大震撼は強さを求めたい   作:ゆっくり霊沙

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ハスター

 旧稲妻駅……現在の稲妻駅があった場所より200mほど離れた場所の地下にある駅で、老朽化により廃棄されていた

 

 近々改装工事が行われるとの噂もあり、基本的には立ち入り禁止の場所だった

 

 夜の21時

 

 異空間で練習している皆には、今日は用事があるからと先に帰し、ニャルは帰路に着くふりをして戻ってきて旧稲妻駅前で合流した

 

 懐中電灯を照らしながら中を進むとKEEP OUTのテープが張り巡らされており、所々にスプレーで落書きされていた

 

 約束通り3番線のホームに向かうとそこに居た

 

 約1.5mほどのそれは甲殻類の様な胴体に膜のような翼、手は蟹の手足の様な物を大きくしたのが付いており、頭は触手で覆われていた

 

 田中に教えられたミ=ゴの特徴と一致する

 

 目の前のミ=ゴは手にニャルが持っている電気銃の同型のと見たこともない武器の様な何かの2つを手でゆらゆらと揺らしながら私達の前に近づいてきた

 

『御機嫌好う大震撼、そして二夜瑠璃も久しいな。4月の定期集会以来か。体調はどうだ? 変化はないかな?』

 

 頭に直接声が響く

 

「電話で言ったわよ。元気だって……私は付き添い、2人が戦闘にでもなったら引き離す役目よ」

 

『イスの民とは不可侵を結んでいる……まぁ伝承レベルのおとぎ話位古いが、破られる前にイスの民が何処かへ行ってしまったがな』

 

「まぁ私も特殊個体だからなんとも言えないが、とりあえず絶滅はしていない。どれくらいの個体が居るかは伏せますが」

 

『それは別に良い。日本という場所は3種族の中立地点で昔はあったが、イスの民やクトゥルー眷属が次々に姿を消し、我々もあくまでこの地を支配する訳ではなかったため支配者不在の地となり、結果人間が繁栄した』

 

「それは知っています。本題はハス太とニャルを私の管轄下に譲っていただきたい」

 

『ハス太はともかくニャルは駄目だ。数少ない成功個体であり、神とアクセスできる存在だ。故に駄目なのだ』

 

「ハス太は良いのですか?」

 

『失敗個体が欲しいのであれば別に構わない。私達は既に放棄した感覚で居たからな……二夜が欲しいとはどういう意味だ?』

 

「二夜を私の家族にしたい」

 

「え!?」

 

『ハハハ、擬似的な神を家族にしたいだと……面白い。面白いが……それ相応の対価を頂こう』

 

「何が欲しい?」

 

『我々種族は特殊な鉱物を採掘し、収集するのを生き甲斐とする種族だ。……そうだな魔石を一定量渡してもらえばニャルとその子孫に監視は続けるが手は出さないと約束しよう』

 

 私は小さな魔石がはまった透き通った指輪を指から外して投げた

 

「これ何個分集めれば良い」

 

『ほぉ、そうだな……これがあと9個ほど有れば私は満足だろう』

 

「わかった約束だ」

 

『ニャル、どの様な形になれど4ヶ月に1回の定期集会には必ず参加してもらう。それは良いな』

 

「わかっているわ」

 

『そして良かったなお前のような改造人間を愛してくれる者が居て……実ある会話だった。イスの民が絶滅していない情報はミ=ゴ全体の方針に関わる情報だった。魔石とこの情報を持って二夜と関係を持つことを許そう。では去らばだ』

 

 ぶーんと羽音と共にミ=ゴは暗闇の中に消えていった

 

「……もう!」

 

 げしっと軽くつつかれた

 

「私が欲しいだなんてアイツらが許してくれる分けないじゃない」

 

「ハス太とニャルを解放するところまで持っていきたかったのですが、力不足ですみません」

 

「……魔石だなんて貴重な物を渡してでも私が欲しいの?」

 

「欲しいですよ。とても魅力的な女性だと思っています」

 

「……馬鹿……」

 

「もっともこれからは魔石を探さなければいけなくなりましたので頑張って探さなければいけませんね」

 

「心当たりはあるの?」

 

「協力者に聞くくらいでしょうか。せっかくですしニャルにも紹介しますよ」

 

 私はバックからハンドベルを取り出して鳴らした

 

 すると空間に虹色の歪みができて、そこから田中がエイの様な機械に乗って現れた

 

「ヤッホー震撼、何のようかい?」

 

「質問が2つほどありまして呼びました。1つは魔石と呼ばれる石を集めなくてはいけなくなりましたので、どこら辺に有るか教えていただくとありがたいのですが」

 

「そうだね……富士山に5年前落ちた隕石なんかが魔石だよ。人間はエイリア石なんて呼んでるけどね……馬鹿デカイし、君が景品であげた指輪の数百倍の大きさとパワーがあるよ。盗むのは難しいだろうね。あとは曰く付きの場所だったりに転がってたりするよ。絶対にあると言えるのは静岡マスター遊園地かな? 十数年前にジェットコースター脱線事故、ホラーハウス炎上、観覧車落下事故を立て続けに起こして廃園になった場所だね。あそこには大きい魔石があると思うよ」

 

「なるほどありがとうございます」

 

「私からも質問良い? 彼女さん?」

 

「彼女は二夜……ニャルと呼んでいます。まだ違いますがいずれしたいと思ってます」

 

「ありゃりゃ、先越されたか……」

 

 ニャルが田中をじっと見ていたが、口を開く

 

「イスの民って人に化ける事ができるの?」

 

「いや、私はヒューマロイドと言えば良いかな。この体私が作った体なんだよね。まぁ生殖行動もできるし、人間の数倍の速さで出産できる様に調整してあるんだよね」

 

「それはまた何故に?」

 

「イスの民がもうほぼ絶滅しているから数を増やすためにはこうするしかないんだよね」

 

「……まさか」

 

「今確認されているイス人は私と震撼だけ。まぁ震撼と子供を作るのは種族を残すために絶対だし、貴女も混じっても良いよ。ただ産まれる子供は必ずイス人にするけどね……貴女もイス人になる?」

 

「田中、それやるとミ=ゴと戦争になるから駄目。ついさっきミ=ゴと協議して魔石を渡す代わりにニャルと付き合うことを許されたからね」

 

「ニャルちゃん良かったねぇ……私が魔石渡してさっさと解放させてあげても良いけど?」

 

「私の力で集めなければ駄目だと思うのでやめておきます。もう1つの質問はさっき田中が答えてくれましたがニャルともし子供を作った時にイス人になるのかというのですが……」

 

「可能だよ。精神種族だから肉体が別でもイス人が交尾すればイス人の方が強いからイス人となるよ。震撼も精神の寿命があと数千年有るけど肉体はもって100年だろうから適時取り替える必要があるよ。ニャルちゃんもイス人になりたかったらいつでもお姉さんに言ってね。改造してイス人にするから」

 

「お姉さん……」

 

 田中の方が小さく見えるが、精神的な年齢は確かにお姉さんだろう

 

「質問はこれで終わりかな? うーん、暇だし、数週間震撼の家にお世話になろうかな。良いでしょ震撼」

 

「構いませんが島の管理は大丈夫なのですか?」

 

「別に数日あげても問題ないし、元の時間にタイムジャンプすれば良いからね」

 

「……タイムジャンプ?」

 

「ニャルには言って無かったね。イス人は時間を支配した種族で時間跳躍を自由にできる種族なんだ。私は時間を3秒停止させることしかできませんが、いずれ私も自由に時間跳躍をできるようにしてみせます」

 

「まぁそのうち人間も時間を支配できるようになるけどね。愚かにも争いの道具として使うけど」

 

「そうなのですか。まぁ私には関係無いと思いますが」

 

「……」

 

 田中は何故か黙ってしまったが、とりあえずニャルに田中というイス人の協力者を伝えることはできた

 

 ハス太の解放だけだったのが大事になったが、ハス太は既に興味の対象外との事なので頑張ってハス太の潜在能力を覚醒させて、世宇子中との決勝戦に挑むとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハス太の潜在能力の高さは出会った時から既に感じていた

 

 見たこともない必殺技を繰り出して私のボールを奪おうとしたのもそうだし、最初の帝国学園戦にて見せた這いよる触手を進化させた成長能力は恐るべき物がある

 

 鬼道先輩を師として仰ぎ、司令塔としての役割の一部を委託されているのも持ち前の成長力が有ったからだ

 

 私を超えるのは現状ハス太しか居ない

 

 円堂先輩はキーパーなので除外するが、豪炎寺先輩、染岡先輩には申し訳ないが私の方が現状は勝っていると思う

 

 だが、ハス太は違う

 

 私以上の成長力は私を脅かすには十分であり、ハス太がいつか私のステージに到達するのは時間の問題だと感じている

 

 だからこそその成長の時間を縮めなければ世宇子には勝てない……確実に勝つためには私、ハス太、円堂先輩が完全なる防御をしなければならない

 

「ハス太、大切な話があります」

 

「何々! 震撼! デートのお誘い?」

 

「いえ、貴方の肉体についての話です」

 

「え~? 僕は僕だよ?」

 

「もしハス太、貴方の肉体が普通ではないと言ったらどう思いますか?」

 

「え? いきなりそんな事を言われても」

 

 私はハス太の肩を掴み

 

「貴方は宇宙人により肉体を改造された改造人間なのです」

 

「……ハッハッハッ冗談は辞めてよ震撼。君が何で僕の事を知ってるのさ。まだ出会って数ヶ月だよ。質の悪い冗談は辞めて。僕には産んで育ててくれた両親が居るし、そんな改造された記憶なんか無いよ」

 

「ニャル」

 

「震撼の話は本当よ。貴方は私と同じ改造人間よ」

 

「ニャルも巻き込んで僕を騙すのかい? 質が悪すぎるよ! 僕でも怒るよ」

 

「じゃあ何故ニャルと同じ場所に手術痕が有るのですか」

 

「な……え!?」

 

 ニャルは後ろを向くと髪を上げる

 

 そこには髪が生えていない部分があり、傷みたいになっていた

 

 私はハス太の後ろに回り、ハス太の髪を上げて写真を撮る

 

 すると同じ場所に手術痕があった

 

 ニャルは右脇を上げるとここにも縦に手術痕がくっきり残っていた

 

「ハス太、貴方の脇を見せない」

 

 ハス太は滝のように汗を流しながら恐る恐る脇を上げた

 

 鏡でハス太も見えるようにすると手術痕がくっきり残っていた

 

「真実を話そう。私達は別の人間の脳味噌を宇宙人に都合の良い様に調整され、前の人格を消して上書きされたのが今私達よ。臓器等は脇から入れられた。背中にも骨を入れた時の手術痕があるハズよ」

 

 ハス太は動揺しながらも私に背中を写真を撮ってくれと頼んできた

 

 ハス太が服を脱ぐと背中にも30cm程の手術痕がくっきり残っていた

 

 それを写真を撮ってハス太に見せる

 

「……」

 

「私達は宇宙人……ミ=ゴという人間よりも発展した科学力を持つ生命体の神を人工的に作り出す計画で産まれたデザイナーズベイビーよ。神の名前はハスター! 名状し難きもの!」

 

「ハスター! 神の名! 君達は何を言って……」

 

「ハス太! 真実を受け入れるのです! 貴方は作られた存在! 神の力を持てる可能性が有るのです!」

 

「神の力……」

 

「黄衣の王よ! その力を目覚めるのです。貴方にはその素質がある!」

 

 ハス太は黙ってしまった

 

「田中!」

 

 ハンドベルを鳴らす

 

 すると田中が私達の前に現れる

 

「田中、ハスター……いや、黄衣の王の力を持つ物を持っていないか? 目の前のこの男はハスターの力を人工的に宿している」

 

「あるよ!」

 

 田中は田中の乗っているエイの様な機械のボタンを操作すると本と仮面が現れた

 

「黄衣の王の本と黄衣の王の仮面だよ。もし本当に彼に適正が有るのならば仮面を被ると良いよ」

 

 ハス太は余りの怒涛の展開に正気を失いつつある

 

 改造人間であること

 

 両親だと思っていた人が全く関係の無い人物だったこと

 

 田中の出現

 

 神の力

 

 多数の真実がハス太を狂わせる

 

 目の焦点が合わなくなり、ハス太は田中の持つ仮面を手に持つと顔に取り付けた

 

 風が吹く

 

 ハス太を中心に風が舞う

 

 風は砂煙となりハス太を包み込むと風が止む

 

 そこには黄色のローブに包まれたハス太が居た

 

 ローブは風に靡いてドレスのように膨らみ、ハス太に後光がさす

 

「なるけど……理解した。僕は神ではない。人間でもない。中間に位置する者なり」

 

 ハス太は田中から本を奪い取ると凄まじい勢いで読んでいく

 

「……僕は僕らしい。神には到底及ぶことのできない……できないが、私は新しい力を得れた……フゥー」

 

 ハス太は仮面を外すと田中に仮面と本を返した

 

「僕は僕だ。例え改造人間だとしても黄衣ハス太だ。震撼焦りすぎだ。試合に勝つために親友を無くそうとしてどうする」

 

「……すみません。焦りすぎました」

 

「許すよ。でもほら」

 

 ハス太は掌の上に小さな竜巻を起こした

 

「僕は風を操る力を得れた……世宇子に勝とう震撼」

 

「はい!」

 

 ハス太は狂気を飲み込み力を得れた

 

 遠くない未来では化身アームドと呼ばれるその力をハス太は会得した

 

 更に風を自在に操れる存在となった

 

 この後田中のことを根掘り葉掘り聞かれたが、その頃にはいつものハス太に戻っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの練習をしていた時だった

 

 円堂先輩はマジン・ザ・ハンドに満足せずに次なる必殺技を編み出そうと皆で協力して練習をしていた

 

「ドラゴン」

 

「トルネード改」

 

「ツイン」

 

「ブースト」

 

 2つの必殺技が円堂先輩に襲い掛かるが、それをいきなり現れた人物が片手ずつで止めてしまった

 

「スッゲー! ツインブーストとドラゴントルネードを止めるなんてお前! スゲーキーパーだな」

 

「よしてくれ、私はキーパーではない。私のチームのキーパーなら指1本で止めただろうね」

 

「そのチームとやらは世宇子中のことか」

 

「知ってるのか鬼道」

 

「あぁ、こいつは世宇子のキャプテンアフロディだ」

 

「「「世宇子!!」」」

 

「円堂守君だね。改めて自己紹介をしよう。世宇子中のアフロディだ。君のことは影山総帥から聞いているよ」

 

「やはり世宇子のバックには影山がいるのか」

 

「て、てめぇ、宣戦布告に来やがったな」

 

「宣戦布告? ふふ、宣戦布告というのは戦いをするために行うもの……私は君達と戦うつもりはない……君達は戦わない方が良い。それが君達のためさ」

 

「なぜだよ」

 

 一ノ瀬先輩がアフロディに聞く

 

「なぜって……負けるからさ」

 

「「「な!?」」」

 

「神と人間が戦っても勝敗は見えている」

 

「自分が神だとでも言うつもりかよ」

 

「さぁ、それはどうだろうね」

 

「試合はやってみなくちゃわからないだろ」

 

「結果は見えていると思うけどね。リンゴは木から落ちるだろ、世の中には変えようのない事実があるのさ……この事実はそこにいる鬼道有人君がよく知っていると思うけどね」

 

 鬼道先輩が突っかかろうとするのを豪炎寺先輩が肩を掴んで止める

 

「だから練習も辞めたまえ。無駄な時間を浪費するのはよくない」

 

「黙れ! 練習が無駄だなんて誰にも言わせない! 練習はおにぎりだ! 俺達の血となり肉となるんだ!!」

 

「……ハハハなるほど上手いことを言うね。練習はおにぎりか」

 

「笑うところじゃねーぞ」

 

「言っても無駄なようだね。ならわからせるまでだ」

 

 アフロディは急に飛び上がると上空からボールを蹴った

 

 円堂先輩はそのボールを受け止めると、ずるずると後ろに後退しながらもなんとか止めた

 

「ほぉ、神のボールを止めたのは君が初めてだ。決勝が楽しみだ……それと大震撼。君のことは総帥が徹底的に潰すように指示を出されている。怖くなって逃げても構わないが、簡単に潰れてくれるなよ」

 

「A.私は潰れません。逆に貴方達を叩き潰します」

 

「ふふ、威勢だけは良いようだね。楽しみにしているよ」

 

 アフロディはそのまま消えていった


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