イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第4章 なでしこソロキャンの裏側で
第三十一話 「ライバルはホラ吹きな妹?」


 

山中湖キャンプを終えてから一週間。

学校が休みの土曜日のお昼時にあらたは身支度を済ませて家を出る。

 

「あっ! にーちゃん出て来た!」

 

「あかりちゃん?」

 

家族が買い物で空けている自宅を後にして、外へ出ると隣の家からあおいの妹、あかりが飛び出してきた。

そして、そのままあらたの正面から突進するように抱きついてくる。

 

「わっ! どうしたの?」

 

「あんなぁ、頼みがあるんや」

 

「頼み?」

 

自分の妹のように懐いてくれているあかり。

あらたは、そんな彼女に本当の妹に接するように優しく頭を撫でる。

 

「わたしも身延駅に連れてって!」

 

「身延駅に? 確かにこの後行くけど、どうして知ってるの?」

 

「あっ!見つけたであかり!」

 

「げっ、あおいちゃん……」

 

追いかけて出てきたであろう、あおいがあかりを叱りつける。

そんな姉に、あかりは渋い顔をした。

 

「こんなとこで何しとるん!」

 

「だって、わたしも一緒に行きたいんやもん。あおいちゃん達だけずるいで!」

 

「ずるいってなんや。我儘言わんと、留守番しとき!」

 

「あおい。この状況は一体」

 

「ごめんなあらたくん。ほら、いつまでもそうしとらんと。家に戻り」

 

「嫌やー! わたしも海老天食べたいー!」

 

「何言っとるん。あんたは朝ごはん食べたばかりやないの。お腹一杯やろ?」

 

「大丈夫やもん! 天ぷらは別腹やもん!!」

 

「そんなん聞いた事ないわ!」

 

どうして二人が喧嘩をしているのか、理由は会話の内容を聞いてなんとなく理解していた。

あかりが口にしていた「天ぷら」。それがキーワードである。

 

 

 △ △ △ △

 

 

時間を遡ること、約二時間前。

 

あらたは、両親も妹のひかりも居ない。そんな自分の家で暇を持て余していた。バイトも休みで、特にやる事もなくゴロゴロと寛いでいた時のこと。

 

ピコン!

 

「ん? チャット?」

 

アプリゲームをしている最中、スマホの画面に通知が表示された。

 

「あおいからだ」

 

【あおい】『あらたくん。急なんやけど、今日って時間ある?』

 

【あらた】『ちょうど暇してたところ。バイトも休みだし』

 

【あおい】『私も今日は休みなんよ。あきも休みでなー。なでしこちゃんのバイト先にお昼食べに行こうかって話してたんよ。良かったら、あらたくんも一緒に行かへん?』

 

なでしこも新しいアルバイトを始めた事で、最近はあんまり部活を出来ていなかった四人。その内の三人が、今日は休みだという。

キャンプ以外で休日に集まれるのは珍しい。

 

「各務原さんのバイト先って、確か身延駅周辺の蕎麦屋さんだっけ。天ぷらが上手いって聞いたな」

 

そんな事を考えているとお腹が鳴った。

 

「あー、そういえば。今朝から何も食べてなかった」

 

あらたは起き上がって、返信を返す。

 

【あらた】『分かった。俺も行くよ』

 

【あおい】『やった! じゃあ、あきには私から伝えとくな。駅前で待ち合わせやから、一緒に行こ』

 

【あらた】『了解』

 

スマホを机の上に置いて、出かける準備を始めるのだった。

 

 

 △ △ △ △

 

 

そして今、駅に向かうべくあおいと家の前で待ち合わせていたのだが、あかりの方が先にあらたの前に現れたのである。

 

「これから、にーちゃんとあきちゃんとご飯食べに行くんやろ。付いて行ったってええやん!」

 

「だから。あかりはさっき起きて、朝ご飯食べたばかりやんか。食べられへんて」

 

「大丈夫やもん!」

 

「駄目やって、行って残したら勿体無いやろ」

 

諦める気配の無いあかり。

あおいは姉として聞き分けの悪い妹へと言い聞かせる。普段は仲の良い二人だが、喧嘩は拮抗していた。

 

「なぁ、にーちゃん。わたしも食べたい。駄目?」

 

「うぐっ……」

 

あかりちゃんが、瞳をうるうるとさせて、寂しそうな上目遣いで俺の事を見てくる。

この表情には弱いんだよなぁ。

 

「あらたくん。ええよ、甘やかさんで」

 

そんなあらたに、あおいが待ったをかける。

つい連れて行きたくもなるが。あおいの言う通り、ご飯を食べたばかりなのであれば。食べ切るのは難しいかもしれない。

……どうするべきか。

 

「でも、ここまで行きたがってると連れて行ってあげたいけどな……」

 

「せやろ!だから一緒に連れてって! にーちゃん!」

 

あかりは、育ち盛りなのか食欲旺盛だ。会った時には大体食べ物の話題があがるほどに。

 

「うーん……。あ!」

 

何かいい案がないかと考えるあらた。そこで、一つの案が閃いた。

 

「あかりちゃん。じゃあ、俺と半分こする?」

 

「はんぶん?」

 

「そう。もしお腹一杯で食べれなくなっても良いように。俺と半分こしよう。もちろん、沢山食べれるなら多めにあげるから」

 

「ほんま! それなら連れてってくれるん!?」

 

あらたの話に目をキラキラとさせるあかり。

 

「どうかな? あおい」

 

「もう、あらたくんはあかりに甘すぎるわ」

 

「はは、ごめん」

 

「まぁ、しゃあないな。でも、半分こするなら相手は私とやで。あらたくんにこれ以上迷惑はかけられへん」

 

「わーい!」

 

「あかり、ちゃんとあらたくんに感謝するんやで」

 

両手をあげて喜ぶあかりに、お姉さんらしく嗜める。

 

「にーちゃん、ありがとなー!」

 

「どういたしまして。よかったね、あかりちゃん」

 

身体を寄せて甘えてきたことに、頬が緩む。

子供らしいというか、実際子供なんだけど。あかりちゃんは、スキンシップがいつも近めなのだ。無邪気で可愛らしい。

 

「わたし、にーちゃんの事大好き!」

 

「んなっ!?」

 

「ははは、ありがとう」

 

それに反応したのはあおい。

好きって言っても、隣のお兄ちゃんとしてという事だろう。つまり、ラブの方ではなくライクの意味である。

 

「じゃあ、上着取ってくるわー!」

 

そう言って、あかりは一度家に駆け足で戻っていく。

その年相応のはしゃぎようは見ていて心が癒される。

 

「あかりちゃんはいつも元気だねー」

 

「あらたくん。あかりにめっちゃ懐かれとるよね」

 

「んー、どうだろう。それなら嬉しいけ…どっ!?」

 

あおいの表情が険しくなる。

 

「どうしたの、あおい」

 

「じーっ」

 

「もしかして、怒ってる?」

 

「別にー。あかりもあらたくんの事、本当のお兄ちゃんみたいに慕ってるんやろうし。好かれとるんやろなーと思って」

 

「好きとは言っても、子供の言う事なんだけど」

 

嫉妬を含んだような瞳が、あらたに向けられる。

 

「分からんでー、最近の子供は。あらたくんは、あかりの事。どう思うとるん?」

 

「えーと、どうしたの急に」

 

「彼女として、素朴な疑問や」

 

「どうって言われてもな」

 

なんだろう。絶対にありえない事だけど、浮気を疑われる時ってこんな気分なのだろうか。だがしかし、相手があかりちゃんって……。

 

「確かに、あかりちゃんは無邪気で可愛いよ。なにより、あおいの大切な妹だし。でも、俺にとっても妹みたいなものだよ」

 

「ふーん」

 

「し、心配しなくても大丈夫だよ?」

 

「心配なんてしとらんよー。ただ、あらたくんがあかりに本当に甘いんやもん」

 

「俺がひかりと接してる時と、別に変わらないと思うよ?」

 

「ほんまにー?」

 

まさか、拗ねてるのか? いやいや、さすがにな。小学生相手に靡くようなことはないのだが。恋のライバルが小さな妹って、複雑すぎるだろ。

 

「あおい。あかりちゃんにヤキモチ妬いてるの?」

 

「そんなんやないし!」

 

プイッとそっぽを向かれてしまう。

こういう時のあおいは、少し我儘なのだ。それでも、嫉妬されるというのはそれだけ想ってもらえているという事でもある。

 

「俺、自分で言うのもなんだけど。あおいには相当甘いと思うんだけどなぁ」

 

「それは身に染みて分かっとるけど…」

 

とはいえ、あかりちゃんの事も無下にはできないしな。

だから二人が納得するような案を提示したわけだ。

 

「じゃあ、どうしたら機嫌直してくれるの?」

 

「……コンビニのプリンで手を打ったるわ」

 

「プリン? あははっ、分かった」

 

「な、何で笑うんや!」

 

「だって。あおいもたまに子供っぽいところあるよね。そういうとこも俺は好きだよ」

 

「〜っ!そ、そんな事言ったって条件は変わらへんで!」

 

子供みたいだっていうのは認めるんだな。

 

「いいよ。じゃあ、今度有り難く奢らせてもらいます」

 

「3個パックのやつやないで! ちゃんとしたやつや!!」

 

なんだその可愛いしかない抵抗は。

 

「うんうん」

 

「クリーム乗ってるやつな!」

 

「了解」

 

あらたは、横を向いたままの彼女の頭を撫でる。

 

「じゃあ、あかりちゃんを甘やかしたのはこれでチャラで良いですか? あおいさん」

 

「ま、まぁな」

 

物で釣るつもりはまったく無かったけど、あおいがそんな交渉をしてくるとはな。よし、同じやつを三つ買ってやろう。

 

「……てか、撫ですぎやない? いつまで撫でてるん。もしかして、甘やかしてるつもりなん?」

 

「それもあるけど、俺あおいの頭撫でるの好きなんだよね」

 

「へ?」

 

「頭っていうか、あおいの髪が綺麗で柔らかくて好きなんだ。あおいは嫌かな?」

 

「べ、別に。そんな事は言うてへんけど……」

 

うん、特に嫌がっている様子はないな。これで拒否られたら、立ち直れないかもしれなかったけど。

 

「じ、じゃあ。今度は私が撫でたるわ……」

 

横から伸ばされるあおいの手を避ける。

 

「って、なんで逃げるん!」

 

「今は俺のターンだからね」

 

「絶対ぜーったい、仕返ししたる!」

 

「はは、期待してるよ」

 

あおいの頬が紅潮している。

ホラ吹き上手のあおいにマウント取れるのはたまにしかないからな。今は堪能させていただこうじゃないか。

また揶揄われそうだけど。それもまた、俺にとってはご褒美だ。

 

「そうだ。あかりちゃんが戻るまで別の話しよう」

 

「別の話?」

 

「そう。この前言ってた二人でのキャンプ。本格的に計画してみない? その話もしたいと思ってさ」

 

「それは楽しみな話やな!」

 

「でしょ?」

 

あおいの表情に一気に明るさが戻る。

今度はちゃんと、俺の方を見てくれていた。

この間、あんな危険なキャンプをしたばかりだというのに気が早すぎただろうか。

 

「先週山中湖行ったばかりでハードなスケジュールかもしれないけど」

 

「私は、いつでも大丈夫やで!」

 

しかし、あおいは前向きな返答をしてくれる。

 

「なら、次の土日はどうやら。確かバイトは休みやったよね」

 

今週の休日は、明日シフトが入っているが来週は平日出勤が多い分。どちらも休みの筈だ。

 

「おっ。じゃあそうするか」

 

「せやね。わー、一気に楽しみになって来たわ」

 

「どこ行くかー。やっぱり最初は近場が良いかな」

 

「おまたせー!」

 

すると、上着を着て来たあかりが、再びあらたにしがみつく。

 

「あ! あかりまたあらたくんに抱きついて……。いくら仲良くてもお隣さんなんやで? 遠慮しとき」

 

「ええやんか別に。いつかは本当のにーちゃんになるんやから」

 

「あ、あかり!? あんた何言うとるん!!」

 

「あはは……」

 

あらたとあおいの顔が真っ赤に染まる。

さ、最近の子供は進んでるなぁ。

 

あっさりと日にちが決まり、場所をどうするか話していたところで、あかりが戻ってきて一気に空気が変わる。

 

「二人とも、何の話しとったん?」

 

「べ、別に何でもないで。あかりが食い意地張ってるって話しとっただけや」

 

「何やそれ?」

 

「それより、もう行くで。あきも待っとるやろうしな」

 

「うん」

 

そして、話をはぐらかして三人で駅に向かって歩き始めるのだった。

それより、さっそく次回のキャンプの予定が決まった。

 

(初めての二人キャンプ、絶対に成功させるぞ!)

 

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