イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
先生の車でみっちりと詰めて座り、一夜を過ごした寒空の下で、朝日を眺めた後。
「外で揚げ物って新鮮だな。ていうか、ワカサギ食べるの俺初めてだ」
「こういうのもええもんやね」
「今度家の庭でやってみるか。バーベキュー的な感じで」
「そんなら、私も手伝うわ。楽しそうやし」
昨日買っておいたワカサギで天ぷらを作る事になった。
贅沢な朝食だ。
「どんどん揚げてくから、冷める前に食べてね」
「「いただきまーす」」
率先して揚げてくれる斉藤さんに振る舞われながら、皆が天ぷらを口に運んでいく。
「はむっ」
サクッと食欲をそそる揚げたて特有の音が鳴る。
「はふっはふぅ」
「サクサクしてて、すごく美味しいなぁ。なっ! あらたくん」
「ほんとだね。外飯効果でさらに美味い」
サクサクの衣から覗く、ホクホクのワカサギ。
これは白米があったら、さらに止まらなくなってしまうな。
「天つゆもいいですが、塩も美味しいですね」
「ほんとですね。衣と相まって美味い」
鳥羽先生が言う通り、塩で食べるのも美味い。
天つゆで食べることが多かったけど、味覚が大人になってきたということだろうか。
「んめぇ〜。恵那もほら」
「あむっ。ん〜!」
天ぷらを堪能した後は、撤収作業を終えて大垣さんの提案で先生の車に乗せてもらい、みんなで山中湖観光!
……とは行かず。残念ながら解散する事に。それにはちゃんと、理由があった。
「じゃあお前ら。気をつけて帰れよ。家に着いたらまず連絡な」
「分かっとるよ」
「あまりイチャイチャすんなよ!」
「それは別にええやん。付き合っとるんやから」
「くっ! 変わっちまったなイヌ子も!」
「何がやねん」
あおいが呆れ顔で千明と言い合う。
「またね。あおいちゃん、小牧くん」
「うん、またなー」
「二人ともお気をつけて」
「先生も、大垣さん達の事よろしくお願いします」
「はい」
先生の車に乗った一行を見送り、バス停で帰りのバスを待つ。
「あおい、本当に良かったの? 鳥羽先生に乗せてもらわなくて」
「んー?」
あらたとあおいは来る時に乗った逆方向のバスを待つ。バスに乗ったら、そのまま駅を目指す予定だ。
「だって。先生の車、あと一人は乗れたのに」
「それだと、あらたくんが可哀想やん。せっかくの山中湖キャンプやったのに、帰りずっと一人なんて寂しいやろ」
鳥羽先生が普段乗っている車は軽自動車。
運転する鳥羽先生を含めて五人だったあらた達を全員乗せる事は、四人乗りが義務付けられる先生の車では出来なかった。
あらたは一人、車に乗らず帰る事を決めたが、あおいも一緒に帰ると言い出した。
「寂しいって。俺もう高校生だよ?」
「ええやん。私があらたくんと一緒にいたいんよ」
「っ! またそういう事を……」
「あらたくんやて、最近みんなの前でこういう事言うやん」
「別に、狙って言ってるわけじゃ」
狙って言うこともあるが、ほとんどはそのつもりがなく、あらたは身の覚えがない。
「それに、二人ならデートみたいで楽しいやろ?」
「それはそうだけど。でも、一緒に帰ってるだけだけどね」
「プチデートや。休みの日に二人きりって久々やしな」
車で先に帰った千明達と別れ、二人は別のルートで帰るのだが、状況と家までの時間を考えるとプチデート呼んでもいいものかは迷いどころである。
まぁ、買えるだけだしな。内容的にはプチかもしれない。
それにしても、
「…………」
「どしたん? なんか難しい顔して」
「いやなんだか、いざ帰りになると確かに少し寂しいものだなって。楽しみにしていたキャンプだっただけに余計にさ。あっという間だったよ」
「色々あったけどなぁ」
頭の中で、昨日の一日がフラッシュバックする。
美味しい物も食べたし。念願だったキャンプ椅子も買えた。トラブルはあったけど、すごく楽しかった。
「なぁ、あらたくん。今度は何処にキャンプ行こか」
「えっ?」
不意にあおいが、隣でにこっと笑って微笑み掛けてくる。
「もう少ししたら、暖かくなってくるやろ? そうしたら、行ける場所も増えてくるやん。せっかく買った椅子もどんどん使わな」
ああ、そうか。楽しかった事が終わってしまえば、また次のことを考えればいいのか。
「……そうだな。あおいはどこか行きたいところはないの?」
「せやなぁ、前に野クルの三人で行ったイーストウッドキャンプ場に、あらたくんとも一緒に行ってみたいわぁ」
「あー、笛吹フルーツ公園の近くの」
「うん、楽しかったなぁ。季節のフルーツを使ったスイーツもウマーやったしなぁ」
そういえば、前に二人でキャンプに行こうみたいな話をした事を思い出す。
「あらたくんは?」
「あおいが良いなら、キャンプに二人で行ってみたいな。イーストウッドとか、各務原さん達が行ったっていう四尾連湖とか」
「おー、それこそデート旅行やね!」
「デッ……! まぁ、そうなるのか」
あおいと二人でキャンプをしてみたいのは本当だ。しかし、デートという言葉にしてみると少し恥ずかしい気持ちもある。それに、二人でキャンプということは一泊するわけで……って、何考えてんだ俺は!
あおいと付き合い始めて、しばらく経つのに、まだ慣れないこともあるんだよな。
「あっ、そうだ。あらたくん」
「ん?」
「帰りにもう一度紅富士の湯に寄って行かへん? 別に急ぐわけじゃないし」
「あー、そうだね。温まってから帰ろうか。じゃあ、途中で降りよう」
「やった! そや、お土産とかも買わへんとな」
そして、あらたとあおいは少しだけ寄り道をしながら家族の待つ自宅へと帰っていくのであった。
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次回より「なでしこソロキャンの裏側で 編」スタートです!