イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》 作:あきと。
たまには日中にアップしてみます。
車を走らせて約2時間。
「最初のジオスポットが見えて来ましたよ」
「おーっ」
長い道のりの正面に一つの山が現れる。普段は見られない不思議な形に皆の視線が集まる。
【城山】
マグマの通り道が地殻変動で隆起して出来た伊豆を代表する山の一つ。
「城山は岸壁を登るクライミングのスポットでもあるんですよ」
「ふぇー」
「そうなんや。最近クライミング流行っとるよね。だいぶ上級者向けやけど」
「だね。先生もよく知ってましたね」
「伊豆は昔から家族で来てましたから。自然に覚えてしまって」
歴史の先生である鳥羽先生。社会科ということもあり自身の経験も通じて地理にも詳しいみたいだ。
「横から見るとなんか、げんこつに見えね?」
千明のひょんな一言により、その形に見えてくる。
「ホンマやー」
「確かに、握り拳みたいではあるね」
山中湖の時といい、地形を何かに喩えるのが上手いな。
外の風景よりも夢の中に意識を向けたままのなでしこに、あかりが興味を誘おうと声をかける。
「なぁなぁ。なでしこちゃん! でっかいげんこつ山があるで!!」
「スピー…」
しかし、全く微動だにせずに寝息の音だけが聞こえてくる。
「まったく起きひんわー」
「下田に着く頃には起きるんじゃない?」
「それもう居眠りというか、完全に睡眠の域超えてるね。って、何してるの斉藤さん」
恵那が自分のスマホをなでしこの顔に近づける。
「んー? リンに送ってあげようと思って」
スマホをなでしこに向ける恵那はカシャっと一枚の写真を撮った。どうやら、なでしこの寝顔をリンに見せるみたいだ。
【恵那】「私たちも伊豆入ったよー。ネテナイヨー(◎v◎)」
【リン】「目 バッキバキじゃねーか」
チャットでの会話となでしこの加工されまくりの画像を恵那に見せられて、あらたはつい吹き出してしまう。
「本当に斉藤さんはこういうの得意だよね」
「ふふっ、私の楽しみの一つだからね。そうだ小牧くんたちも撮ってあげよっか?」
「恵那ちゃん、もしかして私らの写真にも悪戯する気なん?」
「しないしない。せっかくだから記念に一枚いかがですかお二人さん」
そうして、カメラが向けられる。
「そういえば、こうして改まって誰かに撮ってもらうことってあんまりないかも」
「せやなぁ。いつも私かあらたくんが自撮りで構える事が多いもんなぁ」
「それじゃ、いくよー」
普段ならあまりない車の車内をバックにした一枚を撮り、どこか満足気な恵那。
「いいねいいね、バッチリだよ」
「恵那ちゃん、それ私にも送ってもらってもええ?」
「あ、じゃあ俺も」
「もちろん! あとでまとめて送るねー」
「まとめる? あー、さっきの城山とかもってことか」
「うんうん」
城山を遠目に堪能した次は、ちょっとした休憩で道の駅「天城」へと入る。
鳥羽先生もずっと運転では疲れてしまう。適度な休憩が必要だ。
「車の免許もあれば運転替われるんですけど。本当にお疲れ様です」
「いえいえ。車の免許が取れるのはまだ先ですから、気にしないでください」
「先生、私ら道の駅見て周ろうと思うんですけど。どうします?」
「私は車にいますので、皆さん行ってきていいですよ」
「やたー!」
散策を期待していたあかりがいち早く車から降りる。
「あかりー。走ったら危ないでー」
「他の車もいるし。俺が追いかけ…」
「ずりーぞチビイヌ子! あたしも行く!」
「あきもかいな」
「あきちゃんに任せれば大丈夫だね」
「いや、あれってただ対抗意識燃やしてるだけなんじゃ」
車を降りると心地良い風が頬を撫でる。
「あきちゃん! お店があんで!」
「なにーっ!」
「あの二人本当に元気だね。あの頃の子供って、すごく輝いて見えるよ」
「気持ちは分からんでもないけど、あきは同い年やで。なんやあらたくんお爺ちゃんみたいやな」
「ワシも昔はああじゃった」
「あかりちゃん。カピバラも楽しみにしてたもんね」
「明日だよね。カピバラ観に行くの」
「今日で疲れ果てなければええけどな」
「いやいやあおい。あの年頃の子は体力底なしだよ。うちの妹を除いて」
「確かに小学生ってパワフルって言葉がピッタリ合う気もするわ」
先行く二人を追うとあかりちゃんが何やら珍しい看板を指さしてこちらに向かって叫んでいる。
「なぁなぁー、みんな見てー。わさびソフトクリームやって!」
「ピリリと辛い当店の名物…。へぇ、このお店わさびの山って名前なんだ」
「そっか。わさびって伊豆の名物だもんね」
「なんだと! なら、伊豆を堪能するためにも食うしかねーじゃねーか!!」
「はいはーい! 私も食べたい!」
アイスとわさび。その二つが合うのかどうか、正直気になる。
「確かにちょっと興味あるわ。あらたくんは?」
「俺も食べてみようかな。写真で見る限りアイスに練り込んでるわけじゃなくて乗せてるだけみたいだから、下のアイスがあれば多少辛くても食べれそうだし」
「なら、私も挑戦してみるわ」
「私も。でもいいの? 二人とも」
「え、いいのって? 斉藤さん」
「ほら、こういう時はあーんで食べさせ合うのが普通じゃない?」
「なっ!」
「え、恵那ちゃん!?」
「だったら、一個ずつよりも一つを買った方がいいんじゃない?」
食べさせ合う事が初めてというわけではないが、周囲の人からそんな事言われると恥ずかしい気持ちが押し寄せてくる。
「私たちの事は気にしないで、思いっきりやっちゃいなよ」
キラキラした眼差しで言われ、あらたはたじろぐ。
そんな期待の目を向けられても困るのだが。
「いや、まてまてお前ら。山梨を出てまだ数時間しか経ってないんだぞ。せめてリンと合流するまでは自粛しろ」
そこでわさびアイスを片手に店から千明が出てくる。
「早っ! もう買ったん?」
【伊豆名物 わさびソフト】
バニラソフトクリームの上にわさびが乗っかったアイス。
甘いアイスと合わせてわさび独特の辛さをお楽しみください。
「そんなことより、お前らあたしの許容量をオーバーさせる気か! キャンプ初っ端からイチャイチャしやがって!」
「いや、今は別に何もしてないやん…」
「うん。そもそも斉藤さんに言われるまで気付かなかったのに」
「ちっ! これだから天然のろけカップルはよー。……ぱく」
ぶつぶつと理不尽な文句を言いながら、千明は先にアイスを頬張る。
「ぬおぉぉぉ!? か、辛えぇー!」
「ん〜!? ツーンってするわー」
続いて食べるあかりも目に涙を溜めて千明と同じ顔をする。
「そんじゃ私らも買ってこよか」
「だねー」
あおいと恵那。それにあらたも続いてそれを購入。
店を出て、前の二人と同じくアイスをわさびにつけて食べる。
「「うぅー」」
五人揃ってわさびの辛さに悶える声が自然にこだました。
△ △ △ △
その後、三人の視線を浴びる中で、あらたとあおいはというと。
「「あ、あーん」」
これは罰ゲームか! と、思わせるほどの恥ずかしさに苛まれることに……。
可愛く小さな口を開けたあおいの表情を見て、彼女も自分も顔が赤くなっているのが分かる。まだ少し寒いはずなのに、なんだこれ。
「うしし、いつもあたしらの前でナチュラルにイチャつく罰だぜ」
「にーちゃんもあおいちゃんも、私が同じ部屋にいるのにこの前もみかん食べさせあってたで?」
「あかりちゃん、今度その写真私たちにも共有してね」
この空気の中で食べたわさびアイスの味は、辛いのかどうか正直分からなかった。