イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第三十七話 「新たな一歩!」

 

「ふぅ、ご馳走様。めっちゃ美味しかったわぁ」

 

「お粗末さまでした」

 

空腹という最高のスパイスを携えたあらたとあおい。甘い雰囲気を頭の片隅に置きながらも食欲には逆らえず。その後すぐに、夕飯を食べる事になった。

夕飯のメニューを提案したのはあらた。冷凍ポテトとソーセージをガスバーナーの上で温めたミニフライパンで焼き、インスタントのスープをお供に二人で突いて食べた。

味付けは塩胡椒と簡単で、キャンプ経験の少ないあらたでも簡単に作ることができた。

 

「カセットコンロもええけど、リンちゃんみたいな持ち運びができるガスバーナーも欲しくなるなぁ」

 

「またバイト代貯めないとね。あおいは他に欲しいものはあるの?」

 

「うん。実はな、ちょっとテーブルが気になっとるんよ」

 

「テーブル?」

 

あおいは、キャンプを通じて新たなギアが欲しくなっていたようだ。

 

「椅子買ってからなぁ。ちょっと考えててん」

 

「そっか。今回あるテーブルは、大垣さんの真似して買ったキッチンラックだもんね」

 

おしゃれなネイティブ柄の布をめくると、その骨組みが露わになる。

 

「これも、安くて便利でええんやけどな。やっぱりちゃんとしたのも欲しくなってもうて」

 

キャンプグッズは、キャンプをしながら揃えていけば良いと聞いた事がある。まさに、体現していると言っていい。

 

「あらたくんこそ、他に欲しい物あるんやないの?」

 

「あはは。実は俺も、キャンプの時に使うリュックとか欲しいんだよなぁ」

 

「へぇ、リュックかぁ。ええね」

 

「バイクに乗る事も多いから。普段使いできるし、アウトドアで使うリュックって丈夫そうなイメージもあるから」

 

「確かになぁ。しっかりしてそうやもんね」

 

「キャンプグッズの事考えてると、これからの事がより楽しみになるよな」

 

「せやね!」

 

「……あ、そうだ」

 

「?」

 

キャンプグッズの話をしながら焚き火を眺めるあおいの前で、クーラーバックからある物を取り出した。

あらたは、その小さな箱をテーブルに置く。

 

「なんやこれ?」

 

「食後のデザート。あおいと食べようと思って」

 

「デザート!?」

 

「うん。昨日の放課後、甲府の方で買ってきてさ。保冷剤も入れて冷やしておいた」

 

「え! なんやろ」

 

「開けてみて」

 

「ええの?」

 

「うん」

 

やっぱり、女の子はスイーツが好きみたいだ。

まだ中身を知らないのにすごくテンションが高い。

 

「何やろか。甘い物は別腹やから大歓迎や」

 

なんだろうと。子供がプレゼントの箱を開けるように無邪気なワクワクとした気持ちであおいは箱を開ける。

 

「わぁっ! 美味しそうなプリンやんか!」

 

「この前約束したでしょ。プリン奢るって」

 

「覚えててくれたん?」

 

「当然。ほら、二人で食べよう」

 

あおいが要望した通り、クリームがトッピングされたプリンを広げる。

昨晩洋菓子店で買ってきて正解だったな。

 

「「いただきます」」

 

ちょうど良く膨れたお腹に、優しくて甘い味のプリンはちょうどいい。

食後の一品としては完璧だ。

 

「ん! 美味しい。甘くて濃厚やね」

 

「初めて食べるけど、ここのプリン柔らかくて掬いやすいな」

 

最初の一口を食べたあおいが、そう言った。

小さいサイズでもあるため。二人はあっという間に食べ終えてしまう。

 

「ふぅ、お腹が幸せやぁ。あの甘さは反則やって」

 

「ふふっ、喜んでくれて良かったよ」

 

「ありがとうな、あらたくん」

 

満足そうなあおい。

自分がした事をこんな風に喜んでくれる彼女の笑顔に、買ってきて良かったと心の中で思う。

 

「あ、あらたくん。口にプリンついとるで」

 

「え、ほんと?」

 

どこだろうと、口の辺りに手を伸ばす。

子供みたいで恥ずかしいな。

 

「そこやないで?」

 

だが、取れていないのかあおいが近くに寄ってくる。

 

「えっと、この辺?」

 

「ううん、ここ」

 

俺の前で屈んだあおいが頬に触れた。

 

「ありが……」

 

顔を上げるとあおいの顔が、目と鼻の先にあった。

そして……。

 

 

 

 

 

ちゅ。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……へ?」

 

唇が何かに触れた。

何だ? 今何が起こった?

 

「……ふふっ、なんてな」

 

顔を近づけていたあおいは、顔を離して照れた様子を見せる。

俺の唇には、柔らかな感触が残っている。

 

「……うそやで」

 

赤面して視線を逸らすあおい。

 

「嘘って、プリンが付いてたのが?」

 

あおいは小さく頷く。

 

じゃあ、今の感触は。この、唇に感じた確かな感触は……。

あらたは、ゆっくりと自分の唇に触れた。

 

「もしかして今、俺たち……」

 

いきなりの事で頭が追いつかない。

不意をつかれたあらたは、状況を認識するのが遅かった。

 

「えへへ。プリン食べたあとやからかな。少し甘いなぁ」

 

林檎のように赤い顔をしたあおいがペロッと舌を出して恥ずかしそうに言う。

 

「!!!?」

 

今の柔らかい感触。あおいの反応。

間違いない。俺はあおいから……キスをされた!?

 

「ななっ、どうして!?」

 

ようやく理解したあらたは、勢いよく立ち上がる。

 

「そんなの、したくなったからに決まってるやん」

 

「いやでも……」

 

「ええやん、付き合ってるんやし。それにさっきはお預けやったんやからその続き」

 

腹の虫に邪魔をされてしまった先程までの甘い時間。

でもまさか、このタイミングでするとは全く考えもしなかった。

 

「で、でも、こういうのはちゃんと……!」

 

そこまで言って、急に気恥ずかしくなる。

 

「その……」

 

「ちゃんとって?」

 

「いやだから、男からするべきというか。俺から……したかったというか」

 

嬉しさと驚きから、感情がごちゃごちゃになっているあらた。

それでも、男として譲れない何かが、彼にはあった。

 

「そういうんやったら、もう一回……」

 

「えっ?」

 

「今度はあらたくんからして?」

 

「あ……。いや、その。……う、うん」

 

それもそうか、そうだよな。今度は俺から……。

 

「…………」

 

「…………」

 

静寂の中で、あらたはあおいの肩に手を伸ばし優しく掴む。

 

「っ!」

 

そして、ゆっくりと目を閉じた彼女の顔に少しづつ近づく。

 

 

ドクン、ドクン。

 

 

心臓の音がうるさい。

相手に聞こえていないか、心配になるくらいに鼓動が早くなる。

 

……それから、静かにあらたとあおいの唇は重なった。

 

優しくて柔らかい穏やかな感触。ほんの一瞬の出来事。

二人はゆっくりと顔を離した。

 

「「……あ」」

 

あおいと目が合った。

 

「…ふふっ」

 

「…くすっ」

 

お互いの真っ赤な顔を見て、笑い合う。

 

「やっぱり恥ずかしいなぁ。今までの人生で一番緊張したんやないかな」

 

「俺だって……。心臓止まるかと思った」

 

「でも、すごく嬉しいわ」

 

「……俺も」

 

恋人としての新たな一歩。

二人は、付き合ってから数ヶ月目でようやくファーストキスを交わした。

この日の事は、決して忘れる事はないだろう。

 

「けど、ビックリしたよ。突然だったから」

 

「ふふっ、そんなこと言ってると、また不意打ちしちゃうかもやで?」

 

「それは、お手柔らかにお願いするよ」

 

正直、心配が保つかどうかは分からない。

でも、これから先。また同じ事がきっとあるだろう。

俺とあおいは、恋人同士なのだから。

 

 

 

 

 

「ふわぁ…。今日は疲れたなぁ」

 

「だねー」

 

しばらくして、眠くなってきたあおいとあらたはテントに入り寝袋の中で寛ぎながら今日一日の事を考える。

 

「でも楽しかった。初めてのデートキャンプ」

 

あんな事があったからなのか。その言葉を口にするのは、不思議と恥ずかしくなかった。

 

「まだ終わってへんよ?」

 

「そうだね。家に帰るまでがキャンプだもんね」

 

「せや、明日は私が朝ご飯作るから楽しみにしとってな」

 

「うん、分かった。そういえば、何作るの?」

 

「内緒や。でも、なでしこちゃんに教わって色々準備してきたから、期待してもらってええよ」

 

「各務原さんと二人して話し合ってたのはそれか。了解、楽しみにしてるよ」

 

各務原さんの入れ知恵があるとしても、そうでなかったとしてもあおいの手料理が食べられるのなら、すごく楽しみだ。

 

「うん!」

 

夜が更ける中、二人の眠気もさらに増していく。

 

「なぁ……。あらたくん」

 

「ん?」

 

「私、あらたくんと会えて。付き合えて本当に良かったって…思うんよ」

 

「……俺も、あおいと付き合えて今すごく幸せだよ」

 

「これからも……。ずっと……」

 

「うん」

 

「ずっと……な……」

 

「あおい?」

 

「……すぅー、すぅー」

 

限界が来たのか、あおいは目を瞑り眠りについてしまった。

けれど、あらたにはあおいが言おうとしていた事がしっかりと伝わっていた。

 

「あおい、おやすみ」

 

あらたは、眠ったあおいの額に気付かれないようにキスをした。

これからも、ずっとずっと俺たちは一緒だ。

 

 

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