イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第四話 「テスト休みと風邪引きさん」

 

 

無事にテストが終わり、学校から与えられた試験休みにする事といえば、

 

「バイト行ってきまーす」

 

高校に入学してから何度目かになる試験休み。

 

普段であれば、その休日を家で過ごそうかとも思ったが、月末のクリスマスキャンプに向けてもう少し稼いでおこうとシフトを入れていたのである。

 

というわけで、俺はお昼過ぎから夕方まで今日はバイトの予定だ。

 

「お兄ちゃん待ってー」

 

玄関で靴を履いてリュックを背負い立ち上がると、後ろから足音と共に聴き慣れた小さな声が聞こえて来る。

 

「ひかり、どうした? 兄ちゃんこれからバイトなんだけど」

「えっとね、私本屋に行きたいんだ。だから途中まで乗せて行ってほしいの」

 

振り返ると、お昼過ぎにも関わらず、未だに寝巻きを着用している妹のひかりが、こちらにのそのそと歩み寄って来る。

 

「ひかりー。いくら今日が創立記念日で学校が休みだからってこんな時間まで寝てると体に良くないぞ」

 

妹のひかりは近くにある小学校に通う5年生。

 

隣に住むあおいさんの妹であるあかりちゃんとは同級生で、俺とあおいさん同様に引っ越しの挨拶に伺った日から同じ妹同士で仲が良い。

偶然にも、今日は小学校も休みなようで、仕事に出掛けた父親以外の家族はみんな家にいた。

 

ただ、そんな妹には困った事がある。

 

「ううん、ちゃんと起きてたよー。窓から雲の観察をしてたらこんな時間になっちゃった」

「そ、そうか。ほどほどにな」

 

このように、ちょっと抜けた所があるというか、不思議な子なのである。

 

うちの両親も可愛いから大丈夫というよく分からない理由であまり気にしていないようで、娘として大事に育てている。正直、そんな親への心配が勝つかもしれない。

 

「それと、ひかり。前にも言ったけど、免許取ってから一年間は二人乗りしちゃいけない決まりなんだ。だから乗っていくのは諦めてくれないか?」

「そうだった。うっかりしていた」

 

不思議な子とは言ったが、ちゃんと物分かりのいい子ではある。それなりに勉強もでき、頭も優秀な方だ。現に今も我儘を言わずにしっかりと理解してくれたようで安心する。

 

「じゃあ、私がお兄ちゃんのリュックに入って隠れるから。それなら大丈夫?」

「…大丈夫じゃないな。おじゃ◯丸かよ」

 

俺のリュックから顔を出すひかりの姿を想像すると、ある教育番組のキャラクターが思い浮かんだ。

 

「どうしても本屋に行きたいなら、母さんに頼んでみたらどうだ?今日は一日家にいるって言ってたぞ」

「ほんと?分かった」

「それじゃ、バイト行ってくるからな」

「うん。行ってらっしゃい」

 

そうしてひかりに見送られ、家を後にする。

 

相変わらずマイペースな子だ。だからこそ、タイプの違うお隣のあかりちゃんとも気が合うのかもしれないな。

 

ブーッブーッ

 

ヘルメットを被り、バイクに跨ったところでポケットに入れていたスマホが鳴った。

 

あおい

『あらたくん今日バイトあるん?』

 

あおいさんからのメッセージだ。

まだ急ぐ時間でもないし、返信してしまおう。

 

あらた

『あるよ。17:30まで』

あおい

『もし良かったら一緒に帰らへん?私も今日同じ時間までやから』

 

「あおいさんも今日バイトなのか」

 

俺もあおいさんも同じバイト先ではあるが、担当する部門が違うためにバイト中、顔を合わせる機会はあまりない。

だから、お互いのシフトも把握していない上に、同じ時間にバイトをしていても気づかない事だってある。

 

そうか。こうして当日にメッセージのやり取りをすれば一緒に帰れたりもするのか。

 

あらた

『了解!終わったら連絡するね』

 

そのメッセージを最後にバイクのエンジンをかける。

アクセルに手をかけ、今日もバイトがんばるぞと思いながら、バイト先へと向けて走り出した。

 

 

 

ーーーしばらくして、各務原家にて

 

恵那

『この前誘ってくれたキャンプ私も行っていいかな?('エ')』

 

「おーっ、斉藤がクリスマスキャンプ来るってさ!!ほれ」

「ほんとだっ!!」

 

風邪をひいてしまったなでしこのお見舞いへと来ていた千明が恵那から送られてきた文面を見せる。

 

「うーっ、ますます楽しみになって来たね!!」

「だなー、まだ何も準備してねーけど」

 

元々リンと行くはずだったキャンプに風邪をこじらせたせいで行けなかった分、今後予定していたクリスマスキャンプへの期待が膨らむ。

 

そこで、なでしこにある妙案が浮かんだ。

 

「あきちゃん…」

「ん?」

「今回はリンちゃんも誘ってみようよ」

「おー。でも、しまりんのやつ来てくれっかなー」

「誘うだけ誘ってみようよ!きっとその方がもっと楽しいよ!」

 

拳を握りながら、懸命に勧める。

 

「それもそうだな。けど、そうなると小牧のやつが少し可哀想じゃないか?女子が多い中で男子一人だけって」

「うっ、だ、だめかなぁ」

「まぁ、でも本人はあまり気にしないかもしれないしな。イヌ子にそれとなく伝えといてもらうか」

 

と、千明はあおい宛にメッセージを送ろうとするが、手が止まる。

 

「そういえば、なでしこの見舞いにイヌ子も誘おうかと思ったんだが、今日はバイトだったらしい」

「あっ、私連絡もらったよ、行けなくてごめんねって」

「まー、急な話だったからな」

「あおいちゃんと小牧くんって同じところでバイトしてるんだよね?」

「そうそう。あのスーパー、小牧がバイト探してたイヌ子に紹介したんだよ」

「仲良しだね〜」

 

ふふっ、と微笑む。

 

キャンプが好きとはいえ、年頃の女の子である彼女もまた、二人の恋愛模様に興味津々のようだ。

 

そして、話に夢中になってしまった千明は、あおいへ送るメッセージの事をすっかりと忘れてしまったのであった。

 

 

 

ーーーそして夕方、スーパーゼブラでは、

 

「小牧くん時間押しちゃってごめんね。もうあがっていいわよ」

「はい。お先に失礼します」

 

明日の品出し用に、在庫の整理を終えたところで社員の方に声をかけられる。

すぐにタイムカードをきって従業員用の更衣室へと向かう。

 

「早く出ないと」

 

今日シフトで入っていたパートさんの急な欠員により、予定よりも20分ほど遅れて本日分のバイトは終了した。

 

いつもより数倍のスピードで着替えた俺は、リュックを背負ったのと同時に自身のスマホを開く。

 

案の定、そこにはあおいさんからの連絡が来ていた。

 

あおい

『職員用出口の所で待っとるよー』

 

まじか。

さすがにこの時間になると、外は冷える。

そうしてすぐに、スマホを片手に走り出した。

 

 

 

 

「なでしこちゃん、風邪治ったみたいで良かったわー」

 

外であらたを待つ間に、風邪をひいたというなでしことメッセージのやり取りをするあおい。

 

首に巻くマフラーをくいっと上にあげ、壁に背中を預ける。

 

「あおいさんっ!」

 

すると勢いよく出口の扉が開かれた。

 

出てすぐの壁の前にいた彼女を見て、あらたは安堵する。

久しぶりの全力疾走で、息が乱れた。

運動不足過ぎるかもしれない。

 

「あらたくん!?そんな息切らしてどうしたん?」

「……はぁ、はぁ、あおいさんの事、待たせちゃってたから。外寒いし風邪ひかせちゃうと思って」

 

息を整えながら走ってきた理由を伝える。

普段と変わらない彼女の姿を見て安心したのか、力が抜けた。

 

「そんな急がんでも大丈夫やで、10分くらいしか待っとらんし」

「いやでも、待たせた事に変わりは無いから。ごめんね」

「ええよええよ。それじゃ、一緒に帰ろかー」

 

笑顔で迎えてくれた彼女に申し訳ない気持ちになりながら、先を行く彼女を追う。

 

「さっき連絡しとったんやけどな、なでしこちゃん今日風邪で寝込んでたらしいんよ」

「えっ、そうなんだ。大丈夫かな」

 

この時期となると、インフルエンザとかが出始める時期でもあるためクリスマスキャンプに影響が出ないか心配になる。

 

「もう治ったみたいやで。あきも今日お見舞いに行っとったみたいや」

「そっか、あおいさんも気をつけてね。待たせちゃった俺がいうのもどうかと思うけど」

「もー、あらたくんは心配性やな〜。ほんま気にせんでええてー」

 

バイクを押しながら隣を歩く俺の頭を、手袋をしたあおいさんの優しい手が撫でる。

 

「それにしてもバイクカッコええな〜」

「そうかな?」

 

ちらちらと視線を向けているなと思ってはいたが、どうやら俺の愛車が気になるようだ。

 

「なーなー、あらたくん跨ってみてー」

「えっ、ここで?別にいいけど」

 

そうして、道の端でバイクに跨って見せた。

近くに人もいないし、たとえ来たとしてもこの場所なら邪魔にはなるまい。

 

「おー、様になっとるなぁ。かっこええであらたくん!」

「ははっ、ありがとう」

 

新鮮な彼氏のライダー姿に興奮し、思わず写真を撮る。

 

「なでしこちゃん達にも見せてやらな」

 

そうして、その場でメッセージを送るあおい。

それを見てあらたは、以前あおいと話した事を思い出す。

 

「そうだ。あおいさんも良かったら後ろ座ってみる?」

「ええの!?」

「エンジン掛けてないし、運転する訳じゃないから、乗るだけなら大丈夫だよ」

 

バイクに跨ったままの俺の言葉に彼女が素早く反応する。

 

「それか俺が降りて一度普通に跨ってみる?」

「ううん、後ろの方がええ!」

 

そう言って彼女は目をキラキラとさせる。

 

「どうやって乗ればええんやろ?」

 

バイクの横に立つあおいがどうすればいいのかと、手をワタワタとさせる。

可愛いなおい。

 

「じゃあ、まずこれに足を乗せてもらうんだけど」

 

バイク側面に収納された二人乗り時に使用する左右の足掛けをパタリと倒して指示をする。

 

「ここ?」

「そうそう。んで、ここに手をついて座ってみて」

 

続いて、俺が座るシートのすぐ後ろにある空間に座るよう手を置く場所等を教える。

教習所に通ってた時に、教官の先生に指導された事を思い出す。

 

「んしょっと。わわっ!?」

 

あおいさんが乗った事で少しバイクが揺れた。

 

「慌てなくていいよ。俺がしっかりとハンドル持って抑えてるから」

「きゃ!?」

「っ!!?」

 

俺が言葉をかけ切る前にガバッと背中に抱きつかれる。

 

「あ、あおいさんっ!落ち着いて!!」

 

さらにぎゅーっとあおいさんの腕に力が入る。

あの、大変申しあげにくいのですが、背中に当たってます。その、柔らかいものが。

 

「ご、ごめんなあらたくん。ちょっとびっくりしてもうた」

「だ、大丈夫大丈夫(心中穏やかではないけれど)」

 

ようやく体制を維持できたようで、先程と違い、次は優しくあおいさんが俺の腰へと腕を回す。

 

「どう?初めてバイクに乗った感想は」

「なんか感動やわ〜。初めて乗ったけど、思ったより高いんやね」

 

あおいさんが座っている所は、現在俺が腰を掛けているところより少し高く設計されている。

 

「走ったらすごく楽しいんやろな〜」

 

今はまだそれが叶わないのは残念だけど、早く来年にならないかなと心の中で俺も思うのだった。

 

「そや!あらたくんこのまま写真撮って、写真!」

 

あおいさんが自分のスマホを俺の目の前に差し出してくる。

 

「いいよ。撮ろっか」

 

受け取ったスマホを自撮り画面にして空に掲げる。

それと同時に、後方にいるあおいさんがピースをしながら顔を寄せてきた。

 

「ほら!あらたくんも一緒にピースや!!」

「うん、じゃあ撮るよー。はい、チーズ」

 

カシャ

 

街灯が照らす道の端で、スマホの撮影音が鳴る。

 

「乗せてくれてありがとな〜。写真あらたくんにも送るな〜」

「うん、ありがとう(待ち受けにしよう)」

 

初の乗車体験を終えて、再び帰り道を歩き出す。

 

「まさかこんなに早くあらたくんのバイクに乗れるなんて。ほんま嬉しいわ」

「それなら良かった。でも、あおいさんと帰れるなら、バイトの時もバイクで来ない方が良いかも」

 

そんな嬉しそうな表情を見て、俺はあることを悔いる。

 

「何でなん?便利そうやのに」

「今はまだ二人乗りできないし。なにより、両手が塞がるとあおいさんと手が繋げない」

「っ!?」

 

一緒に帰れるだけでも当然嬉しい。さっきのちょっとしたアクシデントなんて、むしろ大歓迎だ!

ただ、こんな寒い日にこそ、さりげなく手を繋いだりするもんなんじゃないのかと思った。

とことんツイていない。

 

「…………」

 

急にあおいは下を向いて黙り込む。

というより、急な彼氏らしい発言に少々、いや、相当動揺している。今顔を上げれば、真っ赤に染まった顔をあらたに見られてしまう。

が、そんなあおいの心情を汲み取れるほど、彼は出来た男ではない。

 

「せ、せや! せっかくやし途中のコンビニで肉まん買っていかへん?」

「いいね。それじゃあ、俺が奢るよ」

「えっ、そんな別にええよ。むしろ楽しい思いさせて貰った私の方が」

「奢らせてほしいんだ。待たせちゃったお詫びに」

「……わかった。ありがとうな」

 

そうして、途中のコンビニで肉まんを二つ買う事にした。

 

「んー!働いた後の肉まんは最高やなぁ」

「ふふっ、そうだね」

 

バイクを停めて、その横で二人肩を並べて食べる。

そこで、あおいはある事に気づいた。

 

「もしかして、あらたくん背伸びた?」

「えっ、そうかな。自分じゃ分からないや」

 

最近一緒に帰るようになって、二人でいる時間も増え、お互いにちょっとした変化に気づくようになった。

何だか、そんな小さな事にも気づいてくれたことが嬉しい。

 

「やっぱり男の子やなぁ。育ち盛りやなぁ」

「そんなに食欲旺盛ってわけでも無いんだけどね」

「せや、あらたくんに見せたいものがあんねん。ちょっと持っててもらってもええ?」

「ん?」

 

すると、あおいさんから食べかけの肉まんを渡される。

彼女は、なにやらゴソゴソとバッグの中を探し始めた。

 

「これや!」

 

バッグの中から一枚のチラシを出される。

 

「歳末お客様感謝キャンペーン?あぁ、うちのスーパーでやってた懸賞か。これがどうかしたの?」

「この一等のおにく!当たってもーたんよ!!」

「なっ、何だってー!!」

 

それを聞いて、お約束の言葉が飛び出す。

 

「本当に!?あおいさんが当てたの!?」

「パートさんに勧められて応募したらたまたまなー。今度のクリスマスキャンプに持っていこうと思うてるんやけど」

 

肉まんを返し、改めてチラシに目を通す。

 

「国産A5ランクの黒毛和牛肩ロース肉2kg…。すごいね!こんな高級なお肉、みんなきっと喜ぶよ!!」

「一人4000円ずつや」

「!!」

 

そ、そうだよな。こんなに高級なお肉、タダで頂くわけにもいかないよな。けど、4000円か。

 

「あの、何回払いまでなら可能でしょうか?」

「うそやでー」

 

あおいさんの顔は、稀に見る嘘をつく時の顔をしていた。

 

そもそもあおいさんがみんなからお金を取ろうなんて事は思っちゃいない。

とはいえ、タイミングが良かったため、このように騙されてしまった。

最近見分けられるようになって来たのだが、まだまだだな。

 

「キャンプごはんが楽しみだよ。ありがとう、あおいさん」

「あっ!あきたちにはまだ内緒にしててなー。次の部活の時にびっくりさせたいんよ」

「うん、わかった」

 

あの二人も騙されるなこれは。

そう心の中で思った。

 

「でも、お肉で2kgって結構多いよね」

「大丈夫大丈夫。さっきあきから連絡あってなー。クリスマスキャンプ、うちらの友達の斉藤さんも来るみたいや」

「斉藤さん?あー、隣のクラスの」

「そうそう」

 

話した事はないけれど、各務原さんが入部した日に壊れたテントを治すのを手伝ってくれた子がいたって言ってたっけ。

確かその子が隣のクラスの斉藤恵那さん。

 

「それともう一人。なでしこちゃんが、志摩さんも誘う言うてたから問題ないと思うで」

「各務原さんを湖で助けてくれたっていう子だね。同じ学校だったんだよね。会うの楽しみだな」

(あれ?あらたくん図書室にいるなら志摩さんとは会うてるはずやけど。なんや面白そうやから黙っとこかー)

 

と、あおいはまたホラ吹き顔をこっそりと浮かべていた。

 


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