イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第三十四話 「デートキャンプ開始!」

 

車を降りると冷たい風が頬を撫でる。身体を纏っていた暖かな空気が一気に吹き飛ばされた。

 

「やっぱり少し寒いな」

 

「うん、手袋が手放せへん」

 

隣に立つあおいの手には、俺が去年のクリスマスにプレゼントした手袋がしっかりとはめられていた。

 

「まだまだ冬だからね。けど、これがあると平気かな」

 

あおいがクリキャンでくれた手編みのマフラー。

首元に巻いたそれに優しく触れる。この時季には欠かせない俺の宝物だ。

 

「ほな、父さんは帰るで。あらたくん、あおいの事頼むわ」

 

「はい。送っていただいてありがとうございました」

 

土曜日の休日。あおいのお父さんに送られて、あらた達は本栖湖にある浩庵キャンプ場に足を運んでいた。

 

「ええよええよ。夜は冷えるから風邪引かないよう気をつけるんやで」

 

「はい、分かりました」

 

「そんな他人行儀じゃなくてええて。気軽にお義父さんって呼んでくれてもええんやで?」

 

「もうお父さん何言うてんの。気が早過ぎるわ」

 

「あはは…」

 

あおいと二人でキャンプに行く計画を立てるのにあたり、懸念だったのは親の同意。二人きりで泊まりに行くなど、今までになかったからだ。

しかし、予想外にもあっさりと許可が降りた。

 

信用してもらえている証拠だよな。まさに、親公認の仲。そんな威張る様な事じゃないけど、認められている気がして、なんだか嬉しかったな。

信頼に応えられるように節度をもった行動を心掛けよう。

 

「そんじゃ、あおい。いくら恋人同士でも学生らしく楽しむんやで」

 

「もう! 分かっとるよ、お父さん。大丈夫やって」

 

「ははっ。じゃあ、明日の昼頃迎えに来るからなー」

 

窓から手を振って、あおいのお父さんは車を走らせて来た道を戻っていく。

ぷっくりと頬を膨らませて膨れっ面でお父さんを見送るあおいは、愛くるしかった。

 

「もー、お父さんは。…ん、なぁに? 私の顔になんかついとる?」

 

「あー、いや何でもないよ」

 

普段は見せない親と話す時の表情に、あらたの視線は釘付けとなっていた。

それを誤魔化すようにわざと視線を逸らす。

 

「さっそく、受付を済ませようか」

 

「せやね。私たちの初のデートキャンプの始まりや」

 

車から下ろした荷物はそのままに、一度受付のあるロッジへと歩く二人。

俺たちが、どうしてこのキャンプ場を選んだのか。きっかけは志摩さんだ。

この本栖湖にある洪庵キャンプ場を勧めてくれたのは、何を隠そう志摩さんである。近くにある、富士山が見えてオススメのキャンプ場に心当たりがないか相談したところ、この場所を教えてくれた。

この時期の行きつけらしく、何を隠そう志摩さんと各務原さんが出会ったのも、このキャンプ場だと聞いた。

 

そして、あらたはあるものを見つける。

 

「なるほど。あそこにあるのが、かの有名な各務原さんが居眠りしていたとされるベンチか」

 

二人が邂逅したトイレの前というのは、きっとあそこだろう。であれば、隣接しているあのベンチこそがそれだ。

 

「…あとで俺も横になってみようかな」

 

「風邪引くからやめとき」

 

聖地巡礼のような一言を聞いたあおいは、あらたの肩に触れて冷静に止めた。

 

危なくあおいのお父さんの注意を無下にするところだった。

 

「明日まで一泊お願いします」

 

「では、ここに連絡先と名前を書いて下さい」

 

「分かりました」

 

眼鏡をかけた優しそうな管理人さんから用紙を手渡され、あらたが代表して記入する。

 

「チェックアウトは明日朝10時。薪は林の中の物を自由に使って下さい」

 

「「ふむふむ」」

 

薪は場所によって金額はバラバラだが、タダより安いものは無い。自由に使わせてもらえるなんて。なんて贅沢なんだ。自然に感謝だな。

 

受付を済ませて利用説明を受けてから、あらたとあおいは荷物を分担しながら坂を下り、湖畔の砂利を踏み締める。

 

「おー! めっちゃ富士山見えとるやん!」

 

「景色が開けてて遠くまで見える。これは……想像以上かも」

 

千円札の絵にもなっている事で有名な本栖湖から見える富士山の景色。

 

「写真撮ろ」

 

この壮大な景色を見たら、つい写真を撮りたくなるのも無理はない。快晴であることもあり、湖には綺麗な逆さ富士も映し出されていた。

横にいるあおいも、同じくスマホのシャッターを切る。

朝霧高原の富士山も、山中湖からの富士山も大きくてインパクトがあったけど、湖の上に乗っているようなここからの景色も絶景だ。

 

「あらたくん、一緒に写真撮らへん?」

 

「いいね。みんなにキャンプ場に着いた報告も兼ねて撮ろっか」

 

あおいが自撮りモードでスマホを構えて、あらたの方へ寄る。

 

「ほないくでー」

 

「うん」

 

「あらたくん、もっと近づかな」

 

「!」

 

ガッチリと腕をホールドされて。引っ張られるような形で抱き寄せられる。そして、そのまま写真を撮られた。

この密着感、あおいからのスキンシップが多い中、俺も今日は新たな一歩を踏み出したいとそう思っていた。

 

「ふふっ。うん、良い感じやな」

 

「まって、俺今変な顔してたかも」

 

「大丈夫や。ピュアで可愛い表情のあらたくんをバッチリ頂きました。納めさせていただきます」

 

「それは全然大丈夫じゃないね!」

 

満面の笑顔なあおいと、抱き寄せられた事に少々驚いた顔の自分。そんな二人の背には湖と大きな富士山が。

こんな恥ずかしい顔を他の人にも見られるのは恥ずかしい。

 

「恥ずかしいよあおい」

 

「えー、私はこの写真好きやけどなー」

 

「…あおいが良いならいいけどさ」

 

彼女が満足しているのなら言うことはない。自分が撮るよりも確実に上手いだろうし。ただ、絶対揶揄われる。主に、大垣さんと斉藤さんから。

 

「……うーん。でもやっぱり、もう一枚撮ってもええかな?」

 

「え、いいけど。急にどうして?」

 

「この写真は、私だけが見るあらたくんの秘蔵フォルダ行きや。せやから、みんなに送るようにもう一枚…」

 

「まって、俺の秘蔵写真って何? そっちの方が気になるんだけど!?」

 

遠回しに自分だけが見たいと受け取れなくもないが、それどころではない。

 

「なんやろなー」

 

結局、俺の秘蔵フォルダの件については黙秘されてしまう。

身に覚えのない単語にツッコミながらも、二人で並んだもう一枚の写真をグループチャットに投下されたのであった。

 

「ふっ、慣れたもんだぜ」

 

「せやな。うちらには敵無しや」

 

ふふふ、と自慢げに笑う二人。

今までのキャンプや部活動の経験もあり、あっという間にテントの設営を終える。

今回、野クルが所有するテントのうち二つが貸し出される事になり、そのうちの一つをあらたとあおいは持って来ていた。

今日は、偶然にも同じ部員のなでしこが別の場所で人生初のソロキャンプに挑んでいる。

日が被り、互いに初めての挑戦ということで何やらあおいとなでしこは、女子同士で話していたようだが、それについてあらたは詳しく知らない。

 

「ふぅ、ちょっと休憩」

 

「あ! あらたくんズルいで。私もー」

 

テントの前には、最近買ったばかりの椅子も並んでいる。

 

「はぁー、この椅子も相変わらずええなぁ。せっかく買うたんやから、沢山使ってやらんとね」

 

「ほんと、この包まれる感じが最高だ」

 

自分たちのキャンプ地に満足しながら、二人して椅子に身を預ける。

 

「けど、冗談抜きで俺たち設営にも慣れてきたんじゃないかな」

 

背後に立つ一つのテントを見る。

 

「せやなー。戸惑うことも無くなったし。身体が覚えてきたんやろな」

 

さてと、これからの時間どうするか。

少数で過ごすキャンプは時間をどう潰すかが大事と聞いていたけど、今まで人数が多かったからあっという間に時間が過ぎていたんだよな。

あおいとコーヒーとか飲みながら過ごすのも最高だけど、せっかくなら二人で遊んだりしたいよな。

 

そう思って、スマホを取り出す。

 

「あ、そういえばさっき各務原さんも買い出し終わってキャンプ場に向かうって連絡来てたね」

 

「なでしこちゃん料理上手やから、一人でも美味しいキャンプごはん作るんやろなぁ」

 

「俺たちはどうしようか。まだご飯には早すぎるけど」

 

時刻は15時を過ぎたくらいだ。いくらなんでも早すぎる。むしろ、少し遅めのお昼ご飯くらいの時間帯だ。

 

「せやったら、まずは焚き火せーへん? 林の方に落ちてる枝とかは自由に使ってええんやろ?」

 

「そうだね、せっかくだしやってみようか」

 

今日は天気も良く、山中湖のキャンプ程ではないが、じっとしていると少し寒い。

 

そして、椅子から立ち上がって林の中へと入っていく。

 

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