちろん一緒に過ごしたいに決まっている。

彼女の友人らも一緒とはいえ、それに参加できる事自体嬉しい事に変わりはないのだ。

 

だからこそ、こうしてキャンプ道具も見に来たのだ。

 

「二人ともバラバラやなぁ、あらたくんはどうするー?」

「それじゃあ最初に寝袋から見ようかな」

 

先に入った二人はすでに各々が見たいキャンプ用品を見ながら店内を周っていた。

同じくアウトドア用品店に初めて来た各務原さんは心を奪われたように、キョロキョロと右往左往している。

 

「シュラフのコーナー、あっちやで」

 

何度かカリブーを訪れているあおいさんに導かれ、キャンプ用寝具のコーナーへと案内される。

そこには様々な寝袋の種類から自立するハンモックまでもが並んでいた。

 

「寝袋ってこんなに種類があるんだ」

「冬用のマミー型シュラフはこのあたりやね」

 

そこには、人ひとりの体全体を覆うタイプのシュラフがいくつか置かれていた。

 

「って、見た目ほとんど同じなのに結構値段に差があるんだね」

 

実際にいくつか触れながら見ていると、一つ一つの値段にバラ付きがある事に気づく。

 

「それなぁ。冬用のシュラフって大きく分けてダウン製と化学繊維の二種類があるんやけど」

「どっちの方がいいの?」

「ダウンの方がコンパクトに収納できていいんや。でも……」

「でも?」

「同じ耐寒温度で化繊のものより2〜3諭吉ほどお高くなっとります」

「そんなに!?」

 

その衝撃的な価格を聞いて、思わず持っていたシュラフを落としそうになる。

 

「私らはネットで化繊のやつ買うたけど、あらたくんはどうする?」

「俺も同じ種類にしようかな。バイトしてるとはいえ、そこまで余裕無いし」

 

俺は入学してすぐに中型バイクの免許を取るために、アルバイトを始めた。今まで貯めてきたお小遣いとアルバイト代を基に今年の夏休みから教習所に通い、卒業してからも、すぐに中古のバイクを買った。

そのため、今は高級な道具を揃えられるほどの貯金はないのだ。

 

ちなみに、俺はあおいさんと同じ『スーパーゼブラ』で品出し係としてアルバイトをしている。彼女にバイト先を紹介したのも何を隠そうこの俺だ。

 

向かいの酒屋さんでは大垣さんも働いているようだが、あおいさんを通じてでしか彼女の事をほとんど知らなかったため、その事は最近知った。

 

「あっ、これ私たちが使ってるのと同じやつや」

 

すると、あおいさんがあるシュラフを発見した。

 

「へー、あおいさんは何色使ってるの?」

「青やでー」

「良いデザインだね。俺もこれにしよう」

「ちなみに、あきが黄色、なでしこちゃんが赤色やな。ここで買えば送料も掛からないしネットよりいいかもしれんよ」

 

色々な色のバリエーションが出ているデザインらしく、今言われた三色以外にもいくつかの色が並んでいる。

 

「それじゃあ、俺はこのオレンジ色のやつにしようかな」

 

迷ったあげく、一番しっくりときたオレンジ色のシュラフを選ぶ。

 

「それじゃあ、あとはテントやな」

「あっ、それなんだけど、うちの親が昔使ってたテントがあって、まだ使えそうだからそれを持ってこうかなって」

「そうなんや。それじゃあ、最低限必要な物は他にあるやもしれんし、一度あき達にも聞いてみよか」

 

そうして、各務原さん、大垣さんとも合流する。

 

「ええのあった?」

「うん!でも手が出ないや」

 

余程欲しいものがあったのか、しょんぼり顔の各務原さん。

やはり、アルバイトをしていない学生にとって、こういったものはどれも高く見えてしまうのである。

 

「おー、小牧は寝袋見つかったのか。って、それあたしらと同じやつじゃねーか」

「みんなお揃いでえーやん」

「うん。それと大垣さん、あと必要なものってあるかな?俺が使うテントは家にあるんだけど」

「他に必要なものかー。あ、そうだマット買わないとな」

「せや、すっかり忘れとったわ」

 

マットは大まかに分けると、フォームタイプ、エアタイプ、インフレーダブルタイプの三種類がある。

各々三者三様の良い点悪い点があるわけだが、

 

「ま、結局600円の銀マットしか買えへんのやけどな」

「見慣れたバッドエンドだ」

「でも…、マットってそんなに必要かな?寝袋はフカフカで寝心地いいし…」

 

銀マットを手に取るあおいさん大垣さんとは裏腹に、各務原さんが疑問を抱く。

キャンプ初心者の俺は買った方が良いはずなので、一緒にマットを手にする。

 

「地面からの冷気を防ぐ効果もあんだよ。これから気温はどんどん下がるし、冬キャンでマットは必需品だぞ」

「なるほど、キャンプ場は外だもんね。俺も寝る時気をつけよう」

「一応、カイロとかも多めに持っていくのがオススメだぞ!」

 

大垣さんが分かりやすく説明をしてくれた。

 

「せやなぁ。イーストウッドの時は底冷えして起きてもうたし」

「だよなー」

 

そういえば、前回が初めての野クルでのキャンプだったとあおいさんから聞いた。

その時の経験があって必要と感じるなら、二人の言う通り、俺も防寒対策はしっかりしないといけないな。

 

「寒…かったかなぁ?私はぐっすり眠れたけど…」

 

うーん、とその時の事を各務原さんが懸命に思い出そうとする。

 

本人から聞いたが、浜松からこちらに越して来た日、あるキャンプ場の近くのベンチで寝過ごしたところを志摩リンさんといううちの学校の生徒に助けてもらったらしい。

この寒い時期に寝袋無しで外で寝れるとか。そりゃあぐっすり眠れていてもおかしくは無いな。うん。

 

「ほんと強い子だなお前」

「なでしこ強い子元気な子やで」

 

そんな事を言いながら皆で笑い合い、目的の物を手にした俺たちは、もう少しカリブーを見ていく事にした。

 

 

ーーーーーーーーー

 

【おまけ】

 

「身延まんじゅう美味しかったなぁ〜」

「そうだね。ちょっと食べ過ぎた気もするけど」

 

カリブーを出た後、大垣さんの提案で名物の身延まんじゅうを4人で食べる事となった。

 

おかわりまでしてしまい、正直お腹いっぱいだ。各務原さんは10個以上もペロリとたいらげていたが、聞いていた通り食欲旺盛な子のようだ。

帰りの電車で『お腹すいたね〜』と言った時にはさすがに驚かされた。

 

そんな二人とは道中で別れ、今はあおいさんと二人で帰っている。

まぁ、家が隣同士なのだから自然とそうなるのだが。

 

「そういえば、あらたくん」

「ん?」

「免許も取ってバイクも買うた言うてたのに、学校へは乗って行かへんの?」

 

家が近づいてくると、思い出したように聞かれる。

 

あおいさんが言うように、俺はCB400 SUPER FOUR(通称:スーフォア)を時折愛用している。

といっても、学校が休みの日のバイトでぐらいでしか今のところ使用していない。

 

「うちの学校申請さえ出せば、原付やバイクでの登下校可能なんやろ?」

 

そう。俺たちが通う本栖高校では、自転車以外での登下校も親の了承を得た判子を押した書類さえあれば車両での通学の申請ができるのである。

 

「そうだね。俺も教習所行き始めた時はそう思ってたよ」

「じゃあ、何で使わへんの?」

「確かにバイクで通えば楽かもしれないけど、そうすると、あおいさんとこうして一緒に帰ったり出来なくなっちゃうからね」

 

俺が思っていた事を伝えると、あおいさんは、

 

「せ、せやね!私もあらたくんと帰れるのは嬉しいで!!」

 

と、恥ずかしそうに答えた。

自分でもちょっと恥ずかしい事言ってしまったと後悔する。困らせてしまっただろうか。

 

「俺、あおいさんとこうして帰るのもそうだけど、一緒に帰る日に部活が終わるのを待っている時間も結構好きなんだよね。帰りに何話そうとか考えてさ」

 

二人は付き合うようになってから、週の何日かは一緒に帰るようにしていた。

 

野クルの活動は不定期であるため、ちょうど活動日と重なってしまう日もあるのだけれど、最近見つけた図書室という隠れスポットであらたは時間を潰している。

 

「ありがとう。そう思ってくれてたんやね。なんか嬉しいわ」

「もちろん、登下校以外では乗ってるよ。せっかく免許も取ったしね」

「いつか後ろに乗せてなー。天気が良くて暖かい日に乗ったら風が気持ち良さそうや」

「いいよ。免許とってからの一年間は二人乗りは出来ないけど、来年の寒くなる時期の前とかにどこか行こうか」

「やった!二人でそのままキャンプするのも楽しそうやなぁ。来年の楽しみが増えたわ〜」

 

バイク登校の話から、まだまだ先の来年のデートの話しにまでなってしまった。確かに楽しそうではある。

けれど、二人きりで出かけてそのままキャンプという事は、二人で泊まるというわけで。いやいや、何を考えているんだ俺は!?

 

ふとあおいさんの顔を見ると、ニコニコと可愛い笑顔を浮かべているだけだ。当の本人は、あまり意識していないように見える。

逆に恥ずかしい!!

 

「それじゃー、また学校でな。あらたくん」

「あっ、う、うん!またね!!」

 

気がつくと、あおいさんの家の前まで来ていた。

手を振るあおいさんを玄関まで見届けてから、俺も自分の家へと帰ることにする。

 

はぁ、もう少し頼られる男として余裕を持った振る舞いをしないとな。

そう思いながら、トボトボと自身の家へと足を進めた。

 

 

 

一方、犬山家では、

 

「あおいちゃんお帰りー。……て、どうしたん?顔真っ赤やで?」

「勢い余って口走ってもうた」

「??」

 

家の玄関で、赤くなった顔を手で覆うあおいなのであった。

 


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