イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
よし、行くぞ原付で伊豆!!
そんな表情を浮かべるリンを見て、あらたは呟く。
「バイクかぁ……」
そういえば、納車してからはバイトかちょっとした買い物でしか使ってない。甲府に行くだけでも疲れるのに、県を越えるなんて今の俺では想像がつかない。
「えっ、もしかしてあらたくんもバイクで行く気なん!?」
ひとり言が聞こえたのか。あおいが驚いた声で言う。
「いやいや、無理だよ。俺は有り難く先生の車に乗せてもらうつもり」
「そうなん? 良かったわぁ」
胸を撫で下ろす彼女の表情が和らぐ。
「って、女の子の身で一人で行こうとしてる志摩さんの前で情けない話だけどね」
同じバイク乗りなのに、この差はカッコつかない。
「そんなことないよ小牧くん…」
「志摩さん」
小さく笑みを浮かべるリン。
話を振られるとは思わなかったあらたをフォローするように話は続けた。
「私だって、不安が無いわけじゃないし。ただ楽しみだっていう気持ちの方が勝つだけでさ」
「さすがソロキャン少女やなぁ」
「まぁ、気がついたらね」
「そっか。でも、俺もバイクでキャンプ行けるようになりたいんだよね」
「そうなの?」
「うん。まだ無理だけど、あおいも後ろに乗せてさ」
「あらたくん……」
隣を見ると、頬を赤く染めるあおいと視線が重なる。
「……これが惚気」
「え、そんなつもりは……」
「そうだぞ、リン。私はな、いつもこの二人の甘いやり取りを見せつけられているのだ」
「大垣さんまで……」
いつの間にか、千明も話に参戦し他の皆もそんなあらた達の会話に耳を傾けていた。
「は、話は戻すけど。あらたくんも、車で行くのは一緒なんやね。楽しみやわぁ」
「うん。俺もだよ。バイクでの遠出はいつでも出来るし。そうだ志摩さん、今度バイクで行ける近場のキャンプ場かあればいくつか教えてくれる?」
「ん? 別にいいよ」
「あれあれ?」
そこで、もう一人のからかい隊員が口を開いた。
「もしかして小牧くん、リンとのツーリングを狙ってるの?」
「なぬっ!? そうなのか小牧!」
「ち、違うよ! 普通にチャットとか口頭で教えてもらおうと思っただけで……」
そうか。思い返してみると連れてってと言っているようにも捉えられるのか、今の言い方だと。完全な誤解を生んでしまったようだ。
「そんな! 駄目だよ小牧くん。リンとの関係は遊びだったの!」
「おい、私を巻き込むな」
完全な巻き込み事故に、リンも迷惑がる。
「そうだぞ! 彼女であるイヌ子を差し置いて、リンとツーリングデートなんて私は許さぁーん!」
「だから誤解なんだって。そして大垣さんは誰目線なの」
「当然親目線だ。私のことはイヌ子パパと呼べ」
「そこはお母さんじゃないんだ」
「でも、私とあらたくんは親公認の仲やもんね?」
「まぁね」
あおいのお父さんからも、よろしくとあおいのことは頼まれているしな。
「「えっ…」」
「?」
あおいの言葉に、全員が静まり返る。
どうしたんだ。
「そ、そうだったんですか!?」
一番に驚いたのは鳥羽先生だ。
確かに、少し普通の学生のカップルたちよりは進んでいるかもしれないけど。そんなに驚くことなのだろうか。
「すごいね二人とも! いいないいな〜。ねっ! リンちゃん」
「う、うん」
「青春ですねー。くうっ、お酒が欲しいところです!」
鳥羽先生に続き、各務原さんも志摩さんも興奮気味に反応をする。
「って、私は騙されんぞー。いつもの嘘なんだろ。なぁ、イヌ子?」
「え? 嘘?」
「へ……? えっ、何。マジなのか! お前らマジでそこまで進んでんの!?」
「私もちょっとびっくりだよー。家が隣同士なのは知ってたけど、いつの間に」
千明も恵那も、目をパチクリとさせている。
「あ、もしかしてこういうのって言わない方がよかったん?」
「そうだったみたい。俺も気にはしてなかったけど」
付き合うこと自体が初めてで、「親公認」というのがこれほどまでに驚かれるものであったとは、あらたもあおいも予想していなかった。
「だって、親に誰と付き合ってるとか言わんだろ普通」
「……そうなん?」
「そうだよ! 理由はどうあれ、すごいなお前ら!」
俺たちの場合は、黙っててもバレそうではあるけど。
「ねぇねぇ、どうしてそんな事になったのか詳しく教えてよあおいちゃん」
「え〜、別に話せる程の事は」
「私も気になります! 今後の参考に!!」
「先生まで……。ていうか、学生の私らの話を参考にって」
「各務原隊員! すぐに湯を沸かすんだ! 今日のミーティングは長引くぞ!」
「おっす! あきちゃん隊長!」
「……なんだこれ」
「何言ってるのリン。リンも参加するんだよ?」
「マジで…」
その後は、伊豆キャンの話し合いよりも俺とあおいの今後について、女子達がキャピキャピとトークを繰り広げるのであった。
俺はほぼ蚊帳の外。あおいは赤面しながら珍しく、揶揄われる。
普段からは想像できない彼女の揶揄われる場面に、可愛らしいとは思いつつもその空間に入れないあらたは、
「……寂しい」
と呟かずにいられなかったのだった。