イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第四十五話 「出発」

 

日が上り、小鳥たちの鳴き声も聞こえてくる朝方。

寒空快晴の下で、あらたの口が少しだけ開く。

 

「ふわぁ」

 

寒い事と志摩さんのかっこいいお祖父さんに会った事しか記憶に残らないツーリングから帰ってきてから少しして、鳥羽先生が迎えに来てくれた。

 

思ったよりも遠くまで行ってしまったため、もう一度睡眠を取る暇はなく、改めて出発の用意を確認してから車へと乗り込む。

 

「なぁ、あらたくん」

 

「ん?」

 

シートに腰掛けたところであおいに肩を突かれた。

 

「眠そうやけど大丈夫なん?」

 

「うん。なんとか」

 

「もしかして眠れなかったのかー? おいおい、小学生じゃねーんだから」

 

「寝はしたけど、ちょっと早くに目が覚めてさ」

 

「にーちゃんも? 私もや!」

 

「あはは、あかりちゃんは元気だね」

 

「二度寝とかせんかったん?」

 

「いやー、目が冴えちゃって。少しだけバイクで本栖湖の方まで走ってきたんだ」

 

「いや、少しって距離じゃねーだろ」

 

「眠かったら私にもたれかかってもええよ?」

 

一番後ろの座席に腰を下ろすあらたとあおい。

奥に座っていたあおいが、あらたの方へ詰めて肩をくっつける。

 

「ありがとう。じゃあ、少しだけ甘えて……」

 

あおいの女の子らしい柔らかさと、彼女の体温を感じる肩に身体を預ける。そして、暖かい車内の暖房に身を任せ目を瞑った。

 

「……すぅ」

 

「ありゃ? にーちゃんもう寝てもーたん?」

 

ひょこっと前のシートにいたあかりがあおいたちの方を覗き込む。

 

「遊んでもらお思うたんやけどなー」

 

「あかり。無理に起こしたら、あらたくんに悪いで」

 

「ちぇっ、朝から見せつけやがって」

 

先生の助席からその様子窺う千明は、いつも通りのいちゃつきに愚痴を溢す。

ミラーに映る二人を見ながら鳥羽先生も口元を綻ばせた。

 

「ふふっ、相変わらず二人は仲が良いですね」

 

「ほんとっすよ。もう結婚しちまえって感じです」

 

「あきー、聞こえとんでー」

 

「おー、おー。嫁が怒ったぞ。怖え〜」

 

「なぁ、あき。誰のおかげで期末テスト乗り切れたんやったっけ?」

 

「はい、すんません」

 

そんな会話を挟みつつ、あらたが夢に落ちている間に次の目的である恵那の家に辿り着く。

 

「おーっす。恵那」

 

「みんなおはよー。あっ、あかりちゃんもおはよー」

 

「おはよー! 恵那ちゃんよろしくなー」

 

簡単な挨拶を済ませ、ちくわを抱っこした恵那のお父さんに見送られた一行は、次の目的地へ向かう。

 

「あれ? 小牧くんもしかして寝てるの??」

 

「うん。ウチ出て直ぐになー」

 

「今日が楽しみで早く目が覚めちまったんだとさ」

 

「へぇー。私なんて5分くらい前に起きたばかりだよー」

 

「それはそれでどうなんだ?」

 

「……ん、んん? あれ、斉藤さん?」

 

「あ、起きた。おはよー小牧くん」

 

「おはよう。……俺どれくらい寝てた?」

 

「二十分くらいやね」

 

「そっか。だいぶスッキリしたよ。ごめんねあおい、重かったでしょ」

 

「ええよええよ。楽しんで行こ」

 

「斉藤さんが乗ったって事は、あとは各務原さんか」

 

「ルート的にそうやね。もうしばらく掛かるけど、もうええの?」

 

「うん、平気。ありがとう」

 

「じーっ」

 

そんなやり取りをしていると、シートに手を掛けてこちらを見るあかりちゃんと目が合った。

 

「あかりちゃんどうかした?」

 

「なんか。ほんまにーちゃんとあおいちゃんってラブラブやね」

 

「だろー。この前のバレンタインの時なんか、部室で私となでしこのいる前でチョコ渡しやがってよー」

 

「あの時は部室でなでしこちゃんが友チョコ振る舞ってくれたタイミングやったからや……」

 

確かに、あの流れだったら無難だよな。

まさか俺も各務原さんから友チョコを頂けるとは思ってなかったし。あおいは勿論、お返しはどうしよう。

 

「そっかー。やっぱり、恋人には一番最初に食べてもらいたいもんね」

 

「え、恵那ちゃん!? 私はそんな事言ってへんよ!?」

 

「えー。でもあおいちゃん。頑張って手作りしてプレゼントしたんだよね?」

 

「それはそうやけど……。もう!」

 

「ふふ、あおいちゃん可愛い」

 

うん、それは本当に。

 

頬を膨らませるあおいを見て、恵那がくすくすと笑う。

どうしよう。今日も俺の彼女が朝から可愛すぎて困る件について。

 

「イヌ子たちのイチャつきは、今に始まった事じゃねーからなぁ。もはや野クルの名物だぜー」

 

「いやいや、あきちゃん。本栖高校の名物だよ」

 

「おー! なんなら甲子園も狙ってみっか?」

 

なにやら二人してまたもや冗談を口にしていた。あかりちゃんに変な影響を与えなければいいが。

 

人数も増えて、賑やかなになった車内。そうしているうちに、あっという間に各務原さんも合流した。

 

「みんなおはよーっ!」

 

「おーっす」

 

「おはよう」

 

「おはよーさん」

 

「おはよ。なでしこちゃん」

 

元気にスライドドアを開けるなでしこに、皆が挨拶を返す。

なんだか、目の下にクマのようなものがあるように見えるが、気のせいだろうか。

 

「あかりちゃんもひさしぶりー!」

 

「ひさしぶりー。今日はよろしくなー。なでしこちゃん」

 

「うん、よろしくねー。一緒にカピバラ温泉で癒されようね!!」

 

「せやね!!」

 

二人とも、ぐっと拳を握り期待に胸を膨らませる。

 

「先生。妹をお願いします」

 

「はい。お預かりします」

 

車窓からそんな会話をする眼鏡をかけたお姉さんが目に入った。

あれが噂の各務原さんのお姉さんか。写真では何度か見たことあるけど、めっちゃ美人だな。大学生くらいだろうか。

 

「っと、そうだ。各務原さんが乗るなら席詰めようか?」

 

「そうやね」

 

「ありがとー、二人とも。では、お言葉に甘えて」

 

「なでしこちゃん、なでしこちゃん」

 

「およ? どうしたの恵那ちゃん」

 

各務原さんが車内に入ろうとすると、斉藤さんが何やら手招きをして耳打ちする。

すると、なでしこがハッとした表情を見せた。

 

「やっぱり大丈夫! 小牧くんとあおいちゃんはそのまま特等席を独占してていいからね!」

 

「え、そう?」

 

「うんうん! 私はここで良いよ!」

 

「それなら、あかりちゃんこっち来る?」

 

「私はなでしこちゃんと恵那ちゃんと座るからええよ〜」

 

「そ、そう?」

 

なんだろう。みんなやけに気を遣ってくれるというか。

 

「察しがいいね。あかりちゃん」

 

「せやろせやろ!」

 

あかりちゃんも何やら斉藤さんと小声で話している。

各務原さんの事といい。あおいと2人で座らせてくれているのだろう。

 

「やっぱり、二人が並んでるのって目の保養だよねぇ。少女漫画を現実で見てるような感じだよう」

 

「おっ、なでしこちゃんも分かってきたね。二人を見守り隊は絶賛隊員募集中だよー。ちなみに、私は副隊長」

 

「あたしが隊長かい」

 

「ほんと! 入る入る〜」

 

「私もー」

 

「そんなのいつ出来たんだ……」

 

「このノリもなんだか慣れてきたわ」

 

普段から揶揄う側のあおいからしてみれば、もはやこのくらいでは動じないらしい。

このメンバー以外の目がないからかもしれないけど、俺は未だ恥ずかしい思いをしている。もしクラスでこんな場面に合えば周囲の男子たちからも揶揄われる事間違いなしだ。

ただでさえ、彼女と同じクラスで同じ部活というのもあって普段から羨ましがられているというのに……。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「「はーい」」

 

各務原さんのお姉さんとの話を終えたであろう鳥羽先生が、運転席へと戻ってくる。

キャンプの間は先生が保護者代わりだから、なにかと我々家族間との挨拶のやり取りは欠かせないのだ。

 

車組が全員揃った事で、いよいよ山梨を出て静岡へ向けて出発する。

山梨に来てから初めての遠出。今日からの二泊三日は、一体どんなキャンプになるのだろうか。

 

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