イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
第三十八話 「いずいずいずいずいずい」
「なでしこちゃん。ソロキャンどうやった?」
「良かったよー。富士宮観光もできたし」
週明けの月曜日、部室棟へ向かう途中のなでしこと合流したあらたとあおいは、週末に行われたソロキャンの成果を聞いていた。
「キャンプ場も夜景がキレイなとこでね。晩ごはんもなかなか上手くできたんだ」
「これホイル焼きだ。すごいね各務原さん」
「うまそうやなぁ」
「アルミホイル巻いて焼くだけだから簡単だよ。機会があれば、キャンプする時にも作るからね!」
「「わーい!」」
熱されて柔らかくなったキノコと野菜のホイル焼き。その一枚がとても美味しそうに見えた。これが食べれるとなれば、その時のキャンプが楽しみである。
「あおいちゃんたちはどうだった?」
「うん、なでしこちゃんに教えてもらったフレンチトースト。あらたくんも気に入ってくれたみたいや」
「あのフレンチトーストすごく美味しかった。ふわふわで朝から食欲が尽きなかったよ」
「それはきっと、あおいちゃんの愛情も入ってたからだねぇ」
「なでしこちゃん。冗談やめてや〜」
「えへへ。でも、カップルでキャンプなんて憧れちゃうよぅー」
昨日のキャンプ場での朝。朝食を担当してくれたのはあおい。
なでしこからフレンチトーストの美味しい作り方のレシピを教わり、それを完全に再現した事で。あっという間に二人して朝食を食べ終えてしまったのだ。
ホイル焼きも美味しそうだし、各務原さんは本当に料理上手だよな。
「二人で本栖湖に行ったんだよねぃ」
「せやで。富士山もよう見えて綺麗だったわぁ」
「過ごしやすいところで良かったよ」
「あそこはリンちゃんと出会うきっかけになった場所なんだぁ。だから、私もまた行きたいんだよね!」
「夜は疲れてあっという間に寝ちゃったんやけどなー」
「…………」
あらたは、その日のことを思い出して少々顔が赤くなる。
「小牧くん顔が赤いけど、どうしたの?」
「ううん、なんでもない。各務原さんは夜どう過ごしてたの?」
「私は、ごはん食べ終わってからちょっと暇だったかな。キャンプ場が圏外だったから。だから景色見ながらボーッと考え事してたんだけど…。そしたら、またみんなとキャンプ行きたくなっちゃった」
「そっかぁ」
「うへへ」
柔らかい笑顔のなでしこにつられ、二人も自然と笑みが溢れる。
「これからはソロキャンとグルキャン。交互にやってきたいと思います」
「なら次は、そのグルキャンだね」
「この前、なでしこちゃんのバイト先で話した件についても決めんとな〜」
「そうだぞお前ら!」
「びっくりした〜。あき、いつの間に」
突如として後ろから声がして振り返ると、我らが部長。大垣千明がそこにいた。
「あきちゃんお疲れ様〜」
「各隊員、グループでの写真投稿ご苦労! 有意義なキャンプを堪能できたようで何よりだ!」
「おっす!」
「その探検隊ネタ。まだ続いてたんだ」
「小牧隊員! ノリが悪いぞ!」
「ほんと冗談が好きな奴やなー」
「あおいがそれを言うのか……」
「なんのことや〜?」
ホラ顔で首を傾げるあおい。
「よし! クリキャンぶりの野クルオールスターキャンプ。さっそく先生に相談しに行こうぜ!」
「って、職員室は逆方向やないか」
進行方向と真逆の職員室へ行こうと、千明は親指を指す。
「そんじゃ、行くぞお前ら!」
「お〜っす!」
駆け足で戻る千明となでしこ。
そんな二人をあらたとあおいは見届ける。
「ちょっ! 二人とも! 別に走らなくてもええやん」
「二人とも今日も元気だなぁ」
週末は一人バイトだった千明も、今は元気に次の予定を見据えているようだ。
「俺たちも行こうか」
「しゃあないなぁ。行こか」
仕方ないという表情のあおいと、小走りで再度校舎の方へと戻っていく。
職員室へ向かう途中、各務原さんと大垣さんからキャンプデートについて色々と聞かれたのは、言うまでもない。
「それなら、3月頭に伊豆へ行くのはどうですか?」
「伊豆キャンすかー」
「伊豆かぁ。行った事ないな」
「いいよね伊豆!」
「うん。ええよね伊豆!!」
女性陣のテンションが高い。確かに、地名は聞いた事もあるくらいだから有名なのだろう。
先生が言うには、登山部の大町先生に勧められたとか。
「先生、俺も伊豆に行くの初めてなんですけど。どんなところなんです?」
東北に住んでいた頃から名前自体はよく聞いていたが、実際どういう場所なのかまでは知らない。
「観光地として有名ですね。冬でも比較的暖かいですし」
観光地が多いのに対して、気候も暖かいのなら過ごしやすそうだ。確かに良いかもしれない。
「それに、山中湖でお世話になった飯田さんにもお礼に行きたいですしね」
「あっ、なるほど」
飯田さんたちにはその節は大変にお世話になりました。
寒い山中湖での夜を乗り越えられたのは、飯田さんと我らがシマリン様のおかげである。その時の感謝を改めて伝えるというのは、とても良い考えだ。
「飯田さんって、コーギーと飛行機と薪ストーブの?」
「せやでー」
「チョコちゃんかわいいよねぇ。私も会ってみたいなぁ」
その場に居なかったなでしこも、その時の写真を見て山中湖キャンプでの出来事を知っていた。
ちっちゃな足で歩くチョコちゃんは確かに可愛い。俺もまた会いたい。
「でも先生。なんで3月なんすか? まだ一ヶ月以上先ですよ?」
鳥羽先生が挙げたキャンプの時期に疑問を浮かべる千明。
それを聞いたあらた達も鳥羽先生へと視線を向ける。
「大垣さん達。この前キャンプしたばかりでしょう?」
「はいっ! 私も昨日行ったばかりですっ!!」
「そうですね。俺たちも昨日…」
「行ってきたばかりやなぁ」
「あたしはバイトだったけどな!」
「まだ言うとるんかい」
今回はその為でもあるキャンプだと言うのにも関わらず、大垣さんは口を尖らせている。
これは伊豆キャンに行くまで根に持つ奴だなきっと。
「伊豆でのキャンプとなると旅費もかかりますし。少し間をあけた方がいいかと思って」
「確かに、この前イス買っちまったから。資金不足は否めない…」
「せやなぁ」
「伊豆でおいしい物とか食べたいもんね」
「それまで、またバイトで稼がないとだね」
今までのキャンプよりも遠い場所という事で、きっと色々なことにお金を使うことになるだろう。それに向けての準備は、しっかりしておきたい。
そして、鳥羽先生は笑顔で続ける。
「それに、2月末には期末テストも控えてますし」
あっ。
「「そうだった!!」」
「ね。大垣さん」
「あー…。そっすねー」
学生の本文は勉強。部活やバイトに費やすのも大切なことだけど。勉学を疎かにしてはいけない。
念を押すように、部内で一番前回のテストがギリギリだった大垣さんに視線を送る。