イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第四十一話 「原付で伊豆」

 

以前山中湖に助けに来てくれた時も、鳥羽先生の車の人数制限によりバスで帰った時の事はまだ記憶に新しかった。

 

「じゃあ残りの二人はリンのバイクに?」

 

\やぁー!/

 

「雑技団か」

 

志摩さんを含めた3人が原付に跨るイメージが頭に湧く。

それはそれで面白そうだが、原付だから二人乗りどころか三人乗りなんてもってのほかだ。

 

「大丈夫ですよ。妹にミニバンを借りる予定ですから」

 

「「なんだー」」

 

皆安心した表情を浮かべる。

 

「……」

 

しかし、浮かない顔が一人。

 

「あらたくん、どないしたん?」

 

その様子に気付いたあおいが、そっと近くで囁く。

 

「う、ううん。なんでもないよ。楽しみだね伊豆」

 

「せやなー。今からもうワクワクや」

 

勘付かれないよう相槌をあらたはうつ。

 

どうしよう…。ミニバンとはいえ、よくよく考えれば俺以外はみんな女の子なんだよなぁ。

車内が広くとも、あかりちゃんが来ることも考えれば必然的に後部座席のシートは三人乗りになる。

つまり、あおい以外の女子の肩が触れるくらいには近づくということだ。一体どういう配置になるのか。

気を利かせてあおいと隣同士にしてもらえる可能性を考慮して、真ん中にあおいが座って、俺が端になるのが理想なんだけど。もし俺が真ん中になったら……緊張するな。

いや、考えすぎるのも良くないか。クリキャンのとかだって別に普通だったし。これが、思春期男子というやつなのか。

 

そんな自分が嫌になり、顔を上げる。

 

「…あっ」

 

そこで反対の位置で座る千明が目に入る。

 

そうだ。そもそも先生の助手席があるじゃないか。初日の出を見に行った時は大垣さんが座っていたし、そこに座れれば問題はない。

あとは、大垣さんと斉藤さんだ。この二人が何かと理由をつけて揶揄ってくる可能性も否めない。

現に、山中湖の帰りのことはキャンプの後に根掘り葉掘り聞かれたし。この前のデートキャンプの事も。……あの時は、すごく疲れた。

 

「あの、先生」

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。

志摩さんが、すっと小さく手を上げた。

 

「私、原付で行ってもいいですか?」

 

「えっ? 全員乗れますよ?」

 

「それは分かってます。私、お正月に原付で伊豆へ行く計画を立ててたんですけど。結局行けなくて」

 

そういえば、年末年始の志摩さんは磐田の方でキャンプをしてきたと聞いた。

そうか、最初は伊豆に行こうとしていたのか。

 

「それからずっと伊豆の道を自分で走ってみたかったんです」

 

「原付でですか…」

 

鳥羽先生は頬に手を当てながら渋い顔をする。

 

「身延からだとかなり大変かと思いますけど…」

 

先生が不安に思うのも当然だ。距離はもちろん、冬の道は危険だし。気候によっては風邪をひいてしまう事だってある。生徒を預かる身としては、即答はできない様子。

原付よりも大きくて速いバイクに乗るあらたでさえ、走り切れるかどうか分からないと感じていた。

 

俺は普段のバイトとか、ちょっとしたツーリングでしか乗らないからな。

 

「リンちゃんは『原付の旅』がやりたいんだよね!」

 

「ま、まぁ。そうなんだけど…」

 

聴き馴染みのある単語に、あらたは反応する。

 

「原付の旅? あー、あの旅番組の」

 

「そうだよ! 私のお姉ちゃんが好きで、リンちゃんも好きなんだよね! ねっ!!」

 

異様にテンションがあがるなでしこ。

 

「先生、リンなら大丈夫だと思いますよ。浜松も伊那も原付で行った事ありますし」

 

「うーん……」

 

恵那が助け舟を出してリンの経験値を語る。

高校入ってすぐに免許を取った俺なんかより、全然乗っているんだろうな。志摩さんは、もうだいぶベテランライダーのようだ。

 

「観光する時はキャンプ場にバイク預けて車で回れば、疲れも少なくて済むんじゃないか?」

 

「うん」

 

「もし疲れたり何かあれば、小牧が運転変わってくれるだろうし。なっ、小牧」

 

そんな期待の眼差しが、あらたに向いた。

 

「えっ!? ま、まぁ。運転くらいならなんとか。けど俺、原付乗った事ないんだよな。保険とかも色々あるし…」

 

突然話を振られた事に、戸惑うあらた。

自信満々に大垣さんが言うものだから、簡単に二つ返事してしまうところだった。

 

「あき。あらたくんの事、揶揄わんで」

 

「あおい……」

 

庇ってくれるあおいに、頬が緩む。

こうして頼もしい姿を見せてくれるのは珍しい。そんな彼女に、誇らしさを感じた。

 

「あらたくんをいじめてええのは私だけやもん」

 

「あの、あおいさん?」

 

前言撤回。いつの間にか、あおいの表情は、お得意のホラ吹き顔へと変わっていた。

 

「お、嫁が出てきたぞ!」

 

「…ほんとに怒るで」

 

「わ、悪かったって。でも、小牧が車に乗ってれば安心なのは確かだろ?」

 

「それはそうやけど…」

 

「いやいや、そんな悪いよ。私なら平気」

 

その様子を見ていた鳥羽先生が、ゆっくりと口を開く。

 

「…分かりました。伊豆までは遠いですから、よく気をつけて無理しないでくださいね」

 

「はい!!」

 

「良かったね、志摩さん」

 

「うん、ありがと」

 

「それと、小牧くんも運転ができる資格を持っているとはいえ無茶をしてはいけませんよ」

 

「はい、了解です」

 

もし本当にトラブルがあったら手助けはするが、無いに越したことはないよな。

 

それにしても、志摩さんはすごいな。あのストロングな距離を原付でなんて。俺も見習わないと。

 

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