イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第三十話 「先生の言葉」

 

「小牧くーん!! 斉藤さーん!!」

 

テントの外から、あらた達を呼ぶ声がする。

今の声は……もしかして!

 

「鳥羽先生?」

 

「えっ、なんで!? 先生今日仕事や言うてたのに!」

 

「俺、見てくるよ」

 

「あっ、おい小牧!」

 

すぐさまテントから出て、あらたは周囲を見渡す。

 

「先生! あっ……」

 

俺たちが最初に建てたテントの近くで、揺らめく懐中電灯の光。

間違いない、鳥羽先生が来てくれたのだ。

 

「小牧、先生いたか?」

 

「うん、あそこに」

 

「ん? 何してんだあれ」

 

続いて出て来た大垣さんが、テントの方の様子を見に行く。俺も追いかけると、テントの中を確かめている鳥羽先生がいた。

 

「先生、何やってんすか?」

 

「ひっ……! ぎゃああああぁぁぁ!?」

 

夜の空に鳥羽先生の甲高い声が響き渡る。

 

「はぁー」

 

「先生、用事があったはずじゃ?」

 

あおいと恵那も合流し、恵那が鳥羽先生に尋ねる。

 

「ええ、ですけど……。学校で仕事をしていたら、志摩さんから連絡があって」

 

「えっ、志摩さんが?」

 

家族以外で俺たちの行方を知っていたのは、志摩さんと各務原さんだけだ。もしかして、山中湖の夜が寒い事を知っていた志摩さんが、俺たちを心配して先生に伝えてくれたのだろうか。

 

「それに」

 

鳥羽先生があらたを見る。

 

「その後に繋がった小牧くんからの電話も途中で切れてしまいましたから」

 

「えっ、あらたくん鳥羽先生に連絡したん?」

 

「うん、俺が持ってた予備のバッテリーも残量なくてさ。電話がすぐ切れちゃって。とりあえず、状況と場所だけでもって思って送ってたんだ」

 

すでに電源が落ちてしまったスマホを片手にみんなへ説明した。

 

「それで、心配になって見に来たんです。大垣さん達の電話も全然繋がらないし……」

 

「「あ!!」」

 

「実は私らも、寒さのせいかスマホのバッテリーが切れちゃって……」

 

「はぁ、そういう事」

 

そこで、先生は納得したのか大きく息を吐く。

 

「チャットのおかげで正確な場所は分かりましたけど。その様子では、小牧くんも……」

 

「すみません、俺のも完全に充電が無くなってしまって」

 

随分と心配をかけさせてしまっていたのだな。

鳥羽先生から見ても、この時期の山中湖でのキャンプは危険だという判断みたいだ。

 

「いいですか、みなさん?」

 

「「っ!」」

 

先生が真面目な顔とトーンで話す。その声を聞いて、全員の体が強張った。

 

「この辺りは標高差が大きく、少し場所が変わるだけでも気温が全然違います。あの装備だけでは、山中湖の冬に対応しているとは言えません。ちゃんと下調べをして十分な装備を揃えなければ、冬のキャンプは本当に危険なんです」

 

言葉を発さずに、先生の話を黙って聞いた。

鳥羽先生の言う通りだ。この状況下で俺たちが唯一用意できている装備といえば。冬用シュラフくらいか。しかも、薪ストーブの様にさらに保温性を高めてくれる装備があった上での話。全然用意が足りていなかった。

 

「もしかしたら、事故になっていたかもしれないんですよ?」

 

遭難。その言葉が頭をよぎる。

 

「「すみませんでした」」

 

「ふぅ。けれど、何もなくてよかったわ……」

 

俺たちの謝罪に、鳥羽先生は本当に良かったと安心した表情を見せてくれる。

 

「鳥羽先生。あの、仕事の日にすみませんでした。俺、何も出来なくて……」

 

先生は、俺が野クルに入ると決めた時、男子部員がいるのは頼もしいと言ってくれた。それなのに、全然役に立てなかった。俺も、今回のキャンプで油断していたんだと思う。

 

「小牧くん、そんなに自分を責めないでください」

 

「でも……」

 

「小牧くんも連絡をくれたから、早く駆けつける事ができたんです。小牧くんの行動は正解でしたよ」

 

「!」

 

俺のした事は間違っていなかったのか。

頼りないとがっかりさせてしまったかもとも思ったが、鳥羽先生は笑みを浮かべた。

 

「私もごめんなさい」

 

「ど、どうして先生が謝るんですか」

 

「キャンプに行く事を知っていたのにきちんと行き先まで確認すれば良かった。これからキャンプ場を決める時は、私にも相談して下さい。せっかく顧問になったんですから」

 

「先生……」

 

大垣さんが涙声を上げる。彼女も、部長として思うところがあったのだろう。俺も、似た気持ちだ。

やっぱり、先生ってすごいんだな。こんなに頼れる相手がいるのに。俺たちは……。いや、俺ももっとしっかりしないと。俺だって、野クルのメンバーの一人なのだから。

 

「そうだ。志摩さんには私から連絡しておきますね」

 

後ほど、自分たちも感謝を伝えようと目配せする。

 

「先生ー。先生もお鍋どうかね? ンマい日本酒もあるにぃー」

 

話が済んだところで、テントから顔を出す飯田さんの言葉に、ピクッと鳥羽先生は反応する。

その後、秒で勧められたお酒で酔っ払った鳥羽先生は、その状態のまま志摩さんへと報告をしてくれていた。

 

「あっ! もしもし志摩ちゃーん? わったしー! えっ? 酔ってないよぉー」

 

まぁ、この状況が伝われば志摩さんも俺たちが無事だったのだと安心してくれる事だろう。

 

「さぁー、こっちも始めましょう!」

 

飯田親子とあらた達で鍋を囲み、温かい空間での贅沢な鍋パーティーが始まる。

きりたんぽ鍋もモツ鍋もほんとに美味しかった。やっぱり、寒い日は鍋に限る。

 

「「どうもお世話になりました!」」

 

「うんにゃー、こちらこそ。鍋パーティー楽しかったにぃー」

 

「伊東へお越しの際は、ぜひうちの店にも寄って下さいね」

 

食事中に聞いた話だが、飯田さん達は伊豆の方で暮らしているらしく、そこで酒屋さんも開いているのだそうだ。

今回助けてくれた事には、何度お礼をしても足りない。行く機会があれば、ぜひ手土産を持って改めてお礼に伺わせてもらおう。

 

「先生が気に入った伊豆の地酒も取り扱ってるでよ!!」

 

「おすっ! かならじゅうかがいまふ!!」

 

「鳥羽先生……」

 

完全に酔っ払った先生が、真っ赤な顔で敬礼をする。

とても良い先生だが、お酒は少し控えた方が良いのではないかと、あらたは内心考える。

 

「先生呑みすぎー」

 

「アハハハハ」

 

山中湖の湖畔で、賑やかな夜は更けていった。

 

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