イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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第六話 「野クルへの勧誘?」

 

『うおおおお〜!』

 

青空の下、芝生が広がる高原にて若き男女の声が響き渡る。

 

「めっちゃ広ぇええええええっ!!!」

 

一際大きな声で、叫んでいるのは千明。

その後をあらたとあおいが追走していた。

 

こんなに天気が良くて、広い野原を見たら走りたくなるのも当然だ。現に釣られて走り出してしまっているのだから。

 

「ふがっ!?ギャー!」

 

「大垣さんっ!?」

 

「あき〜!」

 

テンションが上がりすぎて足元が疎かになっていたのか、目の前で大垣さんの足がもつれて、盛大にコケた。

それはもうゴロゴロと転がって行ってしまうほどに。

 

 

 

「せんせーテント張る場所決まりましたー」

 

自然と戯れてボロボロとなった大垣さんを二人で介抱し、キャンプ場入り口の駐車場で待つ鳥羽先生に報告する。

 

「じゃあ私は荷物を運んでおきますので、3人は受付をお願いします」

 

『了解でーす』

 

「あ、先生。1人じゃ荷物降ろすの大変でしょうし、俺手伝いますよ」

 

先生から指示を受けたが、俺たちの荷物がメインのため率先して荷物運びの手伝いを買って出る。

それに、ここまで車も運転してもらったのだ。少しでも楽をしてもらいたい。

 

「ありがとうございます。それじゃ、お願いします」

 

「はい。ごめん、あおいさん大垣さん。受付お願いします」

 

相談も無しに本来の役割を下りた事を二人に謝罪する。

 

「いいっていいって。小牧こそ、荷物運び頼むな」

 

「受付はうちらに任せときー」

 

「あっそうだ。先生っ!」

 

二手に分かれるところで千明が先生に声をかけた。

 

「さっき道の駅で超でっかいベーコン買ってましたよね。今日はあれでお酒飲むんですか?」

 

「へっ!?」

 

そういえば、キャンプ場に向かう途中に寄った道の駅で、先生が何か買っていたようだった。そうか。あれはベーコンだったのか。

大垣さんの言う通り、おつまみにするつもりなのだろう。

 

「いえ、お酒はっつ…夜に少し…、って見てたんですか??」

 

「私達に遠慮しなくてええですよ。先生もキャンプ楽しんで下さい」

 

「あなたたち……」

 

そうして、二人は受付をしに建物の方へ。

 

「私達も荷物を運びましょうか」

 

「はい。先生もお疲れでしょうし、じゃんじゃん頼って下さい!」

 

「ふふっ、お願いしますね」

 

再び先生の車へ乗り込み、キャンプサイトの中へと車を走らせた。

 

 

 

「これで全部、ですね」

 

「小牧くんお疲れ様です。すみません、結局全部降ろしてもらって」

 

3人で決めた場所に車を停め、車の荷台に積んでいたバッグや銀シート、折り畳みテーブルに椅子、その他キャンプで使用する荷物を降ろした。

 

そこまで量も多くはなく、一つ一つが重いわけでもなかったので、俺が先生に言って颯爽と終わらせた。

 

「これくらい全然ですよ」

 

感謝の言葉をかけてくれた先生に、平均的な力こぶを作って見せた。

 

「やっぱり男子部員がいると、あの子達も助かりますよね」

 

「あ、先生。俺部活には入ってないですよ?」

 

「えっ、そうだったんですか?私はてっきり」

 

「今回はあおいさんに誘ってもらったので」

 

鳥羽先生は野クルの顧問になってくださったばかりだ。だから、この前の作戦会議の時にあの場にいた俺の事も部員だと思い込んでいたようだ。

 

「そうですか。入ろうとは思わないのですか?」

 

「そうですね〜」

 

正直考えた事がなかった訳じゃない。

今現在、俺は帰宅部だ。高校に入学した時点では、バイト一筋だったし、特別やりたい事も他になかったので部活には入らずにいた。

 

今のバイトもそれなりに楽しいし、今ではあおいさんもいるから続けている。

 

でも、目的だった教習所にも、バイクを買う事も叶ったので、部活に割く時間がないわけではない。

ただ、これから部活をやるにしても、入る部は限られる。特に、運動部なんかはこの時期に入部したとしてついて行けるかどうか。

かと言って、知り合いが皆運動部であるため文化部に当てもない。

 

となれば、あおいさんや最近仲良くなった大垣さん、各務原さんのいる野クルはピッタリだと俺も思う。

 

「誘ってもらったら考えます。でも、まだ自分からは言えないですよ」

 

「どうしてですか?皆さんなら喜ぶと思いますけど。現に今日だって」

 

「俺、キャンプ初めてなんです。野クルはあくまでキャンプをする部活。なのに、キャンプをする前から入部って、まるで『彼女がいるから』って理由だけで入るのと大差ないと思うんです。ちゃんとキャンプを好きでやってる各務原さん達にも失礼だ」

 

「……」

 

鳥羽先生は、黙って話を聞いてくれた。

 

「確かに、キャンプに興味はありました。けど、入部するかどうかは今回のキャンプを終えてから決めます」

 

入学してから、あおいさん達が野クルを作った事は知っていた。

なにより、野クルが出来た頃にはすでに好きになってたんだ、彼女の事を。

 

そんな子が興味を持つ事なら、気にならないわけがなかった。

つまり、キャンプ自体は付き合う前から注目していた。

 

だって、家が隣でクラスも一緒。

しかも、会って間もないのに分け隔てなく接してくれてたんだぞ!そりゃあ好きになるだろ!!

 

だから、あおいさんが困っていそうな時は力になろうとしたし、自分からも話しかけるようになったんだ。

正直、中学までの自分だったら女子の為にあそこまでやらなかったろうな。

 

「…そうですか。小牧くんは真面目ですね」

 

「ははっ、よく言われます」

 

(でも、大垣さん達は今のあなたが入部をすると言っても、ちゃんと考えて決めたのだろうと分かってくれると思いますけどね)

 

「分かりました。では、私は車を駐車場に戻して来ますね」

 

「はい。俺も散歩がてらあっちのトイレに行ってきます」

 

数百メートル離れた小屋を指差して俺は言う。

 

「小牧くん」

 

足をそちらへ進めようとしたが、先生に呼び止められて振り返る。

 

「私はまだあなた達と知り合って間もないですが、野クルの顧問である前に、あなた達の先生です。だから、何かあれば相談してください」

 

「ありがとうございます」

 

そうして、今度こそ小屋へ向けて歩き始めた。

 

他の先生と比べて歳が近いせいだろか。

 

鳥羽先生の言う通り、まだ少しの時間しか話した事ないというのに、すごく話しやすい。

そう思った。

 

 

 

一方、あおい&千明コンビ

 

 

「風呂付き富士山付きのナイスなキャンプ場が」

 

「こんな所にあったなんてなぁー」

 

ロビーで受付を済ませ、景色を見ながらあらたと鳥羽先生が待つキャンプサイトへと向かう。

 

駐車場を通れば鳥羽先生の車が。

荷台に荷物が置かれてない所を見ると、すでに荷下ろしは済んでいるみたいだ。

 

「なー、イヌ子」

 

「なんやー?」

 

「小牧ってさ、野クルには入らないのか?」

 

砂利道を抜けて芝生に入った所で、立ち止まる千明。

 

「どうしたん急に」

 

あおいは振り返って、足を止めた。

 

「今日も来てくれたし、キャンプ道具まで買ったんだ。せっかくならこのまま入部して欲しいと当然思うだろ」

 

「でも、うちの部に入るとは限らんと思うで」

 

あらたは今日のキャンプを誘った時からすごく楽しみにしていてくれたし、キャンプにも関心を持ってくれていた。

 

それは、あおい自身も十分感じてはいた。

 

「イヌ子だって一緒に部活やりたいとは思わないのか?」

 

意外にも、後ろ向きなあおいの発言に少しばかり違和感を覚え、質問を重ねる。

 

「私はあらたくんが入部してくれたら嬉しいし、キャンプするのも楽しいとは思う。けど、それは私やのうて、あらたくん自身が決める事やから」

 

「ん〜。そういうものかぁ〜?」

 

納得いかない様子の千明。

 

私かて、あらたくんとは一緒にいる時間も増えるし、もっとキャンプが楽しくなる。

 

そういう考えは浮かばんでもない。

 

「なら、イヌ子から頼んでみればいいんじゃないか!それならきっと、」

 

「あき。もし私があきの言う通り、あらたくんに入部を勧めるお願いをしたら、どうすると思う?」

 

「そりゃあ前向きに考えてくれるだろ!」

 

「せや。あらたくんは私が困ってたり、何かあれば助けてくれる。たとえ、嫌な事でも力になってくれると思う」

 

本当に彼は優しい。いつも優しい言葉をかけてくれて会う度に幸せな気持ちになる。

 

今まで何度その優しさに救われた事か。

 

「だから、そういう彼の優しさを利用するような事だけはしたくないんや」

 

きっとあらたくんは、私からお願いしたら野クルに入ってくれるとは思う。でもそれは、あらたくんがキャンプを好きかどうかとは別の話や。

 

「イ、イヌ子。あたしは別にそんなつもりじゃっ!」

 

「分かっとるよ。あきが私のためにも考えてくれている事。でもな、うちらが好きなキャンプは、ちゃんとあらたくんにも自分の意思で好きになって貰いたいんよ」

 

あきはきっと、あらたくんが入部する事で私が喜ぶ事や、もっと賑やかな部活になるよう部長としてしっかり考えてこの話をしてくれたんやろな。

 

「イヌ子、悪い。そうだよな。ちゃんと小牧にもあたし達がやってるキャンプの楽しさを分かってもらわないとな」

 

「せや。だから、私からは言わんって決めてたんや。私の方こそごめんなあき」

 

「いや、別にいいって。あたしの方こそごめんな。意地でも入部希望者増やさなきゃいけないって訳じゃないもんな」

 

どちらが悪いとかではないが、共に謝罪をする。

 

そして、二人で笑顔を見せ合い、再び、キャンプサイトの中を進んでいく。

 

「イヌ子って、案外そういうところだけは真面目だよな」

 

「よく言われるわ」

 

家では妹のあかりにも似たような事を言われたなと思い出す。

 

「でも、このキャンプが終わった後、それとなくあたしから聞くっていうのはダメか?元々、斉藤にも聞こうかと思ってたし、イヌ子からじゃなく、あたしからとかなら小牧も部活については話しやすいと思うしさ」

 

「う〜ん。あらたくんの初めてのキャンプの感想は知りたいし、その流れからやったら自然な感じやろうしなー。…いいんやない?」

 

確かに、あき相手なら私から聞かれるよりかはええかもな。たぶん、あらたくんも自分から入部の話しはしなさそうやし。そのくらいならええか。

 

正直、自分でああは言っても、彼自身が入部したいかどうかの答えは知りたい。

 

「分かった。なら、この話はもう終わりにしようぜ!途中から重い感じになって、なんか息苦しくてさ」

 

「せやなー。私も楽しいキャンプに重い空気を持ち込むのは嫌や〜」

 

「んじゃ!改めて今日から二日間、クリスマスキャンプ楽しもうぜ〜」

 

「おー!!」

 

 

 

そして再び、あらた視点

 

 

「ごくごくっ」

 

「……これは」

 

御手洗いを済ませ、荷物を置いた場所へと戻ると、受付から戻ったばかりのあおいさん達がいた。

 

しかし、先程親身になって話を聞いてくれていた先生はというと。

 

「飲むの早いっすね先生」

 

「まさかもう始めてしまうやなんて」

 

すっかり晩酌ならぬ、昼酌を始めていた。

お酒が入ってても相談は聞いてくれるのだろうか。

 

少し、先生に対しての心配を抱いたあらたなのであった。

 

 

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