イヌ子さんのホラ吹き。《あの時の嘘、ほんまやで〜》   作:あきと。

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こんにちは!あきと。です
いつも見てくださってる方、初めましての方もありがとうございます!
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第七話 「じゅかいの牧場!」

 

 

ジュー、ジュー、

 

大自然広がる青空の下、ベーコンの焼ける音と食欲をそそる香ばしい香りに包まれる。

 

時間はお昼の12時を過ぎたばかりだ。

 

夜になるまでまだ先は長いというのに、鳥羽先生はビールを片手につまみの厚切りベーコンを調理にかかっていた。

 

「先生に車出してもらおう思うとったんやけどなぁ…」

 

あおいさんと大垣さんの二人が肩をガックしと落とす。

 

「何か買い出しにでも行くの?なら俺が、」

 

二人と別行動だった俺は何か足りないものでもあったのかと思いながら、ただただ先生のお酒への執着心に驚かされるばかりだ。

 

「あー、違う違う。現地集合の時間より早く着きすぎただろ?ちょっと時間潰そうと思ってな」

「すぐ近くに、じゅかいの牧場ってあったやろ?そこに牧場スイーツ食べに行こうとしてたんや」

「そういう事か。確かに集合までまだ2時間近くあるもんね」

 

キャンプ場に来る途中に牧場があった事を思い出す。

 

「だから先生の車でって思ったんだが、これは歩いていくしかないな」

「時間もあるし、いいんやない?あらたくんも一緒に行くやろ?」

「うん。せっかくだから、俺も行こうかな」

 

ちょうどお昼の時間というのと、先生の焼いてるベーコンのダブルパンチ。少しばかりお腹が空いてしまった。

 

ここは有り難くお供する事に。

 

「いってらっしゃーい」

 

鳥羽先生に見送られ、3人で牧場へと出発した。

 

それにしても、先生はこんな時間からお酒を飲んで大丈夫なのだろうか。

まぁ、先生にとっても今日は休みだし、英気を養うという点ではいいのか?

 

お酒の事はよく分からん。

 

 

 

 

『うーーーまぁ〜〜〜っ!!』

 

キャンプ場を出ておよそ15分。

 

車で来た道を戻り、牧場の飲食店が入ったエリアで早速スイーツを堪能する。

 

ほのかに感じる新鮮な牛乳の風味と苺の香りが口一杯に広がる。一口食べただけで、普段食べているアイスとは違う事が分かった。

 

一つの小さなテーブルを3人で囲み、各々自分が頼んだスイーツに賞賛の声を上げる。

ちなみに俺は、牧場の牛乳と近くの農家で採れた新鮮なイチゴで作られた苺ソフトを頼んだ。

 

「暖房きいてる店内で食うアイスうまー!」

「牧場来たらアイス食わななー」

 

年末ともなると、外の寒さは結構堪える。

それを癒す温かな空間に美味しいものと来たらこれはもう天国と言っていい。

 

「もう思い残す事はありません」

「あらたくん。まだキャンプは始まったばかりや…」

 

そうあおいさんに諭されるが、

 

「あー。動きたくなくなってきた」

「なんかデジャヴやぁー」

 

と、二人とも満更ではないようで俺と同じく、今のこの時間を満喫していた。

 

「あらたくんのそれは苺ー?」

「そうだよ!あおいさんも良かったら食べてみる?すごくおいしいよ」

「ええの〜?じゃあお言葉に甘えて、」

「はい」

「!」

 

そう言って俺は自分のスプーンでアイスをひと掬いし、あおいさんの口へと近づける。

 

「小牧!?…よくもまぁ平然と」

「え?」

 

大垣さんが、すげぇなお前、と俺を見る。

あおいさんも少し戸惑って見えた。

 

「……あ」

 

これ、いわゆる「あーん」ってやつだ。

家でひかりにもたまにしてあげてた為か、自然とこんな事をしてしまっていた。

 

結構ひかりもスイーツには目が無いからな。

自分が食べている物と違う物の味が気になるらしい。よく家とか外食などでせがまれるのだ。

 

とはいえ、大垣さんに指摘されるまで気づかなかったのは事実。

そもそもカップルとしては、当然の行為なのだろうが、大垣さんや他のお客さんの目もある以上は、あおいさんもさすがに恥ずかしいよな。

すでに大垣さんには見守られている状況なのだが。

 

「あ…あーん」

「(おっ、イヌ子食べるのか!?)」

 

一度スプーンを引っ込めようとした瞬間。

あおいさんが口を開いて差し出したスプーンに迫る。

そして、

 

「はむっ」

 

しっかりと口を閉じて、スプーン上にあった苺ソフトを食した。

 

「…うん。苺味もウマーやなぁ」

「それは良かった」

 

そう言ったあおいさんの顔は少し赤かった。

 

やっぱり恥ずかしかったよな。まさか本当に食べてくれるとはな。

嬉しさの反面、恥ずかしい思いをさせた申し訳なさでよくわからない感情になる。

 

ひとまず事を終えたので安心した。

 

「じゃ、私のもやるわー」

「えっ」

 

ふぅ、とひと呼吸置いたのも束の間。

今度はあおいさんが俺に自身のアイスを食べさせるという。

 

「はい、あ〜ん」

 

そして定番のセリフと共に、自身のバニラソフトを先程の俺と同じようにひと掬いスプーンでとって差し出してくる。

 

なんか嬉しそうな顔してるな。

もしかして、実はさっきのに怒っていて、仕返しにからかっているのか?

いや、それはないか。

 

いつものホラ吹き顔ではなく目の前には普段の優しいあおいさんの表情が俺が食べるのを待っている。

 

「あ、あー……ん」

 

ゆっくりと近づいて、ありがたくアイスを頂く。

もしかして、あおいさんもこういう事やりたいと思ってたのかな。

余計に恥ずかしくなってきた。

 

店員さん、ちょっとエアコン効き過ぎじゃないでしょうか。

 

「おいしい?」

「う、うん。やっぱり定番のバニラも美味しいね」

 

正直、恥ずかしさで殆ど味はしなかった。

 

(まぁ、見た?奥さん)

(うふふ、若いっていいわねぇ)

(いいなぁ〜)

(リア充め)

(見せつけやがって!)

 

周囲から色々な声が聴こえてくる。

はっきりと聴こえている時点でコソコソ話ではないのだけれど。

 

「お前ら、せめてあたしがいない所でやってくれよ。こっちの方が照れる」

「なんかごめんね。大垣さん」

「言うなっ!彼氏のいないあたしには眩し過ぎただけだ!!小牧が天然彼女喜ばせ野郎なのは、今に始まった事じゃ無いしなっ!!!」

「えー…」

 

迷惑をかけてしまったかと思って謝罪をしただけなのに、酷い言われようだ。

 

「あきは大袈裟やて」

「イヌ子もイヌ子だぞっ!ここぞとばかりに見せつけやがって!」

「今のは不可抗力やー」

「何おぅ!嬉しそうな顔してたくせにっ!」

「なっ!え、ええやないの別にっ!」

 

ギャーギャーといつもの野クルで見る風景がバージョンin牧場で繰り広げられる。

止めに入ろうかとも思ったが、原因が自分にあるために、火に油を注がぬよう静かに自分のアイスを食べ進めた。

ウマっ!!

 

 

 

 

「う〜、寒ぅ〜」

「暖房あるとこおったから、なおさら寒いわー」

 

スイーツを堪能し、フードエリアを後にする。

どうやら、各務原さんと志摩さんも予定より早く到着したようで、すでにキャンプ場内にいるとの連絡があった。

 

「戻ったら早速焚き火するズラー」

 

ポケットにカイロを仕込ませていたとはいえ、やはり外に出ると身体全体が冷える。

焚き火…、この前の校庭でやったものよりも臨場感があるんだろうな。楽しみだ。

 

「あ、こんな所に薪売っとる」

「キャンプ場にも売ってたけど、ここで揃えてく人もいるのかもね」

 

通って来た道を戻ろうとしていると、建物の角に積み重なった薪が置かれている。

 

「ていうか、こっちの方が安いかな。もしかして」

「確かキャンプ場は1束430円やったわ!」

 

薪が置かれている所には、1束300円の貼り紙もあった。

元々キャンプ場で買う予定だったが、同じ1束なら、こちらの方がお買い得である。

 

「よし!それじゃ、ここで買ってこうぜ!」

「でも持って帰るのしんどいで、これ」

「俺が持つよ」

 

俺が早速前に出て1束を抱き上げる。

 

「うっ」

 

思ったよりも重いな。がんばっても2つが限界か?

よくよく見ると、1束7キロの表記が書かれている。

 

俺の様子を見てかあおいさんが優しく言う。

 

「あらたくん無理せん方がええよ。いくつ必要になるかも分からんし」

「確かに、ちょっと厳しいかも」

 

その言葉に甘え、一度足下に薪を置いた。

 

 

「じゃー先生呼んで車で運んでもらう……のは無理か」

 

大垣さんがスマホを取り出し、鳥羽先生に連絡を取ってくれようとする。

しかし、飲酒済みの先生の顔を思い出し、3人とも断念する。

 

「んー他に何かいい方法は……はっ、志摩さんはどうやろ!」

「ナイスだイヌ子!さっそくしまりんに聞いてみよう!!」

 

そうして、唯一原付でキャンプ場に訪れていた志摩さんを頼る事に。

 

ーー待つ事数分。

 

「志摩さん。薪何束あった方がええと思う?」

「1束2〜3時間だから、3束くらいじゃない?」

 

大垣さんからの連絡ですぐさま駆けつけてくれた志摩さん。

俺でさえ夏の終わりに免許を取ったばかりだ。

 

それも、女性でこの時期に原付限定とはいえ、免許を持ってるなんて、よほど旅が好きなんだな。

確か学校にも原付で通っているのだとか。

 

ヘルメットを被っている彼女を見て、ふとそんな事を思った。

 

「あ、ここは私払うよ。夕飯ごちそうになっちゃうし…」

「まじで!?」

「ホンマに?ありがとー志摩さん!」

 

すると、志摩さんが薪の支払いを買って出てくれた。

 

「あの、志摩さん」

「ん?あぁ、小牧くん、だっけ」

 

志摩さんとはクリスマスキャンプ前の登校日に図書室を訪れた際に挨拶をさせてもらった。

 

まぁ、普段あまり喋る子ではないようで、その時もそんなに言葉を交わす事はなかったけど。

 

「ありがとう。流石に男の俺でも重かったから。それに薪代まで」

「ううん、それになでしこから聞いてたから。おもてなし?するんでしょ。なら、私からはこれで」

 

大垣さんが持つ薪を指差して言った。

 

「大将!!持ち帰って家宝にさせて頂きやすっ!!」

「この後燃やすんだよ」

 

大袈裟に頭を下げる彼女にツッコミをする志摩さん。大垣さんも、さりげないボケをするのがムードメーカーたる所以だったりするのだろうか。

 

「それにしても、最近図書室に来てた人がまさか今日のキャンプの参加者だったとはね。しかも犬山さんの彼氏って…世間狭いな」

「はは、だね」

「でも、アウトドアの本借りてたし興味はあるのかなとは思ってたけど」

 

この前志摩さんと図書室で話した日は、ちょうど俺が借りてた本を返却しに行った時だった。

 

「改めて、今日と明日はよろしくね。志摩さん」

「うん、よろしく」

 

そして、会計を終えて志摩さんの原付へと積み込みをする。

 

「よし、これで全部っと」

 

大垣さんが最後に原付の足場に薪を立てて3つの薪の束を乗せた愛車に志摩さんが座った。

3束って事は、21キロ程あるわけだけど、大丈夫だろうか。

 

「いやー運んでもらうばかりか金まで出してもらって、涙がちょちょ切れるってなもんでェ!!」

「それじゃ、私先に戻るね」

 

一足先に、志摩さんが原付を走らせ牧場を出る。

 

「あれっ?しまりーん1束忘れてるぞーっ!」

 

大垣さんが置いたはずの薪が1束駐車場に残っている事を、急いで志摩さんに伝えた。

 

「重すぎるからそれは大垣が持って来てー」

「えっ!?あたし!!?」

 

確かに、あの重さでは無理もないな。

かと言って、俺がいるのに女の子に持たせるわけにはいかない。

 

「大丈夫だよ大垣さん。俺が持つから」

「小牧〜〜」

 

膝をついて崩れ落ちる大垣さんの前に屈んで声をかける。

顔を上げた大垣さんが俺をうるうるとした瞳で見る。

そんな泣かんでも。

 

「あっ、小牧くんはダメ。それは私を呼びつけた大垣に持たせて」

「えっ、でも、俺手空いてるし」

 

意外と手厳しいな志摩さん。

俺が薪に触れた瞬間、まさかの阻止をされる。

 

「なら、犬山さんと手でも繋いでキャンプ場まで戻ったら?」

『!?』

 

そんな事を言い残して志摩さんは再び原付を走らせた。

見かけによらず大胆な事を言う子だな。

 

ぎゅっ。

 

すると、、不意に左手を優しく握られる感触が。

 

「志摩さんからのお達しならしゃーないな。ほな、このまま戻ろっかあらたくん」

「あおいさんっ、…でも」

「私と手繋ぐの…嫌なん?」

 

にっこりと笑って手を繋いできたあおいさんの表情が曇る。

 

「そんなわけないよっ!超嬉しいし、俺も繋ぎたかったよ!!」

 

その顔を見て、泣かせてしまうかもしれないと思い、すぐさま俺も握られ手をしっかりと握り返す。

 

そんな顔されたら断れる訳がないじゃないか。

むしろ自ら手を繋いでくれて大変光栄です。

 

「よかった、私もや。ほな行こかー」

「うん」

「(志摩さんも、まさかこんな粋なことしてくれるやなんて)」

 

そのまま志摩さんの後を追うように駐車場を後にする。

先程まで寒かったのに、一気に体温が上がった感じがした。

よし、この現象を『天然産の恋愛カイロ』と名付けよう。

 

そんな野暮な事を考え、景色を楽しみながら2人で来た道を戻っていく。

 

一方。

 

「……あたしは?」

 

冬の寒い風が千明の前を落ち葉と共にヒューッと通り過ぎて行った。

 


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